扉の先へ
前回のあらすじ
4階層にたどり着いたアイリ達は、ボス部屋の前に密集する冒険者達を見つける。
聞けば彼等は扉が開かないため、そこへ画かれている壁画をヒントになんとか謎を解明しようとしてるところであった。
だがドローンによる解析の結果、扉を開くのには15の鍵が必要であると判明し、各々のパーティは四方に散って鍵を探すのであった。
鍵を探して三千里……って訳じゃないけど、手分けして4階層を捜索した結果、現在私達の手元には2つの鍵が有る。
「はい、1つはゼイルさんが持ってて。全部の鍵が揃ったら扉にある鍵穴に差し込むから」
「あ、ああ。だが貰っちまって良かったのか? 俺の予想だと、鍵を見つけたパーティが財宝を獲得する権利を主張する流れになると思うんだが……」
受け取ったゼイルさんが困ったような顔を見せる。
でもそれは想定内よ。冒険者なんだから、財宝を他人に譲るような真似はしないでしょ。
「鍵穴が全部で15箇所あるから当然鍵も15個ある。これら全ては同時に差し込まないといけないらしいの」
つまり、私達全員合わせても8人しか居ないから、他者の協力が必要になる。
アイリーンから連れてきてもいいけど、それだと私達が独占する形になるから相当恨まれると思うし、何より財宝に興味はない。
あるのはこの不可思議なダンジョンの正体――言い替えれば、このダンジョンを管理してる存在よ。
「そういう事か。そりゃ確かに正しい判断かもなぁ」
「同感だね。あの――獄炎傭兵団だっけ? アイツらとか特に怪しいしね。だいたい傭兵ってのはさ、紛争とか内乱とかが起こってる場所じゃないと商売にならない筈なのにさ、なんだってこんなダンジョンに居るんだって話じゃない?」
言われてみるとベニッツの言う通りかもね。
本来ダンジョン探索は実りがあるのか不明なものなんだから、傭兵が手を出すのは躊躇う筈よ。
だからダンジョンに入るのは、必然的に冒険者が多くなる。
「なぁんだ、やっぱり連中は他人から財宝を横取りするつもりなんじゃない」
「……そうかもしれんが、くれぐれもこちらから手は出すなよ?」
「分かってるわよ。その代わり、襲ってきたら倍返しは確定だからね」
再度ゼイルさんに念を押されたキンバリーさんには、いざという時に活躍させてあげよう。
剣を振るう機会が無くて【私不満です!】って顔をしてるし。
「ま、常に警戒しとけば大丈夫だとは思うけどね。でも俺としちゃあ青いローブを着た連中も気になるんだよねぇ」
青いローブ……ああ、あの気位の高そうなローブの集団ね。
「あのローブに加工されてる刺繍なんだけどさ、竜に跨がった騎士が剣を掲げてるように見えなかった?」
さすがに斥候をこなすだけあって、ベニッツは観察力が高いわね。ローブの刺繍までは気にしてなかったわ。
「勿体振らないでさっさと言いなベニッツ」
「ちょ、そんな怒んなよ。小皺が増えるぜ?」
「……あ~、なぁんか無性に運動したくなってきたわ~、どうしよっかなぁ~――「だぁぁぁ待て待て! 俺が悪かったって! イダダダダ! ちょ、誰かキンバリーを止めてくれぇぇぇ!」
さて、この2人が体を張った漫才を始めたところで、ローブの刺繍について思い出してみよう。
……とは言え、そんなものに記憶はないんだけども。
「お姉様、一つだけ関連性が疑われるものを思い出しました」
「ほんとに?」
「はい。お姉様が始めてダンジョンを解放された時ですが、あの時ホークに上空からの偵察を命じたのを覚えてますか?」
……うん、どうやら覚えてないらしいわ。
あの時既にホークは居たんだっけ?
「どうやら覚えてらっしゃらないようなのでお教えしますが、ホークにダンジョンの東側を偵察するように命じたのですよ」
う~ん、そんな事もあったのねぇ。もう全然覚えてないわ。
「そしてホークが見つけた街の防壁には、プラーガ帝国の国旗が取り付けてあったのです」
ふむふむ、プラーガ帝国の――
「ああ! 思い出した! 竜騎士はプラーガ帝国の国旗よ!」
「そ、その通りさ。つつ、つまりさ、あのローブェ……失礼。ローブを着た連中は、ゴフッ……プラーガ帝国ののののの、ちょギブアップギブアップ!」
はい、キンバリーさんに関節を固められながらもよく言えました。
「プラーガ帝国の宮廷魔術師ってところか? またなんだってそんな連中が……」
そうよね、こんなところに来てプラーガ帝国が得する事なんて何もない。
強いて言えば、獄炎傭兵団のように財宝を掠め取るくらいか。
「案外アイツらも気が短いんじゃない? あたしも他人の事言えないけど、ここはグロスエレム国内じゃないし、プラーガが難癖付けに来る分には不思議じゃないけどね」
お、何かキンバリーさんの着目点は良さそう。
確かにそれならあり得そうね。とりあえず様子を窺ってみて、繁盛してたらイチャモンつけるとかね。
逆に閑散としてたら放置しとけばいいんだし、偵察に来たという説なら頷ける。
「イデデデ……。まぁそういう事さ。けど俺が見た限りじゃ、変な帽子を被ったちょっと強面の男が居たろ? アイツなんかは相当強そうな感じがしたね」
「ああ、あの渋くてカッコいいオッサンね」
話しかけられた時は気を使ってくれてるって感じたから、私の中では凄く好印象なんだけども。
「ソロで活動してるって事は強者で間違いないだろうから、一応は用心した方がいいぜ。これ、斥候職からのアドバイスな」
まぁ、一応ね。
『お姉様、鍵を見つけたパーティが戻って来ました』
私達に遅れる事30分。最初に戻って来たパーティは、あの気に入らない獄炎傭兵団のパーティだった。
「ほら、見つけてきてやったぜ。コイツをどうするってんだ?」
私達の前でダンッと足を踏み鳴らし、4つの鍵を見せつけてきた。
相変わらず粗暴な感じね、あ~ヤダヤダ。
「はぁ……。さっきも言ったけど、この15ヶ所の鍵穴全てに同時に鍵を差し込まないといけないのよ。だから他のパーティが残りの鍵を見つけるのを待つのね」
「チッ、面倒くせぇなクソッ! ――おい野郎共、暫くは休憩だ!」
団長の男が振り向き様に扉を蹴って戻っていく。何処までも粗暴な奴……ベ~だ!
「お、別のパーティも戻って来たぞ。アレは例のプラーガ帝国の奴等だな……」
ゼイルさんが顔を向けた方向から、青いローブの集団が戻って来る。
「この鍵で間違いないであろう?」
「――そうね。それで大丈夫の筈よ」
このローブ集団は鍵を2つ見つけたみたい。
しっかし相変わらず上から目線で話すわね。あの傭兵団はもとより、コイツらともなるべく関わらないようにしよっと。
その後も続々と鍵を見つけたパーティが戻って来たんだけど、結局全ての鍵が見つけ出される頃には日没なってしまったため、先に進むのは次の日に持ち越された。
次の日の朝、各パーティの代表者が鍵を持って集合する。
私達の代表は当然私アイリと、ゼイルさんの方はムーシェが代表って事で出てきた。
元々このダンジョンの探索がムーシェたっての希望だからそれも当然か。
「じゃあ用意はいい? カウントゼロと同時に差し込むからね?」
周囲を見渡して最終確認をする。失敗したらどうなるか分からないし、なるべくなら失敗したくない。一応アイカ達に罠が発動しないか見ててもらってるから大丈夫だとは思うけど。
皆が無言で頷く――若干1名はイラつきながら鼻を鳴らしてる――のを確認して、カウントダウンを始める。
3
2
1
0!
さて、これで上手くいった筈だけど……
「おい、これで正解なのか? 別に何も起きねぇじゃ――『ゴゴゴゴゴ……』――!」
例の団長が文句をつけようとしたところで、低く鈍い音を立てながら両開きの扉が開いていく。
「おお、マジで開いたぜ!」
誰かが言うと小規模な歓声が沸き、直後に先へとなだれ込もうとする……が!
バチン!
「な、なんだ? 弾かれたぞ!?」
一組のパーティが入ろうとすると、たちまち外へと弾かれてしまった。
但し、鍵を持つ1人は除いて。
「成る程ね。鍵を使った者しか先に進めないんだわ」
つまり、アイカ達にはここに残ってもらい、私とムーシェだけで進むしかない。
「おいおい、んな事聞いてねぇぞ!」
「そうだそうだ! どうしてるくれるんだ!」
でもこうなると、鍵を見つけ損ねたパーティからは苦情が出るのよねぇ……。
可哀想だけど、今回は諦めてもらうしかない。
「へっ、今更喚いても遅いぜ。恨むなら鍵を見つけられなかった自分達を恨みな!」
仁王立ちで発した団長による一言で、ヘイトが獄炎傭兵団へと向いてくれた。入れないパーティは団長を睨み付けるけど、本人はどこ吹く風。逆に涼しい顔して見下ろしてるわ。
ちょうどいいからヘイトは全部コイツらに向くように誘導しよう。
『お姉様、どうやらダンジョントリックの一つのようで、ドローンの侵入も阻まれました。この先は充分にご注意下さい』
くぅ……油断ならない展開になったわ。最悪はムーシェを連れて脱出する事も視野に入れとこう。
『ですがこれでハッキリしました。このダンジョンには確実にダンジョンマスターが存在し、侵入者を誘導してるのは間違いありません』
『うん。こっちは充分に注意するわ。だからそっちも気をつけてね? まだ目的不明で怪しい連中が居る事だし』
獄炎傭兵団が財宝を狙うという効率の悪いものに手を出す理由は不明だし、プラーガ帝国の魔術師が来てるのも偵察だと断定出来ない。
それに割と丁寧だった渋いオッサン。あの人もソロで活動してるなら相当な腕利きって事になるから注意は必要ね。何せ鍵を見つけた1人だし。
『なぁに、こっちは心配無用じゃ。何かが襲ってきても、妾が返り討ちにしてくれようぞ!』
そうね、アンジェラや脳筋のキンバリーさんが居れば大丈夫か。
クイックイッ
ん? 誰かに袖を引っ張られて……
「ムーシェ?」
「……皆先に進んだ。私達も急いだ方がいい」
ムーシェが扉の先を指す。
その先には鍵を手にした冒険者達の背中が……って、いっけない! 他の連中がもうあんな遠くに!
「急ごう!」
私は慌ててムーシェの手を引いて駆け出した。
アンジェラ「お主らも脳ミソがキンキンに冷えておるのか?」
ゼイル&キンバリー「は?」




