大乱闘
前回のあらすじ
ダンジョンコアがスタンピードを引き起こしたため即座に撤退するアイリ達。
しかしムーシェが使用した昇降機は動かず、元の場所へは引けないと判明。
やむを得ずアイリが落ちた罠だらけの場所を新たに合流したトラと共に進む事に。
そしてムーシェが見えたという光を頼りに見事脱出する事に成功した。
「君達で最後か!?」
「ええ、後続は居ないわ」
ダンジョンの出入口で警備員に尋ねられる。
この人の緊迫した様子から、既にスタンピードの事が伝わってるという事が分かった。
「戻ってきて早々すまないんだが、スタンピードに備えて冒険者に協力をお願いしてるんだ。既に多くの協力者が集まってるが、数は多ければ多いほど助かる。君達も協力してくれないだろうか? 勿論報酬も用意する」
日が落ちてるにも拘わらず多くの冒険者が周囲に待機してるのは、殆どが協力者みたいね。
あ、すぐ近くに生経さんも居た。
「はい、私達も協力します」
「俺達【一閃の極】も協力するぜ」
トラさんも黙って頷いた。
でもこの人の場合、拳銃とか使ってたら変に目立っちゃうと思うんだけど大丈夫かな?
「ありがとう! こんな夜更けに申し訳ないが宜しく頼む!」
一礼して足早に去って行く警備員を見送ると、改めてダンジョンを注視する。
「アイカ、後どのくらいで来ると思う?」
「はい。予測到達時間は1時間12分46秒後です。数は予測不能ですが、一般的なダンジョンで発生したスタンピードの場合、3000から5000程度とされてます」
多くて5000……ね。
はたしてこのダンジョンが一般的な部類に入るのか、その時にならないと分からないわね。
でも1時間後なら休んでる余裕はあるか。
「マスター、今のうちにエネルギーの補給を優先すべき。ルーのエネルギーはもうすぐ枯渇しそう」
「右に同じ。腹が減っては戦は出来ぬわぁ! ――って髭生やしてるオッサンが言ってた」
しょうがない。2人のやる気を出させるためにもお菓子を出してあげますか。
それからミリー、アンタはテレビの見すぎよ。
「アイカ、何か摘まめる物を出してあげて」
「畏まりました」
リスみたいに頬張ってる2人は置いといて、参加者をザッと眺めてみる。
冒険者の数は私達を含めて50人くらいで、地面から飛び出てる入口を囲むように待機してる。
続いてダンジョン周辺は、半分近く観光名所みたいになってるためか見通しがよく障害となるものも無し。これなら何とか――いや、松明が各自で灯されてるから明るいだけで、戦闘になると倒れたりして危険になる事もありそう。
――よし、こういう時こそダンジョンマスターとしての長所を活かすべきね。
「アイリ様~、何か召喚なさるのですか~?」
「ちょっと光源をね――」
スマホでリストアップした物を、後ろから覗き込んできたセレンに見せる。
するとその中の一つを指して薦めてきた。
「手軽に明るくするなら~、コレがお薦めです~♪」
「この羽の生えたウニみたいな奴?」
「ウニというのは知りませんが~、このマジックアイテムは~、好きな高さに調節して浮遊させる事が出来るのです~♪」
あ、浮遊させれるんだ。それなら便利ね。
しかも説明文によると、勝手に持ち去られないように防犯機能までついてるわ。触ったらイガイガを長くしたり回転させたりするらしい。
「ならコレに決定!」
早速ウニみたいな奴――フラッシュバンディクートって言うらしいマジックアイテムを召喚してあちこちに浮かべる。
「「「おおっ!?」」」
クス、驚いてる驚いてる。
急に昼間のように明るくなったら皆驚くわよね。
「アイリはん、随分珍しいアイテム持ってらっしゃるやないか! 凄いでほんま!」
ミリオネックの商人ナンバさんだ。
やっぱりこのウニって――面倒だからウニって呼ぶことにしたけど、コレって珍しいアイテムなんだ。
「ナンバさんも参加するのね。でも光源を欠かさないように出したんだから、持ってっちゃダメよ?」
「んな事せぇへんわ! それよりアイリはん、スタンピードが終わったら譲ってくれへんやろか? 勿論金なら出しまっせ!」
さすが商売人。手揉みしながらも僅かな商機をモノにする意欲は認めるわ。
「スタンピードを切り抜けたら交渉してもいいわよ?」
「ほんまか!? ほな約束でっせ!」
ナンバさんはスキップしながらパーティのところへ戻っていった。
というか、売るとは言ってないんだけど……ま、いいか。
「戻って下さい! 冒険者ギルドの許可が無い人達は、立ち入りを認められません!」
ん? 何か騒がしいわね?
「ええぃ黙れ! ここはどこの国でもないだろうが! それとも何か? ここはグロスエレム教国とでも言うつもりか!?」
「ここは冒険者ギルドが取り仕切ってるダンジョンです。周囲に危険が及ばないようにするため我々が――「ふざけた事を。何故冒険者ギルドが好き勝手しておるのだ! 貴様らこそ出て行くがよいわ!」
大声で喚いてる貴族みたいなのが現れた。
ベートーベンのような髪型をした白髪の爺さんが、数人の護衛を伴いがに股歩きでこちらに近付いてくる。
しかもこの護衛、見たことあると思ったらプラーガ帝国の魔術師よ。
「――居ました。あのエルフが所持してるようです!」
魔術師の1人がムーシェを指した。
それを見てアイカがこっそり耳打ちしてくる。
「あの魔術師、ダンジョンコアを感知してる可能性が高いです」
「それじゃコイツらの目的はダンジョンコアだったって事? 先に来てた連中が失敗したから雇い主が出てきたってとこね」
その爺さんはそのまま警備員の制止を振り切ると、リオンの墓を作り終え祈りを捧げてたムーシェのところへがに股で進んで行く。
そしてがに股のまま背後に立つと、わざとらしく咳払いをした。
「ウォッホン! 貴様が所持してるのは分かっておるぞ。さっさと差し出すがよい!」
「……何の事?」
「惚けても無駄だ。貴様がダンジョンコアを所持してるのは分かってるのだからな!」
アイカの予想通りだった。
私から一言いってやろうと思ったけど、ゼイルさん達が間に入ったから任せよう。
「おい爺さん、俺の仲間に何の用だ?」
「フン、貴様に用は無いわ! 儂はそのエルフが持ってるダンジョンコアに用があるのだ!」
「何言ってやがる。ダンジョンコアをただでくれてやる奴がいるかってんだ!」
「全くよね。そんな常識外れな事言って恥ずかしくないのかしら?」
「ななな……じ、常識はずれだとぉ!?」
キンバリーさんに指摘されて、相変わらずのがに股で顔を真っ赤にしていく。偉そうなとこといい、沸点が低い爺さんらしい。
「むぐぐぐぐ……許さぁぁぁん! 貴様ら全員引っ捕らえてくれる!」
魔術師達に顎で合図を送ると、ゼイルさん達を取り囲んだ。
これから忙しくなるって時に面倒な……。
「しょうがない。さっさと追い払っ――「お姉様、後30秒後に地上へ到達します!」
あーもぅ、時間が無い!
「アイカ、アイツらを蹴散らしてくるから少しの間ダンジョンをお願い!」
「了解です」
そして魔術師達がムーシェ達を取り押さえようとしたその時、ダンジョンから大量の魔物が溢れてきた!
「「「「「グガァァァ!」」」」」
「来たぞーーーっ!」
それを見た誰かが叫び、各々で魔物に対処していく。
「報告通りグリーンウルフとチャージクロウの群だ。落ちついて対処すれば大丈夫だ!」
大半がFランクの魔物だと判明し、冒険者達の顔色は明るい。
だが一部の冒険者は困惑の極みに直面してる最中であり……
「おいテメェら、この大変な時に何考えてやがる!?」
「だねぇ。正直なところ、おたくらの相手をしてる余裕は無いんだけどさ?」
「喧しい! 貴様らはさっさとダンジョンコアを差し出せばよいのだ! ええぃ構わん、コヤツらを皆殺しにしてしまえ!」
怒り心頭の貴族は、とうとう配下達に殺すよう命じる。
これにより魔術師達は透かさず距離を取り詠唱に入った。
「くっ、やむを得ん。こっちを先――「ファイヤーストーム!」
ゼイルが魔術師に剣を向けた直後、突然火柱が魔術師達を襲う。
やったのは勿論……
「この非常時に手間掛けさせんじゃないわよ!」
慌ててシールドを張る技量はあるのね。
なら手加減無しでいきますか。
「コイツらは私が片付けるから、ゼイルさん達はダンジョンの方をお願いするわ」
「分かったぜアイリ。――やれやれ、もう少しであの爺ぃを叩っ斬るところだった」
「ほんとほんと。よく我慢したよねゼイル」
礼を述べると、一安心といった感じにゼイルさんとベニッツがダンジョンへと向き直る。
「私からしてみれば斬ってもよかったんじゃないかって思うけどね」
「でもねぇ、貴族相手だと面倒くさいのよ。依頼相手に関わる可能性もあるし、下手するとあたしらに対して賞金懸けたりするしでロクな事がないし」
そう言うとキンバリーさんも肩を竦めつつダンジョンを見据える。
「……ありがとアイリ。やっぱり婿に欲しくなった」
「だから無理だってば……」
そしてムーシェは私の隣に並んで馬鹿爺さんを睨み付けた。
「おのれぇ、邪魔をするなら小娘とて容赦はせん! 全力を持って蹴散らしてくれるわ!」
単細胞な奴ねぇ……。無理だろうけど、1度落ち着かせてみよう。
「うんうん、何事にも全力で取り組むのは良い心掛けよ。誉めてあげるわ」
「ハッ、有り難きお言葉に御座いま――って違ーーーう! どいつもこいつも馬鹿にしくさってからにぃぃぃ!」
馬鹿にしたつもりはないんだけども……。
まぁこの性格だし、他の人達にも馬鹿にされてるところは容易に想像出来る。
「もぉぉぉう許さん! 儂の恐ろしさを思い知らせ――ヘブッ!?」
あまりにもうるさいから、裏拳で黙らせてやった。
「さぁ、アンタ達はどうするの? やるなら全力でかかってきなさい」
「くっ、小娘風情が生意気な! 我がプラーガ帝国の宮廷魔術師に楯突いた事、あの世で後悔するがよい! ――ファイヤーボール!」
コイツらは私を見た目で判断したらしい。
だったら教えてやろうじゃないの。
「ハッ!」
バジーーーン!
飛んできた火の玉を剣で打ち返してやった。
「ゴハァ! ――ゲホゲホッ! な、何をしている! お前達も加勢せぬか!」
「「「「フレイムキャノン!」」」」
あらら、考え無しにぶっ放しちゃって。
そんなお馬鹿さんにはフルスイングでお返ししてあげるわ!
バスン! ボスン! バキン! ドカン!
「な!? ま、まさかフレイムキャノンをも打ち返して――グハァ!」
「こ、こっちに来――グヘッ!」
迫りくる炎の砲弾を次々に打ち返してやると砲弾と共に吹っ飛んでいき、倒れた先で炎に包まれた。
私が言うのもなんだけど、あれは助からないわね。
「おおお、おのれ化け物――『ドスッ!』グホッ!」
一人残った魔術師に鳩尾を入れてから拘束する。あ、ついでに馬鹿爺さんも一緒に拘束しちゃおう。
まったく、馬鹿な事するのはいつも貴族よね。スタンピードが発生してる最中だっつーのに……。
「さて、周りの様子は……まだまだ余裕がありそうね」
さすがにFランクが相手なだけあって、各パーティはキチンと討伐出来てるみたい。
「しかしのぅ……こうも雑魚過ぎる相手だと逆に疲れてくるのぅ」
アンジェラがアクビをしながら片手で蹴散らしてる。彼女からすれば、蚊が群がってくる程度でしかないんでしょうね。
「ルーもアンジェラに同意する。もっと過激なイベントが欲しい」
はいそこ、フラグになるから余計な事は言わないように。
「お姉様、巨大な魔素反応が接近中。高ランクの魔物が召喚されたようです! それも1体だけじゃありません!」
「うげっ!?」
早速フラグが成立したらしい。
まったく、ヤレヤレね……。
「ルー、フラグ立てた責任とって始末してきなさい」
「イェス、マスター!」
ルーは無駄に腕捲りして入口の近くに陣取る。
いや、腕捲りとか気合い入れ過ぎよ。
「アンジェラとミリーもお願いね。複数いるみたいだから」
「勿論じゃ! 獲物よ今行くぞ!」
「オッケー。今度のは出来るだけ大事にして遊ぶ」
最早アンジェラにとっては獲物でしかなく、ミリーはミリーで既に遊ぶ気満々らしい。
どうでもいいけど周りに被害が出ないようにしてね。
ムーシェ「アイリ、この戦いが終わったら……」
アイリ「コラ、そこも余計なフラグを立てないように!」




