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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第9章:邪王の遺産、争奪戦
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コピーモンスター

前回のあらすじ

 突如として現れた邪王四天王のルドーラ。

さすがに4人では敵わないとばかりに出口に向けて走り出すウィリー、生経、ナンバ、そして傭兵の男。

だがあっさりと回り込まれてしまい最早これまでかというところで、ナンバの所持していた転移石により窮地を脱することに成功した。

しかし、逃れた先では冒険者達がグリーンウルフと格闘してる真っ最中であり、更には地響きと共にあの絶望が彼等の前に再び現れたのである。




「や、やっぱり出たでぇぇぇ! こらエライこっちゃや!」


 ナンバが腰を抜かしつつもルドーラを指して声をあげる。

 すると幾人もの視線もルドーラへと集中し、注目を浴びた本人は地を踏み鳴らし堂々と言い放った。


「我は邪王四天王ルドーラ、邪王様のダンジョンを荒らす不届き者は皆殺しにしてくれる!」


「くそっ、グリーンウルフの相手もしなきゃならねぇってのに四天王だと!?」

「それにこいつ、過去に勇者が討伐した筈だぞ! なんで生きてんだよ!?」

「アカン、皆落ち着くんや! グリーンウルフは最低限の人数で押さえ込んで、残りはルドーラに向けるしかないで!」


 ルドーラを見て騒ぎだす冒険者達だが、尚も沸き続けるグリーンウルフを無視する訳にはいかず混乱しつつある。

 だが、そんな中でもアイカ達だけは冷静に動き出す。


「ゼイルさん達は引き続きグリーンウルフへの対応をお願いします。アレの相手はアンジェラにしてもらいますので」


「って、いくらなんでも一人で挑むなんざ――いや、分かった。何か作戦があるんだな?」


「そんなところです。まぁ見てて下さい」


 アイカの自信たっぷりなところを見たゼイルは、再びグリーンウルフを叩き潰す作業に戻った。

 この時ゼイルは何らかの作戦を実行するものだと勘違いしたが、後に作戦なんてものは最初から無かったと知り仰天する事になる。


(鑑定の結果、この魔物はシークレットウェアボアというサイクロプスとウェアボアの合成獣である事が判明しました。名前もルドーラで間違いありません。しかし――)


 ルドーラは200年前に勇者を筆頭にした討伐隊により討ち取られている。

 この魔物は邪王の眷族であったため、復活する事は有り得ないのだ。

 では何故復活し、こうして姿を現したのか……それは――

 

(ルドーラという名前の横に()()()という文字が見えます。つまり、眷族であったルドーラをコピーしたもの……それがコイツの正体です)


 方法は不明だが、ルドーラをコピーする事に成功させたダンマスが召喚したのだと考えられた。


「さぁ出番ですよアンジェラ」

「待ちかねたぞアイカよ。では遠慮なく伸してよいのじゃな?」

「勿論です。冒険者達が逃げ出す前にやっちゃって下さい」

「うむ、久し振りの大物じゃ。楽しむとしよう!」


 アイカのGOサインを受けて目を輝かせてルドーラへと突っ込んで行く。

 それは正にお土産の玩具を買ってきたパパへ飛び付かんとする子供のような勢いなのだが、残念ながらこの場合の玩具はパパ(ルドーラ)本人である。


「行くぞ虫けら共! ジェノサイ――「せいやぁ!」――ブゴォォォ!?」


 突然横から現れた何者かにブッ飛ばされ、グリーンウルフの群れへとダイブするルドーラ。

 本人も冒険者も傭兵達も、ついでにグリーンウルフにも何が起こったのか分からない。見る者によっては、勝手にルドーラが吹っ飛んだようにも見えただろう。

 ある冒険者は呆気にとられてる間、不運にもウルフに噛まれて慌てて引き剥がしたりしてるが。


「ぐぬぅ……貴様かぁ! このルドーラに傷を負わせた者はぁ!?」


 数匹のグリーンウルフを潰しながら起き上がると、蹴られた頬を擦りつつ仁王立ちする紫髪の美女を睨み付ける。

 先程自分が立っていた場所にいたため、その美女――アンジェラが蹴ったのだと判断したのだ。


「如何にも。蹴ったのは妾じゃが、あの程度で傷を負うとは……妾も驚いたぞ?」

「グォッ! こ、このルドーラを愚弄する気か!? ――よかろう、ならば貴様を最初に血祭りにあげてくれる! ジェノサイドウェェェブ!」


 並の生命体なら粉々に砕けるような衝撃がアンジェラへと迫る。

 が、信じられない事に、その衝撃に向かってアンジェラは突撃していく。

 これにはギャラリーだけじゃなくルドーラ本人も驚いた。

 しかし直後、更なる驚きを目の当たりにする事となる。


「こんなもの、障害にもならぬわ!」


 バシュュュュュュ……


「何ぃ!?」


 なんとアンジェラはジェノサイドウェーブを真っ向から突き破り、衝撃を無に返したのだ。


「せいやぁぁぁ!」


 ズシャァァァ!


 更にその勢いでルドーラの右肩に(かかと)落としを叩き込み、切断された腕がグリーンウルフの群れに覆い被さった。


「ギャァァァァァァ! おおぉ、俺の腕がぁぁぁ!」


「お、おい、なんか弱くないか?」

「ああ。見た目はデカイがそれだけだったりしてな」

「それならデカブツはあの人に任せましょ」


 右肩を押さえて激痛にのたうち回る姿を見てた複数の冒険者は、ひょっとしてコイツは弱いのではないかと勘違いし始める。

 それは良い意味で混乱を収める形となり、各々はグリーンウルフへ注意を払う。

 しかし、一方で違う見方をする者も居た。


「いや、違う。ルドーラは決して弱くはない。あの女性が強すぎるんだ……」

「――で、あるな。しかしあの者の強さを見ると、拙僧もまだまだ修業不足だという事が分かるというもの」

「せやかて生経(うけい)はん。あのルドーラっちゅう奴を玩具扱いするにはいくら修業しても追いつかへんで……」


 この3人――ウィリー、生経、ナンバは、目の前で対峙した時の威圧感を忘れてはいない。

 あれは紛れもなく強者の威圧であった。


「ぐぅぅ、お、俺がこんな小娘に――『ドスッ!』グアァァァァァ!」

「ほれほれ、背中ががら空きじゃぞ? この程度では妾は満足せぬ。もっと楽しませてみよ」


 ルドーラとしてもアンジェラを楽しませるために現れた訳ではない(多分)が、既に玩具として(もてあそ)ばれつつあり、華々しく登場した時の威厳は微塵も感じられない。

 だが不満げなアンジェラとは反対に、アイカは満足そうに頷く。


「まぁこうなる事は予想してましたがね」

(ルドーラはアンジェラに任せるとして、あの鑑定不可の女性は……いない!?)


 改めて鑑定を阻害された傭兵団副団長を探したが、気付いた時には居なくなっていた。


(くっ、まさか見失ってしまうとは……しかし今ここを離れる訳にはいきません。いつまで続くか不明ですが、まずは目障りな雑魚(グリーンウルフ)殲滅(せんめつ)させる事を優先しましょう)



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「――なんだ? 文句でもあんのか?」


 傭兵団団長は登り階段の途中で振り向き、ムーシェを睨み付けた。

 背後から殺気を受け続けたためで、それを行ってたのがムーシェなのである。


「……当然ある。だけど今はいい。アイリはあの程度じゃ死なないだろうし、今は優先すべき事があるから」

「フン、だったら大人しくしてるんだな。あんま殺気だってると、間違って剣を抜いちまいそうになるからよ!」


 殺気を放つ理由はアイリを蹴落とした事。

 普通ダンジョンであのような事をすれば命を落としかねないのだが、アイリ(だけじゃないが)の強さを散々見せつけられた今なら間違いなく生きてるだろうと思っていた。


「おい、さっさと進んでくんな。狭い階段なんだからよ」

「ケッ! どいつもこいつも……」


 団長は不貞腐れたように上り始めるがそれは最初だけで、次第に上機嫌で口笛を吹くようになる。

 理由は石造りの狭い階段の先にはお宝が有ると事前に聞かされてたためで、今自分が踏みしめているのは紛れもなく石造りの狭い階段であり、()()()()の言った通りだからだ。


「お、あの光は!」


 階段の先から光が漏れてるを視界に捉えると、何故か団長は駆け足で上って行く。大方漏れた光を金銀財宝とでも思ったのだろう。

 それをムーシェとトラが追うように駆け上がる。

 やがてたどり着いた場所は、磨かれた岩石が床や壁に填められ天井からは地味な色合いのシャンデルが吊り下げられた、神秘的な雰囲気――言わば教会のような場所であった。


「チッ! ――んだよここはよぉ!?」


 財宝では無かった事に腹を立てた団長が、舌打ちしながら奥へと進む。

 漏れた光は燭台(しょくだい)に灯された蝋燭(ろうそく)だったようで、それが等間隔で奥にある祭壇へと続いている。

 

「あの祭壇は何だ? 何かを祭ってるとでもいうのか?」

「……分からない。少なくとも邪王が何らかの神を信仰してたという話は聴かないし、このような場所は記憶に――コホン、記録には残ってない」

「って事は何かい、邪王とやらのダンジョンを何者かが改造したってぇのかい?」

「……その可能性が高い。でもそれを行えるのは――「当然、ダンジョンマスターだけよ」


「「「っ!」」」


 ムーシェとトラの会話に突然交ざってくる第三者。

 声の主はいつの間にか祭壇の横に(たたず)んでおり、3人の視線はそこへ集中した。


「リオンか!? どうやってここに!」

「フフ、どうでもいいじゃないそんな事は。それよりも、貴方が探してる財宝はここに有るわよ?」

「ほ、本当か!?」


 突如現れた副団長の姿に動揺する団長だったが、それよりも財宝の方へと意識が向いてしまい、リオンが指した祭壇へと駆け寄る。


「で? で? 宝は何処だ? 勿体振らずにさっさと教え――「エレクトバインド!」――グガガガガガッ!」


 無警戒にリオンへと近付いた団長は、あっさりと彼女の魔法により拘束されてしまう。


「なんだ? 仲間じゃなかったのか!?」


 少なくもトラは団長とリオンが同じ傭兵団に所属してるのを把握しており、彼女の行動に警戒レベルを跳ね上げた。


「仲間だったと言った方が正しいわね。何せ邪王様を復活させるのには必要な事だったし」

「邪王の復活だと!?」

「…………」


 リオンの口から衝撃的な事実が飛び出る。

 邪王の事はトラも知っており、もし復活すれば再び戦いが始まるだろう。


「――成る程、そいつは生け贄って訳だ」

「いいえ違うわ。この男は(うつわ)になってもらうのよ、――邪王様のね」


 邪王の死後、リオンは彼を生き返らす方法を探した。それこそ海の先にある様々な大陸まで足を運んで。

 その結果生き返らす方法は無かったが、魂を呼び寄せる方法を遥か東の島国であるダンノーラ帝国にて見つける事に成功したのだ。


反魂(はんごん)の術と呼ばれるものでね、これを行うと死者の魂を呼び起こす事が可能なの。勿論わたくしが呼び起こすのは邪王様の魂。それを新たな肉体に入魂させれば……フフ、晴れて邪王様は復活なさるのよ」


 リオンは痺れて動けない団長をいとおしそうに見つめつつ語り終えると、団長を抱えたまま祭壇の奥へと立つ。


「さ、話は終わりよ。今のは冥土の土産にでもしてちょうだい――ハーレンティス!」


 ついにリオンは最後まで生き残った2人を始末するため、邪王四天王の1人ハーレンティスを召喚する。

 魔法陣から出現したタキシードを着た象頭の男が、2人の前に立ち塞がった。


「ちょっと過剰戦力だけどここまでたどり着いた強者だし、ちょうどいいわよね? ま、彼を倒せたら相手してあげてもいいわ、それじゃさようなら♪」


「……逃がさない!」


 一頻り話し終わると祭壇の奥がエレベーターのように沈んでいく。

 ムーシェが後を追おうとしたが、ハーレンティスに阻まれてしまった。


「おっと、ここは通しませんよ?」


「……邪魔しないで、アイスジャベリン!」


 その場から退かせようと、瞬時に氷の槍を放つ。

 しかし、ハーレンティスに当たると、何事も無かったように消滅してしまう。


「フッ、無駄な事です。私に魔法は効きませんよ?」


 実はこのハーレンティス、魔法は一切通用しないという魔法士殺しのような存在で、ムーシェとは絶望的に相性が悪かった。

 だがそこへムーシェを庇うようにトラが前に立つと、両手の拳銃をハーレンティスへと向ける。


「嬢ちゃん、ここはこのトラさんに任せて、お前さんはリオンを追ってくれ!」

「……で、でもコイツは邪王四天王。それを1人で相手するなんて……」

「心配しなさんな。これは女神様の神託ってやつなのさ」


 このトラという男、とある女神によりハーレンティスが復活するという話を聞かされ、今回このダンジョンにやって来たのもハーレンティスを倒すためであったのだ。


「……分かった。邪王の復活を阻止する!」

「おう、頼むぜ!」


 2人の役割が決まったところでトラが銃で牽制する。


「オラオラァ! テメェの相手はこのトラさんだ! 黙って象牙になりやがれ!」


 ピシュン! ピシュンピシュン!


「ぐっ、な、何なのだその攻撃は? 魔法ではないのか!?」


 銃弾によるダメージで軽く怯むと、ムーシェを放置してトラ1人なに対して警戒を強めた。

 このハーレンティス、魔法には強いが物理攻撃にはそれほど強くはない。しかも拳銃を知らないため、銃弾の速度までは読めなかったようだ。


「……サンクストラさん」


 その隙にハーレンティスのマークが外れたムーシェが祭壇の奥へとたどり着くと、近くにある筈の仕掛けを探す。


(……確か祭壇下の方でコソコソと弄ってた筈……あった!)


 上手くスイッチを見つけると透かさず作動させる。

 すると思った通り鈍い音を立てて床が沈み出した。


(最後の邪王四天王リオン。奴は絶対に倒さなければ……)


 ムーシェは一人、拳を強く握りしめた。


ムーシェ「……シャンデルについての補足。第44話【特別イベント】でも出てきてますが、シャンデリアの事です」

アイリ「今回出てきたのは黒くて地味ぃな色だったわ。高級感は有ったけどもね」


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