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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第9章:邪王の遺産、争奪戦
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遊び相手

前回のあらすじ

 アイリ達がダンジョンを脱出すると既にスタンピードが周知されてるらしく、警備員から協力を依頼される。

それを受けたアイリ達は魔物が地上へ出てくる直前、プラーガ帝国の貴族に邪魔をされる。

頭にきたアイリは強引に馬鹿貴族を拘束し、スタンピードへと集中するが、そこへ高ランクの魔物が召喚されたとアイカから告げられた。


「グギャギャギャギャギャ!」


「な、何だこの声は!?」


 ソレは唐突に現れる。

 各自で包囲が崩されないよう善戦してる中、ダンジョンから沸き続けてたウルフとクロウが途切れたため、無事切り抜けたかと一部の冒険者は唇を緩めた。だがそれは新たな脅威が訪れる前触れでしかなかったのだ。


「おい見ろ、別の魔物が出て来たぞ!」

「ん? アレは……や、やべぇ、アレはゴブリンキングじゃねぇか! ゴブリンキングが出やがった!」


 ダンジョンからのそっと現れたのは、多くのゴブリンを配下のように侍らせ独自の国を持つ事さえあると言われてるまさにゴブリンの中の王、ゴブリンキングであった。


「ギャーギャギャ、グキャァァ!」


 周囲の冒険者が怯む中、ゴブリンキングが叫び声を上げると周りに多数の魔法陣が出現。それを見た冒険者達は本能的に後ずさる。


「くそっ、やっぱりゴブリンキングなのか!」

「漸く途切れたと思ったのに……」

「集中しろ。今までよりキツいぞ!」


 やがて魔法陣からは大量のゴブリンが出現し、周囲の冒険者達へと襲いかかった。

 ゴブリンキングは魔力が有る限りいくらでも召喚してくるので、早く仕留めなければこの場はゴブリンで埋め尽くされる事になる。

 彼等冒険者がゴブリンキングを恐れる最大の理由がコレなのだ。


 だが、冒険者とは別にこの時を待ち望んでた者も存在した。


「やっとルーの出番。このチャンス……ものにする!」


 ……何がチャンスなのかは不明だが、溢れつつあるゴブリンを両手でなぎ倒しながらゴブリンキングへと接近する。

 途中でゴブリンメイジによるファイヤーボールが飛んできたが片手で粉砕。放った本人を掴むと杖をへし折り後ろへと投げ飛ばす。

 

「グゲェ、ギャギャギャ!」


 ルーが危険だと察したゴブリンキングはゴブリンナイトを前に並べると他のゴブリン達にルーを囲むように命じる。

 が、先に言ってしまうと無駄であった。

 並の攻撃で傷を与える事が出来ないルーを、ゴブリンごときがどうにか出来る筈はない。


「新必殺技、ゴブリンルーレット!」


 剣を振り下ろしてきたゴブリンナイトを掴むと、ジャイアントスイングのようにグルグルと回転し始め、周囲のゴブリンをなぎ倒していく。

 だがこの状況でもゴブリン達は果敢にルーへと接近していく。何故ならゴブリンキングの命令は絶対だからだ。

 彼等にしてみれば扇風機に指を突っ込めと言われてるに等しいが、それでも従わなくてはならない。

 こうして無駄な犠牲を増やしつつ、頃合いを見てルーが手を離す。


「ルーレット、ストップ!」


 ドゴォン!


「グゲェェェ!?」


 見事ゴブリンキングへと命中し、巨体をぐらつかせて後ろに倒れた。


「まだまだ遊び足りない。ほら、さっさと起きる!」


 ドスドスドスドス!


「グギギギギギャァ!」


 仰向けになったところをルーによるストンピングが炸裂。哀れにも血ヘドを吐きながら叩き起こされたゴブリンキングは、そのまま遠くへと運ばれていく。

 こうしてルーとゴブリンキングによる長い夜が始まろうとしていた。



「……な、なんだったんだ今のは」

「さぁ? どっちにしろ、あの子に任せておけば大丈夫そうよ」

「よく分からんが助かったのか……」


 冒険者達は安堵するが、まだ終わった訳ではなかった。


「ブヒィブヒィ!」

「シュァァァァァァ!」


 またしても別の魔物が2体現れる。

 1体は丸々と太った二足歩行の豚――オークであるが、勿論ただのオークではない。

 ゴブリンキングと同様にこちらもオークキングという、オークの最上位に位置する存在だ。


 そしてもう1体はペトロバジリスク。

 この魔物は相手を石化させるスキル――ぺトロレイを持っており、地上で生きる者達にとっては恐怖の対象だ。


「やべぇぞ! オークキングにペトロバジリスクじゃねぇか!」

「こんなの相手にしてられるか! さっさとずらかろうぜ!」


 新手を見た冒険者達は、即座に自分の命と報酬を天秤にかける。

 すると当然新手の脅威度が圧倒的であり、そちらに大きく傾くのは自然な事だろう。

 しかし、一人の冒険者が彼等を呼び止め、何とか落ち着かせようと試みた。


「皆さん落ちついて下さい! まだ勝機は失われてませんよ!」


 声をあげたのはウィリーというイケメンな好青年(アイリ談)で、ダンジョンの中で一時的にアイリと行動を共にした冒険者である。


「バカ言え! あんなの相手にしてたら命が幾つあっても足りねぇぞ!」


 一人の冒険者が反論する。

 BランクのオークキングにAランクのペトロバジリスクが相手では軍隊が必要とされる事案なため、彼の言う事も最もだろう。

 だがウィリーは魔物達を指して叫ぶ。


「アレを見てください。()()()は僕らの希望です。勇気を示した()()()に、僕らも協力すべきでしょう!」


 ウィリーに釣られて他の冒険者達も新手の2体へ視線を移す。

 そこでは既に、ペトロバジリスクの首を締め上げてるアンジェラと、オークキングの背中に乗ってお馬さんゴッコを楽しむミリーが、己の身を危険に晒しながら(ウィリー談)先陣を切っていた。


「な、なんか凄ぇぞあれ……」

「だなぁ。アレほどの魔物に対して優位に戦うとか、アイツらは勇者か何かか?」

「おお! あの様子なら大丈夫そうだな」

「いいぞ、その調子だ!」

「あの幼女はお持ち帰りしたいでござるぅ!」


 ざわつきが次第に歓声へと変わっていく過程で、ウィリーはおかしいと感じていく。

 そして振り返る事で目を点にしてしまう。まさか一方的に魔物を手玉にとってるとは思わなかったのだ。


「……ハッ? そ、そうです。彼女達はきっと勇者なのでしょう!」


 無意識で二度見したウィリーは一瞬言葉を失うが、動揺した様子を見せまいと咄嗟(とっさ)に思い付いた事を言ってしまう。

 彼としては自分達も加勢しなければと思ってたところだったので、予想外の()()()の善戦に出番を失った形だ。



 一方のアンジェラとミリーは、ルーに続けと言わんばかりに様々な技を繰り出し(遊びを生み出し)魔物達を追い詰めていく。

 ではまずミリーの遊びを見てみよう。


「いち――にの――さぁぁぁん!」

「グェェェェェェ!?」


 オークキングを仰向けに倒した後、デブった腹を利用してトランポリンとして遊んでいた。


「おかしい……最初よりも飛べなくなった」


 弾まなくなったのは、ミリーのストンピングにより腹の中身がミンチと化したため、腹が凹んでしまったからだろう。


「もう一度チャレンジ。――いち――にの――さぁぁぁん! ――『ベギッ!』――あ」


 どうやら間違って顔を踏んだらしく、残念ながらオークキング(玩具)は壊れてしまったようだ。


「まったく、ミリーは手加減が下手じゃな」


 ヤレヤレと首を振るのはペトロバジリスクをパートナー(玩具)に選んだアンジェラだ。


「コヤツらは繊細(アンジェラ基準)なのじゃから注意せんといかんぞ」

「でも力加減は難しい」

「まぁ見ておれ。妾がテレビで学んだプロレスとやらを教えてやろう――そりゃ!」


 ゲシッ!


「シュイィィィ!?」


 ペトロバジリスクを宙に浮かせると、落下のタイミングに合わせて顔面に足形が残りそうな蹴りを放つ。


「コレはジュウロクモンキックという技での、キチンと威力を調整されてるのじゃ」

「でも普通のキックとの違いが分からない」


 腰に手を当て自信満々に蘊蓄(うんちく)をたれるアンジェラとは対称に、ミリーは首を傾げてクエスチョンマークを浮かべる。


「妾も見た目では分からん。だがテレビでは怪我をしないようになっていると紹介されておったぞ」

「相変わらずマスターの世界は不思議な事だらけ」


 そしてアンジェラは勘違いをしていた。

 プロレスというのはお互い大怪我をしないように行ってるのだが、彼女からしてみればプロレスだと認識すれば怪我をしないものだと思い込んでおり、相手をロープに投げつければ必ず戻ってくるものだと思ってたりするのだ。


「でもかなり痛がってるように見える」

「なぁに、コレはパフォーマンスじゃ。より派手に見せてるだけで、実際は大した怪我はないらしいぞ。それに試合というものはお互い同意の上で行うからの。アレも承知の上か演技かどちらかだろう」


 補足するが、同意を得てない上に演技でもない。

 スキル封じに目を潰された上に首がもげそうな威力の蹴りを食らってのたうち回ってるペトロバジリスクは、間違いなく激痛を味わってるのだ。

 もしコレが演技ならば劇場への出演依頼がくるだろう。


「さぁて、次で決めてくれようぞ――それ!」


 今度は空高くペトロバジリスクを放り投げると、それに続いてアンジェラも飛び上がる。

 そして首にしがみつくと、そのまま腕を回してヘッドロックの状態に持ち込み、重力に従って落下していく。


「華々しく決めるぞ――フライングDDTじゃぁぁぁぁぁぁ!」


 ドゴォォォォォッ!


「グゲギァグォゲギァァァ!!」


 見事に頭部を地面へと打ち付けたペトロバジリスクが口から泡を吹いてダウンする。


「コレでも怪我をしてない? もう動く事すらできないようにミリーには見える」

「ふむ……少々息が上がってしまったか?」


 実際は息が上がったどころではないのだが、アンジェラ視点ではそのように見えるらしい。


「どれ、一つ気合いを入れてやるとしよう。いくぞ――闘魂〇入じゃぁぁぁ!」


 バシバシバシバシバシバシバシバシ!


 何を思ったか往復ビンタを炸裂させるアンジェラ。その目は早く目を覚ませと訴えていたが、残念ながらペトロバジリスクが目を覚ます事は二度となかった。

 

「おかしい……。テレビでは涙を流しながら【ありがとう御座いました】と言っておったのに……いったい何がダメだったのじゃ……」


 勿論全てがダメだったのだが、今のアンジェラに言っても理解されないであろう。


「ドンマイアンジェラ(棒)」


 そしてミリーによる棒読みの慰めが夜空に木霊――する事は残念ながらない。




 そんなアンジェラ達を一組の冒険者パーティ【一閃(いっせん)(きわめ)】の面々も、内心では感心しながら見ていた。


「ほんとアンジェラも異常に強いね。これで美女なんだからモテモテだよきっと。――勿論あっちの少女も強いけど」


 というのはベニッツの弁。

 実際アイリのパーティは美女美少女のパーティなので、視線を集めるのは違いなかった。

 

「確かに異常よね。あ、そういえば思い出したんだけど、アイリのダンジョンで修行を積んでる冒険者が居るって話よ」

「そりゃ本当か!?」

「ええ。ただ詳細は分からないけど、そこで修行してる低ランクのパーティがドンドン成長してるって話だし、あたしらもそこで修行したら強く成れるんじゃない?」

「今よりもかぁ……」


 キンバリーの話にゼイルが食いつく。

 Aランクの冒険者とはいえ実際の強さは様々で、それこそ化け物と呼ばれる冒険者(アイリ達ではない)も中にはいるのだ。

 ゼイルもいつかはそう呼ばれたいという思いもあり、新たな目的が出来た瞬間であった。


「あ、リーダーが興味津々な顔してるぜ」

「分かるか? だってよ、あの強さだぜ? 隣の芝は青いどころじゃねぇぞ? どこまで目指せるか試したくなるじゃねぇか」

「ま、確かにね。今より強くなれるなら俺も賛成さ」


 まるで少年のように目をキラキラとさせるゼイル。他のメンバーも同じように考えてたようで、ベニッツもワクワクしてる様子だ。


「なら次の目的地は決まりね。――って、そういえばムーシェはどうしたい? 他に行きたいところがあるなら考慮するけど?」


 ほぼアイリのダンジョンに行く事になるだろうと思ったキンバリーだが、ムーシェの意見も聞かなければと思い直す。

 だがムーシェの考えは最初から決まってたようで……


「……勿論アイリのダンジョンに行く」

「なら良かった。リーダー、ムーシェも賛成してく――「……そしてアイリを婿に迎える。これは決定事項」――ええ!?」


 ……どこまで本気か不明だが、アイリのダンジョンが更に賑やかになる事は決定事項のようだ。


 そして気付けば新手の魔物は全て倒された(ぶっ壊れた)ようで、無事スタンピードを乗り切った喜びに周囲で歓声が上がり、新たな夜明けが訪れようとしていた。


 第9章 END


アイカ「皆様大変お疲れ様です。そして後愛読いたたぎ誠にありがとう御座います」

アイリ「そんな訳で重大発表です。なんと次が最終章となり、作者によれば2月末までに完結する予定だそうです」

アイカ「例の如く登場人物の紹介を挟んで最終章へと移行します」

アイリ「では最終章でお会いしましょう」


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