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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第8章:残された者達の戦い
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エルフと兵士のその後

前回のあらすじ

 グロスエレムの前哨基地を襲撃したアイカ達は、そこで懐かしい顔触れ【夢の翼】という冒険者パーティと再会する。

どうやら彼等は運悪く襲撃されてしまった側らしく、捕虜として捕まっていたとの事。

そこでアイカは同じく捕虜となっていたエルフを村に送った後に、改めてレックスにこれからどうするのかを尋ねると、アイカ達と一緒にグロスエレム教国へ向かうと明言した。


「う~~~む……」


 グロスエレム兵を追い払う事でエルフの村は落ち着きを取り戻していた。

 しかし反面長老のニルグークはというと、ある事で頭を悩ませている様子で、今も頭を抱えて(うずくま)るようにして知恵を絞っている。


「長老、何故そのように悩まれているのでしょう? 脅威は去った事ですし、最早悩みの種となるものは――「食糧じゃよ」


 マインの言葉を(さえぎ)るように(おもむろ)に開いた口から出たのは、食糧という二文字を強調された言葉だった。


「避難して来たエルフに加えて捕虜達の食糧も確保しなければならぬ。だが現状で賄うのは無理があるのだよ」


 ニルグークを悩ませてるのは食糧問題で、村の人口が急増した事で需要が供給を上回る事態になってしまったらしい。

 しかも襲撃に遭った村は、再び住み着けないように破壊されるという卑劣っぷりである。


「ならば捕虜は捨て置けばよいではないですか。奴等のために我々が飢えるなど、馬鹿らしいにも程がある!」


 拳を強く握り、語気を強めたのはナグム。

特に彼はアビゲイルに殺されそうになったのもあり、捕虜に食糧を与えること事態消極的だ。


「落ち着け、ナグムよ。気持ちは分かるが、それだとグロスエレムの連中と何ら変わらん。我々は誇りを高く持つべきであろう?」


「そ、それはそうかもしれませんが……」


 グロスエレムだと奴隷が飢えたところで気にも留めないだろうが、それらと同じレベルにまで自分達を(おとし)める気はなく、ナグムは幾分か冷静になる。


「ですが長老、結局どうすればよいのでしょう? もうすぐ冬がやって来ますし、このままでは……」


 マインが不安そうに窓の外を見上げる。

村の周辺は冬になると一切日が差さないという特徴があり、常に活動的な動物は他へ移動し、それ以外は冬眠してしまう。

 かと言って今狩り尽くす訳にもいかず、現状は見守るしかない。


「だから困っておるのだよ。まったく、こんな事なら長老の座を返上されん方がよかったわい。……のうマインよ、誰か代わりを引き受けそうな奴はおらんかの?」


 これにはさすがにマインも苦笑いする。

一度は強制的に長老の座を下ろされたニルグークだが、敵を撃退した後、アイカ達に疑いを掛けた長老候補達が互いに責任を押し付けあった結果、やはりニルグークに着いてもらおうという結論に達したのだ。


「失礼します、長老。アイカ殿がグロスエレム教国に捕らわれてたエルフ達を救出して戻ってまいりました」


「なんと!」


 この時、長老の頭の中では、報告に来た青年エルフの言葉に対し次の三つの思考が浮かび上がった。


 一、同胞を救っていただいた礼を言わねばのう。

 二、食い扶持が増えた分を見積もらねばのう。

 三、アイカ殿に食糧を融通してもらうように頼もうかのう。


 いずれも必要な事なので、アイカを招いて話す(特に三)事に決めた。






「――という訳でしてな、何とかならぬものかのう?」


「モキュモキュ、ほーげひはか。ほへあらほうひうのあ――「すまぬがアイカ殿、茶請けは逃げはせんから落ち着いて召し上がっておくれ」


 お菓子を頬張るアイカを見た3人から、自然と笑みが――いや、苦笑いが溢れる。

そういえば以前来た時も昼食に拘りを持っており、色気より食い気の少女だったなぁという具合に。


「――失礼しました。それで食糧の前に捕虜の事なのですが、こちらで引き取っても宜しいでしょうか?」


「「「捕虜を?」」」


「そうです」


 この発言には3人共首を傾げる。

エルフの側からすれば助かる話だが、それを引き取ってどのような得があるのかという事になってくる訳で。


「そ、それは構わぬが、本当に宜しいのか? 助けていただいた上に押し付けるような形になってしまうが……」


 ニルグークが申し訳なさそうに確認してくるが、アイカは胸をドンと叩いて大丈夫だといった具合に強く頷く。


「ちょうど試してみたい事も出来ましたので、お気になさらず」


「試したい事……」


 試したい事とは、ダンジョンに居るミゲールとジュリアに捕虜達の再教育をさせるというものだ。

それを行う事でダンジョン撲滅を掲げなくなるのなら安いもの。

失敗してもソレはソレだ。

 だがニルグークからしてみれば、アイカのような少女がそのような事を考えてるなどと思う筈もなく、苦に成らないなら任せてもいいかと思い、余計な詮索はしない事にした。


「それから、エルフ達の何名かもこちらで引き取りたいのです。まだ街にはエルフの住人が居りませんので」


「「「街?」」」


 再び3人は首を傾げる。

エルフを引き取るのは兎も角、街とはどういう意味なのかと。


「と言ってもそのままの意味ですがね。それにもうそろそろ話してもいいかと思いまして」


 ここで遂に自分達の正体を証す事にした。

この世界で転移スキルを持っている者は極僅か(それでも100人以上は居る)なので、それを見せた以上キチンと話した方が余計な疑惑を持たれる事がないだろうと判断したためだ。


「ほぉ~~~ぅ、まさかダンジョンマスターの関係者だったとはのう!」


 驚きで変なテンションになってしまったニルグークだが、他2人も別々の反応を見せており、マインは「え? そうだったの!?」というまるで予想外だったと言わんばかりの表情だ。

一方のナグムはというと「成る程な」という顔をしてウンウンと頷いている。

アイカが強い理由に納得がいったのだろう。


「それでですね、わたくしのお姉様がダンジョンマスターなのですが、何をとち狂ったのかダンジョンの中に街を作ってしまいましてね、只今住民を募集中なのですよ」


 またもや3人は三者三様の顔を見せる。

そして彼等の頭の中では、次のような感じに思考されていた。


(ダンジョンの中に街とは、時代の変化というやつかのう……)

 と考えたのは長老ニルグーク。

ダンジョンの中に街があるのが最近のトレンドなのかもしれないと思い込んでる様子だ。


(ダンジョンとは、罠を仕掛けて冒険者を殺す存在だとばかり思っていたが……)

 と考えたのはナグム。

間違ってはいないが平和主義のダンジョンマスターも多いので、どうやら誤解を解く事が出来そうだ。


(そういえば以前村を出て行った娘は出逢いを求めてるような事を言ってたけれど、運命的な出逢いを果たす事が出来たのかしら? もし上手くいってるのなら私も……)

 最後にマインの思考だが、残念ながら幻想を抱き過ぎである。

街で出逢った相手が必ずしも良い相手とは限らないので、出来れば考えを改めさせたいところだ。


「つまり、住民としてエルフの何人かを受け入れたいというのですな?」


「はい。住民が多い方がお姉様も喜ばれると思うので、是非とも前向きに検討していただければと思います。特に都会に出てみたいとお考えの方がいるのでし――「行きます!」


 話の途中で割り込んだのはマインであった。

理由は当然、新たな出逢いを強く求めた結果であり、そろそろ行き遅れと言われそうなのを避けたいとの思いからだ。


「私が行きます。ダンジョン行きを希望する者の代表者が必要だと思いますので、それも私が引き受けます。いえ、勿論私一人しか希望者がいなくても喜んで行きますよ、ええ。宜しいですか? 宜しいですよね? 本当に良いんですね!? ね!? はい決まりぃぃぃ!」


 ほぼ一人で決定してしまったマインだが、勿論後悔はしていない。

寧ろ後悔してるのは、口を挟む間も無かった他の2人の方だろう。


「……許可した覚えはないのだが……まぁええわい。外界(と言っていいのかは不明だが)に出てみたい者を募ってみる事にしようかの」


「ありがとうござ――「分かりました。早速ダンジョン行きを希望する者を集めてみます!」


 またまた話に割って入ったマインは、アイカとナグムを押し退けて外へと飛び出して行った。


「……コホン。あ~エルフの件はこれで宜しいかの?」


「そ、そうですね、良いと思います」


 扉を開けっ放しで出て行ったマインを黙って見送る3人。

その3人に共通してたのは、ダンジョンに出逢いを求めるのは間違ってはいないが、恐らくは間違って過度に期待するのだろうなぁと思った事だ。


「では最後に食糧についてですが、すぐに用意出来ますので暫しお待ち下さい」


 言い終わると、鼻歌混じりにスマホを取り出してリズミカルにタップする。

すると、家の外に大量の食料品が積み上がり、それを目にした近くのエルフ達は腰を抜かしてる有り様だ。

 当然ながら、アイカがエルフ達を驚かせようとしてやった事である。


「おお! 何やら見た事が無い物も多く混ざってるようだが、これだけ有れば当分は大丈夫そうだ。感謝するぞ、アイカ殿!」


 長老は菓子パンやインスタント食品等を流し見しつつアイカに手を差し出すと、熱い握手を交わす。

更にそこへナグムの両手も被せられ、熱いヒューマンドラマのワンシーンのようになってしまうが、マインが10人近くのエルフを連れて戻って来た事で、その感動的シーンも終わりを迎える事が出来た。


「只今戻りました。彼等は全員、ダンジョンにある街に興味を示した者達です」


 マインの背後を見るとデュークとミレイの姿もあり、2人のキラキラとした目を見れば、未知なる体験を期待してるのだと分かる。

 因みに他のエルフ達の視線は、外の食料品に向けられていた。


「それからアイカさん、あの食料品はアイカさんが用意した物ですよね? 大変助かります」


「いえいえ、それほどでも。それに先程()()()()がありましたので大した消費にはなりません」


 実はアイカが長老達と握手を交わしてる最中にDPが一気に加算された事を確認したのだ。

 どうやらダンジョンの中で、高レベルの何者かが死亡したらしい。


「では皆さん。我がダンジョンのアイリーンに向けて出発です!」


「うむ、大変世話になったなアイカ殿。またいつでも来るといい。歓迎するぞ」

「そうだな、アイカなら大歓迎だ」


 と、長老とナグムが別れの挨拶を行うが……


「すぐに戻りますよ? 捕虜の兵士を引き取りに来ますので」


 挨拶のタイミングを間違えたようで、赤面する2人がその場に残されるのだった。


アイカ「加算されたDPは……チッ、たったの一万ポイントか……ゴミ勇者め!」

クロ「充分多いッスよ。というか勇者がどうなってたのかは見せないんスか?」

アイカ「見せても誰も喜ばないでしょう?」

クロ「……確かに」

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