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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第8章:残された者達の戦い
183/255

そう、ここは魔女の森

前回のあらすじ

 勇者アビゲイルを鑑定した結果【近代兵器無効】以外のスキルは所持してないと分かると、ダンジョンの12階層である火山エリアに転移して置き去りにした。

エルフの村に戻ったアイカはマインの謝罪を受け入れ、グロスエレム側の奴隷をアイリーンで引き取ると、他の奴隷達とドローンを回収するため教祖の居る拠点の襲撃を開始した。


「……遅い」


 そうポツリと溢したのは、未知なるものを求めて魔女の森へと踏み込んできたグロスエレム教国の教祖であるメンヒルミュラーだ。


「遅過ぎる。アビゲイルからの報告はまだなのですか!?」


「ももも申し訳ありません! 恐らく勇者様に近い実力者を相手にしてるという事で、苦戦を強いられてるのかと思われます!」


 何とか教祖を落ち着かせ弁明する側近だが、彼とて逐一状況を把握してる訳ではない。

だがアビゲイルの実力を顧みるのであれば、いつもなら【ほーぅら終わったよミュラーちゃん】等と言いつつ戻って来てもおかしくない。


「いくら苦戦してると言っても既に日が落ちてきてるではありませんか! なのに伝令の1人も寄越さないなど明らかな怠慢です!」


「ははははいぃ、(おっしゃ)る通りかと存じます!」


 これは教祖の言う通りで、昼前に出ていったアビゲイルはとっくにエルフの村へと到着してる筈なのだ。

そこから同等の実力者と戦ったとしても、とうに決着がついてなければおかしい。

 しかしながらこの推測はアビゲイルが無事生きている事が条件あり、残念ながらダンジョンをさ迷ってるであろう現状と、更には兵士達が残らず捕らわれた事をふまえれば、教祖の考えは既に破綻していた。


「こうなったら仕方ありません。こちらから伝令を送って様子を――「シューーーゥゥゥ!」


 突然気味の悪い鳴き声が響く。

それを聴いた教祖はビクリと肩を震わせ、そのまま会話が途切れてしまった。


「……な、何ですか今のは?」


 天幕の中をキョロキョロと見渡すが、当然そこには側近以外誰も居ない。

ならばと外へ顔を出してみるが、食事の準備に取りかかってる兵士達がいるだけだ。

だがそんな兵士達も、動きを止めて耳を澄ましていた。


「お前達、今の声は何なのです?」


「そ、それが我々もよく分からなく……」

「あちらの森の方から聴こえたと思うのですが……」


 どうにも要領を得ない返答に眉を潜めるが、兵士の1人が指した方向に顔を向けると、そこにある茂みがガサガサと揺れ動く。


「ヒッ……」


 思わず側近を盾にして身を隠す教祖。

兵士達も武器を手に取り身構えるが、茂みから姿を現したのは1匹のダートヘッジホッグで、比較的何処にでもいるEランクの魔物だ。


「ふぅ……肝を冷しましたわ。――お前達、その汚ならしいネズミを始末しなさい」


 教祖と同じようにホッとした兵士達も、互いに苦笑いをしてダートヘッジホッグへと近付く。

Eランク程度なら普通の兵士だけで充分対応出来るので、手にした槍で突くだけであった。

 が、しかし、突然触手のようなものがダートヘッジホッグへと巻き付き、そのまま茂みに引き摺られていく。


「な、何だ今のは!?」


 慌てて後ろに飛び退くと、直後に骨と肉を噛み砕く擬音が辺りに木霊し、やがて静けさを取り戻す。


 ゴクリ……。


 誰かが生唾を呑む音と、松明のパチッパチッという音だけが静けさの中に際立つ。

兵達もあまりの不気味さ故に無意識に後退し、今まさに嵐の前の静けさが訪れていた。


「な、な、何が起こってるというのです? そそそ、その茂みの中に何が潜んでるというのですか?」


 しかし、やっとの思いで声を絞り出した教祖の問いに答えた者はいない。

皆が皆、聞きたいのは俺の方だと思ってる事だろう。

 だが1分も経たない内に、その答えが茂みの中から現れた。


「フシューーーゥゥゥ!」


「んなぁ!?」

「う、うわぁぁぁぁぁぁ!」

「ヒィィィィィィ!」


 現れた巨大コオロギを見て兵士が驚くと、教祖も魔物と兵士の大声に驚いて腰を抜かした。


「クソッ、コイツはエルダーリオックじゃないか! こんな奴が居るなんて……」


 今彼等が対峙してるのはBランクのエルダーリオックで、元々魔女の森に生息してるので居てもおかしくはない……ないのだが、彼等グロスエレムの者達は頭からスッポリと抜け落ちていた。


「あ、あ、新たな神託です。ははは、早く討ち取りなさい!」


「む、無理です! 強行軍でここまでやって来たため、体力の無い魔術隊は途中で脱落してるのです。弓だけの後方支援ではとても敵いません!」


 腰を抜かした状態で神託を伝えた教祖だったが、魔術隊の到着が遅れてる以上この場は退くしかない。


「やむを得ません。此処を放棄して撤退します!」


 教祖による撤退命令を受け、我先にと撤退を始める兵士達。

まるで教祖を見捨てるかのような動きに怒りのボルテージが上がるのを我慢し、メンヒルミュラーも後を追う。

その間にもエルダーリオックの近くに居た兵士が次々と餌に成り果て、徐々に教祖へと迫る。


「ヒィィィ、こっちに来ないで下さい! これは神託ですよ!?」


 そしてとうとう教祖を視界に捉えたエルダーリオックであったが、その二者の間に割り込む形で石の壁が出現。

結果としてエルダーリオックを引き離す事になった。


「ふぅ、何とか間に合いましたな」


「ウルベニー!」


 先程石の壁を出現させたのはウルベニーと呼ばれた赤茶色のローブを着た男であり、脱落してた魔術隊の隊長だ。

どうやらメンヒルミュラーにも紙一重の運が残ってたようである。


「ここは我らにお任せ下さい――者共、一斉放火用意――」


 ウルベニーの後ろから現れた魔術隊が詠唱を行う。

各々の手に赤い光が集うと、ウルベニーの合図と共にエルダーリオックに向けて叫んだ。


「「「ファイヤーストーム!」」」


 30人近くの魔術師が放つ広範囲の火柱により、エルダーリオックと周囲の樹木が火だるまになった。

 こうなるとさすがに捕食する余裕が無くなったエルダーリオックは、何とか火を消そうと暴れ回る。


「メンヒルミュラー様、今のうちに撤退致しましょう!」


「うむ、良くやりました。――さぁお前達、ボヤッとしてないで退きますよ」


 燃え盛る魔女の森を背景に、側近が用意した魔動力車(オートムーヴ)というコンパクトな人力車に乗り込むと、即座に離れて行った。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 時は少々(さかのぼ)り、まだ日が暮れる前の時間帯。

アイカ達はメンヒルミュラーの居る拠点から少し離れた場所で、連中が寝静まるのを待っていた。


「そろそろ日が暮れてきました。皆さん、いざという時に空腹で動けなくなるような事にはならないように注意して下さいね」


「いやいや、アイカはんじゃあるまいし、そないな事にはならへんやろ……」


 この場合いちばん可能性として高いのがアイカなのだが、本人は気付いていない。

 代わりにホークがしっかりとツッコミを入れると、他の眷族達もウンウンと頷く。


「何を言うのですかホーク、わたくしよりも、あの姉妹の方が有り得るじゃありませんか!」


「あの姉妹……ああ、それもそうやな……」


 アイカの妙な対抗意識によりゴーレム姉妹へと飛び火してしまう。


「む? ルーは平気。時は弁える」

「ミリーも平気。場所は弁える」


「そう言って座敷牢の中でう〇い棒をボリボリと食してたのは誰ですか!?」


 実はこの姉妹、拘束されてた時にエルフ達の目の前で堂々とお菓子を頬張ってたのである。


「あの時ルーの身体は限界を迎えていた。それは仕方のない事。もしくは不可抗力」

「その通り。時と場所は犠牲になったのだ。清々しいまでに……」


 眠そうな顔で空を見上げて黄昏る2人。

だがそんな2人とアイカは他の眷族からは同類と見なされており……


「そういえばつい先程も、ルーとミリーは何かを口にしてたで御座るな。更に付け足すと、アイカ殿も食していたと記憶してるので御座るが……」






「……この話は無益です。有意義な作戦を行う前には不要です」

「さすがアイカ。たまには良い事を言うと、ルーは思う」

「ミリーも同感。もしくは共感」


 どうやらこの3人は手遅れのようで、ザードの指摘を全力でスルーした。


「……ま、まぁそれは兎も角として、アイカ殿。何故(なにゆえ)夜間に襲撃を行うので御座ろう? 勇者が居ない今、このまま襲撃しても問題ないのでは御座らんか?」


「ああ、それはですね――」


 アイカによると、ドローンによる偵察が行えないので、もしも他に勇者と同等クラスの者が居たら厄介だというもの。

 なので万全を期して夜中に襲撃しようと考えたのだ。


「――という訳でですね、もう暫くの間は……おや? 何だか騒がしいですね?」


 だいぶ日も落ちて辺りが暗くなった時、拠点の方で兵達が走り回っている様子が(うかが)えた。


「なんやなんや、祭りでも始まるんかいな?」


「祭りが始まるのはホークの頭の中だけで充分です。それよりもよく見て下さい、あの灯りはマジックアイテムの類いではありません。木々を燃え上がらせてる炎です!」


 この時既にグロスエレムの連中はエルダーリオックと遭遇しており、それに対して放たれたファイヤーストームが周囲を真っ赤に照らしてたのだ。


「アイカ殿、これは少々マズイのでは御座らんか? このままでは広範囲に渡って木々が焼き尽くされてしまうで御座る!」


 次々と炎を実らせている樹木を指してザードが叫ぶ。

このままではエルフの村にも……ましてや生態系にも影響を及ぼす可能性があり、とても放置する事は出来ない。


「分かってます。ルーとミリーは木々を薙ぎ倒して燃え移るのを阻止して下さい。他はわたくしと一緒に拠点への突撃です!」


 理由は不明だが魔女の森に火を放ったのは確かなので、最早迷ってはいられないと思い拠点への襲撃へと移った。






「これは……」


 踏み込んだアイカ達が見たものは、天幕を放置して既にもぬけの殻と化していた拠点であり、所々に血溜まりが出来てるのと薙ぎ倒された松明が転がってる事から、戦闘が行われたのだと判断した。


「いったい何に襲われたので御座ろうか?」


「……血溜まりを見る限りでは魔物の仕業ではないかと思うのですが」


 思考しつつも他とは違う豪華な天幕を見つけて中を覗く。

そこが教祖の居た天幕で、宝石を散りばめた椅子とテーブルに食器棚まで用意されていた。


「ふむ……まるで遊びに来てるかのような雰囲気を感じますが……まぁ事実お遊び感覚だったのでしょうね」


 魔女の森といえば、高ランクのモンスターがゴロゴロ存在してる場所なので、遊びで来るような所ではない。

どうやらグロスエレムの教祖は世間知らずなのだと結論付け、ついでに家具等をアイテムボックスへと放り込んでいく。


「アイカさん~、有りましたよ~♪」


「はい? 有ったとは何が……あっ!」


 セレンが手にしてたのは、ロストした後行方が分からなくなっていたドローンで、天幕の隅に転がっていたのをセレンが見つけたのだ。


「無事で~、良かったですね~♪」


「はい! もしも紛失したり壊したりしたら、お姉様に何を言われるか分かったもんじゃありませんからね!」


 アイリからのカミナリを阻止出来た事で一安心するアイカ。

まるで我が子のようにドローンに頬擦りをしてるところへ、木々を薙ぎ倒してたゴーレム姉妹が戻ってきた。


「ルーが帰還した。今以上に燃え広がる事はないから安心。もしくは安全」

「ミリーも帰還した。途中で怒り狂ったエルダーリオックが居たから潰しておいた。グロいから見るのはおすすめしない」


「エルダーリオック? ……成る程、Bランクの魔物に襲われて急遽撤退したのですね」


 ここでアイカは正解にたどり着いた。

そしてニヤリとほくそ笑むと、撤退したグロスエレムの連中の追撃を開始する。


(Bランクのエルダーリオックから逃げるという事は、恐らく勇者はもう居ない。ならばここは攻めるべきですね)


 最早脅威は無いと考えたアイカは、夜の森を眷族と共に駆けるのであった。


ルー「一つくらいお菓子があると思ったのに、グロスエレムの教祖ときたら……」

アイカ「無かったのですか?」

ミリー「香水なら有った」

セレン「それは私が~、頂きますね~♪」

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