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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第9章:邪王の遺産、争奪戦
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再会

前回のあらすじ

 邪王四天王のリオンをムーシェに追わせると、トラは一人ハーレンティスの相手をするべくその場に残る。

Bランクの眷族相手に苦戦は免れないかと思われたが、過去に一度倒してる相手に負ける筈はなく、最後に立ってたのはトラであった。


 四天王の一人ハーレンティスをトラに任せたムーシェは、一人降下する床の上で不安に駆られていた。


(……このダンジョンを維持してるのは最後の四天王リオンで、その目的は邪王の復活だった。つまり、リオンを倒せば戦いは終わる。だけど……)


 リオンの強さは不明な上、ダンジョン内という完全にアウェーな場所だ。

 しかもダンジョンマスターというこの上なく厄介な存在のため苦戦は免れないだろう。


(……召喚されたのはハーレンティスだと言っていた。けれど奴は200年前に討伐されてる筈。理由は分からないけど、アレが本当にハーレンティスならば他の眷族も召喚出来るという事に――ま、まさか!?)


 ここへ来てかつてない緊張感がムーシェを支配した。思考してる最中に()()()()()に行き着いたのだ。

 そして青ざめ出すムーシェの額から生み出された一粒の汗が、頬を伝って床へと落ちる。


(……も、もしも()を召喚されたら私一人では勝てない!)


 不安に駆られるムーシェを他所に床が最下層へ到着し、コアルームへ続いてるであろう遺跡エリアの通路が出現した。


「…………」


 到着してから数秒間なおもその場に留まると、呼吸を落ち着かせて汗を拭い、心の中で祈りながら一歩一歩慎重に進み出した。

 唯一勇者ベルセレックが一緒でも敵わなかった相手。もしソイツが居るのなら逆立ちしても勝てないだろう。

 出来る事なら再戦したくはない。



「……こ、この扉は!」


 やがて通路の突き当たりに見えてきたのは、コアルームの扉――ではなくボス部屋の扉。つまり、最後の砦である。

 以前の戦いの時はルドーラが居たのだが……


(……仮にルドーラが居たとするならば、上手く翻弄すれば対処は可能だと思われる)


 血の気が多く単細胞のルドーラは力任せな行動が多く、ムーシェとの相性は良さそうだ。

 だがルドーラではなく()が居た場合は全力で逃げなくてはならない。


(……兎に角、行くしかない!)


 ギギィィィ……


 意を決して扉を開くと壁に備え付けられた松明が一斉に炎を揺らめかせ、真っ暗だったボス部屋を照らし出す。


「……何も……居ない?」


 しかし部屋の中にはボスは居らず、ムーシェはホッと胸を撫で下ろして奥へと進み、コアルームへの扉に手を掛けた。

 だが……


「……あ、開かない!?」


 コアルームへの扉はピクリとも動かず、中へ入るのを拒まれる。

 だが本来このような事は出来ない。ダンジョンの性質上、入口からコアルームまでは繋げなくてはならず、ボスが居ないのであれば開ける事が出来るのだ。

 つまり、コアルームの扉が開かないという事は……


「よぅよ~ぅ、俺様を無視しようなんざ少々虫が良すぎるんじゃね? ムシだけにな!」

「ヒッ!?」


 突然後ろから聴こえた声に驚き、振り向き様に尻餅をつく。

 見上げれば翼を生やした人形(ひとがた)の魔物がムーシェを見下ろしていた。


「……お、お前は――」






「――ザデビル!」


 なんと、魔物の正体はザデビル。かつての

戦いでムーシェが唯一死の危険を感じた相手であり、最も再会したくなかった相手でもある。


「だぁかぁらぁぁぁ! 俺の名前はザ・デビルだっつってんだろ! いい加減にしろよドイツもコイツも!」


 例の如く名前を間違えられたザデビルが地上に降りて地団駄を踏む。

 その隙にムーシェは起き上がると、気付かれないように距離を取り透かさず詠唱を開始。

 ザデビルがムーシェに顔を向けた時には完了させることに成功した。


「……食らえ化け物――ゴッドツンドランサー!」


 勝つには先制するしかない! そう悟ったムーシェは、ルドーラに致命傷を与えた大魔法を放つ。


「――おっと、危ねぇ」


「……くっ、外した!?」


 完全に不意を突いたつもりだったが、呆気なく回避されてしまう。


「俺様に不意打ちかまそうとは良い度胸だな。てかお前の動きは見えてっから無駄だぜ?」


「……くっ――」


 不意打ちが失敗に終わると、透かさず距離を取って詠唱に入る。

 相手が油断してる今が勝機と見ての行動だ。


「ったく凝りねぇ奴だなぁ……。しゃーない、一丁派手にかましてやるとすっか! そぉぉぉらよ――っと!」


 全身からダガーのような鋭い刃物を出現させムーシェへと飛ばす。


 パキパキパキパキン!


「ぬぇ! 防いだだと!?」


 だが予め発動させていたルーンガードが、飛来した刃物全てを止める事に成功。その内の幾つかをザデビルに向けならが詠唱を完成させた。


「……凍りつけ、マキシマムサザンクロス!」

「――やべっ、ダークフレアァァァ!」


 ルドーラよりも動きが機敏なザデビルは、迫る吹雪に得意の闇魔法をぶつける。


「……くぅぅぅ、押し切れぇぇぇ!」

「ぐぉ? 意外とやるなコイツ! ――だが対抗する相手が悪かったなぁ、もういっちょダークフレアァァァ!」


 このまま押し切ろうとするムーシェが更に魔力を加えると、それに気付いたザデビルが余してる片手でダークフレアを放つ。


「……くぅぁぁ、押し戻される!?」


 威力が倍増した事で徐々に押し戻されると間も無く維持が出来なくなり、一気に押し戻されてしまった。


「オラオラァ! 俺に楯突いた事、後悔しやがれぇ!」

「キャァァァァァァッ!」


 ジュジュジュジュジュジュジュゥゥゥ!


「へぇい、エルフの丸焼き一丁上!」


 二つのダークフレアに押し潰されたムーシェが嫌な音と共に全身を焦がされ、魔法が収束した後には皮膚のあちこちが(ただ)れた痛々しいムーシェが横たわっていた。


「あ~りゃりゃこりゃりゃ♪ ちょいとやり過ぎちまったか? ま、俺様は別に困んないんだけどな!」


 奇妙なポーズでおどけて見せるザデビルの一方で、ムーシェは何とか立ち上がろうと顔を上げる。

 よく見れば顔半分も爛れており、とても戦える状態ではない。


「オッホゥ? まぁだやるってか? 若いのに感心感心。そういう努力が最近の若いモンには見えられねぇんだなこれが。全くもってお前は若者の鏡だねぇ。だがなぁ――」


 ウンウンと勝手に頷きながらザデビルが接近してくる。

 一方のムーシェは尚も立ち上がろうとしてるがとても無理そうだ。

 そしてとうとう見下ろす位置までやって来ると、ムーシェを掴み上げた。


「現実は非情なもんでよ? 努力が実るとは限らねぇのさ。こんな風に――な!」


 ドゴッ!


「ゴフッ!」


 掴まれた状態で勢いよく顔面を壁に打ちつけられる。

 だが一度で終わりではなかった。


「そ~ら、まだまだいくぜぇ!」


 ドゴッ!


「ガハッ!」


「オッホゥ、いい音! 祭りだ祭りだぃ!」


 ドゴッ!


「ゴボッ!」


「うぅ~ん、ビューチフー!」


 ドゴッ!


「グハァッ!」


「お客さ~ん、だいぶ凝ってますねぇ……勿論俺様のテクニックがな!」


 ドゴッ!


「……ゥゥ」


「おんやぁ? 反応が鈍くなってきましたねぇ? そんじゃあ仕方がない。もう死にそうになってる事だし、ここらでオーダーストップにしてやるかぁ」


 既に満身創痍になっているムーシェを上に放り投げると、得意の闇魔法を放つべく片手を天井に向けた。


「折角ですが、閉店のお時間で~す! お土産にコイツを受け取って下さいねっと! ダークフレアァァァ!」


 トドメの闇魔法をムーシェに放つ。これを食らえば今度こそ助からないのは明白で、ザデビルも余裕の笑みを浮かべている。


 シュバッ!


「ん? ――何だ今の?」


 しかしダークフレアが命中する直前、横から現れた何者かによってムーシェが救出され、空振ったダークフレアのみが寂しげに天井を彩っていた。


「あれ? あのエルフが――いない!?」


 そして漸くザデビルがムーシェを仕留め損なった事に気が付くが、時既に遅し。

 キョロキョロと周囲を見渡すザデビルの背後で、ムーシェが手当てを受けていた。


「ゴメンねムーシェ。もう少し早く来れたらこんなに痛い思いをしなくてよかったのに……」


 そんな話し声を聴いたザデビルが慌てて振り向くと、そこには水色のワンピースを着た少女が、エリクサーを振りかけてるところだった。


「テ、テメェ、いったいいつの間に!」

「いつって、ついさっきよ」

「ああ、そうだよな、その前までは居なかったもんな――ってちげぇよ! そういう事が言いたいんじゃねぇー! って、そんな事よりもだなぁ、テメェが持ってるのは何だ! アレだけ腫れ上がった顔が元に戻ってるじゃねぇか!」


 ザデビルが驚き指をさした先では、けっして他人には見せられない顔になってたムーシェが、顔だけでなく焼け爛れた全身が全快するという奇跡が起こってたのだ。


「そりゃ回復させたんだもの、当たり前じゃない」

「当たり前っておま! んな事が出来る物なんざ――」


 少女は簡単に言うが、このような奇跡を起こせる物など限られており、瞬時に治す事が出来る物などエリクサー以外には無いと言っていいだろう。


「ま、まさかエリクサーか? エリクサーなのか!?」

「――もぅ、ゴチャゴチャとうるさいわね。エリクサーがそんなに珍しい訳?」


 さすがにこの発言には世界中の人達を代表して言わせていただこう。

 珍しいに決まってるだろ!


「ダァーーーッ! やっぱエリクサーかよ! なんだってんな貴重なもんを持ってやがる!」


「ほらムーシェ、もう大丈夫よ」

「……ん……あ、私は確か……」

「遅くなってゴメン。でも何とか間に合ってよかった」


 ゆっくりと目を開けたムーシェが見たのは、傭兵団の団長に蹴落とされた筈のアイリであった。

「……とってもサンクスアイリ。貴女が男だったら婿にもらってた」

「はいはい。男じゃないから無理よ」


「――って無視すんじゃねぇぇぇ!」


 さて、激痛で気絶してたムーシェが目を覚ましたし、私の後ろに匿うようにしよう。


「さて、待たせたわね。ムーシェを痛めつけたお礼はキッチリとさせてもらうわ」

「ケッ、いい気になりやがって。だが礼には及ばねぇぜ? なんだったらテメェも可愛がってやんよ!」

「それは遠慮しとくわ。だから()()()を呼んであげるわね――サモン・ルー! ――サモン・ミリー!」


 このザデビルって奴はAランクみたいだから、私単独だと少々危うい。

 って事でゴーレム姉妹の出番よ!


「マスター、おやつの時間?」

「マスター、おやつ早く!」


 相変わらず食欲が旺盛らしいゴーレム姉妹に、ザデビルを指して命令を下す。


「はいはい。アイツを叩きのめしたらお菓子をあげるから、痛め付けてやってちょうだい」

「「了解!」」


 お菓子に釣られた二人は目を輝かせてザデビルに突撃していった。


「あん? なんだぁこのガキァ? 例えガキだろうと俺様に――ブボハッ!」


 第一印象で舐めきった見方をしたザデビルは、ルーに腹を殴られその場で(うずくま)る。


「次はミリーがやる!」


 ドゴッ!


「ガッハァァァ!」


 今度はミリーが踞るザデビル蹴り上げた。


「今度は必殺技を見せる――今だ! アポロ1号(ロケットヘッドバット)


 ズガァァァン!


「グボォォォ!」


 天井に叩きつけられたところにルーのヘッドバットが炸裂し、大量の血を吐き出した。

 アレ、多分内蔵とか破裂してるわね……。


「ならミリーも! ――っと、スカイスライダー!」


 ズシャャャッ!


「ギャァァァァァァ!」


 天井から落下してきたところを背中に飛び乗って、両翼を掴んで地上へと着地した。

 もうこの2人に任せておけば大丈夫そうね。


「……アイリ、あの2人って何者なの? とても普通の幼女とは思えない」


 そりゃ普通じゃないから当然ね。


「オリハルコンゴーレムとミスリルゴーレムが人化したのがあの子達なの」

「……そ、それは……強い筈ね。私の苦労が何だったのかというレベルで……」


 あ、なんかショック受けてる。

 今度は別の意味で手当てが必要かも……。

 

ルー「うまうま」

ミリー「まるまる」

ムーシェ「…………」ジィィィ

アイリ「ムーシェも食べる?」

ムーシェ「サンクスアイリ」

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