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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第8章:残された者達の戦い
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究極生命体

前回のあらすじ

 首都カニエビのクリームコロッケ神殿にダンジョンがあると睨んだアイカは、神殿前に展開された国軍と、それを指揮するメンヒルミュラーと対面した。

背後からも人狼や人猫が襲い掛かってくると、やや離れた場所にレイクを召喚し、そちらへ注意を割くようにしむける。

更にルーやミリーも加わり、敵兵は散り散りになると、メンヒルミュラーは神殿内部へ逃走。

その後をアイカも追うのであった。

「ボス部屋に来ましたが、さて、何が出てくるのでしょう……」


 メンヒルミュラーはボス部屋の先へと進んでしまったが、アイカはボスを倒さなければ先に進む事は出来ない。


「む、どうやらお出ましのようですね」


 割と手狭なボス部屋の中央に魔方陣が出現し、浮かび上がったのは巨大なシルエット。

 そして現れたのは、一つ目の巨人サイクロプスであった。


『よくここまで来たな、話題のルーキーアイリよ』


 ボス部屋に響き渡る謎の声。

 勿論その声の主は……


「その声は……貴女がメリーヒルス様ですか?」


『如何にも。既に知ってるだろうが、グロスエレムの影の支配者メリーヒルスだ。このボス部屋の先に私のコアルームがあるが、今までここを突破出来た者は居らぬ。貴様がその第一号となるのか見せてもらうとしよう』


「フフン、いいでしょう。今更サイクロプスごときに苦戦はしません。精々首を洗って待っててください」


『ならば証明してもらおうか。行け、サイクロプスよ。その愚か者を捻り潰せ!』


「ウゴォォォォォォ!」


 メリーヒルスの命令で、サイクロプスが殴り掛かってくる。

 動きが遅いので、当然のようにアイカは避けるが、ボス部屋が狭いため距離を取る事は出来ない。


「成る程、回避しにくくするために狭くなってるのですね。それならば過去に突破した者が居ないのも頷けます……む?」


 感心するアイカだがサイクロプスは急に動きを止めると、唐突に叫び声をあげた。


「ゴァァァァァァ!」


「これは!」


 通常のサイクロプスは物理攻撃以外はしてこない。

 だがこれは精神に異常をきたすものであり、思うように身体が動かなくなるのだ。


『どうやらまともに食らってしまったようだな。その叫び声は神経をマヒさせる効果を含んでいる。残念だが貴様はもうサイクロプスの攻撃を避ける事は出来まい!』


 そしてサイクロプスが再び殴り掛かってきた。

 それを見たメリーヒルスは呆気ない幕切れだとガッカリした様子を見せ、捕らわれのダンマス3人は顔面蒼白になる。

 だが……




「ま、普通に動けるんですがね……よっと」


 動けない筈のアイカが華麗に身を(ひるがえ)し、サイクロプスの拳が空を切る。


『んなな、何だと!? 貴様ぁ、何故動けるのだ!?』


「さぁ、何故でしょうね? この答えは、わたくしがコアルームに行くまでの宿題としましょう……たぁぁぁ!」


 アイカの剣がサイクロプスの足首を切り裂き、巨体が前のめりに倒れ込む。


「トドメです。白き世界を我が手の中へ、包みて彩る赤き魂、燃え尽きよ、イグニスエクスプロージョン!」


 狭い部屋いっぱいに大魔法が炸裂する。

 が、アイカの周りだけは毎度お馴染みドローンがシールドを張ってるので、巻き込まれる心配はない。

 結果、全身を満遍なく燃やされたサイクロプスは、炭となって消えていく。

 メリーヒルスの自信作が僅か数分で破れ去るという事実に、彼女は勿論ダンマス3人も開いた口が塞がらないでいた。

 ただ残念なのは、その様子をアイカが見れないという事だが。


「さて、さっさと先に進みましょう」


 出現した扉を開け放ちコアルームを目指して行くアイカだが、何故サイクロプスの叫び声が効かなかったのかというと、単純に自動人形(オートマタ)だからだ。


「ふむ……罠が一切無いところを見ると、余程あのサイクロプスに自信が有ったのでしょうね。メリーヒルスの話だとこの先にコアルームがあるとの事でしたが……む? アレは……」


 一際豪勢な扉を前にして、メンヒルミュラーが棒立ちでアイリを見ているのが分かった。


「やはり来ましたか……。初めて見た時から規格外の強さを感じましたが。――ここから先はわたくしの立ち入りは許可されてません。行くなら貴女だけで――『ミュラーよ、立ち入りを許可する。共に入ってくるがよい』――え?」


 思いがけずメリーヒルスからの入室許可が下り、目を丸くするメンヒルミュラー。


「よ、宜しいのですか? 今まで決して入るなと言われてたではありませんか?」


『構わぬ。お前に見せてやるのも一興だと思ったまでだ。さぁ、早く入れ』


 何やら見せたいものが有るらしく、入室を促されるまま2人は中に入る。

 そこで見た光景に、2人は衝撃を受けた。




「こ、これはぁ!?」


 メンヒルミュラーは驚きと共に腰を抜かしてへたり込んでしまった。


「これは……ホムンクルス……というものでしょうか?」


 辺りには少女から成人女性までがビッシリとガラスケースのようなものに入れられてるのが視界に飛び込んできたのだ。

 そしてアイカの言うように、皆等しく目を閉じて人形のように飾られてるのであった。


「しかし金ピカの壁面と、吊るされたシャンデルにはミスマッチですね。そして何より悪趣味に見えますので、改装をおすすめします」


「フン、口の減らない奴め……」


 コアルームの奥から少々不機嫌なメリーヒルスが姿を現す。


「それよりも一つ訂正させてもらおう。これ等はホムンクルスなんぞとは違い、劣化はしないし老化もしない。そして何より自分と同じ思考回路を持って行動するのだ」


「自分と同じ? ま、まさかこれ等は全て!」


「フッフッフッ……そうとも。これ等全ては私自身! 私そのものなのだからなぁ!」


 あっさり自分自身だと暴露したメリーヒルス。

 だが、その説明に納得がいかない者が1人居るのも事実で……


「こ、これはどういう事ですか!? それじゃあお母様は……お母様はわたくしと同じ……」


 ここでアイカも気付く。

 叫んだメンヒルミュラーをよく見ると、ホムンクルスもどきと同じ顔をしてるのを。


「そういう事だ。お前は私自身なのだ。だが私の考えは甘かったようだな。自分と同じ思考回路ならば、理想の国家を作り上げる事が出来ると考えたのだが……」


 メリーヒルスはゆっくりと自分自身(メンヒルミュラー)に近付くと、肩に手を置き(ささや)いた。


「え……お母……様?」


「今までご苦労だった。安心して()()がよい」


「え? え? ど、どうして? 身体が勝手に!?」


 耳元で囁かれた瞬間、メンヒルミュラーが勝手に動き出す。

 そのままメリーヒルスに差し出されたナイフを手に取ると……


「ま、待って! 止まって! わ、わたくしはまだ死にたく――ガハァ!?」


 一気に自身の心臓へと突き刺し絶命した。


「…………」


 あっさりと死を要求するメリーヒルスに眉をひそめる。

 例えメンヒルミュラーが作られた存在だったとしても、命ある者を簡単に使い捨てるのは、見ていて気分の良いものではない。


「随分と粗末に扱うのですね?」


「なんだ? 私に説教するつもりか? 生憎そのような論争を繰り広げるつもりはないぞ?」


 今まで散々人体実験を繰り返してきたメリーヒルスにとって、説教じみた言葉は既に聞き飽きていた。


「フン、まあいい。こうして直接顔を会わせるのは最初で最後になりそうだが、一応名乗っておこう。私がグロスエレム教国の真の支配者、メリーヒルスだ」


「ではわたくしも。期待のルーキーとして名声を高めつつあるダンジョンマスターアイリ! ……の妹であるアイカです」


「……何? どういう事だ?」


 ここで漸く今まで観察していた対象がアイリではないと気付いた。


「どうもこうも、そのままの意味ですが?」


「そうではない。何故アイリ本人が来てないのだ? 奴は何処にいる!?」


「少なくともここには居ませんよ。それよりも捕らえたダンマスは何処に居るのです?」


「……フン、まぁいい。奴等ならほら、あそこに居るだろう?」


 アイリの事は一旦棚上げにし、メリーヒルスは後ろをクイッと親指でさした。

 その先にはガラスケースのようなものに入れられたダンマス3人が、何かを叫びなからアイカの方を見ている。

 残念ながら音を遮断されてるためか声が全く聴こえないが。


「助けたければ好きにするがいい」


「ふむ、妨害しないのですか? ならば遠慮なく――たぁぁぁ!」


 キィィィン!


「む? これは……」


 アイカが剣で斬りつけるが、ガラスケースもどきに傷は一切ついてない。 


「そのガラスケースのようなものはマジックアイテムでな、物理的な衝撃では一切傷はつかんのだ。破壊したくば魔法を放てばよい」


「成る程。そういう事なら――」


 何故か親切なメリーヒルスに疑問を感じつつも、アイカは詠唱を開始する。


「――ファイヤーストーム!」


 中のダンマス達を巻き添えにしないように、範囲を絞り発動した。

 するとメリーヒルスの言った通り、火魔法によりガラスケースもどきがみるみるうちに熔けていった。


「さぁ皆さん、これで出れま――な!?」


 しかし、中に居たダンマス達が姿を変え、一体の真っ黒なシルエットが出来上がった。


「コレがバーニィ様が(おっしゃ)っ――」


 スパーーーンッ!


 背後から急接近してきた何者かによってアイカの首が跳ねられ、メリーヒルスの足元までゴロゴロと転がった。

 目の前の偽者に気をとられ過ぎたせいか、後ろにまで注意が行き届いてなかったのだ。

 そしてアイカの首を跳ねたのは、千手(せんじゅ)達の眷族を瞬く間に切り刻んだ元勇者である。


「クックックッ、他愛もない。サイクロプスが殺られた時は少々焦ったが、やはり小娘は小娘。私の最高傑作である人造勇者には敵わなかったようだな!」


 メリーヒルスはうっとりした表情で、真っ黒なシルエットを視界に映す。


「おおおおぃぃぃ! 嘘だろアイカ!? こんな終わり方ってねぇぞ!」

「ななな、生首がぁぁぁ!」

「あああああ、もう終わりだぁぁぁ!」


 反面3人のダンマス達は発狂してしまう。

 実は彼等、アイカの背後にあったガラスケースもどきに入れられており、光を完全に遮断して見えないよう細工されてたのだ。


「さて、本物のアイリが来るか分からんが、余興は終わりにするとしよう」


 メリーヒルスが告げた余興の終わり。

 それ即ち、ダンマス3人の命が風前の灯火であるという事だった。


「本人が現れず、代わりに妹を差し向けてきた愚か者め。その愚行を後悔させてやろう!」


 メリーヒルスが念じると、千手達を監禁してたケースが消え去る。

 勿論自由になった訳ではなく、彼等を囲むように人狼(ウェアウルフ)が展開した。


「クソッ……せめてもの悪足掻きだ。死ぬまで戦ってやらぁ!」

「チキショウ……やるしかねぇ!」

「こ、恐ぇけど、あたいだって!」


「フッ、無駄な足掻きを……殺れ!」


 メリーヒルスの命令により人狼達が飛び掛かってくる。

 千手達はせめて一子報いてやろうと身構えたその時!


 ズバズバズバズバズバンッ!


 襲い掛かる人狼達が突然空中分解を起こしたのだ。


「「「っ!?」」」


 突然の事に理解が追い付かない3人は、身構えた状態を維持したまま飛び散った血の一部を全身に受ける。

 その直後に切断された人狼の部位がボトボトと床に落ちた。


「……な、何事だ!?」


 暫し間を置いてからハッとなったメリーヒルスは、状況を把握すべくキョロキョロと見渡す。


「随分と()を挑発してくれたみたいね?」


「んな! ――だ、誰だ!?」


 自身のすぐ側から聴こえた声に飛び上がりそうな程驚き、慌てて振り向くメリーヒルス。

 そこには、床に落ちたアイカの首を丁寧に拾い上げた謎の少女が居た。

 それを見たメリーヒルスは目を見開く。


「そ、その見た目……まさか貴様が!」


「フッ……」


 答えるまでもない……とでも言いたげに、少女は斬り離されたアイカの胴体を抱き起こす。

 そこへ漸く状況を把握したダンマス達が叫んだ。


「「「アイリ!」」」


 呼ばれたアイリは3人の前に立ち、真っ直ぐメリーヒルスに顔を向けた。


「アイカを()()()くれたお礼はキッチリとさせてもらうわ!」


アイリ「さてさて、胴体と頭を再接着して……はい、出来上がり♪」

アイカ「お姉様、前後が逆です」

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