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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
最終章:落ちこぼれ勇者とエリート学生
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特訓開始!

前回のあらすじ

 捕らえた薄気の尋問をアイカとモフモフに任せ、アイリ達はエルシドと桜庭の2人を伴いアイリーンへと戻ってきた。

エルシドの目的が自らを鍛え直し、アルカナウ王国を取り戻すためだと知り、それに協力するためだ。

 一方で一人別行動をとる高遠は、クラスメイトを積極的に殺していくという謎の行動をとるが……



「お、アレが噂の勇者エルシドか?」

「らしいよ。確かアルカナウ王国で革命が起こったらしいけど、ここに来た事に何か関係有るのかな?」

「国に追われてんだぜきっと。じゃなきゃこんな所にわざわざ来ないだろ?」

「何でもいいわ。勇者の実力がどれ程のものか見せてもらいましょ」


 トレーニングジムの一室にアルカナウ王国の専属勇者が来ているという噂を聞き付け、アイリーンを訪れている人達は一目見ようと集まって来ていた。

 アイリ達を含めると30人程度ではあるが、ギャラリーに囲まれた中心に3人がおり、エルシド対アンジェラの組み手をベニッツの審判で行うところだ。


「2人共用意はいいかい?」

「うむ、いつでもいいぞ!」


 両手を腰にあてて仁王立ちのアンジェラ。

 端から見れば隙だらけかもしれないが、並の攻撃ではダメージを与える事が出来ない上、強引にカウンターを放ってくるので凶悪極まりない(レックスとゼイル談)らしい。


「すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……」


 一方のエルシドは情けないところは見せられないという緊張感も有り、ゆっくりと呼吸を整えていた。


「なぁに、そんな緊張せんでもちゃんと手加減はしてくれよう。だから安心せぃ」

「……お気遣いには感謝しますが、手加減の必要はありません。寧ろ全力でお願いします」


 手加減という言葉にエルシドはややムッとして反応する。

 多少のプライドもあるが修行するために来た手前、手加減されては意味がないと思ったのだ。


「ほぉう? よいのだな全力で?」

「二言は……ありません!」


 アンジェラの強さを知らないとはいえ、相手をするからには弱くはないと思ってる筈。

 そこでアンジェラは、エルシドがギリギリ死なない程度に手加減をする事にした。


「うむ、その意気やよし。ならば全力で相手してくれようぞ!」


 アンジェラの全力というフレーズに肝を冷やすレックスとゼイル。

 この2人は彼女の実力を存分に味わっており、今の台詞を自分達に向けられたらと思うとサァァっと血の気が引いていく。

 だがそんな2人を他所に、ギャラリーの中心ではアンジェラの拳が火を吹いて(物理的に)おり、打撲と火傷を多数負ったエルシドが倒れるまでボコボコにされた。


「ちょ、あの姉ちゃん強過ぎだろ!」

「うんうん、前にいたと思ったら後ろにいたりとか、もう意味分かんないよ……」

「……お、俺は何を見てたんだ?」

「アレ、普通じゃないわよね? 勇者エルシドが弱いんじゃなくて、あの人が強過ぎるのよね?」


 ギャラリーに無惨な姿をさらしたが皆アンジェラの強さが異常だという事に気付き、幸いにもエルシドの名声が落ちなかったのは不幸中の幸いかもしれない。


「むぅ……ちとやり過ぎたか?」


 一応は手加減をしたらしいが、辛うじてピクピクと動いてるだけのエルシドを見て、やり過ぎではない等とどの口が言えよう。

 いくら本人が手加減不要を申し出たとしても、明らかにやり過ぎである。


「まぁ今ので大体の力量は見れた。次からはそれに合わせて――ん? ――んお!?」


 素っ頓狂な声を上げるアンジェラにギャラリーがクエスチョンマークを浮かべるが、程なくその理由が明かされる。


「……も、もう一度……お願いします」

「「「「「おおっ!」」」」」


 なんと、散々打ちのめされたエルシドがゆっくりと立ち上がったのだ。

 これにはギャラリーからも驚きの声が上がる。


「い、いや、しかしな? お主は相当ダメージを負って――「お願いします!」


 エルシドは信念だけで立っていた。

 死んでいった者達のためにも絶対に仇はとらなくてはならない。ならば倒れる訳にはいかないのだ。


「エルシド……」


 ギャラリーにはいつの間にか桜庭(さくらば)も加わっており、祈るような目で成り行きを見守っている。


「そこまで言うなら期待に応えよう。――お主の限界……見せてもらおうぞ!」


 再び行われる一方的な展開。

 手加減はされてるものの、見てる方が辛くなる程の猛攻を受け続けるが、それでもエルシドは立ち向かっていく。


「おい大丈夫か? あんなフラフラでよ……」

「だけどエルシドは諦めてないっぼいよ?」

「もう見てらんないわ……」


 徐々にギャラリーからは哀れみの声があがり始める。

 そんな傷だらけになってまで何故立ち向かうのか――そして何故立ち上がるのかが理解されない。


「まだです……まだお願いします」


 それでもエルシドは向かっていく。

 アンジェラという決して超える事が出来ない相手を倒すべき敵に見立て、ただひたすらに挑み続ける。


「凄ぇよな。俺だったらとっくに逃げ出してるぜ……」

「うん、やっぱりエルシドは勇者だよ。国を守るためなら身を呈して挑まなきゃならない時もあるだろうし」

「なんか俺、無性にエルシドを応援したくなってきたぜ。――エルシド頑張れぇ!」

「ファイトよエルシドーッ!」

「すっげぇなアイツ、オラわくわくしてきたぞ!」


 エルシドの姿が感動を呼び、ギャラリーからは次第に声援が送られるようになってくると、その声を糧にしてエルシドの動きが洗練されていく。


「む? そんな状態にありながらも最初よりも良い動きじゃな?」


 エルシドの変化にアンジェラも驚く。

 くどいようだがアンジェラは手加減をしていても手抜きはしていない。

 最初に彼の実力を見極め、殺してしまわないように注意してるだけだ。

 しかし彼の身体にも限界があるため、アンジェラは敢えて気絶させようと手刀を打ち込もうとする。


「そろそろ終わりにしてくれよう!」


 パシィ!






(むぅ!?)

「――クフッ……」


 手刀を受け倒れ込むエルシド。

 それを見て残念そうな声をギャラリーが上げるが、直後に大きな拍手が巻き起こる。


「いやぁ凄ぇわ! あそこまで食らいつけるなんて、さすがは勇者だぜ!」

「うん。結果は残念だったけど、あの姿勢は見習いたいよね」

「俺も……やれば出来るんだろうか?」

「あれだけやれたんだから、エルシドはもっと強くなりそうよね!」


 室内に響く拍手と同時にエルシドの健闘を称える声もあちこちから上がり、その声の中央では桜庭が駆け寄り優しく頬を撫でてた。


「よく頑張ったね、エルシド……」


 そのまま手際よくエルシドを担ぐと、医務室へと運んで行く。

 そんなエルシドの背中を見てたアンジェラは、彼への評価を一段上げていた。


「お主の一撃、見事であったぞ」


 ギャラリーは気付かなかったが、最後はカウンターをアンジェラに当てていたのだ。

 残念ながら物理的効果は薄く、力押しで手刀を受けてしまったが、それでも誇ってよい快挙と言えよう。

 次にエルシドが目覚めた時、彼の信念がレベルアップという形で実る事は間違いなさそうだ。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 エルシドとアンジェラの組み手が終わったので、私達はその場で解散。

 私はというと、ちょっとお茶をしに【ビアードママ】というゴーレム姉妹が絶賛するお菓子屋にやってきた。

 自分で作っといて食べた事が無かったし、ちょうどいい機会だと思って――って!


「いらっしゃいアイリちゃん! 本日お相手させて頂きますユーリで~す!」


 メイド服を着た魔法少女が現れた!


「……何してるのユーリ?」

「実はですね、金欠病というとっても重い病気にかかってしまいまして、リヴァイさんに相談したら――「うん、分かったもういいわ」


 要するにここでバイトしてるって事ね。

 にしてもダンマスがバイト生活って、ライフスタイルとしては大いに間違ってる気がするんだけども、何故かユーリだと思えば納得出来てしまう不思議。


「ではこちらのお席にどうぞ。ルーちゃんとミリーちゃんもいらしてますよ」


 案内された席ではゴーレム姉妹が大量の皿を積み上げてて、支払いは大丈夫なのか心配になってくる。

 リヴァイに任せきりだけど、何も言ってこないところを考えれば大丈夫なんでしょうね。


「ミリー、緊急事態。マスターが現れた」

「こちらでも確認している。しかし依然として残機(残りのケーキ)が存在し、ロックを外す事(席を立つ)が出来ない」

「それは大変。ルーも掃討作戦(食べる事)に協力する」

「否、援軍(横取り)は望んでいない。獲物の横取りは万死に値する」


 コイツらは……。


「邪魔しないから落ち着いて食べなさい」

「「イェス、マスター!」」


 私が邪魔しないと言った途端にこれよ。

 こういう時は息がピッタリよね、普段はしょっちゅう喧嘩してるくせに……。


「はい、メニューをどうぞ~♪」

「ありがとユーリ」


 さて、私も何か適当に頼んでみよう。

 注文したのはこのお店のオススメセット、一番人気と二番二人気のケーキに加え焼菓子と紅茶のセットを頼んでみた。


「お待たせしました。ではごゆっくり~♪」


 今気付いたけど、てっきりユーリの事だから転んだりひっくり返したりのハプニングを展開してると思いきや、全くそんな現象は見られないわね? これは予想外だったわ。


「最初はやらかしてた。ルーの顔面にケーキが飛んできた時には夢中でキャッチして美味しく頂いた」

「ミリーにはドリンクが飛んできたから空中で素早く飲んだ」


 ……私は突っ込まないからね?


「って、そんな事より紅茶が冷める前に頂きましょ――アレ? ――ェエエ!?」


 注文したばかりのケーキセットがキレイサッパリ無くなってる!


「コラ! アンタ達は自分で頼んだ分が有るんだから、私のを取ったらダメでしょ!」


 っとにもう、油断も隙も有りゃしないわ。


「ノー、マスター。神もしくはクリューネに誓ってルーは取ってない」

「ミリーも同じ。決めつけはよくない」


 いや、アンタら以外に誰が――ん?




「ハグハグ――んゆ?」


 猫耳だか犬耳だかを生やした少女と目が合った……って、いつの間に隣に!? しかも美味しそうにケーキを頬張ってる!


「……ねぇ、貴女が手にしてるソレは私が注文したやつじゃない?」

「ハグハグ――知らないゆ。そこにお供えしてあったから、頂いただけだゆ」


 わざわざお菓子屋のテーブルにお供えする意味が分かりません。

 お供えに手をつけるって事は神様なんだろうけど、そもそもユーは何しにここへ?


「ハムハム――ここに来たら美味しいお菓子にありつけるって聞いたんだゆ。そしてそれは正しかったゆ、ミドルーシェの言った通りだったゆ!」

「それは良かった!」


 そう言われると素直に嬉しいわね……って、違う違う、そうじゃない。

 私が言いたいのは初歩的な事よ。

 他人のものを勝手に食べちゃダメというシンプルでとっても大事な事なのよ。


「ゴクゴク――でもミドルーシェはアイリから貰ったって言ってたゆ。つまりアイリに差し出されたこのオススメセットは、貰えるって事だゆ。――ふぅ、ご馳走さまだゆ」

「はい、お粗末さま」


 ――って、だからそうじゃないって!

 他人のものを勝手に食べたらダメ、絶対!


「そんじゃまた来るゆ」

「うん、またね――って、待ちなさい!」

「――んゆ?」


 無邪気な顔してそそくさと帰ろうとした女神の腕を掴み、再び席へと座らせた。

 いくら神様とはいえ、ただ食いは許されない。


「……コホン。まずは貴女のお名前を教えてちょうだい」

「名前……おお、そうだったゆ、自己紹介を忘れてたゆ。私はビスカーって名前の女神だゆ」


 フムフム、名前はビスカー……と。

 しっかし、ビスカーもそうだけど、ミドルーシェとかクリューネとか、どうして女神は変なのが多いんだろう……。


「マスター、そこから先はルーがやる!」

「同じく、ミリーもやってみたい!」


 よく分からないけど、ゴーレム姉妹にやらせてみる事にした。




「――で、いつまでしらばっくれるつもりだ?」

「……んゆ?」

「……んゆ? じゃない。既にネタは上がってるんだ。素直に白状した方が身のためだぞ?」

「ゆゆゆ?」


 なんか刑事ドラマの真似事を始めたんだけど……。

 しかもストローをタバコみたいにくわえてるぐらいにして……。


「いい加減話してスッキリしちまえよ。名前だって分かってんだぞ? え~と確か――」

「うゆ。ビスカーだゆ」

「そうそれ。――さぁ早く言え」

「お前の目的は何なんだ!」


 バンバン!


「あ、ミリーちゃ~ん、お店のテーブル壊しちゃダメよ~?」

「あ、ゴメン、ユーリ」


 こらこら、他のお客さんも居るんだからテーブルを叩かないの。


「チッ、強情な奴め……。仕方ない、ここはひとつ――ミリー」

「了解。――ほら、カツ丼食うか?」


 ミリーが用意したのは、新たに注文したフルーツゼリーだった。


「んゆ! 酸味と甘味のバランスが素晴らしいゆ! このカツ丼も気に入ったゆ!」


 コラコラコラァ! 間違った知識を植え付けちゃダメでしょ!

 もう埒が明かないから私が話そう。


「あのね、ビスカー様。天界ではどうなのか知りませんけど、下界(ここ)では頼んだ商品に対してお金を払うのが当たり前なんです。特に他人のものを勝手に食べたらダメなんですよ?」

「うにゅ~……ごめんなさい……ゆん」


 あ、耳がヘナッとしてる。

 何かこう罪悪感を感じるのは何でかしらね……。


「……コホン。まぁ、アレです。次からは私が直接渡しますから、御用が有るときはコアルームにいらして下さい」

「んゆ、分かったゆ!」


 これでよし……と。


「これにて一件落着」

「ミリー達にかかればこんなもん、もしくはその程度」


 確かにその程度ね。アンタらは余計な事をしただけよ……。


「あ、そうだゆ。迷惑を掛けたお詫びに取って置きの情報を教えてあげゆ!」

「……それって私が聞いても大丈夫なんでしょうか?」

「大丈夫だと思うゆ……多分」


 凄く不安になるんですが……。

 でも折角教えてくれるって言うし、しっかりと聞いとこう。


「オルド様が言ってたゆ、異世界からナイトメアが紛れ込んだって」

「ナイトメア?」

「そだゆ。ナイトメアというのは――」


 なんでもこのナイトメア、人々の夢を叶える代わりにその人の魂を食べてしまうという恐ろしい魔物なんだとか。

 しかも正体を看破するには神が直接見ないといけないというから面倒くさい。


「それからオルド様の命令で、神々はナイトメアの看破は行わないそうだゆ」

「そうなの!?」


 オルド様という最上位の神様が言うには、地上の事は極力地上の者達で解決すべし……って事を言ってるらしい。

 言ってる事は正しいかもしれないけど、せめてもう少し融通を利かせてほしいものよね。


「せめてヒントとかは貰えないんですか?」

「うにゅ~、なら大ヒントだゆ。ナイトメアは、今アルカナウ王国を騒がせてる転移者と一緒に入り込んだゆ」


 あの迷惑な連中か……。

 つくづくプラーガ帝国は余計な事をしてくれたわね。


「ナイトメアの特徴には常に何らかの()()()に化けてるというものがあって、私が独自に調べた結果、転移者と同時に転移してきた生命体は人間しか居なかったゆ。つまり、ナイトメアは――」


 人間の姿をしてるっていうのね……。


ビスカー「カツ丼頼むゆ!」

ユーリ「……はい?」

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