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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第9章:邪王の遺産、争奪戦
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ムーシェの記憶③

前回のあらすじ

 邪王四天王であるザデビルとの戦いを思い出したムーシェはもしも奴が生きてた場合を想像するが、アイリが居れば大丈夫だと思い直す。

 そして気付けばプラーガ帝国の魔術師2人が暗闇へと落下し、残りは11人となってしまっていた。

 ダンッ!


「フン、こそこそと小賢しい雑魚共が。邪王四天王の矛であるこのルドーラがまとめて葬ってくれるわ!」


 巨大なハルバードを手にした更に巨大な猪頭が地を踏み鳴らして威圧する。

 ルドーラはダンジョンに踏み入った邪王討伐隊を前にして一歩も退く気配を見せず、配置されたボス部屋にて邪王の居るコアルームへの侵入を阻む。


「皆の者気を付けろ。コイツはBランクの上位に位置するシークレットウェアボアだ。油断すると死を招くぞ!」

「「「「「オオォ!」」」」」


 だが一方の討伐隊も怯む事なく対峙し、先頭に立つ金髪の青年――勇者ベルセレックが注意を促した。

 ベルセレックの忠告に力強く頷いた討伐隊の面々は、彼を中心に左右へと広がりルドーラを囲むよう展開すると、注意深くジリジリと詰め寄り始める。


「ルピエノ、回復サポートといざという時の脱出は任せる」

「ええ、分かってるわ」

「ムーシェは支援魔法を頼む。もし隙が有れば攻撃魔法を叩き込んでくれ」

「……分かった」


 仲間に指示を出し終えた勇者は、剣を構え直すといつでも踏み込めるよう姿勢を低くした。


「いくぞルドーラ! 世の平和を乱す邪王は僕が討ち取ってみせる!」


「フン、抜かしよる。そこまで言うのならやってみるがいい。但し、このルドーラを倒せたらの話だがな! ジェノサイドウェェェブ!」


 ルドーラが広範囲に渡る闇属性の斬撃を繰り出す。

 通常の斬撃とは異なり身体能力を低下させる効果を持つこの技を受けると、長期戦になれば厳しくなるのは目に見えていた。


「耐えろ! ソードディフレクトォ!」

「――むぐぅ?」


 だが勇者も負けてはいない。

 討伐隊を後ろにさげ透かさずシールドを張る事で真っ向から対抗する。


「ぐぬぅ、防ぎきったか……。ならばもう一度だ! ジェノサイドウェェェブ!」


 コアルームへの侵入を何としてでも阻まなければならないルドーラは隙を作る事なく斬撃を繰り出す。

 だが本気は出せない。彼にとっては時間稼ぎがメインだからだ。


「今一度――ソードディフレクトォ!」


 再び守勢となるベルセレックだが、これも想定内であった。

 ルドーラが勇者に集中させるのが目的だったので、それが成された今、後衛に控えるムーシェ達が動き出す。


「「「フリーズ!」」」

「む? ――ぬぉ、足場が!?」


 魔法士により放たれたフリーズは、ベルセレックに集中してたルドーラの足元を縫い付けるように凍らした。

 そしてこの機を逃さんと本命が動き出す。


「今だ、ムーシェ!」

「……水よ、神の矛となりて、敵を打ち砕く(やいば)とならん! ゴッドツンドランサー!」


 回避不能になったところでムーシェによる大魔法が発動し、人の顔ほどの太さを見せつけた氷の刃がルドーラへと迫る。


「くぅぅ、こんなもの――グォォォ!」


 ハルバードを盾に防御に回るが弓隊による援護射撃により視界に飛び込む弓矢を無視出来ず、慌ててそれらを振り払う。

 これにより氷の刃に対する防御が手薄になり、土手っ腹へと吸い込まれるように突き刺さった。


「――やったか!?」


 誰かが叫ぶ。ルドーラに致命傷を負わせたと思ったのだろう。

 しかし……


「ゴァァァッ!! ぐぉぉ、おのれ……」


 だがさすがはBランク。大量の血を撒き散らしつつも戦意は衰えておらず、氷の刃を片手で叩き折ると討伐隊へと投げつける。


「まだだ……まだ戦いはこれからだ!」

「くっ、あれだけのダメージを受けながらもまだ戦うというのか!」


 血を滴らせながらも再びハルバードを構え直したルドーラ。それを見た討伐隊はその気迫に若干怯むものの何とか踏みとどまり、各々の役割を思い出す。


「ムーシェ、もう一度だ。もう一度僕が注意を引き付けるから、今のうちに詠唱を」

「……分かった」


「――皆、もう一踏ん張りだ。このまま奴を葬る!」

「「「「「オオォ!」」」」」


 味方を鼓舞(こぶ)し再度切っ先をルドーラに向けると、それに合わすかのようにルドーラもまた矛先をベルセレックへと向ける。

 直後、先に動き出したのはルドーラの方であった。


「くらえぇぇぇ! 獄化翔連撃(ごくかしょうれんげき)ぃぃぃ!」


「くぅぅ!」


 討伐隊の配置を掻き回すようにハルバードによる乱れ突きを放つ。

 追い詰められつつあると自覚したルドーラが本気を出してきたのだ。

 結果勇者を後方へと押しやるとともにルドーラも押し入る事で、魔法士達は詠唱を中断する羽目になり、弓隊も更に後ろへと下がる。


「ベルセレック!」

「――すまん、助かったルピエノ!」


 それでも1人の魔法士だけは回復魔法を完了させ、ベルセレックの傷を癒した。


「フン、見事な連携だ。ここまでたどり着いたのもまぐれではないのだろう。だがその快進撃もここまでだ。勇者よ……貴様の命、貰い受ける! ハーーーッ!」


 ルドーラはこのままではジリ貧になると予測し、捨て身でベルセレックへと襲いかかる。

 せめて勇者だけは討ち取らんと、隙だらけになりつつもハルバードを振り回す。


「ぐぉ……さすがに強い。――だがここで退く訳にはいかない!」


 致命傷を避けてはいるが、徐々に切り傷を増やしていくベルセレックを討伐隊が不安そうに見守る。

 ベルセレックだけが一点集中で狙われてるため、支援したくても上手く出来ないのだ。

 だがそんな不安もムーシェが詠唱を終えた事により解消される事となった。


「……ベルセレック、離れて! マキシマムサザンクロス!」


 ムーシェが叫んだ直後にベルセレックが大きく飛び退くと、ルドーラに向けて一極集中の猛吹雪が炸裂!


「ゴアァァァァ……が、がらだが……」


「ナイスだムーシェ! ――これで終わりだルドーラ!」


 隙だらけだったため呆気なく全身をカチンコチンに凍らせる事に成功すると、透かさずベルセレックがトドメを刺しに動いた。


「一子相伝、天地斬りぃぃぃ!」


 バリバリバリバリバキィィィン!


「ギャァァァァァァッ!」


 凍り漬けで動けないルドーラを真上から一刀両断すると、氷が砕ける音と共に血の色に染まっていく。

 だがそれでも左半身を信念で動かしたルドーラが、ベルセレックへと掌を向けた。


「まだだ……貴様だけは……道連れにしてくれる……」

「……!」

「カーズシェイバーァァァ……」


 最後の抵抗とばかりに、呪いの渦がベルセレックへと迫る。

 この闇魔法は対象者を術者と同じ状態へと貶めるもので、もしも勇者が食らってしまえば死ぬ一歩直前の瀕死状態になってしまう。


「……させない。ルーンガード!」


 だが直ぐに気が付いたムーシェが光魔法によるシールドを展開し、カーズシェイバーの動きを止めた。


「う、渦が止まってる!?」


 ルーンガードに接触したカーズシェイバーの時間が止まる。

 それを見たベルセレックは一瞬驚くも、ムーシェに手を引かれてその場から離れた直後、闇の渦が時間を取り戻し、誰もいない空間に到達すると即座に消滅した。


「く、くそぅ……邪魔立てを……。――邪王様、申し訳……ありませぬ……グハァァァッ!」


 最後に口から(おびただ)しい量の血を吐き出したルドーラがその場に倒れると、討伐隊の面々から割れんばかりの歓声が上がる。


「やった、四天王を撃破したぞ!」

「うん! ついにやったのね私達!」

「後は邪王を倒すだけだ!」

「「「オオォ!」」」


 最後の守護者とも言える邪王四天王の1人をコアルーム前で撃破したという事実は、やや間を置いてからベルセレックも徐々に実感しだす。


「や、やった……のか?」

「……うん、よくやったと思う」

「そうか……そうなんだな! 四天王ルドーラを討ち取ったぞぉぉぉ!」

「「「オオオォ!!」」」


 ムーシェにもよくやったと言われ、漸くベルセレックは剣を突き上げた。


「だが喜んでばかりもいられない。コアルームに居る邪王はどんなに恐ろしい存在かも想像がつかない。だがここで引き返すという選択肢は無い! 今こそ邪王を討ち取る時だ!」


 一度言葉を切り討伐隊全体を見渡すと、各面々は気を引き締め直した表情でベルセレックを見ていた。

 そう、邪王を討伐するまで戦いは終わってはいないのだ!


「行くぞ皆の者、狙うは邪王の首だ!」

「「「オオォ!」」」


 皆の思いを一つにコアルームへと向き直ったベルセレックは、勢いよく扉を開け放つのであった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「危ない!」

「……!」


 踏むと沈んでいく床と共に奈落へと落ちそうになったムーシェの手を取って高く飛び上がる。


「……ありがとうアイリ」

「いいえ。また何か考え事してたみたいだけど、それよりも今私達が置かれてる状況を理解しないとダメよ?」


 私が注意を促すと無言で頷いた。


「大丈夫ですか皆さん!?」


 ウィリーさんが後ろの3人に振り向き安否を確認する。

 幸い無事なようだけど、お坊さん以外の2人は息を切らしていた。


「こ、こらしんどいわ! 誰やねん、こんな悪どい仕掛けを作った奴ぁ!」


 今私達は踏むと沈んでいく床と格闘中な訳だけど、これが中々面倒くさい。

 何せ踏んだ直後に沈む床と、やや間を置いて沈む床、それに一定時間毎に沈む床と様々なタイミングで上下するがゴリゴリと神経を磨り減らしてくるんだから。


「ハァハァ……も、もうダメだぁ――う、うわぁぁぁ!」

「バ、バカ引っ張んじゃ――おわぁぁぁ!」


 更に後ろの方で悪戦苦闘してた獄炎傭兵団の太った男が、前にいた仲間を道連れにして暗闇へと落下していく。


「くそぅ、ここにはセーフティエリアは無いのか!」

「同感や! 休ませずにコキ使うたぁ商売人の風上にも置けんわ!」


 ハゲオッサンとナンバさんが文句を垂れてる。

 その台詞はここのダンマスに言ってやってちょうだい。


「皆の衆、前方に上り階段が見えまするぞ! あの様子だと、階段に罠は無いようにお見受けする!」


 やや先の方に階段が見えてきて、今まさにカウボーイハットの男と獄炎傭兵団の2人が駆け上がっていくところだった。

 お坊さんの言う通り特に浮き沈みする事も無さそうだし、あそこまで行けば大丈夫そうね。


 ――と、思った私の考えが甘かった。


「見て! 階段が下から順に崩れていく!」


 思わず叫んでしまった。何せ階段すら安全な場所じゃ無かったんだから!


「すみません、先に行きます!」

「はぁぁぁ……ムン!」


 ウィリーさんがジャンプして階段に飛び移ると、それに続いてお坊さんも高く飛び上がり更に先へと着地した。

 私はムーシェを担いでナンバさんの手を引くのが精一杯で、ハゲオッサンを気にする余裕も無くそのまま階段へと飛び移り、一気に最上段へと駆け上がる。

 そこまで行って漸く次の仕掛けが施されてるであろう扉が開いた状態でそこにあった。


「す、すまんなアイリはん。助かったでホンマ……」


 ナンバさんは助けられたけど、後ろにいたハゲオッサンは……


「うおぉぉぉ、とどけぇぇぇっ!」


 勢いよくジャンプしたけど如何せん階段の大部分は崩れてしまった後で、健闘むなしくそのまま落していく。

 けれどそれで死なれても後味が悪いので、転移石をハゲオッサンに向け投げてやった。


「――感謝するぞ小娘ぇぇぇ!」


 それを上手くキャッチすると、ハゲオッサンは光の粒となって消えていく。恐らくはダンジョンの外か4階層の扉の前に転移したんでしょうね。


「ふぅ……ガラハゲはんは残念やったが、ホンマにアイリはんは化け物じみた体力やな! ああいやいや、別に嫌みやないで? 1人でそないに動ける奴ぁワテも知らんしな!」


 さっきまで息を切らしてたのに、喋る元気は有るのねこの人……。

 まぁそれは兎も角、1人で動ける人がもう1人いるのよねぇ……。アイカも鑑定に失敗したって言ってたし、試しに鑑定してみよう。


「…………」


 そう考えて、崩れ行く階段を眺めつつ葉巻で一服中のカウボーイハットの男に顔を向けた。


名前:トラ 種族:不明

職種:不明 レベル:不明

HP:Nodata MP:Nodata

 力:Nodata 体力:Nodata

知力:Nodata 精神:Nodata

敏速:Nodata  運:Nodata

【スキル】Nodata

【魔法】Nodata

【ギフト】ミジェーネの加護


 名前はトラ、それ以外は不明で……ミジェーネの加護!?

 どうやらアイカの予想は当たってたらしく、このカウボーイハットの男――トラって人は加護持ちだった。

 この人の目的は不明だけど、要注意人物ね。


 残り8人


ナンバ「ああ、折角の育毛剤を売り付けるチャンスが……」

アイリ「商魂逞しいわ……」

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