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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
最終章:落ちこぼれ勇者とエリート学生
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拘束

前回のあらすじ

 心を折られた勇者エルシドは、フランツの街に着くと酒場に入り浸ってしまうようになる。

 桜庭の言葉も右から左へと聞き流してしまう程であったが、そこへ現れた青年ーートウヤ辺境伯によって励まされ一応は立ち直った。

 だが喜んでるのも束の間。エルシドを追ってきた薄気という男子生徒の陽動に掛かり、ゾンビの群れに囲まれてしまう。

 そこへ再び現れたトウヤ辺境伯により包囲を抜け出し、魔女の森へと逃げ込む2人だったが……。


「奴等を追え! 絶対に逃がすな!」


 逃げた2人――エルシドと桜庭(さくらば)薄気(うすき)が追いかける。

 動きの遅いゾンビを残してスケルトンを中心にした部隊編成をし、魔女の森へと踏み込む。

 夜間という事もあり一層不気味な雰囲気を漂わせるが、そもそもアンデッドを引き連れてる時点で不気味さはとうに過ぎている。


「しかしなんだって奴等は森の中に入ったんだ? 夜間に入り込むのは自殺行為に等しい筈なのに……」


 薄気は純粋に疑問を浮かべる。

 夜行性の魔物も存在するし暗闇では動き難い。見方によっては自棄を起こしたようにすら見えてくるだろう。


「って、スマホの光じゃ遠くまで見えないじゃないか。――おい、何か適当に燃える魔法でも放て」

「カカカカカ!」


 カチカチと骨を鳴らしてスカルメイジがファイヤーボールを放つ。


 ボムッ!


 ちょうど一本の樹木に命中し、徐々に燃え上がっていく。


「よし、だいぶ見易くなったな。お前達、しっかり追撃しろよ」


 その後も適度にファイヤーボールを撃たせて光源を確保する。

 が、彼はまだ気付かない。いつの間にかスケルトンの数が()()()いる事に。

 薄気の使役するアンデッドは、彼本人が敵だと認識――或いは命令がなければ攻撃に移る事はない。

 なので所属不明のスケルトンが数を増していくのだが、何もせずに共存してるという奇妙な現象が起こっていた。


「くそぅ……逃げ足の速い連中め。いったい何処まで入り込んだんだ……」


 時折遭遇するゴブリンやグリーンウルフをはね除けて、魔女の森奥深くへと進んで行く。

 しかし肝心の2人は見当たらず、このままでは自らが迷子に成りかねない。


「仕方ない。一旦引き返して――ん? 何かスケルトンが増えてるような気が……」


 ここで漸く気付き始める。

 元の数こそ覚えてないが、縦に伸びた隊列が厚みを増して横へと広がってたのだ。


「……お前達、一旦停止しろ」


 どうにも腑に落ちないと思い立ち、スケルトンの動きを止めてみる。

 すると半数のスケルトンが命令に遅れた形で停止したのだ。


「これは……おいスケルトン共、()()()()()()()()()()()()!」


 とうとう紛い物が紛れてる事に気付き、敵の撃破を命ずる。

 そのためスケルトンVSスケルトンという非常に紛らわしい戦いが巻き起こり、一見すると同士討ちにしか見えない。

 スケルトン達は理解してるが薄気本人は区別がつかないため、ただ成り行きを見守る他なかった。


「ちくしょう、いったい誰がこんな真似を。少なくともあの2人が出来る筈ないんだが……」

「でしょうね。こんな事出来るのはネクロマンサー(貴方)かダンジョンマスターくらいだもの」

「な!?」


 突然聴こえた声に反応し、慌てて飛び退き距離を取る。


「フフ、中々良い反応ね。貴方も勇者として召喚されたのかしら?」

「……ああ、そうさ。【勇者への祝福】だったかな? 確かそんな加護がついてる筈さ。――で、これは何の真似だ?」


 会話中の今も周囲ではスケルトン同士の激しい戦いが行われており、最早大乱闘のような有り様だ。


「まさか僕と同じスキルを持ってる奴と遭遇するとは思わなかったけれどもさ。いずれにしろこうして僕の邪魔をするって事は、あの2人を匿ったのはお前って事でいいんだな?」

「……フフッ」


 ズバリ言い当てた薄気に対し、意味深な笑みを見せる女性。

 しかし当然彼女も一般人ではない。


「自己紹介だけはしとこうかしら。――私はマリオン。ダンジョンマスターよ」

「ダンジョンマスターか……。ならスケルトン共を召喚出来たのも頷ける」


 薄気の前に現れたのは、地上の者達に好意的なダンマスであるマリオン。

 彼女はトウヤ辺境伯と繋がっており、そのトウヤから勇者達の保護を依頼されたのだ。


「けど分からないなぁ。なんで無関係なお前がしゃしゃり出てくるんだ? ダンマスならダンジョンに引きこもっててもらいたいね」

「あら、無関係じゃないわよ? 集団転移してきた貴方達は多数のダンマスから危険視されてるんだもの。その危険を排除しに動くのは自然な流れよ」


 既にアルカナウ国内のダンマスから情報が漏れており、近い位置に居るダンマスは警戒を強めている。

 転移者である薄気はもとより十針(とばり)達でも知らない事ではあるが。


「ふ~ん? まぁいいさ。邪魔するなら――」






「死んでもらうよ! ――ストーンジャベリン!」


 無詠唱で作った石の槍をマリオン目掛けて撃ち込んでくる。

 会話の最中にマリオンの周囲を囲むように練り固めてたため回避は難しい!


 ガスッ! ガスガスガスガスッ!


「ヘッヘヘヘ、どうだ? 僕のスキルは死人使い(ネクロマンサー)だが魔力だって並じゃないんだ。恨むなら僕の邪魔をした自分を恨むんだな!」


 ストーンジャベリンがマリオンに痛々しく突き刺さってるのを見て勝利を確信する薄気。確かに薄気の視点では()()()()()()()()

 しかし、実際は違う。

 石の槍はマリオンからほんの数センチ離れた位置で静止してるのだ。


「フフッ、もう終わり? 自信に満ちてた割には物足りないわね」

「んな……バカな!?」


 シールドを張られた訳でもなしのこの現象に、薄気は理解が追い付かない。


「あら、ボヤッとしててもいいの? 戦いの最中に隙を見せるのは素人のする事よ」


 槍の包囲から優々と抜け出したマリオンは、数本を薄気に向ける。

 すると直後、ストーンジャベリンが放った本人に向かって飛んでいく。


「――はっ!? うわっ!」


 慌てた薄気は横っ飛びで回避したが、急な動きだったためにマリオンから見れば隙だらけもいいところだ。

 なのに彼女は動かず黙って薄気を見下ろすだけにとどめている。


「くそっ、余裕こきやがって!」


 余裕を見せるマリオンが気に入らないという事もあり、出鼻を挫く意味も込めて威力が一番高いと思われる魔法を発動させる。


「これならどうだ――メテオフォール!」


 上空に出現した巨大隕石(いんせき)がマリオン目掛けて急降下してきた。

 それでも先と同じく動じる事はなく、隕石を見上げるだけだ。


「はっ、バカが。それを止める事が出来るとでも言うのか? その無謀さを悔いながら死ね!」


 先程は見えないシールドで防がれたのだと結論付け、今度こそ勝利を確信する。

 が、またしても信じがたい光景が目の前で展開された。


 ゴォォォォ――ピタッ!


「ヘッヘッヘッ……ヘ?」


 またもや薄気の期待を裏切り、無情にもギリギリで止まってしまう。


「残念だったわね? ――じゃあコレは返してあげるわ」


 マリオンが隕石を動かすと、数秒後に再び動き出す。


「へ? ――ヘブペェッ!?」


 信じられない事に、隕石までもが薄気目掛けて飛んでくる。

 だが微妙に方向がズレてたらしく顔を掠めて後方へと消えて行くが、それでも威力があったらしく、食らった本人は横に飛ばされ樹木へと激突した。


「惜しかったですね、マリオン様」


 誰も居ない筈のマリオンの側で、少女の声が聴こえる。

 直後マリオンの正面に、一つの飛行物体――ドローンが姿を現した。


「フフ、ありがとアイカ。さすがにメテオフォールはヒヤッとしたけど、そのルーンガードという魔法は万能ね。それともそのドローンが強力なのかしら?」


 アイカに代わって説明するが、ルーンガードもドローンもどちらも強力である。

 因みにルーンガードは、ムーシェが使ってるのを見てドローンにも取り入れたのだ。


「どちらも強力だと言えますね。少なくとも死人使い(ネクロマンサー)のスキルよりは遥かに脅威的ではあるでしょう。――()()()そう思いませんか?」


 密かに聞き耳を立てていた薄気へ呼び掛ける。

 彼は倒れて気を失ってるフリをしてたのだが、ドローンの鑑定スキルによりモロバレであった。


「クッ……まさか僕達以外の転移者が邪魔してくるとは……」


 落ち着いて立ち上がったように見えるが、内心では大いに焦っている。

 転移者(だと薄気は思っている)が相手だという事に加え、理由は不明ながら魔法を無力化するドローンまでも所持してるのだ。

 そんな相手に勝てるかと言われればイェスとは言えない。


「では拘束させていただきますね」


 バスッ!


「――グッ!?」


 ドローンからの麻酔弾受け、薄気はその場に倒れ込む。

 召喚されたスケルトンも同時に動きを止め、マリオンのスケルトンによってバラバラに解体されていく。


「それで、この男の子は連れてくのね?」

「はい。色々と情報を入手出来ると思いますし、お姉様のご要望でもあります」


 元々アイリが転移者を捕まえると言って行動を起こしたので、アイカもそれに従い薄気を拘束する事にしたのだ。

 連れ去る際に念のため再度鑑定をかけるが今度こそ本当に眠っているようだった。



「…………」


 だが2人は気付かなかった。

 遠くからその様子を(うかが)ってる存在が居た事に……。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「――で、ソイツがお土産?」

「はい。フルネームは薄気健徒(うすきけんと)。固有スキルは死人使い(ネクロマンサー)です」


 今、私達の目の前には、ギプスのような物でガチガチに拘束された少年が転がされてる。

 マリオンがトウヤ辺境伯の要請で出向いたら、エルシドという勇者と仲間の少女がソイツに追われてたらしい。


「しかしあの辺境伯はレアなスキルを持っておるのぅ。飛翔転移(ポータルジャンプ)だったかの? 突然マリオンのダンジョン(ここ)に現れた時は驚いたぞ」

「だな。さすがに俺も驚いたぜ」


 アンジェラとモフモフは感心したように染々と思い出している。

 2人の言う通り、あの辺境伯ったら突然マリオンの隣に現れたのよ。

 そうしたら、アルカナウ王国の勇者とその仲間を保護してほしいとか言ってすぐに転移していった。


「前にちょっとした事が切っ掛けで彼を助けた事があるのよ。それ以来友好的な関係を続けてるわ。それよりこの子への尋問はするの?」


 マリオンが薄気という少年を指して尋ねてくる。

 尋問はしたいけどもう寝る時間だし、保護した2人もとっくに寝てる。

 しかも隣のアイカはパジャマを着てるから私も眠くなってきたわ。


「尋問は明日にしましょ。今日はアイカに見張っててもらうって事で」


 寝る必要のないアイカに見張りを押し付ける。

 どうせアイカったら徹夜でドローンを飛ばして遊んでるんだし。




 でもって次の日。


「ここは……」

「……凄いね、ダンジョンに入った筈なのに街に出ちゃったよ」


 朝食を済ませた私達はモフモフとアイカを拘束中の捕虜への尋問係として残し、勇者エルシドと桜庭さんを連れて私のダンジョン――アイリーンへ戻ってきた。


「ここが噂になってるダンジョン。ここで修行すれば……」

「うん、やっぱり凄いよ。街の中にダンジョンがあるなんて……」


 反応はご覧の通り。

 勇者エルシドは早くも意気込んでるし、桜庭さんは軽く混乱してるらしく街とダンジョンが逆になってる。


「エルシドはやる気みたいだし、街の観光は後回しにしましょ。私についてきて」


 早くもキョロキョロと見渡してる2人を引っ張り、目的の場所へと向かう。

 眷族達も含めてぞろぞろと移動してると、時折街の住人が私に話し掛けてくる。

 中にはマインさんとゴンザレスさんの美女と野獣カップルもいたりして、エルシドは目を丸くして驚いてたのが印象的だった。

 やっぱりエルフとドワーフの組合せは珍しいのね。


「はい到着~! 今日からここで修行するといいわ!」


 街の施設とかを説明しながら歩いてると、あっという間についちゃったわ。

 利用者が少しずつ増えてきたんで大きめに改築したスポーツジム――から改めたトレーニングジムが、私達の前で存在感をアピールしている。


「え、トレーニングジムって……あのトレーニングジム?」

「ええ、多分そのトレーニングジムで合ってる筈よ」

「ほぇ~、これじゃまるで日本に帰ってきたみたい……」


 桜庭さんは口を開きっぱなしで驚いてる。私も逆の立場なら同じ反応だったかもしれない。


「しかし人の気配が感じられないのだが、ここに多くの冒険者が集まってるのかい?」

「多くはないでしょうけど、集まってはいると思うわ」


 防音は完璧だから音は響いてこない。

 そのせいでエルシドは気配を感じとれなかったみたいね。

 でも中では冒険者達がトレーナーの指示に従ってトレーニングを行っていて、実力アップが実感出来る程に上達してるらしい。

 らしいというのは、私の目で見た訳じゃないって事で。


「ほらほら、強くなるんなら1秒も無駄には出来ないわよ」

「あ、ああ……」


 戸惑うエルシドの背中を押して、いざ突入~!


アイリ「マインさん、昼間から酔ってたわね……」

アイカ「ゴンザレスさんは嬉しそうでしたよ」


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