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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第8章:残された者達の戦い
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閑話:アイリーンの日々

「いくぞ……」


 半獣人(ハーフビースト)のトムが、10メートル先の的を狙って弓を構える。


(的までの障害物は無いし風も無い。これなら……イケる!)


 そして放たれた矢は的を目掛けて一直線に飛んで行き、見事にど真ん中を――


 スカッ!


 ――射る事はなく、横をすり抜けて後方の茂みに突っ込んでいった。


「アレェ? っかし~な~、狙いは間違ってなかった筈なのに……」


「そりゃ間違ってると思って構えるバカはいないよ。いい加減自分が下手なのを認めたら?」

「「うんうん」」


 首を傾げるトムに弟のジェリーが毒舌で突っ込むと、エマルガとデュークが相槌を打つ。

 彼等4人は年齢が近い事もあり、デュークとミレイがアイリーンにやってきてから直ぐに仲良くなったようで、こうして一緒に行動する事が多い。

 因みに今現在行われてるのは、誰の弓の技術が一番かという【第1回、必中!的当て対決(的から)ポロリもあるよ】が開催されていた。


「じゃあジェリーがやってみろよ、絶対難しいからさ!」


 ジェリーに挑発されて悔しさを隠しきれないトムが、弓矢を手渡すと後ろに下がる。

その目には、どうせジェリーも外すだろうという感情が現れていた。

 何故かというと、彼等2人は今まで弓を扱った事が1度も無いからだ。

 しかし、ここで思わぬ事が起こる。


 トスッ!


「「「ええっ!?」」」


 何と、ジェリーは一発で命中させたのだ。

トムが20発を放って1度も当たらないのと比較すると雲泥の差があり、これには他の3人も驚き言葉を失ってしまう。


「なんだ、簡単じゃないか。ねぇトム、やっぱ簡単だったよ?」


 こんなものは難しくも何ともないといった表情で言い放つジェリー。

 ――いや、実際にそう思っており、逆に何故これが難しいと感じてるのかが分からないといった顔だ。


「い、いや、もしかしたらマグレかもしれないし、もう一度やってみてよ」


「……しょうがないなぁ」


 トムのリクエストに答えて再び弓を構えるジェリー。

その表情には、いかにも面倒くさいといった感情が表れていたが、やはり本人もマグレと言われて黙って下がる事は出来なかったようだ。

 そこで二回目の挑戦を行うと……


 トスッ!


 これもまた見事に命中したのだった。


「すっげーなジェリー! 実は才能あるんじゃね?」

「俺もそう思う。というか、ずっと前から使ってる俺よりも上手いかも……」


 エマルガは手放しで称賛しデュークはかなりショックを受けてる様子で、その反応に満更でもないジェリーは、照れ隠しに帽子で顔を隠していた。


「……う、うん、隠された才能が見つかったってとこだね。良かったじゃないかジェリー、これからは遊撃としてその才能を遺憾なく発揮するといいよ。どうやら僕は肉体労働が苦手のようで、弓は上手く扱えないみたいだけれど、まぁ代わりに魔法のスキルを磨くとするよ。だいたい戦いは物理的なものだけじゃなく――」


 兄より優れた弟の存在を目の当たりにしたトムは、早速弓から遠ざかる。

 そして得意の持論展開が開幕したのと同時に、他の面子はため息混じりに肩を竦めるのであった。


「ま~た始まったよ、こうなると長いんだよなぁトム……」

「俺の村にも似たような堅物がいて、確かアイカに決闘を挑んで返り討ちにあってたなぁ」

「ごめんね2人共、頭の硬い兄で……」


 結局、弓対決の結果はというと……、


 1位、ジェリー

 2位、エマルガ

 3位、デューク

 4位、トム  


 以上の結果に落ち着いたのであった。

 因みにダミアンが参加してた場合、その名前は一番下に記された事だろう。




「お兄ちゃ~ん! そろそろお昼御飯の時間だよ~!」

「……早く……ご飯」


 エマルガの妹ラナが、ミレイと手を繋いで駆け寄ってきた。

 この2人も年齢が近い事もあり、直ぐに仲良くなったようだ。


「おっし、飯だ飯だ。早く行こうぜ!」

「おーーーっ!」


「ちょ、2人共手伝ってよぉ、こうなるとトムってばトリップしたまま戻って来ないんだからさぁ……」


 食欲旺盛なエマルガと動き過ぎて空腹だったデュークは、先を競うように街へと駆けて行くのだが、ジェリーは弓の才能を発見した代償として、トリップしたトムを担いで戻る羽目になったという。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「え、ま、毎日ぃ!?」


「そうですよ? 日々の行いが実を結ぶのですから当然ですわ」


「「「ほへ~ぇ……」」」


 ところ変わって、こちらはカフェテラスの一角。

そこではエステサロンの看板娘であるギンが、優雅に紅茶を口に運びながら美肌の秘訣を説いていた。

 今現在ギンの周囲は、美肌に釣られたエルフと女性ダンマスが囲ってる状態である。


「そ、それでそれで、エステを始めてどのくらい経ってるの?」


「かれこれ1ヶ月くらいは経つでしょうか。最初はあまり信用してなかったのですが、実際にやってみると違いが体感出来ると思いますわよ? やはり食わず嫌いはいけないという教訓を得ましたわ」


「「「ほぉ~ぅ……」」」


 勿論簡単に美肌を得られるとは思っておらず、彼女達は皆なにか代償が必要なのだと思い込んでいた。

 しかし聞くところによると副作用的なものは存在せず、寧ろ良いことずくめだと言うではないか。


「そそそ、それでそれで、そのエステというのを行えば、誰でも美肌は得られるの?」


「さすがに誰でもとはいかないでしょうが、人形(ひとがた)の生命体でしたら効果を得られると思いますわ。見たところ、皆様であれば漏れなく大丈夫ですわよ?」


「「「おお~ぉ!」」」


 ここに居る全員は大丈夫だというお墨付きをもらい、テンション上げ上げな雰囲気だ。


「そそそそそ、それでそれで、美肌もそうだけど身体を引き締める効果もあるという噂を耳にしたのだけど、本当なの?」


「勿論本当ですわよ? 痩身と呼ばれるもので、見た目が気になる方は是非試されてはいかがでしょう?」


「「「な~るほど~ぉ」」」


 ここに居る全員がギンの細身な身体を見て頷くのだが、そもそもギンは元から細身でしかも色白なので、エステを行う前から殆ど変わってはいない。

 知らぬが仏とは正にこの事だろう。


「ででででで、でもでもお高いんでしょう? なのにギンさんは毎日のようにエステに通えるなんて羨ましいーーーぃ!」


「「「羨ましいーーーぃ!」」」


「そこは眷族の特権ですわ」


 自慢気に鼻を高くするギンであったが、ここで思わぬ水差しが行われようとしていた。


「あ、ギンさ~ん、お久し振りです!」


 魔法少女の衣装に身を包んだユーリが、ステッキを振って近付いて来た。


「あらユーリさんじゃありませんか。ちょうど今エステの説明を行ってたのですが、貴女もいかがです?」


 この時までは何も問題無かった。

 無かったのだが、ここからが問題となる。


「あ、あたしはいいです。変身ポーズを決めるのに忙しいので。でもエステって言っても、ギンさんは()()()()()()()()ですから意味無いですよね?」






「「「え、変わらない!?」」」


 当然驚きの表情を見せるエルフとダンマス達だが、その後徐々に落胆へと変わっていく。

 それもその筈、ギンが前から変わってないのであれば、自分達が試すまでもない。


「え~っと……あ、私、用事があったんだ」

「そ、そうそう、私も用事の途中だったわ」

「それなら私も用事だった事に……」


 途端に興味を無くした女性達が散るようにいなくなる。

そしてギンの前を木枯らしのような通り風が吹き抜けていくのであった。


「…………」


「あ、あれ? あたし、何か余計な事言っちゃいまし――ヒィ!?」


 無自覚に水を差したユーリだが、ギンの全身から黒いオーラが立ち上がるのが見えたため、

透かさず後ずさる。


「ユーリさ~ん? 少々大事なお話があるのですが――」


「い、いえ、けっこうです、遠慮します、それでは失礼しまぁす!」


 そのまま一目散に駆け出すユーリの身体能力が、僅かながら上昇した……かもしれない。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「オヤジ、もう一杯頼むぜ」

「あだじもぉ~、もういっばぁ~ぃ!」


「あ、ああ……あいよ」


 こちらはモルドフが経営してる酒場。

 今はちょうど夜を迎えたところであるため、ダンジョンに出ていた住人や暇をもて余すダンマス達が酒を(たしな)んでいるのだが、中でもカウンター席に座る2人組は注目を集めていた。


「おい見ろよ、珍しい組み合わせだよな?」

「確かに。他では滅多に見られない光景ですねぇ、特に酒に酔ってる女性エルフとか」

「でもよく考えりゃよ、ドワーフとエルフってバランス取れてんじゃね?」

「そうかもね。ああ~ジロジロ見るのは良くないんだけど、凄く気になるわぁ」


 周囲で(ささや)かれる会話から分かる通り、カウンターの2人は男ドワーフと女エルフである。


「ほあほあ~ぁ、もっとのまらいとぉ……アンらドワーフれしょ~ぉ?」

「う、うむ……」


 勧められるままに酒を煽るドワーフと、それを見てニコニコしているエルフの組み合わせは、結して多くはないだろう。

 寧ろ生活環境の違いから相性がよくない事の方が多いと言える。


 だがこの2人を見れば大変仲が良さそうに見えるのだが、これでも知り合ってから数日しか経ってないというのが驚きだ。


「おお~ぉ、さっしゅがドワーフの男ぉゴンザレ~ス! いよぅ、色男ぉ!」

 ペシッ

「そうか……うん、まぁなんだ、マインのような美人にそう言われると悪い気はしないな」


 ってな訳で、この2人の正体はゴンザレスとマイン。

 2人が知り合った切っ掛けは、出逢いを求めたマインがアイリーンを駆け回った末に、一軒の大きな工房に立ち寄ったのが始まりだ。

 そこで鍛冶をしていたゴツい体格のゴンザレスを見て【ティーンときた!】のだという。

 元々渋くて男らしい相手を探してたマインにとっては正にどストライクであったため、すぐさまアプローチを開始した結果、見事交際がスタートしたのである。


「んもぉぉぉう、美人だなんてぇ、マインちゃんオーガ嬉ピーっ!」

 ペシッペシッペシッ

「そうか……喜んでもらえて何よりだ」


 そして明らかに酔っぱらってるマインがゴンザレスの頭をペシペシと叩いてるが、以外と寛容なのか気にしてる様子はない。


「……余計なお節介かもしれんが、連れの女性は相当酔ってるようだ。そろそろ止めた方がいいんじゃないか?」


 マスターのモルドフが心配そうに尋ねる。

さすがにアイリーンだと襲われる可能性はほぼ無いだろうが、それでも飲み過ぎは身体に良い訳がない。

 酒は飲んでも呑まれるなはイグリーシアでも共通の認識である。


「ああ、そうだな。俺は兎も角、マインはもう限界らしい」


 隣を見ると、はしゃぎ疲れたマインがちょうど静かに寝息を立てているところだった。


「――よっと。今日はこれで帰るとすらぁ。また来るぜオヤジ」


 手際よくマインを担ぐと外へと出ていくゴンザレス。

 彼の背中では夢心地のマインが涎を垂らしていたが、その表情は幸せそう――いや、幸せそのものだったに違いない。


アイカ「……という夢を見たのですね?」

マイン「夢じゃありません!」

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