暴走
前回のあらすじ
メンヒルミュラーを追って神殿の地下ダンジョンに入ったアイカは、そこのボス部屋のサイクロプスを難なく撃破すると、コアルームへとたどり着く。
そこでメンヒルミュラーはメリーヒルスによって作られた存在である事を知り、更には不要と判断された彼女は、メリーヒルスによって死を迎えてしまう。
非道な真似をするメリーヒルスに眉をひそめつつも、捕らわれのダンマスを救出しようとするアイカだったが、メリーヒルスにより蘇った勇者により、首を斬り落とされてしまった。
造作もない……と落胆するメリーヒルスであったが、そこへアイカそっくりな謎の少女が現れた。
「そうか、貴様がアイリなのか。まさか人狼をダンマス本人が圧倒するとは思わなかったぞ」
――の割には随分と余裕そうに見えるわね。
アイカの話だと、コイツの後ろに控えてる真っ黒なシルエットが危険らしいから、そのせいかな?
名前:不死剣士サトル レベル:115
HP:856 MP:327
力:724 体力:830
知力:296 精神:654
敏速:684 運:25
【ギフト】
【スキル】剣Lv6 格闘Lv2 短剣Lv3 相互言語 変幻自在
【魔法】火魔法Lv3 土魔法Lv1
【補足】変幻自在とは、相手が望んでる姿に変える事が出来る固有スキルである。
没落した元勇者。
没落勇者って事は元勇者って解釈でいいと思うから、コイツが中途半端に出来上がった奴なんだと思う。
そして【変幻自在】ってスキルで幻覚を見せて、千手達を騙したと。
「それで、タイムリミットはもっと先だったと思うんだけど、自ら反故にするのはちょっと卑怯じゃない?」
「フン、最初から貴様が来れば良かった事だ。それに勘違いしてるようだから教えてやるが、貴様を含め、貴様に加担した奴等はすべて皆殺しにするつもりだったのだから、どちらでも同じ事よ」
……だと思ったわ。
最初から解放する気が無いんだものね。
「話は終わりだ。殺れ!」
メリーヒルスが私を指すのと同時に、サトルが動き出す……って!
「……スプラッシュファイヤーボール」
コイツ、いきなりスプラッシュファイヤーボールを!
「マズイ!」
このままじゃ後ろに居るダンマス達が!
『ご安心下さいお姉様。ドローンは無事ですので心配無用です』
アイカのナイスプレイによって、ダンマス達の前にシールドを展開してくれた。
これにより複数の火の玉は消滅する。
「お、おお、俺は信じてたぜ? 今のはアイリの魔法だよな? そうだよな? な?」
「いや、ぜってぇ信じてなかったろ……」
「…………」ガクガクブルブル
ヒカリが恐怖のあまり固まっちゃってるけれど、一応は無事みたいね。
さて、この勇者崩れにはキッチリとお返ししてやらないと。
「このぉ、もう少しで犠牲者が出るところだったじゃない! アイスジャベリン!」
「ウゴゴゴゴゴ……」
複数の氷の槍でサトルを壁に縫い付ける。
これで回避される心配はない。
「トドメよ、天誅斬りぃぃぃ!」
ズバァァァン!
よし、決まった。
これでコイツは……ってまだ動いてる!?
斬り殺した筈なのに、右半身と左半身が別々で動いてるところは正直グロい……。
『お姉様、相手は不死なる存在ですので、浄化するなり焼き尽くすなりしなければ倒した事にはなりませんよ』
そういう事か……だったら、骨まで残さず消し炭にするまで!
「燃え尽きなさい! イグニスノヴァ!」
ドゴォォォン!
サトルを中心に火柱が立ち上がり、近くのガラスケースもどきと共に炎上する。
数秒後、炭と化したサトルがそこにあった。
「フン……使えん奴め。だが本物の勇者は同じようにはいかぬぞ! さぁ勇者よ、その小娘を仕留めるのだ!」
シュタッ!
「……コォォォ!」
ガキィィィン!
「危な!」
コイツ、メリーヒルスの後ろから急に現れたわね。
剣レベルが同じだったから辛うじて防げたけど、集中してないとアイカの二の舞になりかねないわ! そしてコイツのステータスは……
名前:不死英雄トモノリ レベル:127
HP:1965 MP:1470
力:1842 体力:1655
知力:1371 精神:1512
敏速:1402 運:30
【ギフト】勇者への祝福
【スキル】剣Lv6 格闘Lv3 短剣Lv3 弓Lv3 相互言語 限界突破
【魔法】火魔法Lv3 風魔法Lv2
【補足】限界突破とは、一定時間ステータスを3倍にする固有スキルである。
これは脅威的ね。
どうやって蘇らせたのか知らないけど、コイツを放置するのは論外よ。
少くとも世に放っちゃいけない。
「チッ、しぶとい奴め! まさか勇者の一撃を防ぐとは……」
メリーヒルスが悔しそうに顔を歪めてる。
そしてダンマス達も同じように驚いたみたいで……
「凄ぇぜアイリ! けど気をつけろ、アイツに俺らの眷族は皆殺しにされたんだ!」
「ああ、俺のストーンゴーレムも一撃でやられちまったんだ」
「あたいは眷族が居ないからまだマシだったけどな」
このステータスなら、例え物理防御の高いストーンゴーレムでも一撃でしょうね。
「狼狽えるな勇者よ、その小娘を血祭りにあげるのだ!」
「コァァァ!」
シュバッ!
再び動き出すトモノリ。
恐らく固有スキルを使ってるだろうし、通常なら私でも危うい。
だけど……
ズバッ!
「「「「何!?」」」」
メリーヒルスとダンマス達の声が被る。
突如として剣を握ってたトモノリの腕が消え去ったんだから、誰でも驚くわね。
「い、い、いいいったい何が起こったというのだ!? 貴様、勇者に何をした!?」
「私は何もしてないわよ。私はね」
私は1人で戦ってるわけじゃない。
危なくなったら助けてくれる頼もしい眷族が付いててくれるのよ。
『大丈夫ですかい姉御?』
『勿論よ。ありがとね、モフモフ』
あ、念話で話してるだけだから他人には見えないわね。
「モフモフ、姿を見せてあげて」
「承知しやしたぜ」
特殊迷彩を解いて姿を現したモフモフにメリーヒルスが一歩後ずさる。
「ヒッ!? な、なんだコヤツは! いったい何処から現れた!?」
何処からと言われればダンジョンから転移してきたとしか言えないんだけど、モフモフは私と一緒に居たのよ。
最初からね。
「出たぁ! アイリの最強眷族デルタファング! さぁ形勢逆転だぜ!」
「おう! Sランクの脅威を思いしりやがれってんだ!」
「た、助かるのか? 助かるんだな!?」
そしてダンマス達の反応。
ヒカリは兎も角、千手と水虫はモフモフを知ってるから、そういう反応になるわよね。
というか千手ったら自分の事のように……まぁ悪い気はしないけども。
「デ、デルタ……ファング……だと? まさかあの伝説の!」
(確か古い書記で見た覚えがある。あれは確か勇者アレクシスが魔女討伐後、仲間と共に森を探索してると不意に遭遇してしまったと書かれていたが……)
「……コォォォ!」
ブンッ!
「ヘッ、甘ぇぜ!」
さすがはモフモフ、向こうは利き腕を失ったのもあって、大振りな攻撃しか出来ないみないね。
そんな動きじゃモフモフを捉えるなんて不可能よ。
「クッ……」
(当時、既にアレクシスは一国の王であったため国王を守るため配下の兵士達が多数犠牲になり、仲間であるミリオネも片腕を失いつつも、最後にはアレクシスが首を斬り跳ばして何とか勝利したのだとか)
「左手がお留守だぜ?」
ズバァァァッ!
「コァァァ!?」
「んな! 右腕に続いて左腕までも!」
(後に彼は、以前同行してた仲間からデルタファングの情報を知り得てたため倒す事が出来たと語っている。残念ながらその人物の名前は一切記されてないが)
「腕が無きゃテメェも終わりだなぁ?」
「コ、コァァァ……」
「…………」
(アレクシスは助かったが、その他に遭遇した勇者は悉くデルタファングの前にその命を散らした。そのため、この狼には二つ名が付けられたのだ。その名も……)
「ゆ、勇者殺し……やはりコヤツは勇者殺しなのかぁ!?」
ん? 勇者殺し? って、見ればコイツ、すっかり腰を抜かしてるわね。
やっぱりSランクとなれば、相当インパクトが有るって事か。
「勇者殺しってのは知らないけど、デルタファングで合ってるわよ」
「おぅよ! 勇者だか何だか知らねぇが、俺の前に立ち塞がった事、後悔しやがれ!」
それはもう一方的だった。
向こうは限界突破を使ってるにも関わらずモフモフを捉える事は出来ない。
最初に利き腕を食われ、次に左腕までも食い千切られちゃ成す術はない。
つまりそれだけ特殊迷彩が強力って事なのよ。
腕の後は足も食い千切り、あれよあれよと言う間に全身を食い尽くしちゃったみたい。
「ば、化け物……化け物めぇ!」
余程の恐怖なのか、腰を抜かしたまま壁際まで這いずっていくメリーヒルス。
頼みの勇者はモフモフの胃の中だし、コイツに出来る事はもう無い筈よ。
「さぁ、おとなしくしなさい。アンタは生け捕りにしろって頼まれてるから、このまま拘束するわね」
依然として腰を抜かしてるメリーヒルスを、マジカルバンドというマジックアイテムで拘束する。
とりあえずこれで一件落着ね。
「はぁ~~~助かったぁ。マジでサンキューだぜアイリ!」
「まったくだ。お前とは色々あったけど、こうして助けられるとは思ってなかったぜ!」
「ったく、お前ら男のくせにさっきまでビビりまくってたじゃねぇかよ、このヘタレ共」
「「ビビってたのはお前だろ!」」
命の危機だった筈なのに元気そうねコイツらは……。
ま、それはいいとして、メリーヒルスを連れて一旦ダンジョンに――
「お待ち下さい!」
「誰?」
メリーヒルスの真上の空間が裂けて、中から金髪の少女が飛び出して来た。
「私はメリーヒルス様の眷族クインゾーラです。お願いします、その方は私の大切なご主人様なのです。このまま連れて行かれては、私は路頭に迷う事になります」
――って、言われてもねぇ。
さすがに殺人未遂の上、前科があるなら放っとく訳にはいかないし。
「コイツを見逃す事は出来ないわ。悪いけど眷族なら一緒についてくしか……」
「そ、そんな……」
あちゃ~、涙ぐんじゃってる。
眷族はダンマスの命令には逆らえないから可哀想と言えば可哀想よね。
けど、コイツのやった事に加担したのは事実だろうし……。
「可哀想だけど、諦めてもらうしかないわね」
「そうだぞ! コイツのせいで俺の眷族は死んじまったんだからなぁ!」
「俺だってロドリゲスや他の眷族を殺られたんだ。このままで済ますかよ!」
「ウンウン」
……出来ればロドリゲスという名前は聴きたくなかったけど、まぁ兎に角、メリーヒルスは連行するのが確定してる。
「ですが私としてもメリーヒルス様の眷族である以上、自由に動く事は出来ません」
ああ、そういう事ね。
このままじゃメリーヒルスと一緒に行くしかないと。
う~ん……この場合、眷族はどうしたらいいんだろ……。
「ならば眷族でなければ問題あるまい? そんな事で済むのなら解除してやる」
眷族の解除? そんな事が出来るなんて聴いた事ないけど……
『出来なくはありませんよ、お姉様。但し、互いに同意の上でなければなりませんがね。そもそも、眷族を解除するダンマスは殆ど居ないと思いますし』
まぁそうよね、折角手に入れた眷族を手放すなんて事はしないだろうし。
「――って事なんだけど、クインゾーラはそれでいいの?」
「よ、宜しいのですか? 私としては大変助かりますが……」
ん? やけに嬉しそうね? そんなにメリーヒルスに付いてくのが嫌だったんだろうか?
まぁ今まで無理やり協力させられてたらそうなるか。
「メリーヒルスがいいって言ってるんだからいいんじゃない? ――ね?」
「フン、何度も言わすな。そんな役立たずなぞどうでもいいわ」
最後まで口の悪い奴ね……。
それは兎も角、互いに同意のもと眷族の解除を行ったわ。
「ありがとうございます!」
「チッ、もういいだろう、さっさと何処へでも行くがよい!」
コイツもこんな態度だから眷族に好かれる事はないんでしょうね……。
「あ、すみません。最後に、メリーヒルス様へお礼を申し上げたいのですが」
別れの言葉ってやつ?
「いいわよ、苦情なりなんなり言ってやりなさい」
「はい、ではメリーヒルス様……」
ん? 何でメリーヒルスに近付く必要があるんだろ――って、まさかコイツ!?
ザシュ!
「ギャァァァ! く、クインゾーラ、貴様ぁ!!」
く、油断した! まさかコイツの狙いはメリーヒルスそのものだったなんて!
「クックックッ、良い様ねメリーヒルス。眷族でない今ならお前を恐れる事などないわ。精々あの世で私達に詫びなさい!」
私はクインゾーラに刺されたメリーヒルスに駆け寄ると、即座にエリクサーをぶっかけた。
「プハァ! き、貴様まで何を……ん? 傷が癒えていく!?」
「エリクサーよ。アンタに使うのは勿体無いけどね」
よし、何とか間に合った。
ったくもう、今も言ったけどコイツにエリクサー使うなんて勿体無い無さすぎる。
「く、余計な事を……邪魔をするな人間! コイツのせいでノームも、サラマンダーも、ウンディーネも、皆死んでしまったのよ!」
「そうは言ってもね、コイツは裁かなきゃならないのよ。だから死なせる訳にはいかないの」
「つってもどうせ死刑じゃね?」
「俺もそう思う」
「つ~かエリクサー勿体無さすぎ……」
こらアンタら、余計な事言わない!
「もういい! 邪魔をすると言うなら、この国ごと自爆してやる!」
クインゾーラは物騒な捨て台詞を吐いて、何処かへ消えてしまった。
いったい何をするつもりだろ?
「ま、まさかアヤツ、アレを!」
メリーヒルスが急に青ざめた顔をした。
「アレ? アレっていったい何の事?」
「……密造酒だ。ありとあらゆる効能がある密造酒を神殿の地下に保管してある。大量に保管されてるアレを自爆に巻き込めば、首都は吹っ飛んでしまうぞ!」
クッ、マズイ事になった! 早くクインゾーラを止めないと!
ホーク「メリーヒルスで思い出したんやが、もうすぐメリークリ〇リスやな!」
アイリ「皆の前で言ったらブチ〇すからね?」




