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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第2章:ダンジョンバトル
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ルーキーキラー

 初めてのダンジョンバトルはアイリの勝利で終わった。

初めて……の言葉とは裏腹にアイリはバトル終了まで寝ていたので、実質何もしてないのだが。


 その直後に再びバトルを決行するも、これもまたアイリが勝利した。

 2つのバトル終了後、審判のモルデナから勝者へのご褒美としてDP(ダンジョンポイント)300が贈られた。


「この【しょぼいご褒美】はGランクだからなのかしら……」


 つい先程起きたアイリは、報酬のあまりのショボさにテンションが急降下したのである。


「お姉様、改めてアンジェラが存在する有り難みが感じられますね」


「まったくね」


 アンジェラが居なかったらまともにダンジョン運営ができてたのか疑問に感じるわ。


「ククク、そうまで言われると悪い気はせんのぅ。毎日ダンジョンコアに魔力を流し込むのは疲れるからの」


 DPの獲得方法の1つ、魔力をダンジョンコアに流し込み、DPに変換するというもの。

これのお陰でDPには不自由しなくなったのよねぇ。

改めてお礼を言おう……、


「ありがとうアンジェラ!」


「なんの、(しゅ)の役に立てて何よりじゃ」


 アンジェラだけじゃなくアイカにも感謝しないとね。

私が居眠しても問題なかったのはアイカのお陰よ。


「アイカもありがとう!」


「いえいえ、わたくしとしてはもう少し()()したかったので、お姉様にはごゆっくりとお眠りいただけたらと」


「ん? 堪能?」


「い、いえ、こちらの話です」


 よく分からないけど、ダンジョンバトルを堪能してたのかしらね?

まぁボス部屋のクロコゲ虫作戦はアイカのお陰で成功したからね。

 よし、頭を撫で撫でしてあげよう。


「はーーい、アイカ、いい子いい子」


「ちょ、ちょっと止めてください、そんなことをされては……」


 ん? アイカったら照れてるのかな?


「お姉様! 服にヨダレがついてます。至急拭き取りを要求します!」


 どうやら居眠りしてた時にヨダレがついてしまったらしい。

そして何より、()()()の3文字が私にクリティカルヒットした。


 今更だけど、アイカってキレイ好きだったのね……。

 そんなことを思いながら、その場で私は崩れ落ちた。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 ダンジョン通信。


 それは、多数のダンジョンマスターたちが集い、様々な情報をやり取りすることができる機能である。

情報交換以外にも、ダンジョンバトルの申請をしたり、邪神様との連絡もダンジョン通信を用いて行う。

 今日も思い思いの集いに参加するダンマス(ダンジョンマスター)たちが集まっていた。


ロムネック

『おい、聞いたか? 例の話』


バット

『ああ聞いた聞いた。水虫とかいう奴だろ?』


ロムネック

『なんじゃそら。俺が言いたいのは、今月に入ってから3人も犠牲が出てる。ルーキーキラーの件だよ』


バット

『ああ、そっちの方か、それなら知ってるぜ。犠牲者は全員Gランクのダンマスなんだろ?』


マリオン

『そうそう、ダンジョンの場所は全然バラバラなのにね。それでルーキーキラーってことは、犯人はダンジョンマスターでほぼ決まりね」


ロムネック

『そうだ。排他主義の連中か、快楽者かわからんがな。ところで、さっき言ってた水虫というのは何だ?』


マリオン

『あれ? 知らなかったの? 最近威勢よくダンジョンバトルを仕掛けてるダンマスで、勝率も高いルーキーのことよ』


バット

『そうそれ。1週間くらい前はまだ無名だったらしいが、もう既にEランクに昇格したらしい』


ロムネック

『ふむ……期待の新人か。水虫というのは何か曰く付きの名称か?』


バット

『それな。直接本人に聞いた奴がいてさ、なんでもバトルに負けた時のペナルティーで、水虫って名前に改名させられたんだと』


ロムネック

『ペナルティー……ということは、見下される名称ということか』


マリオン

『それ、本人に言ったらダメよ? 泣きながら発狂するらしいから』


バット

『案外肝っ玉の小さい奴なのかもな』



 とまぁ、このような感じで日々話のネタは変わっていくのであった。

そのため彼らの中では、ルーキーキラーの存在が薄くなっていった。

 彼らがルーキーキラーの存在を思い出すのは、新たな犠牲者が出た後かもしれない。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 あのダンジョンバトルから5日後。

また外に行きたいなぁ等と思いながら過ごしてると、アイカが来客の存在を知らせてきた。

 聞けば私のダンジョンに入ってから、入口から死角になる場所で膝を抱えてじっとしてる少女がいるのだとか。


如何(いかが)致しましょうお姉様?」


「うーん、難しいわねぇ……」


 ただ迷い込んだだけなら保護するなり、森の外へ送ってくなりするんだけど、どう考えてもこんな森の奥に1人でいる少女って普通じゃない。


「少し様子を視ましょう」


「わかりました」


 (しばら)く観察してたけど、その場から動こうとはせずにいた。

外は日が落ちてきたため薄暗い。

 このまま放置するのは危険と判断し、少女本人と接触することにした。






「そこのアナタ」


 アイカが声をかけると、少女はビクッ!として、アイカを見上げる。

 その顔は明らかに怯えてるように見えた。


「このままここに居ては危険ですよ? お家へ帰らないのですか?」


 アイカは少女を警戒させないように、少し離れた場所にしゃがみこむ。


「……帰れないんです」


 ()()()()のではなく、()()()()んですね。


『何やら訳ありのようです、お姉様』


『そのようね。そのまま話してみて、その人が了承したら5階層の街に連れてってあげて』


『わかりました。やってみます』


 このダンジョンの5階層は街エリアになっている。

街の中には宿屋や道具屋等が存在し、各店では自動人形(オートマタ)が対応する仕組みになっているのよ。

 ま、詳しい話はまた後でね。


「行く所が無いのなら、わたくしたちの街にいきますか?」


「街……ですか?」


 少女は目を丸くして聞き返す。


「はい。このダンジョンの5階層は街になってますので。宜しければ案内しますよ?」


「………………」


 何やら考え込んでしまったようですが、間違いなくこの少女は街に行くことを選択するでしょう。

 このままこの場に残るメリットなんて有りませんからね。


「……そ、その、お願いします」


 予想通り頭を下げてきたので、そのまま5階層の街へ案内します。

まだ少し警戒されてる感じもしますが、初対面なので仕方がないでしょう。

 そしてアイカは、歩きながら少女のことを色々と聞き出すことに成功した。


「……なるほど。つまり悪い奴にお家を壊されたうえに、アナタは追われてる……と」


「……はい」


 この少女の名前はレミエマ。

歳は16歳で人族とのこと。

元々レミエマ様は、両親と一緒にこのダンジョンがある魔女の森の外で暮らしていたらしいのですが、ある日のこと、悪い男が出現し襲ってきたらしいのです。

 男の襲撃により両親は他界し、レミエマ様1人だけ命辛々逃げてきたのだということです。


「しかし何故魔女の森の中へ逃げ込んだのですか? 人族なら他の街へ逃げたほうが良かったのでは?」


「いえ、それだとすぐに追い付かれると思ったので……」


 少々不自然ながらも一応は筋が通ってますね。


「そうでしたか。……っと、街が見えてきました。あの灯りが見えるでしょう?」


 わたくしが5階層にある街を指して言います。


「! ま、まさか本当に……ダンジョンの中に街が……」


「凄いでしょう? ダンジョンの中に街があるなんて、このダンジョンくらいではないでしょうか!」


 レミエマ様は驚きを隠さず、呆けて街をながめてますね。

自慢の街なので当然です。

 そんな呆けてるレミエマ様に対し得意気に語ったわたくしは、そのまま街に入ると宿屋へと案内しました。


「今日のところは、この宿に泊まると良いでしょう。料金はサービスということにしときますので」


「あ、ありがとう……」


 さて、レミエマ様を無事保護しましたし、お姉様の居るコアルームへ戻るとしましょう。






「大体は見ててわかったけど、一応アイカからも聞かせてちょうだい」


「はい。襲われて逃げてきたのは本当のようです。手に切り傷と、衣服の腕の部分が斬られたような痕跡がありました。ですが本人の言っていた人族だということに関しては、嘘だと思われます」


 おや? アイカにしては、中々しっかり見てるのね。

私もレミエマは人族ではないと思うわ。


「……何で嘘だと思う?」


「色々と理由は思いつきますが、種族が他者に知られるのは問題があるからだと思われます。差別の対象から逃れる……というのが一般論でしょうが、レミエマ()の場合はそれには当てはまりません」


「その通りね」


 レミエマが普通の少女なら当てはまるんだけど、魔物が多い魔女の森を1人で突破してくるなら()()()()()とは言い難い。


「ですので、種族または職種が判明すると都合が悪いのでは? と思われます」


「私も同じ意見よ。でも無理矢理聞き出すつもりはないから、とりあえず監視をつけておくだけにしよう」


 レミエマの方はこれでいいとして、アイカにも確認したいことが出てきたのよ。


「ねぇアイカ、なんでレミエマを様付けで呼ぶの?」


「それは勿論…………はて、何故でしょう?」


 どうやら無意識に言ってるっぽいわね。

こっちも一旦保留にしとこう。


「あ! お姉様……」


 ん? どうしたんだろ?


「どうやらまた別のお客様のようです」


 今日は来客が多い日ねぇ。

そんな日も偶にはあっていいけど、冒険者が1人も来てないのに、来客だけが来るっておかしいんじゃないかしらね……。


「今度は男性客です。同じように宿へ連れ込みますか?」


 その卑猥(ひわい)な言い方はやめなさい!

 ……それは兎も角、この男もここに来たのは偶然……って事はないわよね?


「この男は私が話してくるわ」


「大丈夫ですか?」


「勿論よ」


 このダンジョンのマスターなわけで、いざとなればすぐに転移して逃げることができるからね。


 さっそく男がいるダンジョン入口にやってきた。

何やら男は入口付近を調べてた様だが、私の存在に気付くと話し掛けてきた。


「君はこのダンジョンを攻略中の冒険者か?」


 おっと、どうやら冒険者と間違われたようだ。

 でも私は()()()()やってるから冒険者を名乗っても嘘にはならない。


「まぁそんなとこよ。それよりアナタは?」


「俺はギブソン。冒険者……みたいな者だ」


 30代くらいで獣の耳をした男はそう答えた。

よく見ると身形は普通だが、この男からは血の臭いがする。

 でも冒険者であるならば返り血を浴びたり、自分も怪我をするだろうから、別に不思議ではない。


「まさかとは思うけど、1人でダンジョンに来たの?」


「そうだ。少々()()()があってな」


 言葉少なげに話すところから、あまり深く話したくないって感じね。

なら遠くから観察させてもらいましょうか。

 でもその前にこのギブソンという男を鑑定してから…………え?


 驚いた……あのレミエマと関係ありそうだとは思ってたけど、本当に関係あるとはね……。


「じゃあ私は仲間の所へ戻るわ。アナタも気を付けてね」


「忠告、感謝する」


 ギブソンという男から離れて少し様子を窺うが、手際よくテント張って中に入った。

今日の所はこの1階層の洞窟で寝るようだ。

 私も晩御飯を用意しないといけないので、コアルームへ戻ることにした。


「ただいまー」


「お帰りなさいませ、ご主人様!」


 コアルームに入ると、何故かメイド服を着てお決まりの台詞を言うアイカが出迎えた。

中々似合ってて可愛……ってそうじゃなくて、まーた勝手にDPの無駄遣いをして。

 というか何やってんのよアイカ……。


「これをやると、ご主人様が喜ぶとテレビで言ってましたが……」


 ……もういい加減テレビの言うことを真に受けるなって言っとこう。

 まったく、余計なことばっかり覚えるんだから、もう。


「ではご主人様、早く食事の用意をお願いします」


「そこは逆でしょ!?」


 本当にアイカはぶれないわね……。


「それじゃ今日の晩御飯は「お姉様、またお客様のようです」……本当に来客の多い日ね」


 今度は誰が来たのやら。


「あの顔はグーチェス様のようです」


 んんー? 何でグーチェスが来るわけ?

何も約束はしてないし、そこまで親しいわけでもないんだけど。

 とは言え挨拶も何もしない訳にはいかないので、5階層にある城の客室に案内しよう。


「後で紹介するのも面倒だし、アイカも一緒に来てちょうだい」


(かしこ)まりました、ご主人様」


 それはもう止めなさい!






「やぁ、久しぶりだね」


「久しぶりと言っても5日ぶりよね?」


「まぁそうなんだけどね。まぁ、なんだ、行きなり押し掛けてすまない。どうしても直接会って、礼を言おうと思ってね」


 うーん、何か前よりもフレンドリーになってる気がするんだけど、そんなことは今はおいといて……。


「立ち話も何だし居城に案内するわ。アイカ」


「はい、わたくし本日のお相手をさせていただくアイカと申し『ゴツン!!』……痛いです! お姉様!」


 何の相手をするつもりよ!

しかもメイド服のまま来てるし!


「……私が案内するわ。付いてきて」


「あ、あぁ……」


 歩きながらアイカを紹介し終え、グーチェスを鑑定してみることにした。

ダンジョン通信越しだと鑑定ができなかったのよね。

 そしてグーチェスを鑑定すると、驚くべき事実が判明した。


「なるほどなるほど。そういうことか……」


「ん? どうしたんだいアイリ?」


「いえ大丈夫。こっちのことだから」


 まさかコイツまでレミエマに関わってるとはね。

でもお陰で何でアイカがレミエマを様付けで呼ぶのか理解できた。

 ということで、今は()()()()あげましょうか。


 私は5階層にある城に向かいながら、今後の展開を予想し思考するのであった。




アイカ「お姉様のメイド服も用意しました」

アイリ「私は着ないからね!?」

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