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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第8章:残された者達の戦い
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そうだ、我が名は……

前回のあらすじ

 モッツァヴィーノに続きジュヌーンまでも失ったメリーヒルスは、ついに此度の襲撃にアイリ(アイカ)が関わってる事を突き止め復讐に燃え始める。

一方のアイカは、ディスパイルの頼み事を引き受け、メリーヒルスを生け捕りにすべく行動するのであった。

 グロスエレム教国の西側にあるキリスの街。

 街の隅々にまで水路を繋げ、更に至るところに噴水広場を設けてる美しい風景であるこの街も同様に、奴隷商や神殿への襲撃が行われ、今も1人のダンマスが魔物を使役して奴隷の解放を行っていた。


「ありがとう御座います! この恩は一生忘れません!」


「え? い、いやぁ、成り行きでやってるだけだからね。そんなに畏まんなくても……」


 1人の獣人少女が頭を下げると、他の獣人達も揃って頭を下げた。

 その様子を見て、助けた側の少年――石流王(せきりゅうおう)というダンマスは、照れた様子で頭をポリポリと掻く。

 何故ダンマスである石流王がダンジョンから出てやって来たのかと言うと、自らの手で鬱憤(うっぷん)を晴らしたいという単純な理由からだ。

 そのため一見無防備に見えるかもしれないが、彼の傍には3体のプロトガーディアンというDランクの人形(ひとがた)簡易ゴーレムが守りを固めてるので、さほど危険ではない。


「それにさ、解放したといってもその首輪は外せないし……」


「いえ、それでもです。あのままでは死ぬ未来しかなかったのですから……」


 少女が言った事は決して大袈裟な事ではなく、買われた先で玩具にされた挙げ句に殺されるか、そのまま館内で粗末な食事しか与えられないまま病死するかの2択しかないと言っていいだろう。

 それを考えれば、首輪がついてるくらいは気にならないと言う獣人は多いかもしれない。


「それじゃあこれから1度ダンジョンに連れて行くけど、それで大丈夫かい?」


「はい、何処へでも……」


 何故かうっとりした表情で石流王を見つめる少女に、他の獣人達は苦笑いをする。

 さしずめ彼女にとって石流王は、白馬に乗った王子様にとして見えたに違いない。


 因みにダンジョンへ連れて行く理由は、解放した奴隷はどうすんべ……という事になったので、参加者全員で話し合った結果、発端を作ったアイリ(アイカ)に丸投げする事に決定したためだ。

 つまり、自分のダンジョンに連れ帰った後、アイリーンへと送り届けるのである。


「それじゃあ皆で手を繋いで――「お待ちなさぁ~ぃ!」


 気の抜けた声と共に水路から現れたのは、色白でサファイア色の長い髪をなびかせた、メリーヒルスの眷族ラヴィアンであった。


「君は……ま、まさか新手か!?」


「そのまさかですぅ。魔物を使って各地を襲撃してる者達を討伐せよとの(めい)を受けて来ましたぁ。これ以上の狼藉は許しませぇん!」


(チッ、これじゃ落ち着いて詠唱出来ない)

「ダガースコーピオンは前へ、コボルト隊は弓で援護せよ、かかれぇ!」


 敵だと判断した石流王は、すぐに魔物をラヴィアンへと向かわせる。


「イタタタタァ! もおぅ、大したダメージにはならなくてもぉ、痛いものは痛いんですよぉ!? ウォーターカーテ~ン!」


 コボルトによる射撃を水の幕で防ぐ。

 その間にダガースコーピオンも接近するが、動きが襲いためラヴィアンまでは届かない。


「チッ、出し惜しみは出来ないか……なら」

(周りを囲んで袋叩きだ!)

「いけ、イエローウルフ!」


 周囲を警戒させていたイエローウルフ達に、ラヴィアンを包囲するように展開させる。

 更に動きを封じるように、再びコボルトからの援護射撃も行わせた。


「もおぅ、しつこいですよぉ、ウォーターカーテ~ン!」


 だが先程と同じように水の幕で防がれるが、これは石流王にとっては想定内だ。


「よぉし、今だ! ダガースコーピオン!」


 ウォーターカーテンの効果が切れたタイミングに合わせて、猛毒を含む尻尾をラヴィアンへと突き刺す!


 ドスッ!


「よし! これで……え?」


 身体中に猛毒が駆け巡ってる筈のラヴィアンだが、刺された腰を擦りながら石流王に抗議してきた。


「もおぅ、痛いじゃないですかぁ。女性には優しくするものですよぉ?」


「ななな、何で? ……何で普通に動けるんだよぉ!?」


 そう、ラヴィアンは猛毒を食らったにも関わらず、何ともなかったかのように振る舞っている――いや、実際に何ともないのだ。

 何故なら……


「私の身体は水のみで構成されてるんですぅ。例え毒を注入されてもぉ、すぐに流れてしまうんですよぉ?」


「クッ、無意味だって事か!」


 悔しそうに歯を食い縛る石流王だが、諦める訳にはいかない。

 彼の勝利を祈ってる奴隷達のためにも、負けられない戦いであった。


「さぁどうしますぅ? 降参しますかぁ?」


「バカ言え、降参するのはお前の方だ!」


 おどけた様子のラヴィアンにイラつきながらも、イエローウルフとダガースコーピオンで一斉に襲い掛からせる。


「無駄ですよぉ、ウォータースプラッシュ~!」


 水の塊が周囲に放たれ、イエローウルフに命中する。

 気の抜けた声とは裏腹に威力は充分だったようで、狼達は残らず全滅してしまう。

 Eランクのイエローウルフでは荷が重かったようだ。


「まだだ!」


 続けてダガースコーピオンが人の顔面程ある大きなハサミで殴り掛かるが、ラヴィアンは後ろへ下がり回避される。

 だが石流王の狙いは他にあり、それは回避に成功したと思い込んでたラヴィアンの死角から飛び掛かり、首へと巻きついた。


「これはぁ!?」


「迂闊だったな? よそ見してる方が悪いんだぜ?」


 巻きついたのは隠密スキルを所持するアサシンスネークで、気配を消して死角へと移動し終えたところで、ラヴィアンの首へと巻きついたのだ。


「グッ……」


 ギリギリと締め上げられ言葉が出せない彼女は、そのまま首をネジ切られてしまった。


「ふぅ、何とかなったな……。中々手強そうな奴だったが、油断してくれて助か――「まだ終わってはいませんよぉ~?」


 石流王が安堵してたところへ、再びあの不愉快な声が聴こえてきた。


「そ、そんな! 確かに首は折れてる筈なのに!」


「フッフッフゥ、無駄だと言った筈ですよぉ? 何故なら私はウンディーネなのですから、首が折れたところで何も問題はありませぇ~ん」


 今も尚、アサシンスネークをマフラーにした状態で首が恐ろしい曲がり方をしてるのだが、彼女にしてみれば無意味であった。


「クソッ! まさかBランクのウンディーネだったとは……」


 石流王は脂汗を流しながら一歩後退する。

 アサシンスネークとダガースコーピオンは共にDランクであり、とてもラヴィアンに対抗出来るとは思えないからだ。

 

「ではではぁ、こちらの番ですよぉ! 母なる恵みで大地を麗し、全てを飲み込み包み込め、キャニオンジェリー!」


 デュラハンのように首を外したラヴィアンは、アサシンスネークをポイッと投げ捨て水魔法を発動させた。


「な、何だこのネバネバは!?」


 石流王や奴隷達の足元からジェリー状に変化した水が浸食していき、既に膝から下が動けなくなってしまった。

 しかも浸食は止まらず、そのままジワジワと上半身を目指している。


「フッフッフゥ、もう許しませんからねぇ? 貴方が死ぬまで浸食は止めませぇん。精々窒息死するのを待つのですねぇ!」


「クソォォォ!」

(折角グロスエレムに一矢報いれると思ったのに、これまでかよぉ……)


 身動きがとれなくてはどうにもならない。

 最早これまでかと思ったその時、ラヴィアンの背後から1人の女性が襲い掛かる。


「その汚ならしい魔法を()めなさい」


「ゲハッ!」


 背中を叩きつけられたラヴィアンは勢いよくぶっ飛び、そのまま水路へと落ちていく。

 それと同時に展開していた魔法が消滅し、石流王達は難を逃れたのだった。


「さぁ、今の内に撤退なさい」


「あ、ありがてぇ、恩に着るぜ!」


 邪魔者が居なくなったところで、石流王は奴隷達と共にダンジョンへと帰還した。

 その直後、水路からひょこっと顔を出したラヴィアンが女性に狙いを定めると……


「ヴァーチカルショット!」


 背後を撃ち抜くように水弾を発射した!

 だがその動きは予測してたらしく、女性は片手で水弾を防ぐと、ラヴィアンへと向き直る。


「あどけない顔してやる事が卑怯ですね」


「……あの魔法を防ぐとは、中々やるようですねぇ。それに背中を狙った貴女に言われたくありませぇん! だいたい貴女は何者なんですかぁ!?」


 胸元を開いた欲情的な衣装を着こなした女性は、一応は真剣に話してるであろうラヴィアンの目を見つめて名乗りをあげる。


「偉大なるカイザーを(あるじ)に持つ私こそ、種族の中で最も高貴な存在、ロイヤルサキュバスのメディルと申します」


 女性の正体は、かつてダンジョンバトルロイヤルにてアンジェラに無条件で敗北した、Sランクのカイザーの眷族メディルであった。


「ロイヤルサキュバス……」


 その名を聞いたラヴィアンは今までの余裕をすっかり無くし、どう対処すべきか心中穏やかではなくなっていく。

 だが戦わねば殺られると感じた彼女は、相手が動き出す前に先手を打つ。


「いきますよぉ! 母なる恵みで大地を麗し、全てを飲み込み包み込め、キャノンジェリー!」


「む? これは……」


 使用したのは、先程石流王を苦しめた粘つく水による動きの封じ込めだ。


「フッフッフゥ、これなら如何にSランクといえど、簡単には――はぁ!?」


「フッ、この程度で勝ち誇るとはおめでたい」


 見ると、メディルを浸食していた水がどんどん吸収されていってるのに気付く。

その全てを吸収し尽くしたメディルは、冷めた表情でラヴィアンに目を合わせた。


「さぁ、自慢の魔法は消えてしまった訳ですが……続けますか?」


「ううぅ……やはり強いですぅ。ですが手が無い訳じゃありませぇん!」


 ラヴィアンは近くの噴水に飛び乗ると、まるで噴火を起こしたかのように打ち上げられる。

 上空で静止した状態で両手を広げると、街中に引かれている水路の水がラヴィアンへと集まった。


「ガボガボガァ、ガボボボボガボ、ガボガボガボガガボォ!」「ではいきますよぉ、これが私の切り札、アクアグラビティ!」


「水が!?」


 大量の水がメディルを包み込み、さらに水圧を操作して押し潰そうと目論む。


「さぁどうですぅ? さすがにこれは耐えられないでしょ~う?」


 自信に満ちた表情でメディルを見下ろし勝利を確信する。

 現にメディルは先程から動いておらず、水圧のせいで身動きがとれないのだと思ったからだ。

 だがラヴィアンの考えは甘かった。


「う、嘘ぉ……」


 メディルの100倍は有るかと思われる大量の水がどんどん吸収されていくのを見て、呆気にとられてしまった。

 やがて全てを吸い尽くしたメディルはラヴィアンのいる上空へと飛び上がり、首を掴んで地上へと着地する。


「貴女は少々勘違いをされてるようですが、私が吸収するのはなにも男の精力だけではありません」


「ま、まさかぁ……」


「気が付きましたか? そうです、生命の源となるものなら全て吸収出来るのですよ。何せ生命の水ですからね」


 もっとも、水を大量に吸収出来るのは普通のサキュバスには不可能で、ロイヤルサキュバスであるメディルだからこそ出来る荒業である。


「さて、次は貴女です。()()()()を吸収出来る機会はそうそうありませんからね」


「ヒィ~!?」


 首を掴んだまま舌舐めずりをするメディルにラヴィアンは恐怖を感じるが、気付けば既に大部分を吸収されつつあり、なすがままの状態だ。


「ああぁぁぁ……リー……ルス……さまぁ……」


 とうとう手のひらサイズにまでなってしまい、最後に(あるじ)の名を叫んで消滅したのであった。


「ふぅ……大変美味しゅう御座いました」


『メディルよ、首尾はどうだ?』


『あ、クリスタルカイザー様』


 メディルが満足したところで、クリスタルカイザーからの念話が届く。


『……その名前は勘弁してくれ、もう普通のカイザーでいいから』


『畏まりました。では普通のカイザー様、石流王様がピンチでしたので急遽参戦し、敵将ウンディーネを討ち取りました』


 クリスタルカイザー改め、普通のカイザーに1人のダンマスを助けた事を報告した。


『普通の……コホン、まぁいい。ウンディーネと言えばBランクだった筈だ。それを投入してきたという事は本腰をあげたのだろう』


『そうですね。因みに正しくは、本腰を入れるです』


『……コホン、まぁなんだ、今のは悪い例だ。それよりも次の街に――いや、ちょっと待て! これは……』


『どうされました? 普通のカイザー様?』


『ふざけてる場合ではないぞメディル。すまんがすぐに首都へ向かってくれ!』


 普段とは違い、ただ事じゃないと感じたメディルは、真剣な表情へと変わり念話に神経を研ぎ澄ます。


『カイザー様、何があったのです!?』


『集いに参加してた連中の何人かが、メリーヒルスに捕まったらしい。上手くいく保証は無いが、救出する機会があれば救出してほしい』


 カイザーの口から告げられたのは、複数のダンマスが生け捕りにされたという事だった。

 だがカイザーとしても見捨てるのは忍びないと感じ、助ける方向で動く事にしたのである。


『畏まりました。至急首都へ向かいます』


『すまんな。だが気をつけてくれ。Sランクのお前がそうそう遅れをとるとは思えんが、ダンマスを生け捕りにする程だ。くれぐれも油断するなよ?』


『勿論です。敵対者は容赦なく処分しますのでご安心を』


 メリーヒルスに捕らわれたダンマス達。

 彼等を襲ったのは果たして……


ラヴィアン「因みにぃ、水路には汚水も紛れてましたが残らず吸収したのですよねぇ?」

メディル「うげぇ……」

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