閑話:激突!サンタ一家
前回のあらすじ
気まぐれなアイリによりサプライズを起こす事になったアイカは、サンタクロースを用意するためナシゾナという街に向かい、サンタ一家に協力を依頼するのであった。
そしていよいよ24日が訪れた。
念のため眷族達にもクリスマスの事を聞いたけど、残念な事に知ってる眷族は居ないようで、地上でのクリスマスへの知名度はドン底だと思ってよさそう。
なのでアイカのアドバイス通り、今年は眷族のみで行う事にしたわ。
「待ってました! イベント言うたらこのワイや。ワイの存在を忘れたらアカンでぇ!」
「じゃあホーク、ひとつお願いね」
「任しとき! バッチリ盛り上げたるさかい期待しててや! ほな皆の衆、今日という日を祝して……メリークリトリ――
バコン!
「さぁ昼間に話した通り、クリスマスパーティーを始めるわよ!」
話した時は皆首を傾げてたけど、そういうイベントがあるって言ったら理解してくれたようね。
「難しい事は分からねぇですが、豪勢な飯が食えるって事でいいんですかい姉御?」
「そうよ。だからモフモフも遠慮しないでドンドン食べちゃって!」
「そいつぁ有り難ぇ!」
「ほら、アニキも早く食わないと無くなるッスよ」
「飯だどぉぉぉ!」
「ああレイク、この野郎!」
アホなホークは放って置き、私達のみのクリスマスパーティーが始まった。
本当はアイリーン全体でやりたかったんだけど、クリスマスの事を理解されないとよく分からない只の飲み食いイベントに成り下がっちゃうしね。
「飯ぃぃぃ飯ぃぃぃ!」
「ちょっとレイク、貴方もっと上品に召し上がる事は出来ないのですか? ――って聴いておりせんわね……」
……いや、今まさにレイクにとっては只の飲み食いイベントらしく、それを見たギンが呆れてるようだ。
「ところで主よ、さっきホークは何を言おうとしたのじゃ?」
「私も~、気になります~♪」
それを言うのは大変憚られる。
もう少しで折角の雰囲気が台無しになるところだったわ、あの腐れチキンのせいで。
「そんな事より2人共、折角の料理が冷めちゃうから、美味しい内に早く食べちゃいましょ」
「うむ、そうじゃのう! あっちの隅で転がってるチキンは置いといて、今はこのローストチキンを頂くとしよう!」
「え~と、私は~、お肉はあまり~……」
カロリーを気にしてるのか、セレンはローストチキンに手を出さないみない。
でも折角なんだから少しくらいは食べてもらいたいわね……あ、そうだ!
「ねぇセレン、鶏肉ってコラーゲンを多く含んでるらしいから、肌のシミやたるみを防ぐ効果があ――「頂きます~♪」
早! さすがに容姿に拘るセレンだけはあるわ……。
「ぬぉ? オイラの肉が!?」
「こ、こらセレンよ、妾の手にした肉まで奪うでない!」
「みんな纏めて~、頂きます~♪」
そしてレイクやアンジェラの肉まで奪うとか、さすがにやり過ぎのような……。
「ところで主よ、このボトルは何で御座るかな?」
おっと忘れるところだった。
「それはシャンパンといって、まぁワインの一種よ。子供でも飲みやすいだろうから、酒が苦手な人でも飲めるんじゃないかな?」
「ほほぅ、それは興味深い。早速このザードが挑戦してくれよう」
いや、身構えて飲むほどの物じゃないんだけどね。
「大変ですぞアイリ様、もうすぐ肉が無くなってしまいます!」
「ええっ!?」
そんなバカなと思って見てみると、リヴァイの言った通り凄い勢いでローストチキンやスペアリブが消費されていた。
どうやら眷族達の胃袋を甘く見すぎたらしい。
「アイカ、新しく召喚して」
「ふぁい、ひょうひょうおまひを」
って、アイカはアイカで既にクリスマスケーキを頬張ってるし。
しかもルーとミリーも一緒に。
「イェス、クリスマス!」
「イェス、ケーキ!」
はいはい、満足そうで何よりよ。
「――ングッ。そういえばお姉様、何かお忘れではありませんか?」
「お忘れ?」
「はい。よぉく思い出して下さい」
(フフン、実はキチンとサプライズを用意してあるのです。ここでお姉様に【そういえばサプライズはどうなったのぉ?】という感じに言われても、すぐに実行に移す事が出来るのですよ)
って言われても、忘れてる事なんて……ああ、思い出した思い出した!
「よく言ってくれたわアイカ!」
「そうでしょうそうでしょう! では早速わたくしか――「クリスマスなんだからクリスマスプレゼントが無いとダメよね!」――え?」
「実は私から皆にプレゼントがあるのよ。これは日頃の感謝の印だと思ってちょうだい」
プレゼントとは言っても召喚した物じゃないわ、ちゃんと私が作った物よ。
実は今日の昼間にふと思い付いて作ってみたのよね。
「まずはアイカからね。――はいコレ」
「はい、ありがとう御座います。むむ? 大変良い匂いがしますね。コレはいったい――ほほぅ、クッキーですか」
「その通り。良く出来てるでしょ?」
「はい、大変美味しゅう御座います」
(昼間に珍しくキッチンに籠ってると思ったら、そういう事でしたか)
って、もう食べてるし……。
いや、鮮度が落ちる前に食べてもらった方がいいか。
「続いてはアンジェラに……リヴァイね。あとレイクのもあるわ」
「ほ~ぅ、まさか主の手作りを貰えるとは大変有り難い!」
「頂きますだど、アイリ様ぁ!」
「アイリ様、私目のような者に頂けるとは感謝の極みですぞぉぉぉ!」
ガシィィィ!
「グヘッ!」
ちょ、リヴァイ、スキンシップに力が入り過ぎ! 首が締まる首が!
「うんうんうん、仲良き事は良いことじゃな」
というか、アンジェラもニコニコしてないで助けてってば!
「ふぅ、死ぬかと思った……。さて次にあげるのは……モフモフとギン、それにクロね」
「感謝しやすぜ姉御!」
「大変美しい品をありがとう御座います、アイリ様」
「俺も感激ッスよ!」
この3人は同じ狼種だから必然的に同じ型で作る事になったのよね。
因みにさっき渡した3人のは竜の型で作ったやつよ。
「お次はセレンとザード、それから隅っこで転がってるホークの分ね」
「おおお、ワイは生き返ったでぇぇぇ!」
っと、凄い勢いで復活した。
他の眷族もそうだけど、思った以上に喜んでくれてるみたいね。
「眷族からすれば、主からの頂き物はまさに宝そのもので御座る。喜ばない者は居ないで御座ろう」
「ふ~ん、そういうものなの?」
「そうですよ~。如何に眷族を~、気にかけてくれてるかという~、証明になるんです~♪」
成る程ねぇ。だったら私としても作った甲斐があったという物よ。
「じーーー」
「同じくじーーー」
そして最後になったゴーレム姉妹。ケーキを食べるのを中断して、私の手に持ってる包みに視線を集中力してくる。
「はいはい、口に出して言わなくてもちゃんと用意してあるわよ」
「さすがマスター。ルーのマスターは大変優秀、もしくは良く出来ました」
「さすがマスター。手作りのクッキー大感激。もしくはミリー超感激」
――と言いつつ、クッキーとケーキを交互に食べるお菓子好きな姉妹でしたっと。
「――ングッ。それでお姉様。プレゼントは美味しく頂きましたが、他にも忘れてる事があるのではないですか?」
「他にも忘れてる事?」
「はい。よぉぉぉく思い出して下さい」
(まさかサプライズを披露する前に、軽くジャブが飛んでくるとは思いませんでした。さぁ早く思い出して下さい)
って言われても、他に忘れてる事なんて……ああ、思い出した思い出した!
「よく言ってくれたわアイカ!」
「そうでしょうそうでしょう! では早速わたくしか――「クッキーだけじゃ足りないだろうなぁと思ったから、カスタードプディングも作ってみたの。これも自信作だから是非食べてみて!」――え?」
そうそう、ケーキと一緒に冷蔵庫で冷やしてたのをすっかり忘れてたわ。
「――しょっと。は~い皆、各自で取りにきてね~」
言った途端、眷族達がプリンに群がる。
って、あのゴーレム姉妹は!
「こ~ら、ちゃんと人数分作ってるんだから一人一個よ」
「「は~い(棒)」」
っとにもう、油断も隙もない。
「ングングング……これも大変美味しゅう御座います」
(クッキーにしては随分と時間が掛かってると思ったら、そういう事でしたか)
「うん、ありがとう。プリンは逃げないからよく味わって食べてね」
って、もう食べ終わってるし……。
これなら早食い選手権とかでも通用しそうね。
「――ングッ。それでお姉様、プリンは美味しく頂きましたが、もっと他にも忘れてる事があるのではないですか?」
「もっと他にも忘れてる事?」
「はい。よぉぉぉぉぉぉく思い出して下さい」
(まさかジャブに続いてストレートを打ち込んでくるとは思いませんでした。さぁ早く思い出して下さい)
って言われても、もっと他に忘れてる事なんて……ああ、思い出した思い出した!
「よく言ってくれたわアイカ!」
「そうでしょうそうでしょう! では早速わたくしか――「甘い物ばかりだと口の中が甘ったるくなると思ったから、煎餅も作ってみたのよ。見た目も様になってると思うし、是非食べてみて」――え?」
そうそう、クッキーやプリンを味見しながらだったから、しょっぱい物が欲しくなってきたのよ。
だからついでって事で作ってみたわ。
「――しょっと。こっちはプリンと違って数の制限は無いから早い者勝ちね」
「「わーい! サンキューマスター、愛してるぅ!」」
案の定最初に飛び付いたのはゴーレム姉妹だったわ。
バリッボリッ!
「この塩気がまた癖になりますね」
バリバリバリバリ!
「手が止まらないとは正にこの事でしょう」
バリバリバリン!
「甘い物の後にこれを出すとは……。お姉様も中々戦略的ですね」
(クッキーやプリンにしては何故か醤油の匂いがすると思ったら、そういう事でしたか)
いや、戦略を立てた覚えはないんだけども、気に入ってもらえたようで何よりだわ。
「――ングッ。それでお姉様、煎餅は美味しく頂きましたが、更に他にも忘れてる事があるのではないですか?」
「更に他にも忘れてる事?」
「はい。今世紀最大級の脳ミソをフル回転させて思い出して下さい」
(まさかフックが来ると思わせて、ローキックが飛び出すとは思いませんでした。ですがさすがにもう仕込みは尽きたでしょうし、ここらで思い出してくれるでしょう)
って言われても、更に忘れてる事なんて……ああ、思い出した思い出した!
「よく言ってくれたわアイカ!」
「そうでしょうそうでしょう! では早速わたくしか――「実はユーリ達もクリスマスパーティーに参加したいって言ってたから、もうすぐ来る頃だと思うわ」――え?」
ピンポーン!
「あ、どうやら来たみたいね」
ドアを開けると、予想通り魔法少女5人組がそこに居たわ。そして予想外に全員がサンタコスチュームを着てる姿で。
「「「「「メリークリスマース♪」」」」」
「は~い、いらっしゃい。料理が冷めないうちに食べてね」
「え、いいの!? ありがとーぅ!!」
だからシーラのシャウトは耳に響くってば。
「シーラ、お願いだからシャウトは止めてね」
「そうなの? じゃあ軽~く歌うくらいならOKだよね? ね?」
まぁそのくらいならいいか。
私がOKサインを出すと、シーラはどこからかマイクを取り出してステージへと上がった。
って、いつの間にステージが?
「じゃあ私も歌うわ。魔法少女隊のリーダーとしてビシッと決めないとね!」
リゼットもステージに上がってシーラの隣に立った。
いや、それよりもリゼットがリーダーだって事を初めて聞いたような……。
「歌うのは2人に任せて、私はシャンパン頂くです」
「あたいもシャンパンもらうわ」
メイプルとヒカリはシャンパンを差し合って乾杯してる。
なんというか、マイペースねコイツら……。
「あのぅお姉様、ユーリ様は止めなくて宜しいんですか?」
へ? ユーリ? そういえばユーリの姿が見えないわね?
「あちらをご覧下さい」
アイカが指す方に顔を向けると、レイクの横でひたすら料理を貪ってるユーリを発見した。
その様子はとても魔法少女には見えず、眷族達はポカーンとしてそれを眺めてる。
「あのぅ、ユーリさん? そんなに急いで召し上がられては、体に良くありませんよ?」
「ハグハグ――次はいつになるのか分からないですからね。ングング――今のうちに食い溜めしてるんです」
ギンの忠告を他所にひたすら胃に詰め込んでるところを見ると、いまだにユーリは貧乏生活らしい。
「あ、アイリさん。残った料理は持って帰るんで、入れ物を貰えますか?」
「あ、ああうん、タッパーならテーブルの隅に置いてあるから持ってっていいわよ」
「ありがとう御座います! これであと1ヶ月は闘えます!」
いったい何と闘ってるのかは敢えて聞かない。多分相手は貧乏という二文字だろうから。
「ん? ああ、もうこんな時間か」
時計を見ると、時刻は23時を過ぎていた。
そろそろお開きにしてもいいわね。周りを見ても、ユーリ以外の魔法少女はうとうとしてるし。ユーリだけは必死になってタッパーに料理を詰めてるけど。
「それじゃ皆、そろそろお開――「ちょっと待って下さいお姉様!」――な、何?」
「お姉様は肝心な事を忘れております」
肝心な事? って言われても、肝心な事なんて何もないんだけど?
「実はお姉様のために、サプライズイベントを用意したのです!」
「サプライズイベント!?」
(フフン、驚いてますねぇ。ですが実物を見たらもっと驚く事でしょう)
「今連れて来ますので少々お待ちを」
そう言ってアイカはどこかへと転移した。
いったい何をするつもりだろうか? 確か連れて来るって言ってたけど、サプライズゲストって事?
「お待たせしました。なんと、わたくしが用意したのは、サンタさんです!」
アイカが連れて来た面子は、皆同じように真っ白な髭を顎に生やしてる男達だった。しかもサンタクロースが3人にトナカイが2人という構成で。
というか、トナカイにまで髭を生やす必要はない気が……。
「フ、フォッフォッフォッ、メ、メ……」
「メリークリスマスですよボス!」
「わ、分かってる! オホン、メリークリスマス!」
すんごいカミカミなこの人達はいったい誰なんだろ? 声は聴いた事ないと思うんだけど。
「お姉様、実はこのイグリーシアにもサンタは実在したのです! ミリオネック――「プッハハハハハ! いやいや、無いって。マジ無いってアイカ! アッハハハハハ!」
「せやなぁ。サンタは所詮作り話やし、実在する方がおかしいでぇ」
堂々とサンタを紹介したアイカを笑い飛ばしたのはヒカリ。そしてホークもそれに同調するように肩を竦めてる。
「ちょ、ヒカリ、そんな笑わないで。僕もつられて――ププ、アッハハハハハハ!」
「そうッスね。サンタを信じてるのは幼少の子供だけッスよ」
ヒカリの笑い声につられてシーラも笑いだすと、クロが哀れむような視線をアイカと男達へと向けた。
「ちょっとアンタ達。そ、そんなに笑うと、こ、こ、この人達――ウッククク、もうダメ、キャハハハハハハハハ!」
「はいです、とってもお間抜けに見えるです」
「メイプルさん。そのような発言は失礼ですよ。この方達も必死に演技なさってるのですから――クスクスクス」
ついにリゼットも笑いだして、メイプルの一言によりギンまでクスクス笑ってる。
「あ、あのぅ、皆さん。サンタさんですよ? よく見てください。どこからどう見ても立派なサンタさんじゃありませんか! ほら、貴方達もサンタだとアピールして下さい!」
「フ、フフ、フォッフォッフォッ」
「トト、トナカイトナカイ」
「トナカイは喋りません。真面目にやって下さい!」
「も、申し訳ねぇ……」
「フ、フォッフォッフォッ、フォッ――」
ポロ……
あ、付け髭が落ちた。
「偽装がバレたです」
「ちょ、マジヤベェって、アッハハハハハ!」
「ふ、腹筋がやられる! プックククク!」
「も、もうダメ、お腹痛――アッハッハ!」
(なんという事でしょう。お姉様を驚かせる予定が、赤っ恥をかく事になろうとは……。せめて……せめて救いとなる存在は……あ!)
「ングング……。よし、これで2ヶ月分は大丈夫です!」
(居ました! ユーリ様ならきっと哀れんでくれる筈です)
「ユーリさんも見てください、ミリオネックにお住まいのサンタさんですよ?」
「――ングッ。はぁ、サンタですか……」
(おや? 何故かため息をつかれましたが、どういう事でしょう?)
「いいですかアイカさん、サンタなんてのは所詮は幻です。私もかつてはサンタを信じ、靴下をベッドの脇に吊しました。しかし次の日目にすると、中身は空っぽのまま……。当然両親に抗議しましたよ? 話が違うじゃないかと。すると両親はこう言ったのです。【きっと靴下が臭かったんだよ】と。ふざけるなですよ! まったく、サンタという奴等はとんでもない詐欺師ですよ。もっと他に言い訳が有るじゃないですか! 因みに翌年の言い訳は【靴下に穴が空いてて落ちたんだよ】って言いやがりました。なのでもう私はサンタを信じてません。そもそもサンタというものは――」
あ~、なんかユーリに変なスイッチが入っちゃったみたいね。面倒だから暫く放置しとこう。
「はいはい、それじゃお開きにするわよ。手の空いてる人は片付け手伝ってね。それからアイカ、その怪しげな人達は元の場所に帰してあげなさい」
「あ、あのぉ……ですからサンタさんを……」
「アイカもいつまでもサンタなんか信じてないで、少しは大人になりなさい。はい、それじゃ解散解散」
こうして、アイカと怪しげな男達を他所に、イグリーシアでのクリスマスパーティーは終わった。
無駄な労力を使った彼等もミリオネックに帰されたが、アイカから散々八つ当たりをされた挙げ句、ナシゾナの街から微妙に離れた所へ置き去りにされるというろくでもない目にあったようだ。
そしてこの日を境に彼等サンタ一家は、ファミリーネームを変えてしまうのである。
その理由は、もうサンタなんてやりたくないからだそうだ。




