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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第8章:残された者達の戦い
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閑話:突撃!サンタ一家

「え? この世界って、クリスマスは存在しないの!?」


「当たり前じゃないですか。クリスマスというのはお姉様の世界ではメジャーかもしれませんが、イグリーシアでは転移者か転生者が勝手に行うくらいですよ」


 なんという事だろう、まさかクリスマスケーキとクリスマスプレゼントという大イベントが存在しないなんて……。


「そんなのおかしいじゃない! だったらこの世界の子供達は何を希望に生きてけばいいっていうのよ!?」


「落ち着いて下さいお姉様、そもそもこの世界の子供達はクリスマスというものを知らないのですから、失うものは最初から存在しないのです。諦めて下さい」


 なんて(たくま)しいんだろう、この世界の子供達は……。

 私には真似出来ない事よ。

 そりゃね? 私だってサンタクロースが居ないって事くらいしってるわよ。

 でも毎年クリスマス前にお父さんの前で欲しい物を(つぶや)いたら、クリスマスの翌日にはキチンと靴下に入ってたわ。

 唯一不安だったのが、予算オーバーしたであろうプレゼントの場合、当日の夜にお母さんからブレインバスターを食らったお父さんを見てしまった時ね。

 あれは本当に申し訳ない事をしたわ。

 でもだからって、クリスマスを諦めるなんてもっての他よ!


「無いなら私が作ればいいのよ! ね、そう思うでしょ?」


「はぁ……そんな面倒な事、勝手にやって下さいよ。わたくしは忙しいんですから」


 忙しいって言いながらチョコレートパフェを頬張ってるのはどういう事かしらね? アイカらしいと言えばらしいけど。


「まぁいいわ。これから毎年、12月24日はクリスマスの日にするからね!」


 少なくともこのダンジョンではそうしようと思う。

 後でリヴァイに頼んで当日の装飾をやってもらおっと。


「ですがお姉様、事前告知無しに行っても逆に混乱させるだけだと思われます。そもそも24日は明日ではありませんか」


 むむ、アイカのくせにまともな事を……。

 真面目な発言はスイーツ絡みだけかと思ったわ。

 いや、クリスマスケーキが絡んでるから寧ろ納得がいく?


「今大変失礼な事を言われた気がしますが、わたくしとしては眷族達のみで行うのが宜しいかと思われます。アイリーンで行うなら、もっと早くに事前準備を行うのが宜しいかと」


 確かにそうね。

 じゃあ今年は身内だけでやる事にしよう。


「あ、でもさぁ、こういうのって私1人が張り切ったって面白くないのよね。だからアイカ、私のためにビッグなサプライズの用意してくれない?」


「そこで素直に分かりましたと言ってしまうとサプライズにならないじゃありませんか。だいたいご自分からサプライズを要求するとか、色々と台無しですよ」


 むぅ……今日のアイカは本当にまともな事を言うわね。

 いつもこうだと有難いんだけど。


「重ね重ね失礼な事を言われた気がしますが、そんなにイベントがしたいならディスパイル殿と一緒に過ごすとかすればいいじゃないですか。もしくはドミニク子爵でもいいですがね」


「過ごすって、別に恋人じゃないんだから、本人達に迷惑でしょ?」


「はぁ……」


 あれ? なんか肩を竦めてため息をつかれたんだけど何故に?


「間違っても本人達には言わないであげて下さいね? 多分本気でへこむでしょうから」


 ふ~ん? よく分かんないけど言わない方がいいのね?


「あ、だったらさ、サプライズとは言わないから、何か細やかなイベントをやってよ。例えばサンタクロースがプレゼントを持ってやってくるとか」


「いえ、この世界でサンタクロースが現れた時点で充分サプライズですよ……」


 もぅ、ああ言えばこう言う……。


「そもそもサンタクロースとは煙突から入ってくるんですよね? そんなの煤だらけになるに決まってるじゃありませんか。それにプレゼントだって汚れてしまう恐れがある上、土足で室内に入り込む事になります。現在各寝室は土足厳禁になっておりますので、寧ろ立ち入りはご遠慮願いたいですね。あ、そうそう、煙突も有りませんので、新しく設置しなくてはなりませんよ?」


 うっわ~、面倒くさ! 現実主義者って面倒くさいわぁ……。


「別にそこまで忠実である必要はないわよ。それこそ誰かがサンタクロースに扮してプレゼントを配っても良いんだし」


「そう簡単に言われてもですねぇ……」


「ま、強制はしないから。別にそこまでアイカに期待してる訳じゃないし、気が向いたらでいいわ。じゃ、考えておいてね」






 ――と、言い残して出て行かれた訳ですが、正直なところイラッときました。

 それに期待してないと言われると、逆に応えたくなるのはどうしてでしょう?

 いや、そんな事より、何とかしてお姉様がアッと驚くサプライズを用意しようじゃありませんか。


「――とは言え……」


 今からでは大掛かりな事は出来ません。

 何か良い方法は……うん、やはりここはダンジョン通信ですね。

 何か役に立つ情報を探すとしましょう。


 サンタクロース、サンタクロース、サンタ、サンタ……っと。

 ん? おお? これは!? フフン、大変良いものを見つけました。これならお姉様も喜んでくれるでしょう!



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「という訳でやって来ましたのは、ミリオネック商業連合国の地方都市であるナシゾナという街です」


 既に街中に入り込んだアイカが両手を広げてアピールし、それを道行く人が不思議そうにチラ見している。

 が、ちょっと危ない娘だと思われてるらしく、皆が皆アイカを避けて歩いてるようだ。

 そんなアイカに怪訝な視線を向ける者が2人居り……


「何が――という訳で、なのか全然不明。もしくは全く不明」

「右に同じ。詳しい説明を要求する。もしくはお菓子も要求する」


 理由も告げられず強引に連れて来られたルーとミリーが、首を捻りながらもお菓子を催促する。


「理由ですか? そんなものクリスマスケーキを食する事が出来、その上クリスマスプレゼントまで貰う事が出来るのに理由が必要だと?」


 ケーキが食べれる。そしてプレゼント(恐らく食べ物)まで貰えるとあっては、黙って従う以外の選択肢はこの姉妹には無かった。


「ルーが間違っていた。理由など不要」

「ミリーも不要。食べれる物は食べる。これ自然の摂理」


「フム、宜しい。では行きましょう」

「「オォーーーッ」」


 ……理由が全く説明されず、ゴーレム姉妹の目がケーキマークになってしまったので、勝手に説明させていただく。

 先程アイカがサンタというキーワードで調べたところ、なんとこのナシゾナという街にサンタが存在するという事を突き止めたのだ。

 但し、サンタという人物ではなく、ファミリーネームがサンタというギャング一家なのだが。

 何にせよ、このサンタ一家を使って何かを行うつもりであるのは間違いないだろう。


「着きましたよ、ここがサンタさんのお家です」


 今アイカ達の目の前にあるのは、この街を牛耳っているサンタ家の邸だ。

 貴族の邸ほどの豪華さはないが、見れば金持ちが住んでるだろうという事はすぐに分かる。

 ミリオネックの領土はアレクシス王国やプラーガ帝国に匹敵するほど広いため、一々地方まで取り締まりに赴く役人は少ないのだ。

 そのためすっかり街に馴染んでしまい、表立って逆らう者はいないという。


「おう嬢ちゃん、ここに何か用かぁ?」


 入口を塞いでいた――恐らく下っ端であろう男がアイカ達に絡んでいく。


「はい。ここがサンタ家の邸だという事は知っておりますので」


「おぅ、だったら用件聞いてやらぁ」


 当然用があるのでアイカは頷いたが、男は依然として入口を塞いだまま用件を聞いてきた。


「少々お願いが御座いまして、この一家の最高責任者と会わせて頂きたいのです」


「最高責任者だぁ!? なんだってテメェらみたいなガキ共をボスに会わせなきゃならねぇんだ!?」


 この男を援護する訳ではないが、見るからに一般人にしか見えないアイカ達への対応としては、決して間違いではなかったと言いたい。

 しかし、世の中には例外というものが存在するのであって……


「ミリー」

「畏まりぃ――えい」


 アイカの意図を理解したミリーが、男の股間を蹴り上げる。

 突如としてミスリル級の蹴りを受けた男の反応は……


「ンギャアァァァァァァ!」


 不幸にも自身が男だという事を再認識し、近所迷惑な産声を上げるとその場に踞ってしまうのであった。


「この程度でダウンするとは弱すぎる」


 無茶を言ってはいけない。

 蹴った本人はこう言ってるが、男の第二の心臓を蹴るなど非道なまでに非道な行いだ。

 つまり、このような結果になるのは当たり前と言えるだろう。 


「さて、この男は放っておいて、中に入るとしましょう」

「「オォーーーッ」」


 最初の関門を突破した3人は、意気揚々と足を踏み入れる。

 するとロビーのような所に出たようで、近くで椅子に座ってナイフを手入れしてる男達が顔を上げた。


「む? おい、ここはガキの来るところじゃねぇ、怪我したくなかったらおとなしく帰んな!」

「ったく、あの下っ端、ま~た見張りをサボってやがんな」

「…………」


 だがアイカとしては用が有って来た訳で、このまま帰る訳にはいかず、そのまま奥へと進もうとする。


「テメェ! 聴こえてねぇのか? ここはあの有名なサンタ一家(いっか)の邸だぞ? このまま奥に行くってんなら少々怪我してもらうぜ!」


「ルー、ミリー」

「「了解」」


 入口の時と同じようにゴーレム姉妹が排除に動く。


「あ? まさか本気でやる気――グホォ!?」

「テ、テメェら――ゲハァ!?」

「…………」


 掴みかかってきた2人をワンパンでKOすると、それらを持ち上げテーブルの上へと積み上げた。


「さて、ここのボスはどちらですか?」


「…………」ブルブル


 残った1人は黙々と手入れを続けながら、黙ってある方向を指す。

 震える指先で示した先に、ここのボスが居るようだ。


「フム、右の奥ですね。では行きましょう2人共」

「「OK~」」


 無口な男は害意が無いと判断し、そのまま放置して指された先にある扉を開ける。

 すると、部屋の奥でふんぞり返ってるゴツい男と、その手下であろう者達が一斉にアイカ達に視線を集中させてきた。


「あん? 何だこのガキぁ。おい、誰だここにガキ連れ込んだのは!」

「いや、知りやせんぜ、んなガキゃ」

「俺も知らねぇッス」

「チッ、あの下っ端、見張りをサボってやがんな! おい、さっさと放り出せ!」

「「「へい!」」」


 やはりアイカ達は歓迎されてはおらず、邸から追い出される流れとなった。

 だがアイカとしても、ここまで来て退くという選択肢は有り得ない訳で。


「お待ち下さい。わたくしはお願いがあってここへ来たのです」


「んな事ぁ知るか! おとなし――ガハァ!」


 アイカに触れようとした1人が裏拳を食らって悶絶する。

 それを見た他のギャング達は只者じゃないと瞬時に判断し、各々の得物を抜いた。


「テメェら、さては何処かの回し者だな? さしずめ闇ギルドが傘下にしようと送り込んできたんだろうが、そうはいかねぇ。俺達サンタ一家(いっか)に手を出した事を後悔するんだな!」


 サンタ一家(いっか)のボスらしき人物が(あご)をしゃくって合図する。

 するとギャング達は次々に手にしたナイフを振りかざす。

 が、そのどれもが空を切り、逆にカウンターを叩き込んでいった。


「手荒い歓迎でしたが、後は貴方1人のようですね?」


「クッ……何が望みだ?」


 最後に残されたボスの男は、観念したのかアイカを睨み付けながら問う。

 先程アイカが願いが有って来たという事を思い出し、最悪命だけは見逃してもらえればと一途の望みをかけたのだ。


「貴殿方にやってもらいたい事があります。それさえやってくれるのであれば、後は何も要求しません」


「……断ったら?」


「この邸に火を放ちます。こう見えても火魔法は得意ですので、更地にする自信はありますよ?」


 そう言って手に魔力を込めると、ボスに見せつけるようにして天井に放つ真似をした。


「……ならば仕方ない、言う通りにしよう」


「え? このまま放っても宜しいので?」


「ま、待て、違う! お前の言う条件を飲むって言ってんだ! お、おい止めろぉ!」


 アイカとしては軽い冗談だったのだが、相手のボスを怯えさせるには充分な効果が得られたようだ。


「くそぅ、何て奴に関わっちまったんだ……」


 やらされる事に不安があるが、背に腹は代えられないとあって、ボスはアイカの要求を受け入れる事にしたのであった。


アイカ「後半へ続きます」

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