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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第9章:邪王の遺産、争奪戦
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進展

前回のあらすじ

 冒険者ランクを昇格させたアイリ達は、ムーシェの同行したいという頼みを聞き、ゼイル達のパーティと共に邪王のダンジョンへと入った。

 すると各階層のボス部屋の前に、獄炎傭兵団の一部がたむろしてるというキナ臭い雰囲気を感じつつも、4階層へとたどり着いたのであった。



 ムーシェを先頭に4階層の洞窟エリアを突き進む。

 ご多分に漏れずこの階層も罠が盛り沢山らしく、時折私達以外のパーティが怪我人を抱えて撤退するところに出くわしたりもしたけど、ムーシェのルーンガードによって殆どの罠が無効になる私達には当然無意味。


「でもこの()のソレにも欠点が有ってね、罠に対してはご覧の通りなんだけど、人力が加わってるものには効果は無いのよ」


「――というと?」


「つまりね――」


 コツン


 見た方が早いと言わんばかりに、鞘に入れた情態の剣でムーシェの頭を小突いて見せた。


「……痛い。キンバリーが苛める……」


 あ、あれ? ルーンガードが効かない? これはいったい……


「小突いた剣の時間は止まっても私自身の時は止まる訳じゃないの。まぁ飛び道具以外の攻撃には弱いと思っていいわ」


 かなり有用な魔法だとは思うけど、魔物や他人との戦いには向かないのね。


「…………」


 で、その当人が凄い冷たい視線を後ろに――というかキンバリーさんに向けてるんですけど……。


「ああもぅ悪かったわよ! 後でエールでもなんでも奢ってあげるから!」




「…………」ニヤリ


 ここでも確信犯!?


「くっ、騙されたわ……」


 200年の間、このエルフに何があったのか知らないけど、熟年の技を垣間見たわ。


「あ~スキンシップもいいんだけど、そろそろ前方に注意してほしいかなぁ。ほら、ボス部屋の前に大勢のパーティが居るみたいだしさ?」


 注意を促してきたベニッツが指す先には、大きな扉の前でテントを張ってる複数の冒険者パーティが、扉とテントを行き来していた。


「何をやってるのかしらね? 先に進むんならさっさと扉を開ければいいと思うんだけど」


 でも、この不思議に見える光景は、現場にたどり着いてはっきりした。




「暗号のようなもの?」


「ああ。ボス部屋の扉に見た事がない壁画が彫られてるのさ。それで皆必死になって解読しようとしてるって訳よ」


 近くの冒険者に聞いてみると、ボス部屋の扉は固く閉ざされており、その扉に彫られてる壁画のようなものが何らかのヒントになると考え、各々のパーティで解読を進めてるんだとか。

 行ったり来たりを繰り返してるのは、扉の前を独占しないようにという暗黙のルールが出来上がったためだった。


「しっかしコレを解読しようって正気か? よく見りゃ扉にビッシリと彫られてるじゃねぇか。こんなのを見せつけられちゃあ頭が痛くなってくらぁ」


「同感。こんなのを解読するより、扉の壊し方を考えた方がマシよね」


 脳筋2人の言う事も分からなくはない。

 成人の男を20人くらい並べた大きさがある扉にところ狭しと彫られてる壁画をみれば、誰だってうんざりするってもんよ。


「それで、この壁画はどういう意味なんだ?」


「……分からない」


「へ?」


 ムーシェなら知ってるだろうと踏んだゼイルさんが、素っ頓狂な声をあげる。

 私を含む他の面子も、ムーシェなら知ってるものだとばかり思ってたから、動揺した様子が顔に出てしまった。


「分からないって……お前は邪王の討伐に同行したんなら知ってるんじゃないのか?」


「……以前来た時には、このような壁画は刻まれてなかった」


 それってつまり、誰かが意図的に彫ったって事よね? ならこのダンジョンは邪王に代わる何者かが居座ってるって事?

 う~ん、益々分かんないわね……。


「ならしゃーない。他のパーティと同じく、地道に解読するか」

「とか言いつつ、テントで休んでるから解読はムーシェと私に任せるとか言うんでしょ?」


「……コホン。役割分担だ。俺とベニッツはテントを張るから、お前とムーシェに解読は任せる」


 意外にも知識が有るらしキンバリーさんとムーシェが解読に取りかかると、ゼイルさんとベニッツがテントを取り出す。

 なら私達もテントを張ろうかな。


『お姉様、扉に彫られた壁画なのですが、わたくしもドローンでの解読を試してみます』


 そういえば私達にはドローンという秘密兵器が有ったわね。

 解読はドローンに任せて休憩にしましょ。






「あ~そういえばお腹減ったわね。何か食べる物を――「お姉様、どうせなら凄腕の料理人に頼んでは如何でしょう?」――料理人?」


「はい。こんな事もあろうかと、料理人をスカウトしてきたのですよ」


 いやいや、どっからスカウト――っていうか、拉致してきた訳じゃないでしょうね?


「何を不安そうにしてるのか分かりませんが、キチンと本人の同意を得て連れて来てますからね?」


 それならいいんだけど――いや、そもそもこんな所に連れて来て大丈夫なんだろうか? それにダンジョンに料理人連れて来るって、どっかの貴族みたい。


「それで、その料理人とやらは?」


「はい。今現在垂れ幕の向こう側にて調理中ですので、暫しお待ちを」


「垂れ幕?」


 気付いたらテントの奥に垂れ幕が下がっており、その奥からトントントンといつリズミカルな包丁の音が聴こえてくる。


「さて、料理人はいったい何を作ってるのでしょう……というのが今回の出題です」


 は? 出題? それはいったい……なんて考えてるうちに、いつの間にか周りはクイズ番組のスタジオに変化していた。

 いやいやいや、さっきまでテントに居た筈なのに何故!?


「それでは改めて問題です。この奥で作られてる物は、いったい何なのでしょう?」


 そしていつの間にか司会者の席にアイカが立っている。


「では、アンジェラさん、どうぞ!」


 って、司会者が指名する訳? しかも回答者の席にアンジェラが居るし。


「生肉かのぅ」


 いやいや、何故に!?


「残念、生肉ではありません」


 そりゃそうよね。そもそも料理じゃないもの。


「ではもう一度アンジェラさん」


 また!?


「ならば生野菜でどうじゃ?」


 どうじゃって、これも料理じゃないでしょ。


「残念、生野菜でもありません。ではもう一度アンジェラさん」


 って、まさか正解するまで続ける気!?


「おお、思い出したぞ、マヨネーズじゃろ?」


 ちょっとちょっと、何を切っ掛けにマヨネーズを思い出したのよ……。しかも全然違うし。


「う~ん、おしいですねぇ」


 おしいの!? マヨネーズって調味料でしょ!?


「マヨネーズの中に入ってる物でお願いします。ではアンジェラさんどうぞ」


 ああ、そういう意味か。


「ならば生卵で決まりじゃな!」


 だから料理じゃ無いってば!


「はい、正解です。では待望の生卵のオープンです!」


 生卵が正解!?


 スルスルスル……ジャジャーン♪


「は~い~、お待たせしました~♪」


 え、料理人ってセレン? エプロンつけたセレンが台所に立ってるんだけど……。


「アイリ様~、フライパンに~、注目して下さい~♪」


 ん? フライパンの上にある卵がプルプルと揺れ動いてる?


 プルプルプルプル……パカッ!


「毎度ーーーッ! イグリーシアの癒し系ホークやでぇ! さぁアイリはん、どっからでも食べたってや!」


 食べるかーーーッ!!






「ふざけるのもいい加減にしなさいホーク!」


「「「ヒィッ(ぬぉっ)!?」」」


 ハァハァ……あ、あれ? ここは……テントの中よね?


「お姉様、いったいどうされたのですか?」

「アイカ、ホークは? アイツはどこいったの!?」

「はて? ホークはアイリーンに居る筈ですが……」


 あれ? なんかアイカ達3人が互いに顔を見合わせて首を傾げてる。


「お姉様がいったいどんな夢を見たのか知りませんが、あの(ホーク)は夢の中でまでふざけた事をしたようですね」


 ああ、そっか。つい寝ちゃったんだ。


「まぁそうよね。突然アイカがクイズを始めたり、アンジェラが回答席に居たり、セレンが料理するなんて天変地異もいいとこ――」


 ガシィィィ!


「ヒィ!?」

「アイリ様~、そこまで言うのでしたら~、私の()()()()()()みますか~? ん~?」

「ご、ごめんごめん、悪かったって!」


 危ない危ない。セレンの隠れ地雷を踏むところだったわ。いや、半分踏んじゃったけど。


「お姉様、セレンも落ち着いて下さい。つい先程解析が完了しました。実際に現物の前で説明致します」 


 解析が出来たようなので、テントから出て扉の前にやって来る。

 するとどこから出したのか、アイカが教鞭を使って説明を始めた。


「まず壁画の縁側に画かれてるモヤッとした塊ですが、よく見てください。それぞれに目や口があるのが確認出来ます」


 うん。言われてみれば、そういう風に見えるわね。


「で、あるならば、これらは人――要は冒険者を示してると思われます」


 ふむ……つまり、今の私達って事ね。


「次に各々の冒険者が手にしてる物に注目して下さい」


 手にしてる物……そういえば何か持ってるわね? 小さくてよく分かんないけど。


「コレは鍵を示しており、その鍵を扉にある鍵穴に差し込もうとしてる冒険者を画いたものだと思われます」


 成る程。よ~く見ると、扉のあちこちに鍵穴があるわね。

 つまり、扉を開くには鍵が必要と……。


「そして扉の左側にある細かい線は、扉の中央から漏れた光を示しており、この光は冒険者が望むものが映ってると考えられます」


 ふむふむ。つまり、この扉の奥には冒険者の探してるものが有ると……。


「最後に扉の上部に刻まれている文字ですが、解読すると【邪王の間】と読み取れます」


 まぁ邪王のダンジョンなんだから当然よね。


「少々回りくどい言い方でしたが、一言でいうと【この先に邪王の財宝が有る】という内容ですね」

「「「「「財宝!?」」」」」


 おおぅ!? 周りの冒険者が財宝という単語に反応した!

 特にキンバリーさんは真顔で駆け寄ってきて、アイカの体をガクガクと揺らしている。


「そ、それって本当なの!?」

「少なくとも、わたくしの解析結果によれば……ですが」


 更に財宝という単語が他のパーティメンバーにも伝わっていき、あっという間に囲まれてしまった。


「おう小娘、どうすりゃ先に進めんのかさっさと答えな!」


 最初に食い付いてきた――というか絡んできたのは、獄炎傭兵団の団長の男だった。

 な~んか嫌な感じね……。


「何故貴方に教えなくてはならないのでしょう? それに人にものを尋ねる態度としては、不合格と言わざるを得ないですね」


「くっ、このガキ……」


 よく言ったアイカ。コイツはまともに相手しなくていいわ。


「確かに今のはソイツが悪ぃわな。でだ嬢ちゃん。俺としちゃあどうしてもこの先に用があるんでな、出来れば教えちゃあくれねぇかい?」


 次に聞いてきたのは、冒険者ギルドのカウンター席に座ってた渋い男性。

 こういう丁寧な聞かれ方なら教えてあげてもいいわ。


「貴方は先程の方とは違って良識があるようですね。ならばお教えしましょう」


 アイカがあっさり教えると言い出したのを見たさっきの団長は、舌打ちしながらアイカと男を睨んでいる。

 教えてもよかったけど、あのまま教えるのも(しゃく)だから、これでいいわね。


「扉にある鍵穴の数だけ鍵がある筈ですので、それらを集めて差し込むのです」


「ほ~ぉ。それで、その鍵とやらはどこにあるのだね?」


 やや上から目線のこの爺は、青いローブを着たパーティの1人よ。

 何となく態度がデカイ感じがしたためかアイカが迷ったみたいだけど、結局教える事にしたみたい。


「……このダンジョンの何処かに隠されてると思われます」


「っしゃあ! 探し出すぜ!」

「「「「「オオォ!」」」」」


 そしてこのアイカの言葉を皮切りに、各々のパーティが四方八方に散らばって行った。


「おいおい、あんな貴重な情報バラしちまってよかったのか?」


 ゼイルさんが心配そうに言ってくれたけど、全部で15個もある鍵を探すのは面倒だし、手伝わせる意味もあってバラしたのよね。

 寧ろ私としては協力してくれて感謝してるのよ。そもそも財宝には興味ないし。


「だから2つくらい確保しておいて、残りは探してもらいましょ」

「そうですね。わたくし達とゼイル殿のパーティとで1つずつ持てばよろしいかと」


「お前さん達、アイツらを(あご)で使ったのか。末恐ろしいな……」


 使えるものは使わないとね。

 これでもダンジョンマスターだし、賢く生きないと。


「それよりも私達も探しに行きましょ。さすがに全ての鍵を取られるのはマズイし」


 さて、このダンジョンを維持してる奴の目的は分かんないけど、私は私のやり方で攻略するまでよ。


ホーク「ヘックション! なんや誰かに噂されとるな」

ザード「気のせいでは御座らんか?」

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