首都激戦
前回のあらすじ
メリーヒルスからの挑戦状を受けたアイカ(アイリ)は、一度ダンジョンへと戻ってきた。
そこへダンマスのバーニィが現れ、正体不明の真っ黒な人物2人に襲われたと話す。
1人は幻術を使い、もう1人は桁外れの強さを持つらしく、バーニィと共に行動したさんにのダンマスは捕らわれてしまったらしい。
アイカはダンマス救出と、メリーヒルス生け捕りのため、首都カニエビへと向かうのであった。
「フン、小汚ない小娘が、よくノコノコとやって来ましたね」
グロスエレムの首都カニエビにあるクリームコロッケ神殿の正面で、メンヒルミュラーがアイカを挑発する。
既にメリーヒルスから襲撃者が来ると伝えられており、魔女の森で襲撃してきたアイカが再び現れた事で襲撃者だと断定されてしまったのだ。
しかも入口を塞ぐように国軍も展開しており、更には神殿上部からも弓で狙いをつけられている状態である。
(待ち構えていたという事は、ここで間違いなさそうですね)
だがここを突破せねば捕らわれのダンマス達の元へたどり着く事は出来ない。
何故ならメリーヒルスのダンジョンは、神殿の地下にあるのだから。
「随分と豪勢な持て成しですね。無性にお礼をしたくなってきますよ」
「フフ、気に入って頂けたようで何よりですわ。モッツァヴィーノも死んでしまった事ですし、何よりわたくしに恥をかかせた分、お代は高くつきますわよ? そうね、お代は……
貴女の命という事で如何かしら?」
ピシッ!
教祖が振るった鞭を合図に、アイカの背後にも冒険者らしき者達が展開して退路を断つ。
彼等は冒険者に見えるが、実際は人狼や人猫といったCランクの魔物達である。
「では存分に堪能して頂きましょう。――者達、やっておしまいなさい!」
そしてアイカを挟み込むように国軍と魔物がアイカに襲いかかる。
だがアイカは余裕の笑みを浮かべつつ上空へと飛び上がった。
無属性魔法グラビティロストにより重力を無力化する事で空を飛べるアイカにとっては造作もない事である。
「フフン、それで囲ったおつもりで?」
「クッ、生意気な。弓矢隊に魔術隊、あの生意気な小娘に天罰を!」
ならばと飛び道具による攻撃を試みてくる。
「甘いですね。アイスバリケード」
だがアイカの方が一枚上手で、氷のシールドにより弓矢とファイヤーボールは完璧に防いで見せた。
「ぐぬぅ……卑怯者め、下りて来なさい!」
「下りて来いと言われて本当に下りるバカはいません。ですがそれだと面白くないでしょうし、わたくしの代わりを用意しましょう」
鞭を振り回して怒りをぶつけてくる教祖を他所に、スマホをタップして何かを召喚する。
すると神殿からやや離れた場所に、巨大なドラゴン――ファイアドレイクのレイクが出現した。
「な、なんだアレは!?」
「ドラゴンだ、ドラゴンじゃねぇか!」
「ありゃファイアドレイクだ! 下手すると辺りが火の海になるぞ!?」
地上に居た兵士達は指をさしながらどうしようかとオロオロするのみで、メンヒルミュラーの指示を待ってる状態だ。
「早く止めた方が良いと思いますよ? まぁ国を挙げてキャンプファイヤーを催すというのであれば止めませんがね」
早速レイクは付近にブレスを吐きつけながら建物を踏み潰していく。
「くぅ! お前達、早くあのバケモノを始末してきなさい!」
さすがにこれを放置出来ないと思った教祖は、人狼達を向かわせる事にしたようだ。
しかし脅威はレイクだけではなかったようで、展開してた国軍へ何者が突撃し、数十人の兵士が後方へぶっ飛んでいく。
「何だ今のは!?」
「分からん! 何かが飛んできたんだ!」
「な、おい、アレって……」
そして1人の兵士指をさす。
突っ込んできた何かがムクリと起き上がったのを見て、周りの兵達もそれに注意を向けた。
「ルーも遊ぶ。もしくは暴れる!」
「何だこのガキは――ァガガガガガガ!」
ルーに掴み掛かった兵士の腕が、曲がってはいけない方向に曲がり、激痛により気絶してしまった。
さらに近くの兵士を掴むとでたらめにポイポイと投げ始め、壁や地面にめり込ませていく。
「なななななんだコイツァァァ!」
「コイツただのガキじゃねぇぞ!?」
「ヒィ、バケモノダァァァ!」
恐怖に駆られた兵達はメンヒルミュラーが居るにも関わらず、散り散りになって逃げ出し、それをルーが追いかけ回していく。
因みにミリーはレイクに群がろうとしてた人狼達と遊んでる最中だ。
「ま、待ちなさいお前達! 戻らないと神託により減俸になりますよ!?」
だが彼女の言う事を聞く者は1人も居らず、皆自分の命を優先したのである。
チラリと横へ視線を移すといまだレイクが猛威を振るってる姿が見え、人狼達では手に負えないのだと理解した。
「い、一度ならず二度までも……おおお覚えてらっしゃい!」
当然1人では何も出来ず、慌てて神殿の中へと逃げ込んで行く。
これは便利な道案内とばかりに、アイカはその後をこっそりつけて行く事にした。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「チッ、忌々しい小娘だ!」
苛立ち紛れにグラスを後ろに放り投げたメリーヒルス。
そのグラスを人狼の1人が慌ててキャッチし、テーブルへと戻した。
「おおぅ、さっすがぁ! どうやらアイリの圧勝のようだなぁ?」
「フン……」
千手が勝ち誇ったように叫ぶが、メリーヒルスは一瞬だけ千手に視線を向けただけで、再びスクリーンを注視した。
「おい千手、アレはアイリじゃなくてアイカ――「「やめろ!」」
アイリじゃなくてアイカだとヒカリは言おうとしたのだが、千手と水虫により口を塞がれてしまう。
「むぐぐぐ――プハァ! なにしやがる!?」
「しぃ~~~、余計な事を言うな。アレがアイカだって事は俺も千手も知ってらぁ。折角あのケバい女がアイリだと勘違いしてんだから、その方が都合が良いだろ?」
水虫の言う通り、メリーヒルスはいまだアイカの事をアイリだと思い込んでいた。
つまりこの時点で3日以内にアイリがダンジョンに来るという条件を満たしてる事になるのだが、もしバレれば無に返してしまう。
「ああ、そういう事か」
「そうそう。きっと俺のアイリの事だから、何か考えが有るんだろ」
「いつからお前のものになったのか知らんが、そう願いたいな」
こうして3人は、スクリーンに映るアイカをアイリと呼ぶ事にしたのである。
「だが貴様らは忘れてるのではないか? あの絶対的な能力を持つ勇者の前に手も足も出なかった事を」
顔はスクリーンを向いたままでメリーヒルスが呟くと、その勇者というフレーズに、3人はビクリと硬直した。
「フッ、急に静かになってどうした? やはり潜在能力を高めた勇者を前にしては、アイリでも敵わぬという絶望を感じてるのか?」
「「「…………」」」
3人は同時に俯く。
彼等は見てしまったのだ、己の眷族達が成す術もなく葬られていく様を……。
そして思い出したのだ、あの勇者という存在がその気になれば、自分達は既に生きてはいないという事を……。
その重苦しい雰囲気はメリーヒルスにとってまさに甘美の如く感じられた。
それこそスクリーンに映る、情けなく逃走する姿を晒す娘の事などどうでもいいかと思えるくらいには。
「ケッ、言いたい放題言いやがって。だいたいあの真っ黒な勇者は何なんだ! まるで生き物って感じじゃねぇぞ!?」
千手の言う真っ黒な勇者とはバーニィがアイカに語った存在の事で、更にソレが2人も居るのだという。
「ほぅ? 興味があるか? だったら教えてやろう」
興が乗ったのか、メリーヒルスはダンジョンコアを操作して3人の後ろの壁を開く。
するとそこには全裸にされた人間や獣人が、ガラスのような物で作られた箱の中で横たわっていた。
「「な、なんじゃこりゃ!?」」
「…………」
千手と水虫が驚きの声をあげ、全裸に免疫がないヒカリは反射的に顔を伏せる。
「コイツらは皆勇者と呼ばれた者達だ。彼等の死後に裏取り引きによりこちらへ引き渡してもらったのだよ」
「こ、これ全部死体かよぉ……」
「うげぇ……」
よく見ると中には少女も含まれてたが、とてもそそられる感じはせず、水虫は軽くえずいてしまった。
「って、ちょっと待てよ。もしかしてあの真っ黒な奴等は!?」
そしてヒカリは気付き、メリーヒルスはそれを肯定するように含み笑いをする。
「フフッ、その通り。あの2人は既に死んだ者達だ」
徐に立ち上がるとスクリーンから目を離し、安置してる勇者の死体近くまでゆっくりと移動すると、それら一つ一つを眺めつつメリーヒルスが語り出した。
「――私は何十年も前からここで研究してきたのだ。より忠実で、より長寿で、より強力な存在を求めてな」
そう、メリーヒルスは研究者であった。
それこそダンジョンマスターとして転生する前も……。
「だがこれ等はダメだ。ダメだったのだ! いくら勇者とて死んでしまえばただの人。蘇生も出来ず、肉体は滅びていくだけだ。勇者の一部を別の者に移植する事も試したが、勇者特有のギフトは得られなかった。つまり――」
ガンッ!
「これ等は無意味で!」
ガンッ!
「これ等は無価値で!」
ガンッ!
「これ等は私を満たさない!」
ガンガンガンッ!
突如怒り狂ったようにガラスケースのような装置を殴りつける。
慌てて人狼達が止めに入るが、利き手の左手は血だらけであった。
人狼達を振り払い再びガラスケースにへばりつく様は、まるでマッドサイエンティストそのものだ。
「けどね……あの2人は違ったのよ」
先程まで狂乱してた様子は鳴りを潜め、急に笑顔を見せつつクルリと3人へ振り返る。
その様子に3人はもとより人狼達でさえ恐怖した。
「恐らく死後に日数が経ってなかったのが良かったのね。あの2人が死んだのは今から1ヶ月くらい前になるらしいけど、入手したのは3週間ほど前だし。今までの死体はそれ以上経過してたから上手くいかなかったのよ。そうよ、そうに違いないわ!」
ニヤケながら1人で納得する様子に3人は壁際まで後ずさった。
さすがに気味が悪すぎるようで、人狼達も自然と距離を置いている。
「あ、そうそう、あの2人は互いに敵同士だったというのも上手くいった理由の一つかもしれないわ。――知ってる? つい最近までプラーガ帝国とミリオネックが小競り合いを起こしてたのを。あの2人はその時戦った2人なのよ」
1ヶ月くらい前にプラーガ帝国とミリオネックが国境間際で小競り合いを起こしており、その際に死亡した勇者を上手く蘇らせる事に成功したらしい。
「でも残念な事に何故か1人は勇者のギフトを消失してたのよねぇ、お陰でその1人は中途半端な能力になったけど、もう1人は大成功だったわ」
一頻り自慢した後、再び腰を下ろしたメリーヒルスはスクリーンに注目した。
「さぁ、そろそろ遭遇する頃よ? 見てなさい、私の素晴らしい研究成果を!」
スクリーンにはメンヒルミュラーがボス部屋へと入っていくところが映されており、アイカもその後を追って突入する。
狂気を滲み出したメリーヒルスの瞳に映る光景は果たして……
レイク「疲れたから寝るべ」
兵士達「助かった……」




