蛇足な連中
前回のあらすじ
邪王のダンジョンを探索するため冒険者ランクを上げる事を選択したアイリ達は、グロスエレムの首都カニエビの冒険者ギルドへやってきた。
筆記試験は散々であったが、実技試験ではAランクパーティを伸す事で実力を証明したが……
「しかし凄いですねアイリさん達は。僕らなんかはまだまだだと思い知らされましたよ」
そう困り顔で語るのは、オーネルという最初に実技を受けた青年。
彼を瞬時に伸した相手を、更に私達が倒したんだから困惑するわよね。
「ちょいちょい、僕らとはどういう事だい? 断っとくが俺は違うぜ?」
「いや、同じだろ……」
先頭を歩くキザロが、後ろにいるオーネルさんに振り返って指を左右に振る。
けどこの2人に実力差は殆ど無いので、隣にいるゼイルさんに透かさず突っ込まれた。私から見てもこの2人は変わらないと思う。
「……3人共、無駄話は禁物。今は任務中だという事を忘れないで」
「「あ、すみません」」
「俺もかよ……」
そして馬車を挟んだ反対側を歩く――というか、私の隣を歩くムーシェにまとめて咎められる……と。
無口だけど、結構しっかり者なのね。
「君達、彼女の言う通りだぞ。この馬車には教祖様の他、神殿に勤める方々への大切な届け物が有るのだから、魔物や盗賊には充分に気を配ってくれたまえ」
「「「了解」」」
最後に気を引き閉めるよう発言したのは、依頼主の商人オビスポさん。
現在私達が行ってるのは馬車を護衛しつつ首都の神殿へ積み荷を届けるという依頼よ。いまだに孤立してるからね、あの神殿。
理由は言うまでもなく、任務試験という最終テストを受けてるからなんだけど、これを終えないと合格点が貰えないなら引き受けるしか無い。
という訳で、首都から1日くらいの距離にあるキリスという街から食料を積んで、首都へ戻る途中なのよ。つまり、キリスの街に行くまでで既に1日潰れちゃってるのよね……。本当は早く探索したいんだけど。
「でも有り難いです。Aランクパーティの方が一緒な上に、アイリさん達が居れば命の危険はなさそうですし」
「それは同感だね。こんな華麗なレディと一緒に過ごせるなんて幸せってものさ」
オーネルさんの発言に微妙にずれた発言で返すキザロは、オーネルさんに顔を向けつつ、その隣を歩くアイカにウィンクしてる。なんというか、コイツはホークとは違うベクトルでアホね。
「まぁ、キザロの言う事は兎も角、アイリ達が居て心強いのは間違いないな。これなら向こうも心配ないだろう」
「……同意する。私の魔法を完璧に防ぐなんて、並の魔法士では無理な筈。まさか私達Aランクパーティが敵わないとは思わなかった」
ゼイルさんが言う向こうっていうのは、同様の依頼をアンジェラ達も受けてるのよ。つまり、二班に分かれて行動してるって事ね。
そしてムーシェはいまだに悔しそう。
そりゃセイレーンに魔法で勝つのは難しいし無理もない。可能なら教えてあげたいところだけどねぇ。そうすれば本人も納得するだろうし。
「ちょ、ちょっと、待ってくれたまえ。Aランクパーティに勝るというのは本当なのかい?」
「ああ、間違いないぜ? やられた俺達が証人さ」
あら? オビスポさんが身を乗り出して会話に混ざると、目を白黒させている。
というか、危ないから落ち着いてほしい。
「是非ともお名前をお聞かせ願えないかな?」
「あ、はい。私はアイリと言います。後ろを歩いてるのが、双子の妹でアイカです」
「ほっほぉぉ……」
今度は顎に手を添えて、感心したように頷いてる。
「いやはやその若さでお強いのは素晴らしい。しかし、アイリという名を何処かで聴いたような……」
ん? 私の噂? いや、別人の可能性もあるか。
「おお、思い出した思い出した! 確かアレクシス王国が、魔女の森に住むアイリというダンジョンマスターと、交易を開始したという話でしたな。なんでもそのダンマスは物凄く強い美少女で、双子の妹も同等の強さだと言われてるとか。私も商人として大変興味深――双子の妹!?」
再び身を乗り出してアイカと私を交互に見ると、他の面子も釣られたようにキョロキョロと顔を振る。
「ままま、まさか君達は!?」
「あ、はい、そのアイリで合ってます」
「「「「「えぇぇぇっ!?」」」」」
いや、あのぅ……驚くのは分かるんですけど、ちゃんと周りを警戒してね? オビスポさんも足元注意しないと落ちるわよ?
「いやはや、このような所で会えるとは光栄の極み! いずれ私もアイリーンへ行こうと思ってたのです!」
「そそ、そうなんですね。もし来る事があれば宜し――「いえいえ、こちらこそ宜しくお願い致します!」
なんだか強引に握手されてしまった。
商人だから、多少の強引さは必要なのかもね。
「成る程ぉ。僕は詳しく知らないけど、アイリさん達は有名人なんですねぇ」
「俺も知らなかったけど、君達の美貌は知ってるつもりだぜ?」
オーネルさんは納得したように頷く。
なんか有名人ってフレーズは、こそばゆい感じがするわね。
それからキザロ、その台詞は胡散臭いから止めなさい。
「……私も最近耳にした。アイリーンには不思議なアイテムを販売してたり、不思議な遊び場も有って、更には美味しい料理も有るとか」
「マジか? そいつぁ知らなかったなぁ」
ムーシェの目が、あのゴーレム姉妹のように輝きを増してる気がする。もしかしてお菓子好き?
一方のゼイルさんは、流行りに疎い感じがするから予想通りの反応ね。
『お姉様、前方の左右に生命反応が』
『左右に?』
左右に広がる林道の先で、複数の樹木がなぎ倒されてる。これが馬車を逃がさないようにするための策なら、盗賊の可能性が高い。そして……
『お姉様――』
『後ろからも迫って来てるんでしょ?』
『はい。よくお分かりで』
先を塞いでも、Uターンで逃げられる可能性があると考えたんでしょ。
というか、これだけ護衛が居るのに襲おうという気になった理由が分かんないわ。もしかして相当バカなんだろうか? どっちにしろ拘束して首都まで連行しよう。
「あ~、皆さん。盛り上がってるところあれなんですが、前方に盗賊が潜んでるようなので、注意してね?」
「何? そんな事も分かるのか!?」
「ええ。それと後ろからも来てるから、矢が飛んできたりするかもしれないけど、アイカに後ろを任せるから安心してちょうだい。私はちょっと前の方を片付けてくるわ」
驚くゼイルさん達を残して前方に駆け出すと、まずは右側の林に飛び込む。
「な! 何でこっちに来や――ガフッ!」
「クソッ! なんでバレ――ヘブッ!」
「さ、作戦失敗――ウゴッ!」
こっちはOK、後は反対側ね。
「チィッ、失敗だ! 一斉に掛かれ!」
「クソ――ガハッ!」
「ゲフッ!」
「おいどうした? 一斉に――「せい!」ヘブッ!?」
よし完了。
終わったけど、コイツらを伸すより縛る方が時間掛かるわね……。ゼイルさん達に手伝ってもらおう。
『お姉様、こちらは終わりました。今から縛り付けるところです』
『こっちも終わったわ』
向こうも終わったみたいだし、1度合流しよう。
「しかしまぁ、コイツらも運が無かったなぁ。まさか襲おうとした理由が女が多いからだとは……」
ゼイルさんが言った通り、私達が居たのが襲撃を決行する理由になったんだとか。そんな間抜け達20人の列に、オーネルさんとキザロが哀れみの視線を送っていた。
「……見た目で判断するのはもっての他。私は昨日、改めて思い知らされた」
「ハハッ、そうだったな」
そう言えば既に昨日の出来事なのよね。
でもムーシェの思い知らされたっていうのは、職員からの注意によるものよ。今も尚不満そうな顔で言ってるけど、内心はあの程度で死ぬ相手じゃないのにと本気で思ってるっぽいし。
「……でも私が後2人居たら結果は違っていた。3人掛かりなら勝てる自信はある」
「……そ、そうかい」
ゼイルさん、そこで流されちゃダメでしょ。既に前提が有り得ない事になってるし。
「皆さん、首都が見えてきましたぞ」
オビスポさんの言葉で前を見ると、夕日に照らされ後ろ半分が禿げ上がってるような首都が、下り坂の先に見えてきたところだった。
タイムロスになったけど、これでDランクに昇格出来るわね。
って事で無事依頼を達成して、ついでに盗賊を引き渡した際の褒賞金も貰ったしで喜びながらギルドに戻ったんだけど、聴けば先に出た筈のアンジェラ達がまだ戻らないとの事。
念話で確認したら向こうも同じく盗賊に襲われて、しかも人数が40人近くの大御所って事で移動に時間を要してる事が判明。更に襲われた理由まで同じとか、これじゃあ私達が盗賊を呼び寄せたようなもんじゃない……。
「仕方ありません。こちらの身分がバレた事ですし、少々手伝ってきますね」
「うん、お願いね」
さすがにアンジェラとセレンの正体は伏せて置きたいから、アイカがドローンか魔法で何とかするらしい。
「さぁて、のんびり待ちますかねぇ」
と、ギルドに併設されてる酒場でアクビをしてると、後ろから視線が……。
「ん、ムーシェ?」
「貴女に聞きたい事がある」
視線の主であるムーシェが何か話したいらしいので、とりあえず正面に座らせた。
「……まずは必要な措置を施す」
ん? 急に何を!? と、思ったら……
「……お姉さん、エールを2つ」
「は~い、ただいまお持ちしま~す」
そっちですか……。
「……労働を労うにはエールがエーよ」
こ、このエルフ、うちのホーク並に寒い駄洒落を……。
「……ここ、笑うとこ」
「いや、あんまし笑えないわ」
「……むぅ……」
あ、頬を膨らませたところはちょっと可愛いかも。
「は~い、お待ちどう様~」
運ばれてきたエールを手に……
「……まずは乾杯」
「はい、乾杯」
何に乾杯したのか不明だけど、とりあえず乾杯した。
どうしよう、何かいまいち空気が寒いというかしんみりしてるというか、気持ちが沈みそうな感がある。
私も何か言ってみようかな?
「我望みしは、エールを嗜む汝の応援」
「ブッフゥゥゥ――「ちょ、汚な!」
まさか簡単にツボに入るとは思わなかった。
どうやらムーシェは、笑いの笑点が低いらしい。
「……笑わせないでほしい。この恨みは忘れない」
「いや、そんな事で恨まないでよ」
「……大丈夫、半分は冗談だから」
「じゃあ残りの半分は何?」
「……(ポッ)///」
何故そこで赤面する!?
「……冗談はこのくらいしとく。ここからは真面目な話」
いや、最初から真面目に話そうね?
「……道中で聞いた探索するという話。もしかして貴女達は、南東で発見されたダンジョンに挑もうとしている?」
「よく分かったわね、まぁその通りよ。そこを探索しようとしたんだけど、ランクが低くて入場出来なかったのが試験を受けた理由ね」
結果はさっき冒険者ギルドに着いた時に合格を通知されたから、多分アンジェラ達も大丈夫だと思う。
「……やはり。だったらお願いがある」
このパターンはもしや……。
「……あのダンジョンは本来既に崩壊してる筈。なのにいまだ原形を保ってると聴いた時は正直耳を疑った。だからどうしても確かめたい事がある。貴女達と一緒なら安心出来るから、是非一緒に行動したい」
やっぱりそういう事か……。
ただアンジェラ達の事もある手前、即了承はしずらい。正体がバレた時の事も考えてないといけないし、さて、どうしたものか……。
アイリ「どうやって盗賊を倒したの?」
セレン「子守唄です~」
アンジェラ「お陰で寝てる状態で運ぶ事になったがな」




