アイリ覚醒
モルデナ
『それまで! ボス撃破によりアイリさんの勝利とします!』
上手くいきましたね。
相手がクロコゲ虫に手間取っている間に、レッドウルフがボスを撃破しました。
ちなみに相手側のボスは、Eランクのゴブリンナイトだったようです。
「うむ、華々しく初陣を飾ったのぅ!」
「おうよ、さすが姐さんですぜ!」
フフフ、誉めても何も出ませんよ。
まぁ豪華なペットフードを出すくらいはしてもいいですが。
モルデナ
『初勝利おめでとうございます。勝利報酬はDPで100ポイント分です』
……案外ショボいですね。
今はアンジェラのお陰でDPに余裕はありますが、100ポイントなんてハーゲ〇ダッツ1個で無くなってしまいます。
モルデナ
『では私はこれで失礼しますね。またいつかダンジョンバトルで会いましょう! では』
そう言って審判のモルデナさんは帰っていきました。
さぁ、わたくしたちも祝勝会を開きましょうか。
「負けたか……」
「はい。今回のバトルは、完全に相手の思うがままの展開だったと思われます……」
決して侮ったつもりはないのだが、結果が全て。
これで対戦成績は2勝9敗となった。
このままじゃまずい。
もう時間が無いっていうのに!
早くマサキよりも先にランクアップしなければベネリアが……。
「グーチェス様、私は最後まで諦めません。まだ大丈夫です!」
「ベネリア……」
つくづく自分が嫌になる。
俺は大切な眷族を……。
マサキ
『よーぅグーチェス、また負けたのか?』
「マサキ……」
マサキが俺の前に姿を現したということは、まさかもう既に!?
マサキ
『勝手に焦ってるところをなんだけどよ、まだ7勝止まりだぜ? ま、これから適当な奴をボコっちまえば8勝に届くだろうがな!』
くっ、コイツの言う通り、マサキはCランクの眷族を抱えてるため他の同ランクのダンジョンマスターよりは強い。
対戦相手のほとんどはそれを知らずに敗北していったのだろう。
マサキ
『一応確認だが、先にランクアップした方が勝ちで、勝った方は相手の眷族を1人手放すって約束は忘れてないだろうな?』
グーチェス
『……ああ』
俺とマサキが勝ちに拘ってる理由は、眷族を賭けの対象にしてるからだ。
内容は、先にランクアップした方が勝ちというシンプルな内容。
賭けを持ちかけられた当時、俺は勝ちが無く、マサキは3勝を迎えた直後だった。
そしてランクアップは、3勝目を上げた時と8勝目を上げた時になるため、マサキのランクアップは暫く先になると思っていた。
だがマサキはCランクの眷族であるストーンゴーレムを抱えていたため、破竹の勢いで勝ち進んでるのだという。
俺は後1勝でFランクに昇格するが、マサキもまた後1勝でEランクに昇格する。
要するにマサキは最初から負ける気はさらさら無かったということだ。
だが今さら言ってももう遅い。
結局は俺がバカだっただけだ。
マサキ
『なんだったら俺と闘うか? お前が良ければ相手してやってもいいんだぜ? ま、そうなったら俺の眷族であるストーンゴーレムのロドリゲスが相手になってやんよ!』
「くっ……」
できることなら俺が直接引導を渡したいくらいだが、今の俺では絶対に勝てない相手だ。
だがここで、思いがけない方面から声が届いた。
アイリ
『ロドリゲスですって!?』
「ちょ、お姉様、いきなり飛び起きてどうしたのですか!?」
どうもこうも無いわ!
今ロドリゲスって言った奴は誰なの!?
まったく、人が気持ちよく寝てる時に、糞忌々しい名前を出した奴はギルティよ!
「主よ、今更起きたところでバトルは終わったぞぃ?」
それは知ってるわよ、バトル中に一度起きたけど、アイカが楽しそうに指揮を執ってたからこのままアイカに任せてもいいかな的な考えで、そのまま寝てたんだから。
「お姉様、少し落ち着いてください」
いいや、落ち着かないわ!
こればっかりは私の逆鱗に触れた事だもの、全世界共通でロドリゲスは敵よ!
「それにアイカ、ちゃっかり無断でお菓子を召喚したわね?」
「……い、いえ、運営からの差し入れです」
どこの運営よ! どこの!
って、そんなことやってる場合じゃないわ。
私にはロドリゲスをフルボッコする使命があるのよ!
アイリ
『ちょっと、さっきロドリゲスって言った奴はアンタね?』
マサキ
『それがどうした? つーかお前に言われる筋合いは無いぞ?』
確かに筋合いは無いでしょうね。
でもロドリゲスって名前はいただけない。
まぁ要するにムカツクってことなんだけどね。
アイリ
『そんなことはどうでもいいのよ、私はそのロドリゲスって名前が気に食わないの!』
マサキ
『ああ!? なんでそんなことを言われなきゃならねぇんだ!? 喧嘩売ってんのかテメェ!』
アイリ
『そうよ、喧嘩売ってんのよこのアホんだら! 悔しかったら私と勝負しなさい。負けたら何でも言うこと聞いてやるわよ!』
マサキ
『言ったなぁ? もう謝っても許さねぇかんな! 俺が勝ったらテメェは一生俺の奴隷にしてやんよ!』
アイリ
『アンタが勝ったらね! でも私が勝ったら、私の言うこと2つ聞いてもらうからね!』
マサキ
『へっ、面白ぇ。ランクアップのついでに奴隷が手に入るたぁ今日はツイてやがる!』
何故か互いにヒートアップしたアイリとマサキは、さっそくバトルの申請を行い、審判の到着を待った。
だが、一連の流れに異を唱えようとした者が居た。
勿論それはグーチェスに他ならない。
もしこのバトルでアイリがマサキに負けた場合、自動的にグーチェスとマサキの賭けも終了し、結果マサキの勝ちになってしまうからだ。
しかし……、
『アンタ(お前)は黙ってて(ろ)!!』
の一言により、グーチェスは引っ込むしかなかった。
こうなっては望みは1つ、アイリに勝ってもらうしかない。
グーチェスは陰ながらアイリを応援することにした。
モルデナ
『はいは~い、お待たせしました……って、アイリさん、連戦じゃないですか?』
連戦だけど、半分以上寝てたから連戦とは言いにくいわね。
アイリ
『私は大丈夫だから、早く始めましょ』
モルデナ
『分かりました。では確認致しますが、対決方法は眷族VS眷族で、互いに1体の眷族を出しての直接対決ということで宜しいですね?』
アイリ
『勿論よ』
マサキ
『ああ、問題ねぇ』
闘う場所は、私のダンジョンのボス部屋に決まった。
まず、マサキの召喚したストーンゴーレムの糞ロドリゲスが部屋に入る。
マサキ
『勿論俺が出すのはストーンゴーレムのロドリゲスだぜ!』
自信満々のとこを悪いけど、マサキに勝ち目は最初から無いのよ。
ってことで、最初から誰を出すかは決めていた。
私は、視線でモフモフを捉える。
モフモフがこちらを見たので、目で「殺れ」と合図する。
私の意図がモフモフに伝わり、モフモフは犬歯をギラリと光らせボス部屋にノッシノッシと移動する。
アイリ
『じゃあ私の眷族を出すわね。私が出すのはモフモフ。Sランクのデルタファングよ』
『『『Sランク!?』』』
何故か3人の声がハモる。
Sランクのモンスターを目の前にすれば無理もないんだろうけども。
モルデナ
『そそ、それではこれより、アイリさんとマサキさんの眷族同士の直接対決を行います』
マサキ
『ちょ、ちょ、ちょっと待って!』
アイリ
『何? 今更謝っても遅いわよ?』
マサキ
『遅いも何も、こんなのおかしいじゃねぇか! こんなん無理ゲーだろ!!』
往生際の悪い奴ね。
諦めてモフモフの雄姿を見てなさい。
でも、このままだとちょっとだけ可哀想だから1つアドバイスをしよう。
アイリ
『昔、お父さんが隠してたヘソクリがお母さんに見つかった時、お母さんはヘソクリを握りしめてお父さんに言った言葉があるわ』
マサキ
『……何て言ったんだ?』
アイリ
『ドンマイ♪』
マサキ
『ちっきしょう! ふざけんな!』
モルデナ
『バトルスターーート!』
マサキ
『あ、ちょちょ、待っアーーーーーーーーーーーーーーッ!!』
虚しく響きわたるマサキの声。
この後どうなったかは、想像通りなので省かせてもらうが、モフモフに一言だけ言わせると、「今日一番の噛み応えだったぜ!」だそうな。
そして勝った際の報酬である2つの命令だが、1つはグーチェスとの間で行った賭けを取り消させた。
これは別にグーチェスを助けてやりたかったわけではなく、ただ単にマサキをザマァwな目に遭わせたかっただけである。
そしてもう1つの命令を使ってマサキの名前を強制的に「水虫」に改名した。
理由は特に無いけど、何もしないってのもおかしいと思ったから適当に考え付いたことを言っただけなのよね。
そして夜が明けた。
水虫
『勝手に明かすな! まだ昼間だっつーの!』
アイリ
『私は徹夜明けで眠いの。ふぁぁぁ……ダメ、また眠くなってきたわ。もう私のことはほっといてちょうだい』
水虫
『ちょ、ふざけんな! お前が絡んできたんだろうが!』
コイツも案外細かい奴ね。
そんな細かいこと気にしてたら禿げるわよ?
……ああ、もう限界だわ……。
アイリ
『それじゃお休み……zzz』
おやおや、またお姉様は寝てしまわれたのですか。
仕方ありません、寝室に運んでおきましょう。
「アンジェラ、お姉様を寝室に寝かせてきてください」
「うむ、承知したぞ」
水虫
『おい、寝るな! 起きろ!』
まだ何か叫んでますねぇ……。
お姉様の台詞じゃありませんが、意外と細かい男ですね。
グーチェス
『本人は寝てしまったが、今回は助かった、ありがとうと伝えておいてくれ』
アイカ
『分かりました、伝えておきましょう』
グーチェス
『それから先程俺とのダンジョンバトルだが、まんまとアイリにやられてしまったよ。まさかボス部屋にクロコゲ虫がいるとは思わなかった』
うーーん、レッドウルフとダンジョンの構造はお姉様のアイデアですが、ボス部屋のクロコゲ虫はわたくしが独断で行ったことなんですよねぇ……。
とはいえ、それを正直に伝えるとヘコみそうですので、黙っておきましょう。
アイカ
『ええ、まぁ、少々変わった思考の持ち主かもしれませんね』
グーチェス
『俺も精進が足りないと思い知らされた。これからもお互い上を目指して頑張ろう。では』
上を目指して……ですか。
お姉様の場合は、実戦経験が不足してるだけで、強さ的には相当上にきてると思うんですがね。
モルデナ
『あのぅ、すみません、一応報告義務があるので伝えますね。勝利報酬の200ポイントを振り込ませていただきました」
DP56580→DP56780
はい、雀の涙的なポイントが振り込まれました。
ハーゲ〇ダッツが2個召喚できますね。
モルデナ
『それにしても凄いですね! Sランクの眷族なんて見たことありませんよ!』
SランクどころかSSSランクが居るのですが、気付いたらどんな反応をするんでしょうかね?
モルデナ
『とにかく、今日は貴重な体験をしました。また機会があれば会いましょう、では失礼しますね……早く帰って友達に自慢しよっと♪』
自慢したところで、嘘つき呼ばわりされないといいんですがね。
さぁ、わたくしたちは祝勝会です。
お姉様が眠ってるうちにスイーツの大群を!
アイリ「で、祝勝会とやらで、どれだけのスイーツを召喚したわけ?」
アイカ「(バレてるーーーっ!?)」




