グロスエレムの裏側
前回のあらすじ
グロスエレムの前哨基地を襲撃し多数のエルフを解放したアイカは、ここぞとばかりにアイリーンへの移住希望者を募り、捕虜の兵士と共に街へと連れ帰る。
その後アイカは再び前哨基地へと戻り、レックス達と共にグロスエレムへ向かうのであった。
日々ダンマス達が交流を行うダンジョン通信。
今日も今日とて、彼等は自分好みの集い――要はスレッドに集まっていたのだが、この日、久々に大ニュースが飛び込んできた。
ロムネック 共存を望む者達
『おい聴いたか? グロスエレム教国の話』
豪血 共存を望む者達
『うむ、俺も先程耳にしたぞ。まさかあの国にダンマスが関わってるとはな……』
彼等は本日未明に立てられた【グロスエレムの裏側】という集い(スレッド)で情報を得たのである。
勿論スレ立てしたのはアイカで、眷族であるモッツァヴィーノの死体画像付きだ。
更にはモッツァヴィーノのステータスを顔に貼り付けた事により、メリーヒルスというダンマスの名前が現在進行形で拡散されている。
ロムネック 共存を望む者達
『名前は確かメリーヒルスだっけ? もしソイツが裏で教国を操ってるんだとすれば……』
マリオン 共存を望む者達
『間違いなく排他主義者ね。あの国に排除されたダンジョンは多数存在した筈だし、何とかして正体を暴きたいわ』
この集いでもメリーヒルスの事が取り上げれ、正体を探ろうとする動きが見られる。
勿論これもアイカが想定した事であり、メリーヒルスを表舞台に引きずり出してやろうという考えだ。
豪血 共存を望む者達
『うむ。恐らくは集いの主(スレ主)も同じ考えなのだろうな。出来れば散っていったダンマス達のためにも協力してやりたいところだが、如何せん距離が遠くてな……』
マリオン 共存を望む者達
『私もね……。ロムネックはどう?』
ロムネック 共存を望む者達
『難しいな……。あ、でもアイツは確かグロスエレム国内だった筈だ。だからアイツならノリノリで協力しそうな気がするぜ!』
マリオン 共存を望む者達
『アイツ?』
豪血 共存を望む者達
『アイツとは誰の事だ?』
ロムネック 共存を望む者達
『1人居るだろ? いつも騒がしくて暴れるのが大好きな奴がさぁ。名前は――』
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変わってこちらはグロスエレム教国の集い。
先程ロムネックが挙げようとした名前のダンマスが、この集いで鼻息を荒くしていた。
千手 グロスエレム教国
『よう諸君、お前ら教国の事は聴いたよな?』
カイザー 無所属
『聴いたぞ』
バーニィ グロスエレム教国
『聴いた聴いた、この国のトップがダンマスと協力関係にあるって事でしょ? ほんとビックリだよね~』
石流王 アレクシス王国
『まったくだ。こっちはいつ越境して攻めて来るかヒヤヒヤしてるってのに!』
千手 グロスエレム教国
『あ、お前確かアレクシス王国に居るけどグロスエレムに近いとか言ってた奴だな。ここに来たって事は、当然参加するって事でいいんだな?』
石流王 アレクシス王国
『勿論さ、越境してでも参加するよ』
当然ながら彼等が参加すると言ってる事にもアイカが絡んでおり、その内容とは、グロスエレム教国への大規模な襲撃作戦であった。
カイザー 無所属
『当然参加するぞ』
ヒカリ グロスエレム教国
『あたいもだ。神殿襲撃して金目の物奪ってやるぜ!』
水虫 無所属
『お、いいねぇ、勿論早い者勝ちって事でいいよな?』
ヒカリ グロスエレム教国
『ったりめーよ!』
千手 グロスエレム教国
『おっしおし、諸君らの気持ちはよぉ~く分かったぞ! だが今回の作戦に関して注意事項が有るから伝えとくぜ!』
千手の言う注意事項とはアイカから通達された事であり、内容は以下の通りになる。
1、無抵抗な者は襲わない。但し、兵士の場合は武装解除はしておく事。
2、第一目標を奴隷商とし、犯罪奴隷以外は無条件で解放する。
3、第二目標を神殿とし、金目の物は好きに持ち出して良い。
4、勇者が居る可能性があるので注意する事。
5、メリーヒルスというダンマスの眷族が襲ってくる可能性があるので注意する事。
千手 グロスエレム教国
『――とまぁこんな感じだが、特に4と5は要注意な。いきなり首都に飛び込むのは危険だからよ、端からジワジワと襲撃してやろうぜ! んじゃ諸君、健闘を祈る!』
これで簡単な打ち合わせは終わり、各々で襲撃準備を行うため解散した。
カイザー 無所属
『誰も話しかけてくれんかった……』
久々に集いに顔を出したが誰にも相手にされなかったカイザーは、暫くはボッチのままのようだ。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
時は遡る事前日の夜。
とあるダンジョン最下層のコアルームにて、瞑想を行ってる者が1人。
「む? モッツァヴィーノとの繋がりが消えたな……」
マジックアイテムで煌々と照されたコアルームにてそう呟いたのは、一躍時の人となってしまう予定のメリーヒルス。
自身のダンジョンを映す筈のスクリーンは起動させておらず、その代わりに教祖メンヒルミュラーと似たような姿をしたメリーヒルスが反射されている。
そしてこの人物こそ、グロスエレム教国を裏で操っているダンジョンマスターであった。
「クインゾーラ!」
コンサートホールのように広いコアルームにメリーヒルスの声が響く。
するとメリーヒルスが腰を下ろしてる真横の空間が歪み、金髪の幼い少女が姿を現した。
「お呼びでしょうか、マスター」
「うむ。我が娘を迎えに行かせたモッツァヴィーノが消えたのだ」
「モ、モッツァヴィーノがですか!?」
信じられないという顔で聞き返すクインゾーラに見向きもせず、黙って頷く事で肯定の意を示すメリーヒルス。
モッツァヴィーノがメンヒルミュラーの要請に従い出向いたまでは把握してるのだが、その先の出来事が分からない。
そこで彼女は、自身の眷族であるクインゾーラに調査を命じるのであった。
「畏まりました。すぐに調査を開始します」
再び空間が歪み、クインゾーラはその中へと消えていった。
「あれでも奴はBランクのノーム。簡単に消されるとは思わない。が、やはり魔女の森は魔境という事か……」
モッツァヴィーノの正体はBランクのノームであり、普通の冒険者では荷が重い相手。
だが今回は魔女の森へと急遽進軍したため、そこだと思わぬ強敵が潜んでいてもおかしくはないと考え直す。
「やむを得ん。ミュラーに言い聞かせて、魔女の森から手を引かせるとしよう」
そしてメンヒルミュラーを止めなかった事を若干後悔しつつその日は就寝とするのだが、後に彼女は更なる後悔をする事となる。
何故ならこの時はまだ、現国家体制が揺らぐ事態になろうとは思ってもみなかったからだ。
そして次の日、クインゾーラの予想だにしなかった報告に、メリーヒルスは驚き困惑した。
「まさかモッツァヴィーノが裏切るとは!」
「お、落ち着いて下さいませ! もしかしたら敵の罠に掛けられた可能性も……」
感情を荒らげるメリーヒルスを宥めつつ報告を行うクインゾーラは、呪縛により絶命してるモッツァヴィーノを発見した事を、ありのままに話したのだ。
だが眷族が裏切る可能性は100%無く、モッツァヴィーノの場合は返答に困った結果、グレーゾーンに引っ掛かっただけだ。
それにこの場合、どちらかと言うとメリーヒルスが眷族を信用しなかったばかりに発生した事故のようなものであるが、そうとは知らないメリーヒルスは裏切り者が出たという認識しかしなかったのである。
「所詮奴も小物だったという事だな。実に残念だ……。時にクインゾーラよ」
「は、はい!」
「もしも裏切るような事があれば――」
徐に立ち上がったメリーヒルスがそっとクインゾーラへと近寄り、顎を静かに持ち上げる。
メリーヒルスの凍てつく瞳が少女を射抜くように見下ろすと、その冷たさにブルブルと震える少女に対して囁いた。
「――モッツァヴィーノの二の舞になるという事、肝に命じておけよ?」
「は、は、はひぃ……」
少女の顔から手を離すと再び椅子へと腰を下ろすメリーヒルス。
その直後にへたり込んでしまったクインゾーラは、冷たさの余韻になんとか失禁するのを堪えるのに必死であった。
「――まぁよい。それより――「た、大変です、メリーヒルス様ぁ!」
そこへ今度は別の眷族がコアルームに飛び込んで来る。
「騒々しいぞラヴィアン、何事だ?」
ラヴィアンと呼ばれた透き通るような白い肌の女性がメリーヒルスの前で跪くと、手振りを交えて訴えてきた。
「国内各地で魔物が暴れていますぅ! 今も尚被害が拡大中ですぅ! 何とかしないと国中が荒れ放題ですぅ!」
「――落ち着けバカ者が。だいたい魔物なんぞ兵士に始末させればよいだけではないか。何をそんなに慌てる必要がある、戯けが!」
ラヴィアンが慌ててる事で逆に冷静になったメリーヒルスが吐き捨てるように言い放つ。
本来であれば魔物の被害程度で報告するのは大袈裟であると言える。
が、しかし、今回ばかりは事情が違った。
何故なら……
「そ、それが、多数の魔物が暴れてる上、それらが徒党を組んで各地にある奴隷商や神殿を襲ってるのですぅ!」
「何だと!?」
これはおかしな事であった。
普通の魔物が徒党を組む事は有っても、広範囲で同時に活発化する事は殆どあり得ない事であり、更には特定の場所を襲撃するなど野良の魔物が行う事ではない。
考えられるのは何者かが裏で手を引いてるという事だが……。
(アレクシス王国の差し金か? いや、プラーガ帝国という事も有り得るか。何れにしろ大規模な事を仕出かしてる時点で大国が絡んでるのは間違いない)
通常であればメリーヒルスの憶測が正しいのだが、今回ばかりは間違いであった。
まさか大規模な襲撃が、1ダンジョンコアが引き起こした事だとは夢にも思わない訳で。
だが黙って手をこまねいている訳にもいかず、メリーヒルスはすぐさま対処に移る。
「直ぐに人化可能な魔物を差し向ける! 各地の兵士には出来るだけ時間を稼がせよ!」
「はいですぅ!」
「は、はいぃぃぃ!」
新たな命を受けた眷族達が散開する。
一時の静けさの後、暫し目を閉じていたメリーヒルスが目を見開くと……
「出てこいジュヌーン!」
メリーヒルスの命に応じて、新たな眷族である真っ赤な髪をした少年が姿を現した。
「僕をお呼びとは珍しい。何かお困り事ですか?」
あどけない表情で尋ねる少年だが、その瞳には燃え盛る闘志が宿っており、何よりも戦闘好きだという事が窺える。
「我が国の兵士共が魔物の対処に手こずってるようなのでな。すまぬが手を貸してやってくれ」
「ほほぉ、そいつぁ大変だ。けどマスター、僕が出るって事は、多少の巻き添えは多目に見てくれるって事でいいんだよね?」
台詞とは裏腹に全く大変そうな表情を見せず、寧ろウキウキとしてる様子のジュヌーンがそこに居た。
だがメリーヒルスは特に気にした様子はなく、淡々と告げる。
「構わぬ。魔物ごときに手こずる兵なんぞ、多少犠牲になったところで問題はない。我が国に牙を剥いた愚か者を凪ぎ払うのだ!」
「おお! 久々の大暴れだぁ!」
長らく出番が無かったために大喜びの少年。
「サラマンダーとしての実力、しかと見せ付けてやれ!」
「はぁーい! 畏まったよ!」
意気揚々と飛び出して行った少年を見送るメリーヒルスであったが、彼女はまだ知らない。
この世界には更なる強さを持つ者が居るという事を……。
アイリ「それではここで、眷族達の強さランキングを発表したいと思いま~す」
アイカ「では皆様、ご覧下さい」
1位・アンジェラ (バハムート)SSSランク
2位・リヴァイ (リヴァイアサン)SSSランク
3位・ルー (オリハルコンゴーレム)SSランク
4位・レイク (ファイアドレイク)Aランク
5位・ミリー (ミスリルゴーレム)Sランク
6位・モフモフ (デルタファング)Sランク
7位・ホーク (ワイルドホーク)Bランク
8位・ザード (リザードマンキング)Bランク
9位・セレン (セイレーン)Bランク
10位・ギン (シルバーウルフ)Cランク
11位・クロ (マットブラックウルフ)Dランク
アイリ「以上の結果になりました。そして気付いた人も多い筈、意外にもレイクが強い?って感じてるわよね?」
アイカ「勿論理由があります。実はレイクってば力で見ればモフモフより強かったんですね。更にミリーよりも強かったのは意外でしょうね」
アイリ「モフモフの場合は、対人戦に特化してるので、レイクとミリーに対して相性が悪いのが結果に反映されているわ。つけ加えれば、ゴーレムのミリーよりもドラゴンのレイクの方が柔軟性がある分、レイクが上と判断されたみたい」
アイカ「ですが人化する事で弱点を補ってるので、人化を含めれば結果は変わってきます。そしてリヴァイに関しても、海中ならアンジェラよりも強いという結果になるでしょう」
アイリ「ついでに言うと、空を飛べるホークがザードを凌ぐって事みたいね。アホだけど」
アイカ「次回は他のダンマスの眷族や眷属も含めたものを出してみましょう」




