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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第9章:邪王の遺産、争奪戦
203/255

番外編:年末のシンデレラ(前編)

 この話は本編とは全く関係ない作り話です。


 出演


シンデレラ(末子):魔法少女ユーリ

勝ち気な長女:魔法少女リゼット

暴力次女:魔法少女ヒカリ

僕っ娘三女:魔法少女シーラ

意地悪な母親:魔法少女メイプル

魔女:ムーザ

魔女の弟子:メンヒルミュラー

大家さん:セレン




 イグリーシアとは全く関係ない別世界のとある街に、家計が火の車の正に鬼気迫る勢いの貧しい一家が暮らしていました。


「貴女達、今月の生活費を納めるです」

「「「「は~い」」」」


 給料日の今日、母親は娘達から生活費を受け取る事になっていたのだが……


 ピラ、ピラ、ピラ、ピラ←札を数えてる


「……おかしいです。1枚足りないです。女だらけの5人家族の生活で、このままでは年を越す事は出来ないです。さぁ、納めてないのは誰なのです?」

「「「「自分のをカウントしろ」」」」

「こいつはうっかりです」


 とまぁご覧の通り生活は厳しく、上手く節約しながらな生活が必要とされていた。

 だがしかし、母親を含む娘達全員が働いてるにも拘わらず、一向に生活が楽にならないのにも当然訳がある。その訳とはズバリ、各々による浪費癖なのだが……


「見て見て~、新しいサーフボード買っちゃった! 私の赤い髪との双璧となる、青いカラーリングよ!」

「あたいはコレだ、新登場のムラムラミュラーちゃん人形な。高かったんだぜコレ!」

「僕はスマホだよ、前のやつが古くなっちゃったからね」


 アウトドア派な長女は自分の身長よりも長いサーフボードを、可愛い物好きの次女は暴力的な部分が鳴りを潜めた可愛い人形を、気ままな僕っ娘三女は新しいスマホをゲットした。

 だがそうなると、当然の如く意地悪な母親はチクチクと指摘します。


「貴女達はバカです。何なのです、その無駄な出費は。サーフボードやスマホなんて古くても充分です。暴力的な次女はサンドバッグの方がお似合いです。それに今月の生活費もピンチなのです。マジで年を越せないです」


「ぇええ!? いいじゃない別に。自分のお金なんだしさ」

「だいたいあたいのは難癖つけてるだけじゃねぇか!」

「僕のだって必要経費だよ。それに生活費がピンチって、何に使ったのさ?」


「FXやったら一瞬で溶けたです」

「「「最悪だ!」」」


 どうやら今月もピンチに陥りそうである。


「ところで、我が家一番の浪費娘はどうしたです?」


「んなもん、どうせ自室でいつもの()()やってんだろ?」

(つーか、一番浪費してんの母さんだよな?)

「「うんうん」」

((うんうん))


 母親の言う一番の浪費娘とは末子のシンデレラという娘の事であり、この家庭で一番の出費を叩き出している娘なのだ。

 ではこれから、シンデレラの恐るべき実態をご覧いただこう……。






「う~ん、やっぱり材料が足りないなぁ……。あたし1人なら足りるんだけど、()()()となるとどうしても出費が出ちゃうよね。魔法少女はこの見た目が肝心なんだから、登場シーンでのインパクトは重要よ。そして色合いも工夫してあたしはピンクでしょ? 長女は赤で、次女は青、三女が緑で母さんが黄色っと。一応完成はしたけれど、今月もピンチだなぁ」


 彼女の趣味は裁縫で、自作の衣装を作る事に金と人生を懸けてると言っていい。

 そしてたった今完成した衣装にも多額の金をつぎ込んでおり、もう押し入れはシンデレラ以外誰も着ない魔法少女の衣装だらけである。

 そして生活費を切り詰めてまで趣味に走っており、毎月ギリギリの状態だ。


「ねぇ皆、お金貸してくれない?」

「「「「絶対にです」」」」


「え~、だって皆の分も有るんだよ?」

「「「「頼んでない(です)」」」」


「そう言わずに。先っちょだけでいいから」

「「「「ふざけんな(です)」」」」


 そしてこのシンデレラ、頼んでもない衣装を作ってはそれを押し付けると同時に、活動資金という名目で金を借りようとするのだ。


「もぅ、しょうがないなぁ……。じゃあ節約のために布地を少なくするから、次女のスカートは思いっきり短くしようかなぁ……。とりあえず着てみる?」


「ちょっと待て。何であたいのだけ短くすんだよ! そこは全員だろ!? ってかだいたいんな衣装着ねぇよ!」


「もぅ、そんなに我が儘言うならブルマーにするよ?」


「ブ、……フン、勝手にしろ!」


 次女はプリプリと怒って、暴力次女らしく衣装をシンデレラに放り投げます。


「私もパス。こんな恥ずかしい衣装着れないもん」

「うんうん。恥ずかしいのは次女だけで充分だよね」


\おい、どういう意味だコラ!?/


 長女と三女も衣装をシンデレラに返しました。


「……ものは相談ですが、質に入れてもいいです?」

「ダメ! 絶対!」


 意地悪な母親は、せっかく作ったシンデレラの衣装を質屋に持ち込もうとしたので、慌てて奪い返しました。


 しかしこうなると今月の生活も(まま)なりません。何とか生活費を稼ぐ必要があるのですが、そんな簡単に稼げるのなら、母親はFXに手を出さなかったでしょう(多分)。

 だがここで御都合主義にも程がある程のタイミングで、お城より舞踏会の告知ビラが届く。

 して、詳しい内容は……


「華麗なる者達よ集え。この度私の城にて、盛大なるパーティーを開催します。その名も【ブシュ!猛者だらけの美しき血祭り!内臓ポロリもあるよ】です。血に飢え、血を求め、血が騒ぐ猛者達よ……貴方達の血を存分に捧げ、私を満たして下さい。勝者には豪華賞品と、これまた豪華な賞金を用意しております。開催日は……って、今日の夜じゃない! 急いで衣装の準備しないと!」


「お、おい、今から用意するっても仕立てるのに日数がかかるんじゃね?」


「あ! そ、そうよね……」


 急いで家を飛び出そうとした長女を次女が呼び止める。

 確かに、今からオーダーメイドするのでは間に合わない。ならばどうするか……というところで、ユーリがアップを始めた。


「やっぱりあたしの衣装が必要でしょ? 必要なんでしょ? ね? ね?」


「「「「うっ……」」」」


 必死に自作衣装を押し付けてくるユーリは置いといて、他の家族はヒソヒソと相談し始めるのだった。


「どうする? 覚悟を決めてあの恥ずかしい衣装を着る?」

「でもさ、それならいっそ普段着で出た方がよくない?」

「あたいは絶対ぇ嫌だかんな!」

「出るふりをして質屋に持ち込むのはどうです?」


 長女は迷ってるようだが、三女は難色を示し、次女は断固拒否の構えだ。


「いやいやいや、なんでそんなに嫌がるんですか! 可愛いじゃないですか、魔法少女衣の装! それにお母さん、質屋に持ってこうとしないで!」


 話は平行線をたどり、このままではみすみす賞金とついでに賞品の獲得チャンスを逃してしまう……。


 と、その時!






「フフフ、お困りのようね」


「「「「「誰!?」」」」」


 突如として現れた、真っ黒なローブに身を包んだ者。杖を手にしてる事から魔法使いではと推測される。

 が、しかしてその実体は!?


「何を隠そう私は魔女よ。ご覧の通りのね」


 なんと、彼女は自らを魔女だと話す。


「あ、もしもし警察なのです? 今自宅に不審者が現れ――「待ちなさい!」


 哀れにも不審者と認定された魔女は、意地悪な母親により通報されそうになり、慌ててそれを奪い取る。


「不審者じゃなくて魔女だって言った筈よ! それに貴女達困ってるのよね? 決して損はない話よ?」


 などと魔女は言う。

 しかし上手い話には罠があるのも常識であり、そう簡単には信用出来るものではない。


「やっぱ通報した方がよくね? もしかしたら褒賞金が出るかも知れねぇし」

「「「「賛成です!」」」」


 次女の提案を受け入れ、やっぱり通報する事にな――「だから待ちなさい!」


「何か問題でもあるです?」

「大有りよ! まずは話を聞いてちょうだい! 聞けば考えが変わる筈だから!」

「う~ん……そこまで言うなら一度聞いてみるです。さっさと話すですよ」

「……何で高圧的なの?」


 どうやら余程自信が有るらしいので、母親の決定によりまずは魔女の話を聞く事にしたのであった。


「コホン……。では説明するわね。舞踏会に出るための衣装なんだけど、私の魔法を使えばチョチョイノチョイって感じで立派な衣装が出来ちゃうのよ」


 …………。


 だが突拍子もない話に胡散臭さを覚えたシンデレラ達は、冷ややかな視線を自称魔女へと送る。


「分かった! すぐに証拠を見せるから……それ!」


 そう言って杖をクルッと回転させれば、なんと摩訶不思議、長女の服が素晴らしいドレスへと変化したのである。


「凄い! こんな素敵なドレスは初めてよ!」


 嬉しさのあまり、クルリとターンを決める長女。それを見たシンデレラ以外の面子は、どこぞの衣装よりも素晴らしいと大絶賛だ。


「ねぇねぇ、僕にもちょうだい! 出来れば大人っぽく見えるやつを!」


「勿論大丈夫よ……それ!」


 続いて願い出た三女の服も、スリットの入ったセクシーなドレスへと変化を遂げた。


「やったやったーっ! 魔女さんありがとーぅ!!」


「うぐぐぐ……至近距離で叫ばないでちょうだい。鼓膜が破れるかと思ったわ……」


 長女に続き三女までも美しくなったのを見たシンデレラも、自作の衣装が見劣りする事に気が付いたようで……


「むむむ……。悔しいですが、あたしの完敗です。よければあたしにも頂けませんか?」


「はいはい、安心しなさいな……それ!」


 敗北宣言をしたシンデレラの服も、他の2人に勝るとも劣らないドレスに早変わり。


「ふむふむ……。言及点ですねぇ」


「厳しくない?」


 しかし衣装に並々ならぬプライドを持ったシンデレラは、ちょっとだけケチをつけた。


「おっし、次はあたいの番だな。早くやっちゃってくれ」


「あ~はいはい、それっと」


 先程次女に通報されそうになった事を根に持ってた魔女は、割とテキトーに杖を回転させる。


「おお、これは……って、なんだよコレ!」


 なんともテキトー過ぎたようで、見た目はシンデレラ特製魔法少女衣装と殆ど同じものに変化したのだった。


「これじゃシンデレラの自作衣装と変わんねぇだろ! しかもコレ、シンデレラのやつよりスカート短けぇじゃねぇか!」


 黙って立ってるだけでもワ〇メちゃん状態になりそうなスカートをギュッと押さえ、顔を真っ赤に染めて抗議する。

 しかし魔女の方は考えを改める事はぜす、クスクスと笑うだけであった。


「あのぅ……私も衣装を頂けたりは――「ああん!?」――なんでもないです……」


 意地悪な母親に対しては本気で怒ってるらしく、荒々しい口調で黙らせてしまう。

 やはり不審者扱いと高圧的な態度が裏目に出たようだ。


「最近覚えた魔法使だからちょっと試したかったのよ。どう? 凄いでしょ?」

「「「はい、凄いです!」」」


「あ、でも一つだけ注意事項があってね? この魔法は深夜0時――つまり年が明けてしまうと、その効果を失ってしまうのよ。だから舞踏会を楽しむのはいいけど、時間には充分に注意する事。いいわね?」


「「「はい、分かりました! ありがとう御座います!」」」


 シンデレラと長女と三女は深々と頭をさげる。後はお城に向かうだけ……が、しかし、ここで思わぬアクシデントが発生した!


「あの~、ちょっとよろしいですか~?」


「ん? あ、大家さんだ」


 三女が振り向くと、玄関に大家さんが居るのに気が付く。

 だが大家さんは手を差し出すと、とてもショッキングな事を口にした。


「今月の家賃が~、まだ支払われてないのですが~、どうしてでしょう~?」


 コテンと首を傾けてあどけない表情を見せる大家さん。

 だが騙されてはいけない。彼女は怒ると大変危険なのだ。


「すみませんです。これも全てFXのせいなのです」


「おやおや~、それはつまり~、払うつもりは無いと~、(おっしゃ)るので~?」


「うっ……です」


 徐々に表情を曇らせる大家さんに恐怖を感じた母親は、気迫に圧されて数歩下がるのと同時に、魔女を前に出すと……


「すみませんです。支払いをするまでの間、この人を人質として預けるですので、だからもう少し待ってほしいです」

「は? はぁああ!? ちょっと何言ってんのよアンタ! いくらなんでも――「はい~、分かりました~♪」――って、アンタも簡単に了承するなぁーーーっ!」


「大丈夫です魔女さん。次の給料日が来たら必ず取り返してやるです……競馬で」


「だぁーーーっ、ふざけんなアンタ! こんな事してただじゃおかないわよ!? ってアンタも離しなさいよ、ちょっとぉぉぉ!」


「では~、失礼します~♪」


 そしてやはり哀れな事に、魔女は人質として大家さんに連れてかれるのであった。


「――って、もうこんな時間!? マズイわ皆! 急がないと間に合わない!」

「「「えっ!?」」」


 長女が慌てて時計を指すと、もうすぐ開催時刻になろうとしていた。参加者は開催時刻までに入城しなければならず、このままでは不戦敗になってしまう。


「で、でもどうするのさ? 今から馬車を乗っても間に合うわないよ?」


 三女の言う通り、自宅から駅馬車までも距離があるため、今から出たところで到底間に合いそうにない。

 もはやこれまでか……と、思われたその時、突然不自然な笑い声と共に何者かが現れた。


「キャハハハハ! 折角ドレスを用意しても舞踏会に間に合わないとか、ちょ~ウケるんですけど!」


「「「「「誰!?」」」」」


「フッフッフッ~、呼ばれて飛び出て~って感じ? ウッチーは魔女の弟子をやってるんだよ~、マジ凄いっしょ?」


 いつの間にか部屋に上がり込んでいたその女は、魔女の弟子だと名乗る。

 つまり、先程大家さんに連行されてった魔女の弟子という事になるが。


「あ、あのですね、私も本当はあんな姑息な手を使いたくなかったですが、アレは仕方の無い犠牲で……」


 魔女を人質として差し出した事で復讐しに来たと思った母親は、慌てて弁明を開始する。

 しかし、弟子が現れた理由は別にあるらしく……


「ウッチーよく分かんないけどぉ、師匠なら放って置いても大丈夫だよ? 頻繁にアチコチ行きたがるけどぉ、行方不明になるのはいつもの事って感じ~? だからさ~、多分どっかで楽しく過ごしてるんだよ~、絶対そ~う」


「そ、そうですか、そうですよね」


 どうやらあの魔女は頻繁にアチコチ移動するようだ。

 しかし今回は大家さんに連行されたため、楽しくは過ごせてないだろう。


「それよりぃ、ウッチーが馬車を用意してあげたよ~。表を見てみ~、キャッチミ~」


 弟子が馬車を用意したというので、皆で外に出てみる。

 すると驚いた事に、家の前には立派な馬車が停まってるではないか。


「凄ぉ~い! これなら間に合うかもしれないわね!」


 長女がやや興奮しながら馬車へと乗り込むと、三女も乗り込んでいく。

 が、次女は中々乗ろうとはせず……


「どうしたんです? 早く乗って下さいよ」


「ままままま待て待て。このまま足上げたら絶対ぇ見えちまう、だから――「いいから乗って下さい。間に合わなくなりますよ!」――わわわわ分かった、分かったから下から持ち上げんな!」


 いまだにスカート丈を気にしてる次女を強引に押し込んだシンデレラは、自身も乗り込むと母親に顔を向けた。


「じゃあお母さんはドレスが無いから留守番でいいよね?」


「出来れば私も行きたいです」


「なら私の作った魔法少女の――「留守番してるです。気を付けて行ってくるですよ」


 色々とトラブルが重なったが、漸く舞踏会に向かう事が出来そうだ。


アイリ「明けましておめでと~う」

アイカ「今年も宜しくお願い致します」

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