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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第9章:邪王の遺産、争奪戦
209/255

ムーシェの記憶①

前回のあらすじ

 扉を開くには15個の鍵が必要だと判明し、4階層を捜索して2つの鍵を見つける事に成功する。

残りの13個を他のパーティが見つけると、いよいよ扉に差し込むのであった。


1/8 ムーシェの年齢を修正しました。

 とある街の冒険者ギルド。

 このギルドと併設された酒場で、ムーシェは1人エールを嗜んでいた。

 今しがた依頼を達成し終えたばかりで、正に仕事の後の一杯という雰囲気である。

 見た目は未成年の少女エルフだが実際の年齢は40を越え、Aランクとしての実力も有してる事からそこそこ名が知れている存在だ。

 基本ソロで活動中のムーシェは度々他パーティからの勧誘があるのだが、本人は1人が気楽だと言っていつも断りを入れている。

 そしてこの日もエールを手にした彼女に対し、1人の青年が声をかけてきたのだが……


「……邪王の討伐?」


「そうなんだ。あちこちの国が荒らされて、尚も被害が広大してる。このまま放置すると、いずれ世界中が荒れ果ててしまうかもしれない。そうなる前に、何としてでも邪王の野望は阻止しなければ!」


 真顔でそう話す青年は自身をベルセレックと名乗り、勇者として邪王を討ち取るのだと豪語した。


「……お断りします」

「え……」


 だがムーシェの答えは1分も経たずして本人の口から飛び出てくる。それも勇者を落胆させる方向に。

 何故かというと、この時ムーシェ自身は邪王という存在に対して関心を持っておらず、人伝で邪王という名のダンジョンマスターが暴れていると聴いた事がある程度であり、特に気にする必要はなかったのだ。


「ま、待ってくれ、もう一度考え直してはくれないだろうか? 僕が勇者とはいえサポート無しで戦いを挑むのは無謀だと思ってる。頼む、僕を助けると思って!」

「…………」


 一度は断られた勇者だが、尚も食い下がるとムーシェに対して頭を下げる。

 だがそんな勇者を冷ややかに見下ろしてたムーシェは直後、勇者が凍り付くような発言をかますのであった。


「……あまりしつこいと、私のような幼い少女をハーレムに加えようとしてると大声で叫ぶ」

「ちょっ!」


 勇者は焦った。もう盛大に焦った。

 そのような事を叫ばれては、邪王を討伐するところではなくなり、最悪勇者としての名声も地に落ちてしまうだろう。

 そこで勇者はムーシェを落ち着かせ、強いては自身も落ち着くためにエールを追加で注文すると、彼女の前に差し出した。


「とりあえず落ち着いてほしい。当然僕の奢りだから」

「……サンクス」


 勇者の気転のお陰かエールの入ったグラスを受け取ったムーシェは、やや気分を高揚させるとグラスを口に近付ける。

 右手で口に流し込みながらも、何故か左手は勇者が飲もうとしたグラスを奪い取る荒業を見せ、勇者は喉を潤す機会を失いつつ説得を試みる羽目になった。


「も、勿論ただでとは言わない。冒険者ギルドの依頼としても邪王討伐は出されてるし、僕が所属する国からも褒美が出る。それを等分して君にもあげるよ」


 ムーシェの視線は勇者が手にしたカードに目が止まる。

 それは国から正式に勇者であると認められた者にしか授けないもので、目の前に居るベルセレックは本物の勇者である事を証明していた。


「……貴方の目的は分かった。けれど私を勧誘する意味が分からない。強い魔法士は幾らでも居る筈。何故私に?」


 そう、これが最大の疑問だった。

 今現在ムーシェが居るのはアレクシス王国内の街であり、勇者の所属する国とはグロスエレム教国を跨いで行かなければならない程の距離にある。

 そんな遠方からわざわざ自分を訪ねてくるなどおかしいと思うのが普通だ。


「君の実力は聴いている。単身でAランクまで上り詰めた強者だそうじゃないか。それほどの実力者なら是が非でも仲間に加えたいという考えは、時には距離をも無にしてしまうものだよ」


 勇者も最もらしい事を述べる。

 だがこれには少々無理があり、仲間を探して国を跨ぐなど幾らなんでも普通ではない。路銀とてバカにならないし、時間も無限な訳がない。ならば何か他の理由があると勘ぐるのが常というものだ。


「…………」

「……っ」


 ムーシェに無言で顔を覗き込まれた勇者は、妙な汗をかきながらも笑顔を取り繕う。

 不自然な笑顔を浮かべた勇者に対し、ムーシェは改めて言葉を発した。


「……貴方は何かを隠してる」

「うっ……」


 図星だった。ムーシェを勧誘しに来たのは間違いないが、彼女を選んだのにもキチンとした理由があり、ただ強いからという理由で選んだ訳ではない。

 だが今ここで言うのは躊躇(ためら)われるため、視線を宙に游がせつつもどうしようかと思考を巡らせる。

 しかし、非情にもタイムリミットとも言えるグラスの中身が底を尽き、ムーシェが立ち上がったところでタイムオーバーとなった。


「……エール、ご馳走さま。それじ――「ま、待って、分かった、僕が悪かった。ちゃんと理由を話すから、とりあえずもう一度聞いてくれ!」


 立ち去ろうとするムーシェの手を掴み誤魔化してた事を詫びると、ムーシェの耳元であるキーワードを(ささや)く。


()()()()()である君に頼みたいんだ」

「!!」






「今更言うのもなんだけど、僕を部屋に招いて良かったのかい?」

「……大丈夫。問題ない」


 あの後、酒場で話すのはマズイと感じた2人は、ムーシェの提案により彼女が泊まってる宿へと移動した。既に日が落ちてるため、人目のつかない場所だとかえって危険が生じるからだ。

 因みにどのように危険なのかというと、物陰でガラの悪い連中がこちらを(うかが)ってた場合、最悪は口封じをしなければならないからだ。

 相手が根っからの悪人ならばそれでも構わないが、ただのチンピラ相手だと罪悪感が沸くのも無理はない。

 つまりこれから話す内容は、それだけ秘匿しなければならない事なのである。


「じゃあ早速だが、僕の――「待って。その前に大事な事がある」――え?」


 本題を切り出そうとした勇者を止めて、そっと手を取る。


「ちょ、ムーシェいったい……」


 突然の事に動揺する勇者はしどろもどろになり、出会ったばかりの2人だが、もしかしなくても関係が深まってしまうのかという妄想を掻き立てる。

 ムーシェをお姫様抱っこしながら邪王を討ち取るところまでを頭の中で想像し、無事ハッピーエンドを迎えそうになったところで勇者が手にしてたエールのボトルをサッと奪い取ったムーシェが、エール専用のマイグラスへと注ぐ。


「……エールが私を呼んでいた」

「え、えぇぇ……」


 ガッカリしたような、そりゃそうだよなという複雑な感情が勇者の全身を駆け巡るが、自身もエールに口をつける事で何とか落ち着きを取り戻す。

 ハッピーエンドが消え無難にトゥルーエンドを迎えたところで、漸く勇者が口を開いた。


「邪王は強力な眷族を有してると聴く。あくまでも噂だが、眷族の中にはAランクのモンスターも含まれるらしい」

「……Aランク?」

「そうだ。既に国1つが壊滅に近い被害を受けてるし、事実の可能性は高いと見てる。もしそのような眷族を複数抱えてたら、もっと多くの国が滅びるかもしれない。そこで僕は強力な仲間を得ようと決意したんだ」


 Aランクというフレーズに、ムーシェはピクリと反応する。

 もしもそれが事実ならば国が軍隊を出すレベルであり、しかも野良の魔物ではなく知性をもって行動してるのならば脅威度はハネ上がる。

 これを撃破するならば、ただ強いだけでなく血統を受け継いだ存在が必要となるだろう。


「アレクシス王国の初代国王は勇者だった。彼の子孫が代々国王の座を継いではいるが、その中には勇者を名乗る者は居ない。だが僕には確信があった。勇者として玉座に着いてないのであれば、身分を隠して国を影から支える――もしくは、世界を放浪してるのではないかと。そして――」


 一度言葉を区切るとムーシェに向き直り……


「――その考えは正しかった」

「…………」


 ベルセレックの目は真っ直ぐにムーシェの目を捉えており、彼女こそが勇者の末裔であると訴えていた。

 やがて暫しの沈黙の後、フゥとため息をついたムーシェがグラスの中身を飲み干すと、相変わらず無表情だがどこか柔らかくなった雰囲気で口を開く。


「……よく分かったね、親族以外には誰にも話してない筈なのに」 


 ムーシェは友人知人には一切素性を明かしていない。当然冒険者ギルドでも把握しておらず、ギルドカードを見ただけではAランクのムーシェしか分からないのだ。

 そして今度はベルセレックがため息をついて語り出す。


「……苦労したよ。勇者の権限を使って書庫を調べても、一切記録に残ってなかったし。だからね、獣人のミリオネ、魔族のリーガ、エルフのエレム、これらの大元を探ってみたんだよ」


 ベルセレックはアレクシスの子孫ではなく、この3人の子孫を調べたのだ。

 いくら勇者アレクシスの子孫で調べても王族しか見つからない。ならばと思考を練って思い浮かんだのが、伴侶3人の子孫を調べるというものだ。

 しかしそれでも簡単にはいかなかった。

 現にミリオネとリーガの子孫は判明しておらず、唯一見つけるのに成功したのがエレムの子孫であるムーシェだったのだ。


「……理由は分かった。正直に話してくれたから協力する事にした」

「ほ、本当か!?」

「……本当本当。エルフは嘘つかない」


 ……嘘である。エルフでも嘘をつく者は普通に居る。


「ありがとう! 君の協力に感謝する!」


 こうして若干掴み所がないムーシェは、勇者ベルセレックと共に邪王討伐へと乗り出したのであった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「ちょっとムーシェ、さっきからボーッとしてどうしたの? ただでさえ眠そうな顔が今にも爆睡しそうに見えるけど……」


「……なんでもない。ちょっと昔を思い出してただけ」


「ふ~ん? まぁ大丈夫ならいいけど」


 過去にこのダンジョンに来た時の事でも思い出してたのかしらね? 一度来たって言ってたし、何かヒントになる事でも思い出してくれたら有り難いんだけど。

 因みに4階層にはボス部屋が存在しなかった。いや、正確にはボス部屋じゃなかったらしく、遺跡エリアへと変化した通路が奥へ奥へと続いてる状態だった。

 ムーシェに聞いたけど、案の定過去に遺跡エリアは存在しませんでしたというオチよ。


『お姉様、大事な事を伝え忘れてましたので、今から報告致しますね』


 おっと、アイカからの念話だわ。


『本当に大事な事なら忘れないでほしいんだけど……。で、内容は』


『はい。お姉様も鑑定スキルが有るのでご存知かもしれませんが、実はカウボーイハットを被った渋い男の鑑定に失敗したのです』


 鑑定が失敗!?


『何で失敗する訳?』

『恐らくですが、何らかの加護を授かってるものと推測します。なので、万が一戦闘になるようなら注意して下さい』


 加護……つまり、神様からのギフトって事になるんだろうけど、あのオッサンが加護を持ってるとはね……。


『分かった。私の方でも鑑定かけてみるわ』

『それからもう1人鑑定に失敗した人物がこちらに居りますので、わたくしの方で注意しときます』


 え、加護持ちがもう1人居るって事!?


『それは誰なの!?』

『名前は不明ですが、獄炎傭兵団の副団長を勤めてる若い女性です』


 少々面倒ね……。毎度の事だけど、今回も油断しないように気を付けよう。

 カウボーイハットのオッサンは私が注意して見張るけど、傭兵団の副団長はアイカに任せるしかない。


 ゴゴゴゴゴ……


「な! この音は!?」


 突然地鳴りが発生したので、慌てて周囲を見渡す。


「お、おい、あそこに扉が!」


 1人の冒険者が前を指さす。

 数百メートル離れた先に扉が見え、それが少しずつ閉じようとしていた。


「「我に翼を、ウィング!」」


 後ろを歩いてたプラーガの魔術師が風魔法で加速した!


「チッ、走るぞ野郎共!」


 それに遅れるかと獄炎傭兵団も走り出し、私の脇をカウボーイハットのオッサンが通り過ぎて行く。

 こんなところでリタイアはしたくないので、私も少々本気を出そう。


「行くわよムーシェ!」

「……!」


 私はムーシェを担ぐと本気で走り出す。

 その結果、先に述べた連中を呆気なく抜き去ってしまった。


「「「「「んな!?」」」」」


 背後で他の連中が驚いた声をあげてるけど、気にしてる余裕はない。……いや、多少は有るかな?

 っと、それはどうでもいいわね。

 結果は堂々の1着でゴールイン! 先に述べた連中も私達に続いて転がり込む。

 だけど……


「クソーーーッ! 間に合わねぇ!」

「チッキショウガーーーッ!」


 同行してた2人が間に合わず、扉に阻まれてしまった。可哀想だけど、最初の脱落者ってところね。


 残り13人


アイカ「さて、鬼の居ぬ間にスイーツタイムといきましょう!」

アイリ「誰が鬼だって?」

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