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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第8章:残された者達の戦い
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自称神の代弁者と自称守護者

前回のあらすじ

 勇者アビゲイルの帰還が遅い事に苛立っていたメンヒルミュラーであったが、そこへ魔女の森に生息しているエルダーリオックが現れ、被害を出しつつも魔術隊の援護のお陰で撤退に成功する。

そこへ遅れてやって来たアイカ達は、エルダーリオックに対応出来ないのであれば警戒する必要は無いと考え、追撃を行う事に決めた。

 

「て、敵だぁ! 敵襲ーーーっ!」


 最後尾を歩いていた兵が叫ぶ。

既に真っ暗となっている木々の隙間から何かが飛来し、兵達に突き刺さっていく。


「くそ、いったい何が襲ってきてるんだ!?」

「し、知らねぇよ! んな事より応戦しろ!」

「応戦って、敵は何処にいるんだよぉぉぉ!」


 実は攻撃を行ってるのはホークとザードそれからドローンなのだが、暗がりから飛び道具を放ってるため、兵達には姿が見えないのだ。

 最もドローンの場合は特殊迷彩(ステルス)により見えないのだが。


「おい魔術隊、早く魔法で防げ!」

「分かっておるわい。――大地よ、我が盾となり確固たる守りとせよ、ストーンウォール!」


 石の壁により、ドローンの銃撃とザードの斬撃は防がれる。

しかし、ホークが放つのは風魔法のため、地属性の石の壁には相性が良く、あっさりと打ち砕いてしまった。


「何と! まさか風魔法のレベルが5以上の輩が居るというのか!?」


 驚いたのは魔術隊の隊長ウルベニーだ。

彼の地魔法レベルは7という脅威的なレベルなのだが、それでもやはり風魔法には弱い。

レベル7のストーンウォールを破るにはレベル5以上が必要とされるため、相手は手慣れだと予想したのだ。

 そしてその相手とは、オチャラケアンポンタンなホークに他ならない。

因みにホークの風魔法レベルは6である。


「なんや誰かにディスられたような気がするんやが……まぁええか。このまま一網打尽にしたるでぇ!」


 隊長の魔法が通用しないのであれば防ぎようがない。

そう考えた隊員達の思った通り、次々と魔術隊の面々が倒れていく。


「ひ、怯むな! 周囲にファイヤーストームを展開せよ!」


 劣勢とみるや、ウルベニーはエルダーリオックに対処した方法と同じやり方で窮地(きゅうち)打開を図る。

 しかしそれはアイカも予測済みで、ドローンによる水魔法で素早く火を消し止めた。


「むぅぅ……最早これまでか……フゴッ!」


 万策尽きたウルベニーが項垂れてるところにホークのウィンドスマッシュが脳天に命中。

これにより魔術隊は統率を失い、各個撃破される事となった。


「むむ? あの妙な乗り物は……魔動力車(オートムーヴ)のようですね。恐らくあの中に今回の司令官がいる筈です」


 とうとうアイカが教祖の乗る魔動力車(オートムーヴ)を発見する。

だがさすがに司令官が教祖だとは思ってもみなかっただろうが、とりあえずアイカは司令官を生け捕りにすべく魔動力車(オートムーヴ)の車輪をドローンで撃ち抜く。

 その瞬間車体が大きく前のめりに傾くが、なんとか倒れるのを踏みとどまると、中からメンヒルミュラーが姿を現す。


「わたくしを狙うとは無礼な! どこの不届き者ですか!」

「き、教祖様、危険ですのでお下がりくださいませ!」


 怒りを表す教祖と、それを宥める側近が押し問答を繰り広げてる最中も、兵達を次々と討ち取っていく。


「既に気付いてると思いますが、あの乗り物に乗ってるのが司令官だと思われるので、間違って殺してしまわないように注意して下さいね」


「分かってるでぇ、あの紅白歌合戦の小林〇子みたいなのが司令官やな!」


 ホークの言うように教祖の見た目は非常識にド派手なので、一目で誰でも分かる身形となっていた。

付け加えれば、魔女の森で身を守るために擬態する魔物も多い中では大変良い度胸である。


「その小林〇子とやらは存じぬが、あの妙な衣装を身に付けた女が司令官で宜しいか?」


 小林〇子を知らないザードは、ただ単に奇妙な格好をした女にしか見えてないようだ。


「そうです。あの女性と側近らしき人物は生け捕りにして、他は適当にやっちゃって下さい。抵抗さえしないようであれば放置する方向でいいでしょう」


 結局そのままドローンを筆頭にグロスエレム兵を捩じ伏せ続け、最終的にはメンヒルミュラーとその側近を残すのみとなった。




「お、お前達は何者なのです!? このような無礼は神がお許しになりません! 今に神託が下りますよ!」

「ししし然りですぞ! このお方こそグロスエレム教国の現教祖、メンヒルミュラー様にあらせられるのです!」


 いまだ魔動力車(オートムーヴ)に乗ったままで強気な態度を崩さない教祖と、虎の威を借りてる腰巾着の側近が、ビビりながらもアイカ達に噛みつく。


「どうせ言っても無駄でしょうし、名乗る程の者ではありません。強いて言えば、人間以外を奴隷に落として不等に扱っているゴミのような国家が大嫌いな者です」


「んな!」


 2人の態度にイラッときたアイカも思わず本音を溢し、普段よりも感情的なアイカを眷族達は物珍しそうに眺める。


「薄汚い平民共め、このような事をしてただで済むと思ってるのですか? 今すぐわたくしを解放しないと、神託により全員死罪になりますよ!?」


「はぁ、神託ですか……」


 そして先程からやたらと神託を連呼する教祖に、アイカは嫌気をさしていた。

目の前の女は神託だと偽り自分の意のままに周囲を動かしてるにすぎないからだ。


「その神託とやらがどの程度のものかは知りませんが、少なくとも貴女自身がご自分の行いを悔い改める必要があると思いますがね」


「ぬぐぐぐ、重ね重ね無礼な奴め……」


「それに貴女、今の状況を理解してますか?」


 辺りを見渡しながら若干得意気に話すアイカ。

教祖達の周囲には地面に転がされてる兵達が多数おり、最早教祖の盾のなるのは側近1人しか居ない。

その有り様に苦虫を噛み潰した顔の教祖は、裾をギュッと掴んだ状態で顔を伏せてしまう。


 これで抵抗する気力も失せたと思い2人を拘束しようとしたアイカ達だが、突然宙に浮いた魔法陣が出現し、思わず後ずさる。


「これは……転移魔法!?」


 その魔法陣は転移する際に発生するものであり、アイカの予想通り中から新たな人物が這い出てくると、教祖の目の前に着地した。


「よっと。デュフフフのフ。姫様の守護者にしてグロスエレムの守護神、モッツァヴィーノ参上! 我輩が来たからには姫様には指一本触れさせないぞぉーぅ!」


 モッツァヴィーノと名乗った自称教祖の守護者は、ドワーフのように低身で寸胴な中年男であり、全身黒タイツに黒マントという様は守護者というよりは変質者と言った方がしっくりくる。


「やっと来ましたか。モッツァヴィーノ、この無礼者共を始末してしまいなさい」


「オッケーオッケー超オッケー! ……と言いたいところだけど、姫様の母上が心配してらっしゃいますので、まずは首都にご帰還下され」


 守護者の男は側近も魔動力車(オートムーヴ)に乗せると、転移魔法で首都へと転送させた。


「デュフフフフ、待たせたな諸君。このモッツァヴィーノを前にしても尚怯まぬ姿勢は称賛しようではないか。だがその威勢の良さもここまで。大地を自在に操れる我輩の前には何人(なんびと)も敵うまい。精々華々し――「ウィンドスマッシュ」ブッハァァァ!」


 御託が長すぎたためにホークによる痛烈なツッコミを受けたモッツァヴィーノが、茂みの中へとぶっ飛んでいった。


「ホーク、まだ話してる途中ではないですか。面白かったから良いものの、せめて最後まで聞いてあげましょうよ」


「いやいやアイカはん。アレは間違いなくフリってやつや」


「フリですか?」


「せやで。要は無駄話をベラベラと喋ってるのうに見せかけて、実はツッコミ待ちという素人目には分からん高度なテクニックや。それにあの見た目からして上島〇兵的なポジションに間違いあらへんな」


「ムムム、どうやら見た目よりも侮れない存在のようですね」


 何故か深い感銘を受けたアイカだが、モッツァヴィーノ本人にはそんなつもりは全く無かったとだけ言っておこう。


「ダァァァァァァッ! ふざけんなちきしょうが! 人が話してる途中で仕掛けてくるとは卑怯者め! お前らみたいな――「えい」ブベラッ!」


 両手を振り回して抗議してきたモッツァヴィーノに、ルーが横から飛び蹴りをかます。

すると先程よりも更に遠くへとぶっ飛んでしまい、自力で戻ってこれるか微妙な雰囲気だ。


「これもお笑い芸の一つや。一度受けたネタを再度行う事により、一層強く印象に残す方法やな。再び笑いをとる事も出来るし一石二鳥ってもんや」


「ほほぅ、つまりルーは分かっててやったのですか?」


「勿論。ルーは分かってる」


 腰に手を当てて無い胸を張っているが、絶対に分かってないであろう事は言うまでもない。


 と、そこへ先程ぶっ飛んでいったモッツァヴィーノが、妖精樹(トレント)に支えられて無事(?)戻って来た。


「ゼェゼェ、死ぬかと思った……。何なんだその小娘は! 子供の蹴りじゃなかったぞ!? 一瞬オーガにでも蹴られたかと思――「てぃ」フギァァァ!」


 ルーがやったのを見てミリーもやりたくなったらしく、後ろから忍び寄って(かかと)落としをお見舞いした。

 ただし、ルーは手加減をしたのに対しミリーは思わず力んでしまったため、当たった瞬間にミシッという嫌な音が聴こえたが。


「ちょ、ミリーはん、手加減忘れとるがな!」


 ホークが指摘した通り、地面にめり込んだモッツァヴィーノは血塗れで埋まっており、今も尚流血している。

パッと見これ死んでんじゃね?的なグロさを醸し出しており、その光景を見ていた兵達は暫くは気絶したふりをしてようと心に決めた。


「ミリーはまだまだ未熟者。やっぱりルーがヒロインに相応しい」


「何のヒロインか知りませんが、殺ってしまったものは仕方ありません。埋めて証拠隠滅しときましょう。ミリー、責任持って埋めて下さい」


「はぁーい(棒)」


 肩を竦めるアイカの指示でミリーが手作業で埋めようとしたその時……






「ブッハァァァ! か、勝手に殺すなぁ!」


 なんと、モッツァヴィーノが生き返った!


「生き返ったんじゃない! そもそも死んでねぇし! さっきも言ったが勝手に殺すなぁ!」


「おや、生きてましたか。ならば結構。お陰で証拠隠滅する手間が省けましたよ」


 とは言うが、生きてる事は最初から分かっていた。

何せ鑑定スキルをかければ、死人かどうかの見極めはつくのだから。


「くぉらぁぁぁ! 可愛い顔しておっかない事を言うなぁ! もう怒ったぞ、貴様ら全員ただじゃおかん!」 


「オカン?」


「オカンじゃねぇ! ママンは関係ない! こうなりゃ全力だ、行け妖精樹(トレント)よ、コイツらを根絶やしにするのだ!」


 いい加減ぶちキレたモッツァヴィーノの命令で、トレントが群がってくる。

これはモッツァヴィーノの特殊スキル大地の司令(アースタクター)によるもので、周囲の地を自在に操るのだ。

 これにより普通の樹木がトレントにされてしまい、アイカ達に差し向けられたのである。


「望むところ! デヤァァァ!」


 迫り来るトレントをザードが切り伏せる。

それに続き他の面々も、次々と薙ぎ倒していく。

 しかし、敵はトレントだけではなかった。


「く、思った以上にやる……。ならばこれでどうだぁ!」


 トレントだけでは荷が重いと感じ、新たな司令を発動した。


「なんと! 地面から手が!」


 地表から伸びた手がザードの足首を掴む。


「デュフフフフ、恐れ入ったか愚か者め! 大地の守護神である我輩にはこ――「ウィンドスマッシュ」ブッハァァァ!」


 あまりにも隙だらけだったモッツァヴィーノに、またしてもホークからのツッコミが入った。

最早様式美である。

 そしてモッツァヴィーノによる司令が途絶えたため、トレントは樹木へと戻り、地表から伸びた手も消え失せた。


「うぐぐぐぐ……なんて奴らだ。我輩の高度なテクニックが打ち破られるとは……」


 高度なテクニックと聴いて再びお笑いの様式美を頭に浮かべたアイカだったが、頭を振って下らない思考を振り払うと、モッツァヴィーノを掴み上げる。


「さて、色々と聞きたい事があります」


「無念だが仕方ない。我輩に答えられる事であれば答えようではないか」


 どうやらモッツァヴィーノは観念したらしく、抵抗する素振りは見せない。


「貴方の()()()()であるメリーヒルスという人物についてです」


「そ、それは……」


 メリーヒルスという単語を聞いて、脂汗を流すモッツァヴィーノ。

それもその筈、何せ彼は【メリーヒルスの眷族】という位置付けなので、その彼のマスター、つまりダンジョンマスターには逆らえない。


「鑑定の結果、貴方のマスターはダンジョンマスターである事が分かりました。おかしいですね? ダンジョン撲滅を掲げてるキチガイ国家にダンマスが助力してるというのは」


「…………」


「さぁ、どういう事か教えてもらいましょうか?」


 苦渋に満ちた表情でモッツァヴィーノが話だそうとする。

 が、しかし!


「ガハァ!」


「な!?」


 突然彼は血を吐き出して白目を向いた。

驚いたアイカは掴んでた手を放してしまい、ドサリと地面に倒れ込む。


「これは! アイカ殿……」


 横たえたモッツァヴィーノに慌ててザードが駆け寄り脈を測るが、やはり絶命していた。


「恐らく口封じでしょう。自分に不利益になる情報が流れないようにするための……」


 眷族を容赦なく切り捨てる謎のダンマス――メリーヒルス。

アイカ達は情報を取得する事叶わず、グロスエレム教国の謎が深まっていくのであった。


ホーク「中々良いリアクションをする奴やったのに残念やなぁ……」

アイカ「まさにかませ犬でしたね」

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