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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第9章:邪王の遺産、争奪戦
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邪王の過去

前回のあらすじ

 過去にルドーラを討ち取った時を思い出していたムーシェだが、ふと気を緩めた瞬間奈落の底へと落ちそうになったところをアイリによって助けられる。その後沈む床を避け、崩れ落ちる階段を何とか突破するが、獄炎傭兵団の2人と臨時で組んだ1人であるガラハッドが虚しくも脱落してしまうのであった。



「クソッ、ザデビルとの繋がりが切れた!」

「そんな!」


 コアルームで成人を迎えたばかりの青年が叫ぶと、傍で寄り添っていた若い女も動揺する。

 彼は眷族の1人であるザデビルという亜人系モンスターとの接続が切れたのを感じとったのだ。

 遠くへ遠征に出掛けたザデビルとの切断は眷族では無くなったという事を意味し、それ即ち彼の死を意味していた。


「あんなオチャラケてるやつでもAランクだ。早々負ける事はないと思ってたが、考えが甘かったか……」


 悲痛な表情で唇を噛み締めると、青年は自身の甘さに苛立ちを覚えると同時に、受けたショックを傍らの眷属に見せないように顔を伏せる。

 そんな重苦しい空気を変えようと、傍らの女眷属がそっと(ささ)いた。


「ザデビルを失ったのは残念ですが、それは貴方様のせいではありません」

「リオン……」


 リオンと呼ばれた眷属が青年を励ますと、今まで青い前髪で隠れてた目がリオンを捉えた。


「大丈夫です。わたくしは貴方様の味方です。途中で居なくなる事はありません。必ずやお守り致しますのでご安心下さい――」




「――邪王(じゃおう)様」


 リオンが寄り添うこの青年こそ、Sランクのダンジョンマスター邪王であった。


「ありがとう、リオン。この邪王四天王の知将であるお前になら、この命……預けられる」

「はい!」


 リオンは眷属の中でも知略を期待された人物であり、彼女自身も魔力の高いダークエルフである。

 しかしCランクという他の四天王よりはステータス面ではかなり劣ってしまうのだが。


「恐らくですが、ザデビルは軽い性格ではありますが、かなり狡猾な性格のため油断する事はないと思われます。故に、想像以上の強敵に遭遇してしまったと考えるのが妥当でしょう」

「想像以上の――か。奴には補給拠点と成り得る場所を探らせていた。ならば辺境の地で強敵に遭遇したと予想できるか」


 邪王は現在、付近の国々に対し全面戦争を仕掛けており、消耗し続けるDP(ダンジョンポイント)を確保するための場所――要は(にえ)とする生命体を根こそぎかき集める拠点をザデビルに探らせていたのだ。

 そのため出先で不意に遭遇した結果、不運にも仕留められてしまったのだと考えられた。


「可哀想だが、ザデビルの事は一時的に棚上げする。今は周辺国を蹴散らす事に専念ねせばなるまい」

「その通りで御座います。理想の世界を創るため、不要な国々には消えて頂きましょう」


 邪王が仕掛けた戦争により少くとも2つの国が滅びており、危機感を募らせたその他の国々は、グロスエレム教国を主軸とした大連合を組む事で邪王に対抗しだしたのだ。

 だが邪王とて他国への侵略を目論んで戦を仕掛けた訳ではない。最初の目的は、リオンと同じ状況下に置かれてるダークエルフ達亜人の解放が目的であった。

 それは更に数年前の事……



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 その出逢いはまったくの偶然だった。

 ダンジョン運営が軌道に乗り、足場をしっかりと安定させる事に成功した後のある日の事。


「そろそろ人手を増やした方がよさそうだ。出来れば俺を補佐してくれる者が望ましいが、まずは召喚してみるか」


 1人でやる事には限界があると感じ、コアルームで一人思考を練っていた邪王は、新たなモンスターを眷族とすべくランダムに召喚を行った。

 だが出現したモンスターは何れも補佐としては役不足の知能が低い者ばかりであり、眷族とするには不安が拭えない。


「オゥオゥ邪王様よぅ、そんなちんけな召喚じゃあ俺様みてぇな完璧超人は手に入らないんだぜぇ?」

「――ザデビルか。だが指名召喚ではコストがかかりすぎるのだ。それを抑えるためにはやはり……な」

「ダァーーーッ! だぁかぁらぁ、俺様の名前はザ・デビルだっつーの! 間をあけろや間を!」




「ザデビル――」

「ちっっっげぇよ、改行しろって意味じゃねぇ! ザ・デビルだ、ザ・デビル! ちゃんと眷族の名前にもそう書いてあんだろ!」

「いや? 眷族一覧ではザデビルと出てくるが?」

「……マジで?」


 邪王本来の目的からは遠ざかってしまったが、新たな眷族を入手するのにしっぱいした事は確かだった。


 ビー、ビー、ビー、


『侵入者を感知しました。至急確認願います』


 新たな眷族で頭を悩ませてるところに、アラートと共にダンジョンコアから侵入者を知らせる通知がなされる。


「む? 侵入者か。どんな奴だ?」


 早速コアを操作して侵入者をスクリーンに映すと、1人のダークエルフの女が複数の男達に追われてる様子が飛び込んできた。


「お? なぁんか面白い事やってんなぁ?」

「…………」


 ザデビルは茶化すが、邪王は面白くないといった感じで顔をしかめる。

 それというのも男達が口々に叫んでる言葉が聞き捨てならない事だったからだ。


「奴等、亜人を捕まえては奴隷に落としてるようだな……」


 そう、邪王が言った通り、追っ手である人間の男達は亜人を狩っては奴隷商に売り払うという事を商売としており、逃げている女は金を得るためのものでしかないのだ。

 やがて追い付かれた女は抵抗虚しくも男達によって縛り上げられ、そのまま外へと運ばれようとしていた。


「あ~らら、お帰りのようだな――ってマスターどうしたん?」


 邪王は拳を握り締め静かに怒っていた。

 ただ目の前の光景がブチ壊したくなる程に不快でたまらないのだ。

 邪王は思った。人間がそれほど偉いのかと。亜人を虐げる権利があるのかと。

 そして自問自答して数分。その答えをザデビルに実行させる事にした。


「ザデビル、奴等を狩れ。そして情報を吐かせろ。奴等が売り払う先の奴隷商の情報をな」

「だから俺の名は――いや、もういい……。そんじゃま気を取り直してっと、軽~く聞き出してやりますかね。――あ、そういやあのダークエルフはどうするん?」


 ザデビルが担がれてる女を指して尋ねる。

 釣られて邪王もそちらに視線を移すが、この時既に邪王の中にはある考えが浮かんでいた。


「後程ハーレンティスを向かわせる。お前は男共の相手に専念しろ」

「うっはぁぁ! 男共の相手とか嫌なフレーズ! だけどマスターの命令には従いますぜぃ!」


 言うほど嫌そうではない――寧ろ男共を痛め付けれる事に嬉しそうにしながら、ザデビルは現場へと急行した。




「ありがとう御座います! 貴方様はわたくしにとっての神で御座います!!」


 邪王の目の前には救出したダークエルフがおり、まるで神を見るかのように邪王を直視して拝んでいた。

 その様子に象頭のハーレンティスは困惑するが、害は無さそうなのでそのままにしてある。


「ひとまず落ち着いてほしいんだが……」

「は、はいすみません! 感動のあまりつい。それに神にも等しい貴方様はを前に恐れ多い事で御座います」

「ああ、うん、分かった」


 なんとか落ち着かそうとする邪王であったが、件の女は逆に興奮覚めやまぬ様子でどうしようかと頭を悩ます。


「何ともいやはや。しかし感心ではありませんか。邪王様は神、正しくその通りかと」


 いまだ手を合わせて崇めている女を見下ろして、ハーレンティスはウンウンと頷く。

 主人である邪王を崇拝されて気分を害する眷族はいないだろう。


「ところでだな、君の名を教えてはもらえんだろうか?」

「あ! す、すみません、わたくしったら……え、え~と……コホン。わたくしダークエルフのリオンと申します。未婚ですし恋人も居りません、因みに生娘です!」

「そそそ、そうか……」


 何故かアピールを開始したリオンにタジタジになりながらも呼吸を整えて直視すると、邪王は改めてリオンに尋ねた。


「ではリオンよ、聞いてくれ」

「はいぃ!」

「……コホン。俺は外の事をあまり知らないのだが、外はどのようになっているのだ?」

「はい、わたくしが知る限りですが――」


 そしてリオンの口から語られる数々に邪王は衝撃を受ける。

 亜人は人間の奴隷であり玩具でもあった。

 無賃金で死ぬまで働かせるのは当たり前で、面白半分で痛め付け、動かなくなるとゴミと一緒に処分するのだ。


 しかしこれはグロスエレム教国を中心に周囲にも広がった風習で、世界規模では決して多くは無かったのだが、長年ダンジョンで過ごしてた邪王が知る筈もない。


「分かったもういい。それだけ知れば充分だ」

「じゃ、邪王様?」

「この世界にはグズが多いって事がよぉく分かった。そんな世界、この邪王がブチ壊してやろうじゃないか!」


 拳を握り締め堂々と宣言した邪王を、再び神として拝みだしたリオン。

 聞いてたハーレンティスも、パチパチと手を叩きながら賛同する。


「おお、ついに侵略を開始するのですな! このハーレンティスもワクワクして参りましたぞ!」

「ああ、やってやるさ。俺は理想郷を作り上げる。人間やそれに味方する者は容赦なく蹴散らしてくれる!」


 熱く語り終えたところでリオンへと視線を落とすと、今まで怒りを(あらわ)にしてた本人とは別人のような笑顔を浮かべ、そっと手を差し伸べた。


「邪王……様?」

「君にも協力してほしいんだ。俺の眷属になってみないか?」

「え……」


 一瞬理解が出来なかった。

 助けてもらったばかりか眷属として召し抱えられるとは思ってもみなかったのだ。

 だが彼女の返答は既に決まっており、暫しの沈黙の後に本心を明かす。


「光栄です、邪王様。不肖リオン、只今をもちまして邪王様へこの身を捧げます」

「ありがとう! 共に作ろう、我々の理想郷を!」

「はい!」


 すっかりリオンに同情してしまった邪王は、ダークエルフや他種族の亜人達を救うべく行動を開始するのだった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



(あれから約200年。時間はかかったがDPも程よく貯まり、邪王様を復活させる準備は整った。後は邪王様の()となる存在を捧げれば邪王様が――)


「あのぅ……先程から難しい顔をしてらっしゃいますが、具合が悪いのですか?」


 近くにいた獄炎傭兵団の1人が話しかける。


「――ん、いや、何でもない」

「そうですか。何かあったらいつでも言いつけて下さい、リオン副団長殿」

「ああ、すまない」


 どこかデレデレとした団員の男を軽くあしらうと、リオンは再び思考を巡らせた。


(さて、現在残ってるのは8人だが、当然()には残ってもらうとして……やはりあの()()は邪魔になるか。そのうち隙を見て落とすよう仕掛けてやろう。――さぁそろそろ次の仕掛けを発動させようではないか)



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「む? この感じ……魔の物が(うごめ)く気配を感じるぞ!」


 急にお坊さんが立ち止まったと思ったら、魔物の気配を感じたですって?


「ま、まさか罠の次は魔物でっか? もう堪忍やでぇ……」


 けれどそうも言ってられない。

 どうやらお坊さんが感じた気配は魔物で正解だったらしく、ウルフ系とクロウ系の魔物が背後から迫ってきたのよ。


「上等よ。私が一気に蹴散ら――」

「……待ってアイリ。前からも現れた」

「――ええ!?」


 見ると前方にも同種の魔物が現れたのが確認出来た。


「マズイです! 前に進もうにも、背後を取られては危険過ぎます!」


 ウィリーさんの言う事は最もね。

 ここがダンジョンだって事を考えれば倒したところで次々と追加される可能性があるし、まともに相手するより逃げた方が無難だわ。


「前方の魔物をけちらして進むわ! 私に付いてきて!」


 前から襲ってくる魔物を火魔法で焼き払いながら突き進む。


「ヒューゥ♪ やるねぇ嬢ちゃん。そんだけ強けりゃこっちも楽だ。撃ち溢しは俺が消し飛ばしてやっから安心してブッかましてやんな!」

「じゃあ逃れた雑魚はたのむわね」


 私が大雑把に燃やした後に残った魔物をムーシェとトラさんに倒してもらう事で、何とか進める感じになった。

 というかトラさん2丁拳銃で武装してるんだけど、いったい何者なの!?


「ハハッ、余計な詮索は無しだぜ? もしどうしても知りたいってんなら、俺の魂に聞いてくんな!」


 詮索はしないけど、魂に聞けってどうやって聞けばいいんだろ……。

 って余計な事を考えてる場合じゃなかったわ。かなりの速さで突き進んでる筈なんだけど、やっぱり背後から追い付かれたみたいで、後ろの方を走ってる傭兵団2人が、魔物に飲み込まれようとしていた。


「だ、団長、このままじゃマズイです! 何とか追い払わないと!」

「落ち着け。こういう時は餌をやるのが一番だと教えただろうが!」

「し、しかし今現在、餌になるような物は所持しておらず……」

「無かったら作りゃいい」

「え……作ると言っても……」

「バカが、()()()()んだよ!」

「――ガフッ!?」


 あの団長、足を引っ掻けて仲間を転倒させたわ!


「だ、団長ぉ! ――ヒッ、やめろ、来るな、こっちに来るなぁぁぁ!」


 仲間を犠牲にして自分だけ助かるとか最低な奴ね!


「くっ、何て非道な! ――アイリさん達は先に行って下さい! さすがに見捨ててはいけない!」

「あ、ウィリーさん!?」


「拙僧も同意する。人助けて徳を積むのが仏の道と心得よ、今行くぞ!」

「ちょ、生経(うけい)さんも!?」


「あ~もぅしゃーないな! こないなったらワテも残らんとあかんやろ!」

「ナンバさんまで!」

「まぁ心配しなさんな。これでも腕っぷしには自信があるんや。それにいざとなったら転移石も持っとるさかい、危なくなったらアイツら連れて逃げりゃええねん!」


 ああ、転移石を持ってるんだ。それなら安心だわ。


「じゃあ私達は行くけど無茶しないでね!?」

「おぅ、分かっとるで!」


 よし、後ろはあの人達に任せて、前から迫ってくる敵を焼き払ってやる!


「おぅ、嬢ちゃん来たか!」

「待たせてゴメン!」


 僅か1分足らずだけど、その間はトラさんとムーシェがフォローしてくれた。


「ケッ、放っときゃいいもんを……。まぁいい。さっさと燃やしちまえよ!」


 コイツ、堂々と仲間を見捨てといて……いや、今は争ってる場合じゃないわ。


「フン、別にアンタのためにやる訳じゃないわ。勘違いしないでよ――ね!」


 ね!と同時にファイヤーストームで一気に焼き尽くす。

 魔物の群れを排除すると、遥か前方に扉が開いてるのが見えてきた。


「……アイリ、扉」

「分かってる。一気に駆け込むわよ!」


 あの3人を置いてきたけど彼等も冒険者だし、無事に生き延びてる事を祈るわ。


 残り4人


アイカ「お姉様、あの台詞はツンデレっぽいです」

アイリ「気のせいだから忘れなさい」

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