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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
最終章:落ちこぼれ勇者とエリート学生
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変動の時

 その日、アルカナウ王国は唐突に激変を迎えようとしていた。

 玉座にいる国王ナルクムンドは近衛兵に剣を向けられた状態で唇を噛み、傍らの王女はただひたすら怯えている。


「――おやおやぁ? さっきまでの威勢のよさはどこに行っちゃったんだろ~ね?」

「マジマジ。え~と何だっけ? ――お前達、この無礼な者共を捕らえよ――だったか? それがこうして手も足も出ないとかねぇわ~、マジ草生えるぜ!」


 近衛兵を押し退ける形で、学ランを着た男子達が前に出て挑発する。

 だが今の国王には無言で睨みつける事しか出来ない。

 その理由は彼等の持つスキルが原因だった。


「ほらほらぁ、近衛の諸君からも何か言ってあげなよ、裏切った記念にさ?」


 男子学生の一人に背中を押された近衛兵が、国王に切っ先を向けたまま口を開く。


「申し訳御座いません国王様! 体が勝手に動いてしまい、我々ではどうする事も出来ません! どうかお逃げ下さい!」


 この場に居る近衛兵達は男子の一人によって体を操られてる最中にあり、自分の意思とは無関係に反逆者に加担してるのである。


「へへ、おい見ろよ十針(とばり)。コイツ一丁前に足振るわせて踏ん張ってるぜ? 無駄な努力だってぇのによ! ッハハハ!」

「まったくだねぇ。逆らっても無駄だって分かんないかなぁ。ま、その方が面白いから構わないんだけど――」


 十針と呼ばれた男子はスタスタと国王に近寄ってくと、ニヤニヤとした嫌な顔を作り国王を見下ろしながら問い掛ける。


「――で、さっきから無言だけど何を考えてるんだい? この状況を(くつがえ)す策があるとは思えないんだけどもさ?」

「…………」

「……ふ~ん(だんま)りね。――まぁいいや。だいたいの考えは分かるからね。用はアレでしょ? この国の勇者が助けに来てくれるのを待ってるんでしょ? その間に余計な事を言って僕らを刺激しないようにしてる……ってことかなぁ?」

「………っ」


 話の最中僅かに震えたのを十針は見逃さなかった。

 つまり国王は出来るだけ時間を稼ごうとしてるという事だ。


「なぁもういいだろ? さっさとブチ殺しちまえよ。どうせ時間の無駄だろ」

虎田(とらだ)君、そう焦らないでよ。多分もうすぐだからさ」

「もうすぐ? ――ああ、あいつらか!」


 待っていたのは十針も同じだったようで、国王は眉を潜めた。

 この上何があるのかと内心戦々恐々としてたのだが、直後に目を見開く事になる。


「お待たせエブリバディ! 【透視捜索(ゲットファウンド)】を持つ俺ッチが見事見つけたぜ!」

「ボコッたのはあたしだけどな」


 開かれた扉から入って来たのは十針達と同じ学ランを着た男子と、同じ学校に通っていたセーラー服を着た女子だ。


「おう、漸く来やがったか。――遅ぇぞ2人共!」

「っさいわね! 文句あんならアンタが相手してやりなさいよ。――ま、こんな感じだからサンドバッグにすらならないだろうけど――ホラよっと」


 誰かを引き摺ってきた女子が、その人物を国王の前へと突きだ出す。


「な! ゆ、勇者エルシド!」

「そ、そんな! 勇者様ぁ!」


 突き出されたてへたり込む勇者を見て国王が玉座から立ち上がると、傍らの王女も悲痛な叫び声をあげた後に顔を伏せる。

 勇者エルシドの顔はこれでもかというほど腫れ上がり、散々痛め付けられたのだと誰もが想像出来るくらいだ。


「ザッとこんなものさ。俺ッチのスキルに感謝してくれよ十針君!」

「だからやったのはあたしだっての」

「勿論感謝してるよ富岡(とみおか)君。――藤堂(とうどう)さんもお疲れ様」


 富岡という男子の持つスキルは、この世界のあらゆるものの存在場所を探る事が出来るというもので、それによりあっさりとこの国の勇者を発見したのだった。

 そして藤堂という女子の持つスキルは、【剥離投入(ステータスチェンジ)】という一定時間相手のステータスと自分のステータスを入れ替えるというもので、これを使用された勇者は成す術なく敗れたのである。


「さてさて、国王様が待ち望んでた勇者様はご覧の通りだよ。残念でしたねぇ? ――ま、そんな訳でお別れの挨拶をしたいなら遠慮なくどうぞ?」


 十針が手にしたシャーペンをマイクに見立てて国王に近付ける。

 すると僅かな望みを断たれ後が無いと悟った国王は、主犯とも言える十針に顔を向け、思いの丈をぶちまけた。


「貴様ら……いったい何の恨みが有ってこのような事をしでかしたのだ? 儂に何の落ち度が有ったと言うのだ!? 何の前触れもなく突然現れこの国を寄越せなど、こんなふざけた事は有り得んだろうが!」


 この生徒達と国王は何の面識も無ければ接点すら無い。

 付け加えると国王ナルクムンドは民からの不満が少ない善政を行っているので、恨みをかってるという可能性は非常に低いだろう。

 そんな疑問を感じてる国王に十針は真相を明かす。


「恨みは無いさ。ただ強いて言えば、そこにこの国があったから……としか言えないなぁ」

「……どういう意味だ?」

「どうって……そのままの意味だけど? たまたま僕らがやって来て、たまたまそこにあった国が滅んじゃったってオチ。言うなれば不運だよ不運。分かってくれた?」


 あまりの事実に国王は一瞬言葉を失う。

 まさか運が悪かっただけだと言われるとは思ってなかったからだ。


「ぐぬぬぬ……そのような事で国を失うというのか……」

「事実は小説よりも奇なり……だよ。残念だったね国王さん。じゃあそろそろ終わりにしようか?」


 ガクリと肩を落とす国王を見た十針は満足そうな笑みを浮かべ、近衛兵に視線を送る。

 するとやはり、己の意思とは無関係に切っ先を国王へと向けた。


「待てよ十針。最後は俺にやらせてくんねぇか?」

「虎田君が? ――ああそうか、スキルを試したいんだね。いいよ、やってごらん」

「おう悪ぃな! ()()()()()()なら俺のスキルは有効だからよ!」


 虎田が国王の前へ出ると指をポキポキと鳴らす。

 その様子に国王はゴクリと息を飲むが、直後虎田は思わぬ行動に出る。


「オラァ!」


 ドゴッ!


「「!?」」


 なんと虎田は思いっきり床を殴り付けたのだ。

 それを見た国王と王女は訳も分からず混乱するが、やや間を置いて国王に変化が訪れる。


「ゴフッ!?」

「え――お、お父様!?」


 国王が血を吐きながら前のめりに倒れていく。

 そしてこの時、国王は理解した。目の前の男子――虎田のスキルは、()()()()に影響を及ぼせるのだと。

 そして勇者の祝福を受けている虎田のステータスは飛躍的に高いため、たった一撃でも相手を死に至らしめる事もあり……


「ゴ……ガ……無念じゃ。このような理不尽極まりない事などあってはならぬ。……貴様らはいつか後悔するだろう。ゴフ……因果応報により必ずや報いを受ける事になる。その時まで精々束の間の栄光にすがるがよいわ――ゴハッ!」


 そう言い残し国王は息を引き取った。


「そんな……お父様、お父様ぁぁぁ!」


 あまりの突然な死に、王女は亡骸にしがみつき号泣する。

 それを見ている事しか出来ない近衛兵達は、苦虫を噛み潰した表情のまま涙を流す。

 一方の学生達は、スッキリした顔で今後の事について話し合っていた。


「さて、虎田君の【影渡り(シャドウパス)】を堪能したところで今後どうするかを話しておくよ」


 そう切り出したのは中心人物の十針で、他の学生3人は彼に顔を向けた。 


「まずはこの国を拠点として活動し、戦力を充実させる。他の国が混乱に乗じて攻め込んでくる可能性もあるからね。次に戦力が整ったら小国を一つ落とすんだ」

「ちょっと待った。なんで小国を落とすのさ? やるんだったら大国じゃないの?」

「だよな。俺もそう思うぜ?」


 藤堂が横から口を挟む。

 彼女にしてみれば、戦力があるなら小国相手にチマチマやる必要はないと思ったからだ。

 更に虎田も同じ考えのようで、藤堂の意見に同意した。

 だが十針はチッチッチッと指を振ると、得意気に説明する。


「――言うなればそれは前座だよ前座。他の国に見せつけてやるためのね。国一つが短期で落ちる事があれば、さすがに僕らを相手にしようとは思わないだろう? そして邪魔が入らない状態にした上でいよいよ最後の仕上げさ」

「だよねぇ。当然最後は()()()っしょ? 俺ッチも気合いが入るってもんよ!」


 最後の仕上げと聞いてやや興奮気味の富岡だが、そんな彼に無言で同意した十針は話を続けた。


「――当然さ。僕らを勝手に召喚してくれたプラーガ帝国は最終目標だよ」


 そう、彼等を異世界(地球)から呼び寄せたのは他ならぬプラーガ帝国であり、彼等はそこから逃げて来たのだ。


「あの国は僕らと同じ境遇の人間が多く居る。ソイツらの全容が分からないうちは、まだ手を出すべきじゃないのさ」


 プラーガ帝国から逃げる際に集めた情報によれば、かの国には多くの転移者が()り、中には現皇帝ムンゾヴァイスに絶対服従してる者まで居るらしい。

 となれば、プラーガ帝国を落とすとすれば当然彼等とも敵対する事となり、固有スキルによっては成す術なく敗北する可能性すらある。


「ま、それならしょうがないね」


 藤堂も納得し、先駆けた例となった国王を横目で眺める。


「プラーガの事は理解したけどよ、コイツはどうすんだ?」


 虎田が瀕死の勇者を指す。

 両手両足が複雑骨折した状態で何とか生きている状態だが、放って置けば助からないのは明白だ。


「というか生きてんのコレ? 藤堂マジやり過ぎじゃね?」

「別に。生意気だったから、ちょっと捻ってやっただけよ。なんなら富岡、アンタも味わってみる?」

「いやいやいやいや、絶対に遠慮する! ノーセンキューさ!」

「はぁ……君達、漫才は後にしてくれ。それよりも勇者だけど……」


 藤堂と富岡の漫才にため息をついた十針が、気を取り直して勇者を見下ろして思考する。


「――ああ、そうだ。彼を解放してやろう。彼が本物の勇者ならまた立ち上がるかもしれないし、それならそれでこちらとしても良い刺激になる」


 勇者エルシドの処遇が決まった。

 装備品を全て没収された上での国外追放という、正にゴミを外に捨てるかのような処分だ。


「無理だと思うけどなぁ。こんな状態なら助かんねぇだろ普通?」

「いいじゃないか虎田君。彼は勇者なんだから、この程度で諦めてたらそれこそ勇者失格というものだよ」

「違ぇねぇ、ッハハハハハ!」

「何気にエンターテイナーだねぇ十針君!」

「クッフフフフフ!」


 虎田に釣られて富岡と藤堂も笑い出す。

 だが十針は何かを思い出したようで手をポンと叩く。


「そういえば桜庭(さくらば)さんと高遠(たかとう)君はまだ見つからないのかい?」


 その言葉に場の視線が富岡に集中すると、彼はキザっぽく前髪を掻き上げながら答えた。


「フフン、今迫水(さこみず)君達が追ってるよ。なぁに居場所は分かってるんだ、捕まえるのも時間の問題さ。ノープロブレェェェム!」

「――ならいいけどね。僕の【肉体操作(フィジクマリオネット)】は日本人には効かないから、危険な相手は排除しとかないと」


 日本人に肉体操作は効かないのが最大の難点だが、それさえクリアーすれば最早敵無しと言ってもいい。

 そのため十針は、自分に協力してくれそうな同士を集めて身の守りを固めたのだ。

 見返りとしてイグリーシアの者達を操って彼等の危険を排除するという、言わば運命共同体のような関係だ。


(この世界の連中は怖くはない。だけど日本人には一切通用しないという点は充分な注意が必要だ。特に――)


 いまだ号泣中の王女を眺めつつ更に思考を重ねる十針。


(捜索中の2人はスキルが明らかになっていない。早く捕らえて寝首を掻かれないように注意しなければ……)


 こうして僅か20人程の学生達によって、アルカナウ王国は滅びてしまったのである。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「え? それって本当なの!?」

「ホントホント。オルド様は頭を抱えてたわよ。勇者としての祝福を受けた人間によって、この世界が滅茶苦茶になるって。あたしも仕事が増えそうで大変よ――ってアイカ、そのチーズケーキはあたしがマークしてたやつよ!」

「はんへんれしはへ、ふぁあいほのはしれす(残念でしたね、早い者勝ちです)」


 と、言いつつ遠慮なくケーキにバクついてるところを見ると、とても大変そうには見えないんだけども……。


 で、いつものように仕事をサボッてるクリューネが何を愚痴ってるのかというと、チョワイツ王国の北の方に存在したアルカナウ王国って国が、集団で転移してきた日本の学生に滅ぼされちゃったんだって。

 死者も出てるから、これから増えるんじゃないかって警戒してるみたい。


「大変なのは分かるけど、コレって私達に話してもよかったの?」

「ですね。私達は助かりますが」

「そんなのダメに決まってるじゃない。まだ知れ渡ってない事なんだから普通はダメよ。」


 その説明だとクリューネは普通じゃないって答えにたどり着くんだけど……。


「普通じゃないわよ? だってあたし、女神様だもん♪」

「「…………」」


 ……色々言いたいけど、余計な事は言わないのが私の主義よ。

 だって神様は心の中を読んでくるし、多分アイカも同じように考えてる筈。


「しかし少々気になりますね。ちょっと偵察を行ってみる事にします」


 早速アイカによる暇潰しでドローンを出撃させた。

 ま、無駄に他人のプライバシーを覗くよりは役に立つし、転移者のスキルも気になるから頑張って探ってもらおう。


アイリ「主人公のである私の方が台詞が少ないとかおかしいんじゃないの!? 全階の最後だって私の出番が殆ど無かったし。いったいどうしてくれんのよ!」

アイカ「その分ここで喋ってしまわれたのですね」

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