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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第9章:邪王の遺産、争奪戦
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邪王四天王

前回のあらすじ

 傭兵団に紛れて暗躍してた邪王四天王のリオンが、己の計画の最終段階として大量の雑魚モンスターを冒険者及び傭兵団に差し向けた。

一方のアイリ達は謎解きの小部屋にたどり着くが難なくそれをクリアーする。

直後天井からロープが出現するが、アイリは傭兵団団長によって踏み台にされ、崩れた床から落ちていくのであった。


(クックク、上手くいったわ。あの目障りな小娘を排除出来た今、最早わたくしの障害となるものはない)


 アイリが落下したのを確認したリオンは一人ほくそ笑んだ。

 これまで何かと身体能力の高さが目についてたのは明らかで、直接対峙した場合に上手く凌げるか分からなかったのが大きい。


(後の2人は何とかなりそうだし、そろそろクライマックスといったところかしら?)


 不安材料が無くなったと感じたリオンは、いよいよ計画を最終段階へと移そうと静かに立ち上がると、()()()()()()()()()として()()()()()を行った。




 グルルルル……


「ん? 誰だよ、ウルフの物真似してる奴ぁ」

「何の話だ?」

「んなくだらない事を――いや待て! ウルフだ! グリーンウルフが沸いてきたぞ!?」


 低い唸り声が聴こえた方を1人の傭兵団員が見ると、暗闇から真っ赤な目をギラつかせてグリーンウルフの群れが姿を現す。


「く、くそっ、ここはセーフティエリアじゃなかったのかよぉ!」

「俺が知るかよ! それより早く知らせろ、敵だ! 敵襲ーーーっ!」


 慌てて団員が叫ぶと離れた場所に居る団員や冒険者にも伝わり、皆が一斉に得物を取り出した。


「な! 敵だと!?」

「きっとダンジョンの魔物が現れたのよ! 急いで撤退しましょ!」


 あるパーティは必要な物を(まと)めて出口を目指す。

 しかしその一方で奥に進んだ者がいるパーティはそうもいかず、どうしようかと戸惑っていた。


「おい、敵だって言ってるぞ!?」

「分かってる。だがリーダーが中にいる以上、ここから引き上げる訳にはいかねぇ!」

「おい見ろ、グリーンウルフが大量に沸いて来やがった! 誰だよ、ここがセーフティエリアだって言った奴は!」


 現在彼等の居る場所はセーフティエリアで間違いはない。但し数分前まではそうだったというだけであり、ダンマスが自在に調整出来る以上ダンジョンに安息の地は無い。

 だが残念な事にこの事実は大多数の者が知らない事であり、彼等は慌てて寝てる者を叩き起こすと迎撃を行う。


「むぐぐぐ……やむを得ん。残念だが室長には自力で切り抜けてもらおう。一時撤退するぞ」

「「「「了解」」」」


 異変に気付いたプラーガ帝国の魔術師達も出口に向けて走り出す。

 グリーンウルフがFランクとはいえ数の暴力に屈する事もあり、特にダンジョンという場所は侵入者からしてみれば完全なアウェーだ。

 どれだけの数を相手にすればいいか分からない場合、まずは逃げるのが鉄則である。


 そんな中、アイカ達と冒険者パーティ【一閃(いっせん)(きわめ)】は落ち着いて魔物を蹴散らしていた。


「キンバリー、どうやらお待ちかねの出番が来たようだぞ? オリャッ!」

「でもグリーンウルフじゃねぇ……。正直物足りないわ――タァァァ!」


 ゼイルが5匹程まとめて叩き斬ると、キンバリーは10匹以上を横凪ぎで斬り裂く。

 Aランクの彼等にしてみれば、只の犬ッコロでしかない。


「だったら先に進んでみるか? 強引に突撃すりゃあ通れるかも知れないぞ?」

「そうじゃのう。一緒に挑戦してみるかや?」


 ゼイルが扉の先を(あご)でしゃくるとアンジェラもそれに頷く。

 だがキンバリーは剣を振るいつつも器用に肩を竦めて苦笑した。


「遠慮しとくわ。ベニッツに脳筋だって断定されたくないもの――テヤァ!」

「ですがその本人は、あのパーティの女の子をナンパしてるみたいですよ? ハッ!」

「仲良き事は~、良い事かな~♪ オラ!」


 アイカに言われて気付く。

 先程からベニッツの声が聴こえないと思ってたら、別パーティのフォローを行ってたようだ。それも女性ばかり3人パーティの。

 一応ベニッツの名誉のために補足すると、グリーンウルフに囲まれそうになってたのは事実である。


「ったくアイツはこんな時に……」

「まぁ人助けだと思えばいいじゃない。他人とは言え、同じ冒険者が死んでいくのは見たくないしね」

「それはキンバリーさんに同意します。恐らくお姉様も助けに入ってたでしょうし」


 気付けばアンジェラとセレンも他パーティのフォローに入っており、冒険者と傭兵団が全員で円陣を組むような形で通路から現れる魔物に対応していた。

 いずれ疲労による危機が来るかもしれないが、今のところは問題な無さそうだ。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「――フゥ、どうやら追撃はしてこないようだ。油断は出来ないが、一端休憩しましょう」

「ハァハァ……賛成や。ワテもうくったくたやねん……」


 一方こちらは見捨てられた傭兵を助けるために残った3人の冒険者達だ。

 上手く救出したまではよかったが、ウルフとクロウによる激しい猛攻により先に進むのを断念し、来た道を引き返したのである。


「皆さん本当にありがとう! 団長に捨てられた時はもうダメかと思いました……」

「よいよい。困った時はお互い様。これも仏のお導きよ」

「はい!」


 そして扉を抜けたところで襲撃がピタリと収まったので、ウィリーの提案により休憩する事にしたのだ。


「しっかしダンジョンってもんは不思議なやっちゃ。見てみぃ、ガラハゲはんが落っこちた階段が復活しとるがな」


 商人のナンバは、目下に続く階段を指して声をあげる。

 リオンの策略により階段は崩れ床は落下する仕組みになってた筈が、今はキチンと元通りなのだ。まさにダンジョンマジックと言ったところだろう。


「さて皆さん、そろそろ行きましょう。早く戻って皆にこのダンジョンは危険だと伝えなくては……」

「ホンマかいなぁ……ワテはもうちょい休みたい気分なん――「グオォォォォォォ!」


 ――休みたい気分だとナンバが言いかけてたところで、謎の雄叫びが木霊する。

 すると直後!


 ズズーーーーーーン!


 彼等4人の後ろに、一つ目の獅子のような頭をしたサイクロプスが天井から降ってきた。


「あぁ~、ワテ急用思い出したわ~。ちょうど休憩から戻ろうと思ってたとこやねん」

「うむ。その方がよさそうであるな」


 巨大なハルバードを手にしたソレは、今まで相手にしてた雑魚とは桁違いだと一目で理解出来るだろう。

 故にナンバは視線を合わせないようにそそくさと立ち上がったのである。


「行きましょう!」


 既に立ち上がっていたウィリーと傭兵はそのまま走り出し、ナンバと生経(うけい)も彼等に続いた。

 階段を駆け下り真っ直ぐに延びる通路を走ってる最中、ナンバはふとある事を思い浮かべる。


「せやけどあの巨体、扉よりもデカイ奴やったで? もしかしなくても通り抜けれんのとちゃうか?」


 マジマジと眺めた訳ではないが、サイクロプスのような魔物は8メートル近くの巨人であったため、5メートルくらいの高さしかない扉は潜れないかもしれない。


「――貴殿の言う事は最もであったが、残念ながら叶わぬ夢と消え去ったようだ」


 生経が背後を確認すると、今まさに扉から這い出ようとしてるところだった。


「あ~もう、そんな気張らんでもええやないかい! ワテらみたいな小人は放っといてほしいわ」

「ふむ、小人か……。確かにアヤツからすれば我等は小人同然。中々ユニークな例えであるな。是非ともナンバ殿を主とした詩を書き綴ってみたいものよ」

「ほなタイトルは【巨人はお呼びじゃありまへん】で頼むでぇ!」


「グオォォォォォォ!」


 詩のタイトルが決まったところで再び雄叫びが聴こえてくる。

 ウィリーがチラリと背後を気にすると、あの巨人が予想以上に速いスピードで猛追してる様子が確認出来た。


「速度が思ったよりも速いです! あの扉まで突っ走りましょう!」


 ラストスパートをかける勢いで開けっ放しの扉を抜ける。

 生経は平気なようだがウィリーと傭兵は呼吸を乱し、ナンバに至ってはその場でへたりこんでしまった。


「くぅぅぅ、こらアカンわ、暫くは動けそうにあらへん!」

「ですがナンバさん、奴がすぐそこに迫ってます! 無理をしてでも走らないと助かりませんよ!?」


 ドスーーーーーン!


「「ヒィ!?」」


 ウィリーがナンバの手を引いて立たせようとしたところで、巨人が扉へと激突した。

 その爆音に驚き飛び上がったナンバは同じく驚いた傭兵と抱き合う形になり、扉からヌッと顔を出した巨人を見てズザザザザザーーーッと後退する。


「いかん、これでは逃げ切れぬ!」


 目の前の巨人を見てそう悟った生経が、懐から(ふだ)を取り出し自身の目の前に掲げた。


(へい)(げん)寿(じゅ)(ちょう)(ざん)――()ぁぁぁぁぁぁ!」


 そして呪文のようなものを唱えると、札が勝手に巨人へと飛んで行き顔に張り付く。瞬間巨人は顔を押さえてもがき出した。


「ウゴァァァ! おのれぇ、小賢しい奴等めぇぇぇ!」

「「しゃ、喋った(で)!?」」


 またしてもシンクロするナンバと傭兵の男。

 通常のダンジョンモンスターは言葉を発したりはしない。精々ダンジョンマスターと意思疎通が出来る程度だ。

 しかし目の前の巨人が喋ったのは確かなので、それだけで普通ではないと悟る。



「ま、まさか……邪王の眷族!?」


 ふと過った考えを口にし、一歩後ずさるウィリー。ここが邪王のダンジョンであるならば一応は有り得る。


「しかし、邪王は200を数えた年も前に討伐された筈。そのような年月を経ても尚生きてる事など……」


 そう、普通なら生経の言う通り生きてるとは考え難い。

 だが残念な事に、巨人本人から生きてると証明される発言が飛び出す事となる。


「貴様らぁ……邪王様のダンジョンだと知っていながら荒らすとは不届き千万! この邪王四天王であるルドーラが血祭りに上げてやろう。覚悟するがよいわ!」


「や、やっぱり邪王の眷族やん! こんなの無理ゲーや! さっさと逃げるでぇ!」

「ヒィィィィィィ!」


 ついさっきまで息を切らしてたとは思えない身のこなしで柱を下りて行くナンバと傭兵。

 ウィリーも斬撃を飛ばして牽制すると、生経と共に柱の下へ飛び降りた。

 そして扉に向けて走り出そうとしたその時!



「逃がさぬぞぉぉぉ!」


 ズズーーーーーーン!


「くっ、回り込まれてしまったか!」


 上に居たルドーラが4人を軽々と飛び越え、退路を断つよう着地する。

 逃げられないと悟ったウィリーが苦虫を噛み潰した顔で剣を構えると、覚悟を決めた生経が札を手にして身構えた。


「こ、これまでか……」


 傭兵も最後の足掻きとばかりに切っ先を向けるが、ただ一人、ナンバだけは不適に笑う。


「フッ、切り札はなぁ、最後の最後に使うもんなんや。さぁお前ら、ワテに掴まりや!」


 道具袋から転移石を取り出したのを見た3人がナンバに掴まると、即座に淡い光が彼等を包み込む。


「死ねぇ、不届き者がぁぁぁ!」


 そこへ逃がさんとばかりにルドーラが突進してくるが、間一髪4人はルドーラの前から姿を消し、難を逃れるのであった。 



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「ここも戦場かいな……」


 直後逃れた4人は冒険者達がテントを張っていた場所へと転移するが、そこでも戦闘が行われてるのを見てうんざりした表情を見せる。

 そんな彼等に冒険者達が気が付くと、各々のパーティメンバーから労いの言葉が飛び出す。


「お師匠様、ご無事で!」

「ウィリー様、お帰りなさい!」

「おうおう、無事やったかナンバはん!」


 3人はそれぞれのパーティへと戻り、傭兵の男もグリーンウルフを蹴散らしながら仲間のところへ駆け寄って行く。

 4人は簡単に経緯を説明すると、改めて生経が注意を呼び掛けた。


「皆の衆、聞いてほしい! このダンジョンは危険だ! 現に先へ進んだ我々は、邪王四天王であるルドーラに襲われたのだ!」


「や、やっぱり本当なの!?」

「まさかそんな……」

「いつものナンバさんの出任せやと思ったんやが、まさか事実やったとは……」


 相変わらず襲ってくるグリーンウルフを倒しながらも、様々な反応を見せる冒険者達。

 既に経緯を聞いてたため大きな混乱は無かっものの、邪王四天王と聞いて心中穏やかでは居られない。

 だが、もしもそんな彼等の前に本物が現れたとするならばどうなるだろうか?

 その答えは直ぐに分かるだろう。


 ズンズンズンズンズンズン……


「ちょ、何だよこの音は……」


 まるで大地を揺らしてるような騒音に気付き、冒険者の一人が身構える。

 その音はいつの間にか閉じられてた扉の先から聴こえるのが分かり、多くの冒険者がグリーンウルフに注意しつつも扉へ視線を移す。

 尚も音は鳴り響き、徐々に近付いて来るのがはっきりと分かる。


「こ、こりゃひょっとすると、ひょっとするでぇ!」

「この揺れは……間違いない。拙僧達が遭遇したあの邪王四天王の!」


 バァーーーーーーン!


 そして直後、扉が大きく開け放たれると、あの四天王ルドーラが姿を現したのだ。


アンジェラ「おお、久々の獲物じゃな!」

ルドーラ「勘弁して下さい」

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