バトルスタート
グーチェス
『もう間もなくだが、そちらは問題ないか?』
アイリ
『……色々有ったけど、問題ないわ』
グーチェス
『いや、辛そうな表情だが……』
アイリ
『大丈夫。そのうち覚めるから……』
グーチェス
『そ、そうか』
もうすぐ初陣だけど、徹夜明けの眠気の方が上回ってて緊張感が感じないわ……。
バトル前の相手との顔合わせ。
ダンジョン通信は相手の顔も映るけど、相手はポーカーフェイスな20代の青年に見える。
その青年の傍らには、眷族と思われる10代の銀髪の少女が映っていた。
モルデナ
『アーアー、テステス、そろそろ宜しいでしょうか? わたくし今回のバトルの審判を務めさせていただきます、悪魔族のモルデナと申します、宜しくお願いします』
グーチェス
『宜しく頼む』
アイリ
『はーい、宜しくーっ!』
……徹夜明けで変なテンションになってしまった。
モルデナ
『今回で3回目の審判ということで、至らぬ点もあると思いますが、何卒ご了承ください。では今から5分後に互いのダンジョンを接続しますので、接続完了と同時にバトルスタートとなります』
後5分……これが妙に長く感じるのよねぇ。
モルデナ
『使用するフロアは1階層のみで、ボス部屋に居るモンスターを倒した方の勝ちとなります。ボスは部屋から出てはいけません。部屋から出たら失格とみなします』
今回のボスは、ボス部屋を自ら出ることはほぼ無いモンスターを選択したから、失格になる可能性はほとんど無いと思う。
審判:モルデナ
「また、ダンジョンバトル中に死亡した眷族は、バトル終了後に復活しますのでご安心ください……と、言いたいところですが、今回は眷族の参加はないのでしたね。ところで、お2人は緊張されてませんか? わたくしなんかは失敗が多いので、今でも失敗しないかビクビクしております。こういう時はリラックスできるように、楽しいことを想像すると良いらしいんですよ。なのでわたくしの場合は、彼氏ができた時を想像すると非常に効果があります。あ、一応現実でも彼氏募集中で「ちょっと! 残り1分を切ったわよ!?」‥ああっ! ごめんなさいごめんなさい! それではカウントダウンに入ります」
10……9……8……7……6……
(いよいよ初バトルなんだけど……)
5……
(後1勝、後1勝なんだ……)
4……
(時間無くて、朝御飯食べ損なったじゃない!)
3……
(グーチェス様に勝利を!)
2……
(あ~もうダメ、寝てしまいそう……)
1……
(今回は勝つ! 勝たねばならない!)
0!
モルデナ
『バトルスタート!』
「………………」
「お姉様、まずはジャイアントラットで敵ダンジョン内を探らせましょう」
「………………」
「あの……お姉様?」
「ZZZzzz……」
「た、大変です! お姉様が睡魔に討ち取られてしまいました!」
「なんと! 大丈夫なのかや!?」
「落ち着いてください、アンジェラ。一応わたくしに考えがあります」
これは一大事です。
この降って湧いたチャンス……じゃなかった! この降って湧いた悲劇に対応するには、わたくしが指揮をとる以外ありません。
モルデナ
『どうされました?』
アイカ
『実はマスターのアイリお姉様が徹夜明けで眠ってしまわれたのです。そこでわたくしが指揮を執りたいと思うのですが……』
モルデナ
『それなら大丈夫ですよ。要はダンジョンVSダンジョンなので、ダンジョンマスターではなく眷族の方が指揮を執っても問題ありません』
ならば問題無しということで、わたくしアイカが指揮を執りましょう。
「さて、まずは相手のダンジョンの中を探るため、ジャイアントラットを20体召喚して中で散開させましょう」
ジャイアントラット……その名の通り、大型のネズミです。
Gランクなので戦闘能力はほとんど無いんですよね。
DP300→DP260
今回の特設ダンジョンでは、最終的に2700ポイントも消費してしまいましたからね、残りが300ポイントしか残ってなかったのですよ。
そしてジャイアントラットの召喚ポイントは2ポイントなので、40ポイントの消費です。
「アイカよ、向こうから侵入してきたモンスターは、どうするのじゃ?」
「すでに対策済みです。まぁ見ててください」
「そうか……む? あれはスピアバグじゃな。相手はスピアバグに内部を調べさせるつもりらしいぞ?」
スピアバグ……Gランクの羽虫モンスターですね。
空を飛べる利点はありますが、動きが遅いのでこちらのジャイアントラットの方が速さは上です。
ですがこのまま放っておくのは癪ですので、蹴散らしてしまいましょう。
アイカがモンスターに指示を出した直後、どこからかファイヤーボールが飛んできて、スピアバグ10匹が燃え尽きた。
「さて、戦いはこれからです」
アイカがグーチェス側のダンジョンに偵察を出す少し前、グーチェスもまたアイカと同様に偵察を送り込んでいた。
「グーチェス様、まずはゴブリンパーティを先行させるのが宜しいかと」
「だがベネリア、DPも無駄にはできない。まずはスピアバグ10匹を偵察に向かわす。コア、頼む」
『スピアバグを10匹召喚します』
DP500→DP490
赤く光るダンジョンコアが、グーチェスの指示でモンスターを召喚する。
「まずはボス部屋までのルートを確保する。敵に出会っても極力戦闘は避ける。罠が仕掛けられてる可能性もあるので、安全なルートを探すように」
『了解致しました』
とりあえずはこれでいい、
後はボス部屋を早期発見できるか……だな。
「グーチェス様、スピアバグが敵ダンジョンに侵入しましたが、キレイな一本道が続いてるようで分岐らしきものは発見できません。いかが致しましょう?」
妙だな……足止めくらいしてきても良さそうなものだが?
わざわざ一本道にして、こちらから攻めやすくする必要はないはずだ。
「ベネリアはどう思う?」
グーチェスからベネリアと呼ばれた少女は、若干嬉しそうな表情をしながらグーチェスの方に顔を向けた。
「真意は分かりかねますが、単純に手を抜いてる可能性も有るかと存じます」
「それならそれで都合がいい。が、まったく何も無いというのは解せない。ジャイアントラットを追加で偵察に出すぞ。コア、ジャイアントラットを10匹召喚だ」
『了解致しました』
DP490→DP470
さて、単純な構造は何か狙いがあるのかどうか。
まだ分からないことが多「グーチェス様!」
突然ベネリアが声を荒らげた。
一瞬視線を離した隙に何か起こったのか!?
「どうしたベネリア?」
「偵察に出してたスピアバグが一瞬で消滅しました!」
一瞬でだと!?
強力な罠を仕掛けてるのか?
だがいずれにしても同じ手を何度も食うわけにはいかん。
「ベネリア、ジャイアントラットを小出しに突入させる。間を空けて突入し、何が起こってるのかを見極めるんだ」
「畏まりました」
強力な罠ならば消費ポイントも多いはずだ。
それを回避出来なければ勝算は得られない。
『マスター、侵入者を感知しました。こちらをご覧ください』
向こうも送り込んできたか。
映し出されてるのは多数のジャイアントラットだ。
それらは散開してあちこちを探ってることから、ダンジョンのマッピングを行ってると考えていいだろう。
「数は20匹か。よし、ジャイアントラットを40匹召喚し2匹ペアで組ませ、敵ジャイアントラットを各個撃破させてくれ」
『ジャイアントラットを40匹召喚します』
DP470→DP390
これで上手く偵察の妨害ができてればいいが……。
「見て下さいグーチェス様、こちらの放ったジャイアントラットが、物陰から複数のグリーンウルフが現れて、各個撃破されてます!」
物陰にグリーンウルフか。
だがスピアバグは炎に焼き尽くされたはずだ。
Fランクのグリーンウルフにそのような能力は無かった。
まさか……、
罠を使い切ったのか?
いや、そう判断するのは危険だ。
もしかすると、こちらを侮らせて、誘い込むつもりかもしれん。
「どう思うベネリア?」
正直ベネリアばかりに助言させるのは心苦しいが、他に助言を求められる存在は居ない。
「相手はダンジョンバトルの初陣です。まだ戦いかたが分からないと考えれば、合点がいくかと」
そうだとしたら楽なのだが、素直にそう考えるのは危険だと俺の中の何かが訴える。
俺はこれまで色んな相手と闘ってきたが、その誰もが俺を上回る采配だった。
そのおかげで俺の対戦成績は奮わず、今のところ2勝10敗だ。
だが敗戦から学んだこともある。
「ジャイアントラットを一旦引き上げさせ、1匹だけ相手ダンジョンの入口で待機だ。さて、現在のジャイアントラットの数は……」
「入口の1匹を含め、15匹が生存しています。増援は送らないのですか?」
まだ相手ダンジョンの罠を看破できてないのが不安だ。
ここを疎かにして足を掬われたら元も子もない。
「ならば侵入してきたジャイアントラットを片付けてから、こちらの残ってるジャイアントラットを向かわせるのはどうだ?」
「いいと思います、グーチェス様」
グーチェスがマッピングを妨害し、更に倍の数のジャイアントラットをあててきたため、アイカの放ったジャイアントラットが今まさに全滅しようとしていた。
「相手も中々やりますね」
「何を言っておるのじゃアイカ。どう見ても一方的にやられてるだけではないか」
アンジェラの見た目ではそう見えるかも知れませんが、実際に偵察の効果はあったのです。
1ヶ所だけゴブリンがたむろしてる場所があったのですよ。
間違いなくその奥が、ボス部屋へ繋がるルートになってるはずです。
「あ……偵察隊が全滅しやしたぜ。更に敵のジャイアントラットがカチコミかけて来やしたが、どうしやす姐さん?」
おやおや、全滅ですか。
さすがにこっちの倍の数はキツかったのでしょうね。
ならば今度は別の刺客を放つとしましょう。
「クロコゲ虫を10匹召喚して、敵の守りを固めてる所に突撃させて、奥へ強行突破させましょう」
DP260→DP250
クロコゲ虫……Gランクの生命力だけが取り柄のモンスターです。
その見た目は、数多くの者たちを恐怖のどん底に陥れると言われてるモンスターで、お姉様の世界ではゴキブリと言われてるらしいです。
でもただ突撃させても効果は薄い。
効率的に打撃を与えるには……、
「クロコゲ虫の突撃に合わせて、グレーウルフも5匹突撃させましょう。クロコゲ虫に気をとられてる隙に、一気に急襲させるのです」
DP250→DP0
綺麗にDPを使い切ることができました。
後はさっさと勝利しちゃいましょうか。
「クロコゲ虫を突撃させるとは、中々エグいことを考えるのぅアイカ」
いや、そんなにエグいことではありませんよ?
特にお姉様なら真っ先に思い付くはずです。
「それより、こちらの入口で待機してるジャイアントラットは……」
「まだ様子を窺っとるのぅ。早ぅ蹴散らしてしまえばよかろう」
そうですね、そろそろ隠し玉をお見せしましょうか。
アイカが新手を差し向けようと動いた時、グーチェスたちもまた動こうとしていた。
それもそのはず、入口でジャイアントラットを待機させているものの、一向に相手ダンジョンの状況が掴めないからだ。
ここへきてグーチェスたちは、後詰めのジャイアントと合流させ、一気に突破させようと考えた。
「もうすぐジャイアントラットが合流する。そうした「グーチェス様!」
「ベ、ベネリア、何かあったのか!?」
「入口に待機させてたジャイアントラットがファイヤーボールを食らいました。放った相手はレッドウルフです!」
「な!?」
レッドウルフ……Dランクのモンスターで、火属性のファイヤーボールを放ってくる。
だがレッドウルフの召喚に必要なDPは、2500ポイントと高額だ。
そして今回のダンジョンバトルに貸し出されたDPは、3000ポイントということを考えてれば……。
「ハッ!? いかん! コア、すぐにグレーウルフを6体召喚するんだ!」
『畏まりました』
DP390→DP40
「すぐに相手ダンジョンに突入させろ!」
くそっ、うかつだった。
相手ダンジョンの一本道の通路、あれはDPの節約のためのものだ!
相手は最初からボス部屋を特定することに専念し、ボス部屋にレッドウルフを突入させるつもりだったんだ!
「グーチェス様。クロコゲ虫とグレーウルフがゴブリン防衛隊に突撃してきます!」
「やはりこの先にボス部屋があるとバレたか……」
こんなことならばもっと強気で攻めてれば良かったのかもしれない。
そうすれば今頃は……。
……いや、あれこれ考えるのは止そう。
今は目の前のバトルに集中しなくては。
まだ負けた訳じゃないんだ!
「隊列を崩されないように注意だ。クロコゲ虫に構わず、グレーウルフに噛み付かれないように気をつけさせろ!」
『了解致しました』
クロコゲ虫の攻撃力は弱すぎて話にならんレベルだが、生命力だけはピカイチだ。
恐らく、クロコゲ虫はこちらを翻弄するためだけに召喚されたのだろう。
こうなると、後は時間との戦いだ!
レッドウルフがボス部屋に到達する前に、こちらのグレーウルフをボス部屋に送り込み、ボスを撃破する!
「後1勝で昇格できるんだ。これ以上アイツに馬鹿にされてたまるか!」
アイツは既に7勝2敗と好成績の上、後1勝でEランクになれるのだ。
「グーチェス様、あの男の言うことなど気にしてはいけません!」
「ベネリア?」
「誰が何と言おうとグーチェス様はグーチェス様なのです」
そう……だな。
焦ってるせいで、前が見えなくなるところだった。
「グーチェス様! こちらのグレーウルフが相手ダンジョンのボス部屋に到達しました!」
きたか!
後はいよいよボスを倒すだけとなったな。
「良くやった! すぐに中へ突入させ、ボスを撃破するんだ!」
相手のDPは残り少ない。
つまり、ボス部屋には強力なモンスターは居ないということだ。
俺は改めてグレーウルフの視点で見える光景を凝視した。
「……誰も居ない?」
ボス部屋にはなにもない。
ただ無機質に部屋が存在するだけだ。
「グーチェス様、これは明らかにおかしいです! 審判に抗議しましょう!」
確かに、本当に誰も居ないならルール上は相手の負けになるが……。
モルデナ
『はいはい、どうされました?』
グーチェス
『相手のボス部屋にモンスターがいないようだが……』
モルデナ
『ああ、なるほど、そういうことですか。でも残念ながら、アイリさん側のボス部屋にはモンスターが居ますよ。正体は私の口からは言えませんが』
グーチェス
『そ、そんなはずは……』
だがやはり相手側のボス部屋には何も映ってない。
いったいここに何が潜んでると……ん? 潜んでる?
俺はもう一度、ボス部屋を凝視してみた。
すると……。
「ん? 今、何かが動いたような……こ、これはクロコゲ虫!」
ここで漸く俺は気付いた。
相手はボス部屋のボスにまで影響する形でDPを節約したのだと。
ボス部屋に居たクロコゲ虫は、ひたすら逃げ惑うだけの存在だったのだ。
「グーチェス様、中々すばしっこくて撃破するのに時間がかかりそうです!」
くっ……まさかこのような手段でくるとは……。
そして中々クロコゲ虫を撃破できない状態が続き、そうこうしてる内にいつの間にかグーチェス側のボスが、レッドウルフによって討ち取られてしまったのだった。
アイリ「アイカぁ……それは芳香剤だから食べれないわよ~ぅ……むにゃむにゃ」
アイカ「お姉様はいったいどんな夢を……」




