番外編:年末のシンデレラ(後編)
出演
シンデレラ(末子):魔法少女ユーリ
勝ち気な長女:魔法少女リゼット
暴力次女:魔法少女ヒカリ
僕っ娘三女:魔法少女シーラ
お城の王子:ルカーネロ
公爵令嬢:アイリ
公爵令嬢の側近女:アイカ
公爵令嬢の側近男:千手
専属料理長:リヴァイ
王子の私兵A:ホーク
王子の私兵B:ザード
男警察官:トミー
女警察官:キャメル
「くっ、肉弾戦では勝機は薄い……なら!」
「「む?」」
シンデレラの謎目いた気合いに、公爵令嬢とその側近は身構える。
だがシンデレラのとった行動は、2人の斜め上をいったものだった。
「次女、もう一度です、今こそスカートを捲る時です!」
「だぁぁぁ! 何でそうなる!?」
「こうなったら観戦してる王子に色気でアピールしましょう! 上手くいけば不戦勝になるかもしれません!」
「んな事あるか! つーか手を離せ手を!」
「バカくさ……」
さすがの公爵令嬢も、ため息が出そうな展開である。
先程は側近の1人が男であったために起きた出来事であるため、女性2人に対しては効果は皆無。しかも色気よりも狂気を好む王子に対しては、やる前に知っておくべきだったのだ。
「時間の無断だし、さっさと叩きの――ん?」
今のうちに叩きのめしてやろうと思った公爵令嬢だったが、なんと、自身の側近までもが斜め上の行動をとりだしたのだ。
「このままでは色気で負けてしまいます。さぁ、反撃開始です!」
「は? 色気っていっても――って、何すんのよ!?」
突然側近が令嬢のドレスを捲り上げようとしたのだ。
「だから言ったではありませんか。向こうに対抗して、こちらも色気で迫るのです!」
「いやいや、意味分かんないし! ってかドレスから手を離しなさい!」
「ダメです! このまま王子を取られてなるものですか!」
「王子なんかどうでもいいわ! ってちょっとマジで止めなさい! 見える見える!」
だがこの様子を見てたシンデレラの心境は穏やかではない。
「くっ、まさか対抗してくるのは予想外でした」
「まったくだな。向こうにもお前と同じバカが居るとは思わなかったぜ……」
相手が対抗してきた事に危機感を募らせたシンデレラは、更なる強行手段に打って出る。
「こうなったら上も使いましょう!」
「は!? って、や、止めろ、そっちはマジでヤメロォォォ!」
中々スカートから手を離さない次女のせいもあり、色気が不足してると感じたシンデレラは、シャツまで捲り上げようとしたのである。
「大丈夫です! ほんの少しでいいんです! それこそ先っちょだけで済みますから!」
「バカヤロウ! その先っちょがマズイんじゃねぇか!」
「ほら、見て下さい、この会場内の熱気を。皆が次女に期待してるんです! それに暑くなったら脱ぐのが常識です!」
「っざけんな! 熱くってんのはテメェだけだ!」
「むむむ、あちらも中々やりますね。ならばこちらも!」
シンデレラの大胆な行動に公爵令嬢の側近も焦りを見せ、遂にシンデレラと同様の技を解禁した。
グッ!
「はっ!? 胸元掴んで何を……って、ちょ、ちょっとまさか……」
「お姉様、失礼致します!」
ズルッ!
「い、いやぁぁぁぁぁぁっ!」
「「「「オオオォォォ!!」」」」
なんと、側近が一気にドレスをズリ下げたのである。
ブラこそ着けてるものの、公爵令嬢の上半身が露になった事で、会場の男達は色めき立つ。
「おい、見てみぃ。あの公爵令嬢の柔肌や。初夢はこれで決まりやでぇ!」
「ふん、闘いに色気など不要。某には理解出来ん……」
「相変わらず堅物やなぁ……」
観戦してた王子の私兵もこの有り様である。
だが肝心の王子はというと……
「ああ、血が見れない……。僕はもうダメかもしれない……」
「血が見たいとか言ってる時点でダメかもしれへんなぁ……」
王子はまったくの無関心で何故かしょんぼりとしており、シンデレラや側近のやってる事が無駄であると丸分かりだ。
「むぅ、先を越されましたが、どうやらこの作戦では王子を攻略出来ないようですね……」
「ああ、そうだよ、分かったらさっさと手を離せ!」
「分かりました――」
「――と見せ掛けて、すきあり!」
ペロン!
「き、きゃああああああっ!」
「「「「「オオオオォォ!!」」」」」
遂にシンデレラは、次女のスカートを捲る事に成功する。普段は出さない暴力次女の汐らしい悲鳴にシンデレラも若干驚くが、会場も大いに盛り上がってるようだ。
「くぅぅ、血が……血が足りない……」
「輸血したろか?」
だがやはり王子には何の効果もなく、次女がスカートの中身を晒しただけに終わる。
「そんな! やはり次女の下着じゃダメなんでしょうか……」
「おいコラ、ここまでやっといて、やはりとはどういう意味だ!?」
落胆するシンデレラだが、それは令嬢側も同じのようで……
「くっ、やはり未成年では無理がありましたか……」
「ちょっと、そのやはりってのはどういう意味!?」
令嬢の側近も、シンデレラと同様に落胆するのであった。
「こうなっては仕方ありません。かくなる上は肉弾戦で、あの庶民共を脱落させる事にしましょう」
「最初からそうしなさいよバカ!」
「いきます!」
公爵令嬢の突っ込みを華麗にスルーし、側近が襲い掛かってきた。このままでは次女かシンデレラのどちらかは脱落してしまう。そう考えたシンデレラは……
「ゴメン次女!」
「は? ぐっへぇぇぇっ!」
あっさりと次女を盾にする事を選択し前へと押し出すと、そこへ令嬢の側近が突っ込んできた事で、次女はあっさりとKOされてしまった。
だが状況が改善された訳ではない。
これで1対2の状況へと変化したため、再び悪化してしまったのである。
「ふん、どうやらチェックメイトのようね?」
「くぅぅ、ここまでですか……」
認めたくないが、認めるしかない。
シンデレラは苦虫を噛み潰した表情で真っ直ぐ2人を見据える。
「さぁ、私の勝利のための踏み台となりなさい。側近!」
「お任せ下さい。最後の1人、討ち取らせていただ――「さぁ皆様、メインディッシュを堪能した後という事で、口直しのスイーツをご用意しました。どうぞご賞味下さい」
シンデレラに襲い掛かろうとした側近の目の前を、山盛りのスイーツを乗せたワゴンが通り過ぎて行く。
すると側近は本能のままにそれを視線で追っていき、シンデレラも釣られて視線を動かす。
「ちょっと、何してんのよ側近。さっさとソイツをやっちゃいなさい!」
だが叫ぶ令嬢を無視して、いまだ視線はスイーツへと釘付けだ。
「あのぅ……もしかしてスイーツが大好物だったり?」
「そ、そ、そ……
その通りです!」
ターゲットをシンデレラからスイーツへと変更した側近は、本能の赴くままにワゴンを追っていく。そして追い付いて早々頭からウェディングケーキ並の巨大デコレーションケーキへとダイブして、呼吸困難を起こした挙げ句に医務室へと運ばれて行った。
これにより再度状況が変化し、1対1のタイマン勝負となったのである。
「くっ、まさかここまであの側近がバカだとは思わなかったわ……」
「それは同情しますが、勝負の世界は非道です。どうせ箱入り娘の貴女はまともに闘えないのでしょう? ならば貴女自らが潔く身を引く事をおすすめします」
これまで散々非道な行いをしてきたシンデレラが言う。
はっきり言って、一家揃い踏みでブタ箱入りしそうなシンデレラと、公爵令嬢の箱入り娘となら、軍配はシンデレラに上がってしまうだろう。
「悔しいけど仕方ないわ。今回はアンタの勝ちよ」
こうして、公爵令嬢は自ら脱落を宣言し、勝者はシンデレラとなったのである。
賞金である小切手と、賞品として譲り受けたメインディッシュや軽食の残りを袋に入れて抱え込む。後は家に帰るだけ……というところで、シンデレラに悲劇が訪れた。
「あ、あれ? 衣装が!?」
なんと魔女が掛けた魔法が解けていくではないか! ハッとなったシンデレラが腕時計を見ると、時刻は午前0時を過ぎていたのだ。
つまりはハッピーニューイヤーである。
「ちょ、魔法が解けてくじゃない!」
「本当だ! 折角セクシーな僕が……」
「ふぅ、やっとこのミニスカから解放される……」
シンデレラだけじゃなく姉妹の衣装も消えていき、普段着の庶民へと逆戻りだ。
しかし、これを見た公爵令嬢が、眉を吊り上げ異議を申し立てた。
「ちょっと、何よその格好は! 舞踏会に相応しくないじゃない。こんなのは無効よ!」
するとこれに便乗した脱落者達がウンウンと頷き、徐々に雲行きが怪しくなる。
「チッ、こうなったら仕方ない。皆、逃げるが勝ちよ!」
「「「了解!」」」
こういう時には逞しくも一致団結するシンデレラ姉妹は、出口へと一直線に走り出す。
「あ! コラ、待ちなさい! そこの兵士、ソイツらを捕まえて!」
「ん? ワイらの事か?」
公爵令嬢が目にしたのは、会場の出口付近で待機してた王子の私兵であり、彼等にシンデレラ姉妹を捕らえるよう叫ぶ。
事の成り行きに大した興味がない彼等であったが、公爵令嬢の頼みとあらば聞いた方がよさそうだ。そう考え、シンデレラ姉妹を捕らえるよう動き出した。
「そこの者達よ、ここは通さぬ!」
「同じくや。公爵令嬢の頼みやさかい、堪忍したってや」
しかし、はい分かりましたと捕まる訳にはいかないシンデレラ姉妹。
だがこういう時の対処法を、シンデレラは心得ていた。
「あ、コレ、つまらない物ですが、宜しければどうぞ」
「むむ、これはかたじけない」
「おぅ、すまんな。賄い貰えなくて腹空いとったんよ」
シンデレラが差し出したのはメインディッシュの残り物。これで見逃してもらえるのなら安いものだろう。
「コラァ! そんなんで誤魔化されるんじゃなーーーい!」
地団駄を踏む公爵令嬢を尻目に、私兵の脇をすり抜け脱出する事に成功するのであった。
「よし、上手く脱出出来たわ。後は馬車のところまで戻るだけなんだけれど……」
長女が言い淀む。
それもその筈、彼女達は兵士に案内されるままに会場へとやってきたので、帰り道が分からないのだ。
その結果、馬車にたどり着くまでに相当な時間を要してしまい……
「フン、遅かったじゃない」
「そ、そんな……」
馬車は公爵令嬢と、復活した側近2人によって占拠されてたのだ。
それを見てガクリと膝を着くシンデレラと、唇を噛み締める姉妹達。
もはやこれまでか……と、思われたが、何故か天は彼女達を見捨てなかった。
「あ~君達、俺はこういう者だが、この馬車に乗ってるという事は、君達が馬車の所有者という事だな?」
「は? アンタ誰――って警察官!?」
馬車の陰から現れたのは警察官だった。
「この馬車によって跳ねられたと訴えてる者が複数いるんでな、悪いが署まで同行願おうか」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。私達は違うわよ!」
「そうです。わたくし達は、たまたま居合わせたに過ぎません」
「そうそう。所有者ならそこに――あれ?」
側近の1人が気付いた時には、既にシンデレラ達の姿は無かった。
彼女達は警察官が現れた瞬間に、光の速さでその場から立ち去ったのである。
「……よく分からんが、誤魔化そうとしてもダメだぞ? さぁパトカーに乗りなさい」
「ちょちょちょちょっと、私達は違うって言ってるじゃない!」
「あ~もぅうるさいわね! 言い訳は署で聴くからさっさと乗りなさい!」
「違ぇーよ! マジで俺らじゃないんだって!」
「いいからさっさと乗りなさいっての!」
「カツ丼は出るんでしょうか?」
「……たまにな」
とんだとばっちりを受けた公爵令嬢は、警察官に連行されていった。
これによりシンデレラ達は堂々と自宅へと戻る事が出来たのだ。
その後、公爵令嬢達は釈放されたが、どこの馬の骨か知らないシンデレラ達に捜査が及ぶ事はなかった。
そう、彼女達は公爵令嬢との闘いに勝ったのだ!
決して公爵令嬢に恨みは無いが、恐らく公爵令嬢は恨みが溜まってる事だろう。
だかその恨みはシンデレラ達に届く事は永遠と来ない。
何故なら、公爵令嬢が釈放された代わりに魔女が捕まったからである。
さらば魔女よ、また会う日まで……。
END
パンッパンッ!
アイリ(今年も良い一年でありますように)
アイカ(今年もスイーツな一年でありますように)




