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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第8章:残された者達の戦い
181/255

勇者アビゲイル

前回のあらすじ

 エルフの村で内通疑惑により拘束されたアイカ達。

何も出来ない環境に有ったためドローンによる援護を行ってたのだが、何故か原因不明でロストしてしまう。

これによりグロスエレムに勇者がいる可能性が大いに増してしまうのであった。


「ほぅ……つまり、失敗したのですね?」


「もももも申し訳ありません! 何せ姿形が全く分からない相手でしたので、手の打ちようが無く……」


 エルフの村に比較的近い場所に構えた拠点にて、ドローンの襲撃から逃げてきた兵の1人がメンヒルミュラーに対し、必死に弁明を行っていた。

 さすがに()()ドローン相手では彼等に出来る事は逃げる事一択であったが、教祖であるメンヒルミュラーにそのような言い訳が通用しない。


「……では仕方ありません。神が貴方をお許しになられるよう、わたくしの手で身を清めてさしあげましょう」


 そう言って懐より取り出したのは、例のソリッドウィップであった。


「さぁ、その場で(ひざまず)きなさい」


 サディストな彼女が快楽を得る手段として用いられてるマジックウェポンが、神の意思とは関係無く振るわれる。

 先程身を清めると言ったが、やってる事は怒りの矛先を向けてるだけだ。


 ビシッ! ビシッ! ビシッ!


「アグァ! グッ……オブッ! お、お止めくださ――ガハッ!」


 何度か打ちつけると、兵士は白目をむいて気を失った。


「――ふぅ、時間も勿体無いのでこのくらいにしましょう。――誰か、この者を運んでおきなさい」


 数日前になぶった奴隷の少女のようにグッタリした兵士を、別の兵士が運んでいく。

 それと入れ替わるように、別の者が教祖の天幕に入ってきた。

その男は少し派手目なレザーアーマーを身に付けた黒髪の青年で、堂々と入ってくるなりズカズカと教祖の側へ近付いていく。


「よーぅミュラーちゃん、なーんかご機嫌斜めな感じかい? 折角の美人が台無しになっちゃうよぉ?」


 馴れ馴れしく肩に手を置いてウィンクをする青年。

 本来このような行為は絶対に許されないのだが、彼は特別許される存在であった。


「アビゲイルですか。別に機嫌は悪くありません。役目を果たさなかった兵を清めてただけです」


 多少の無礼が許されアビゲイルと言われたこの男こそグロスエレムが誇る勇者の一人であり、此度の遠征に駆り出された頼れる存在でもある。

 そんな男に肩を触れられた際に密かに眉を潜めたのだが、アビゲイルは気付いてない。


「うーん、世間一般ではその顔を機嫌が悪いって言うんだけどねぇ……」


「それよりもアビゲイル、作戦に参加せずに何処へ行ってたのです? 今しがた作戦を失敗した兵達が戻って来ましたが、貴方は居なかったそうじゃありませんか」


 先程眉を潜めたのは単に触れられただけが理由なのではなく、勝手に何処かへ行ってしまったのも含まれている。

 だがアビゲイルは悪びれも無く肩を竦めると、周囲を警戒していた等という在り来たりな理由を口にし、その場をやりすごした。

 が、実際は指揮官が気に入らなかったのが本当の理由で、年下だからと雑な対応をした先の指揮官と折り合いがつかなかったのが真相だったりする。


「そんなことよりさぁ、面白い物を見つけちゃったんだよねーっ、――ホイッと。コレ何だと思う?」


 教祖の目の前でぶら下げたのは正にアイカが操縦してたドローンであり、それを自慢気に見せつける。


「……よく分かりませんが、コレがどうしたというのです?」


「実はコレさぁ、俺ちゃんの世界にある物なんだよねーっ。その名もドローンっていうんだけどさ、コレ使っていろんなとこ見たり出来るの、凄いっしょ?」


「はぁ……、つまり何が言いたいのです?」


「あ、あれ、そこで急かしちゃう? まぁいいや。要はさ、エルフに加担してる奴に俺ちゃんみたいな奴が居る可能性が高いって事さ」


 若干苛つきながらアビゲイルの話を聞いてた教祖は、彼と同等の存在が居る可能性を示唆され、表情を強張らせる。


「それが本当なら非常に厄介ですわね。アビゲイル、何とかこちら側へ引き込めないでしょうか?」


 どうやら教祖はアイカを引き込むつもりのようだが、アビゲイルは苦笑いをしつつ片手をパタパタと振る。


「あーぁ無理無理。向こうは絶対にこちら側には(なび)かない筈さ」


「何故そう言い切れるのです?」


「よく考えてごらん。向こうは既にこっちがグロスエレム教国だと気付いてる筈だよ。そんな大国が相手なのに、少数のエルフに加担するなんて馬鹿げてると思わないかい?」


「ふむ……」


 ここで(あご)に手を添えて考える。

言われてみると確かにその通りで、加担するのがどちらでも良いなら最初から金払いの良さそうな大国側へつくだろうと。

 だがそうするとエルフに加担してる者を始末する必要が出てくるので、改めてアビゲイルに顔を向けると、彼女は直々の命令を下した。


「アビゲイルよ、エルフに加担する愚か者を始末しなさい。これ以上無様な敗北はエレム様の名において許されません」


「はいはいっと。まーかしといて、ちょいと同郷の奴にも興味あるしね。ま、最後は俺ちゃんが勝つからさぁ」


 キザっぽく前髪をかき上げると、待機してた兵達に案内されるようにその場を離れて行く。

 アビゲイルが視界から消えるまで眺めていた教祖はというと、すぐに傍らに居た側近に別の指示を出した。


「やはり勇者と同じ世界の者が相手では不安が残ります。たった今新たな神託が下りましたので、首都に居る()()()もここに呼び出しなさい」


「え!? よ、よろしいのですか? それだと首都の守りが手薄に――「これは神託です。それとも――」


 難色を示した側近に、神託を口実にしながら例の鞭をチラつかせる。


「神託に逆らうのですか?」


「めめめめ滅相も御座いません! 今すぐ取り掛かりますぅぅぅ!」


 恐怖にかられた側近は、その場から逃げるようにドタドタと走り去って行った。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「まったく、性懲りもなくまたやってきたようですね」


 ため息混じりにアイカが溢す。

ドローンにより一度は撃退したためナグム達が戻ってきたのだが、再び侵入されたという知らせを受けて、つい先程駆り出されていった。


「せやけどドローンが無い以上何も出来んのやろ? 戦況も分からんし、これじゃヘビの生殺しやでぇ……」


 ドローンを失った今、ホークの言うように状況を把握する事が出来ない上に手出しが出来ないのだ。

 もし手を出すのなら脱獄するしかない。


「む? マズイぞアイカ、先程ここにいたナグムとやらが危険じゃ。放って置けば死ぬやもしれん」


「ナグム殿が!?」


 どうやらナグムが重傷を負ったらしく、生命反応が弱まってるのをアンジェラが探知した。


「アイカ……」


 不安そうに見上げるデュークの顔を見れば、言いたい事は分かる。

であれば、やる事は一つ!


座標転移(ハザードワープ)でここを出ます。アンジェラ、ナグム殿の位置はどの辺ですか?」


「妾達が入ってきた村の入口じゃ。だが気を付けよ、ナグムとやらの近くに桁違いの強さを持つ者が居る。もしやアイカの言っておった勇者かもしれぬ」


「桁違いの……」


 この時アイカは直感する。

その桁違いな強さを持った者がドローンをロストさせたのだと。


「分かりました。転移直後、モフモフとアンジェラは勇者らしき者を取り押さえて下さい」


「おぅ、ガッテンでさぁ!」


 心強いガッツポーズを見せたモフモフと無言で頷くアンジェラに笑顔で返すと、今度はデュークへと顔を向け、安心させるべく慈愛に満ちた表情を見せた。


「デュークはわたくしの傍を離れないで下さいね?」


「うん、分かった!」


 最後に周りを見渡し、全員が手を繋いでるのを確認すると……


「いきます。座標転移(ハザードワープ)!」


 光に包まれたアイカ達が、座敷牢から姿を消した。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 アイカ達が転移する少し前。

村の入口で攻防を繰り広げていた双方だったが、教祖が連れてきた勇者アビゲイルの力の前にエルフ達は力及ばず地に平伏していた。

 ある者は絶望を垣間見た表情でぼんやりと宙を眺め、またある者は傷だらけになりつつ尚も立ち上がろうと必死になっており、いまだ満身創痍でない者はマインを残すのみ。

 だがそんな彼女も仲間のエルフを人質にとられ、成す術を失っていた。


「何だか拍子抜けだなぁ。兵達の話を聞く限りじゃもっと苦戦するかと思ったんだけど」


 片手を上向いた顔に当て、残念がる素振りを見せるアビゲイルの足元では、ナグムが力なく横たわっている。


「ねぇ、本当に知らない? さっきここに来た兵達を昇天させちゃった奴の正体」


「……ゴフッ……な、何度も言わせるな。俺は知らん」


「そっかぁ……残念だなぁ」


 既に満身創痍なナグムに何度も尋ねたのだが、返ってくるのはアビゲイルをガッカリさせるものだ。

 そもそもドローンで密かに攻撃してたのはアイカであり、デューク以外のエルフが知る筈もない。


「そぉ~んな残念な俺ちゃんだけど、もっと残念なのが君なんだよねぇ。何故か分かる? 分かっちゃう?」


「…………」


「ありゃりゃ、もう話す気力も無いかぁ。じゃあしょうがないから教えてあげるよ。なぁ~んにも知らない君は、俺ちゃんにとって不要なんだよねぇ。だからさぁ――」


 うつ伏せ状態にあるナグムの背中に剣を突き立てる。

それを見たマインは慌てて止めようとするが、グロスエレムの兵によって阻まれた。


「やめて! お願いだから殺さないで!」


「そう言われてもねぇ……あ、そうだ、こういうのはどう? 君が代わりにトドメを刺すの」


「え……」


 阻まれても尚悲願するマインだったが、アビゲイルの提案はとても受け入れられるものではない。


「やっぱ無理だよね? じゃあ俺ちゃんがやるしかないって事で――」


 そのままナグムに対し剣を突き刺そうとしたその時! 突然眩い光が辺りを包み込む。

 その場に居る全員が眩しさのあまり顔を覆い、アビゲイルも思わず手を止めてしまう。

 だが光はすぐに収まる代わりに、アイカ達が姿を現した。


「おや? これは……」


 アイカが見渡すとナグムを含む数人のエルフが倒れており、それ以外のエルフはグロスエレム兵によって拘束されてる様子。

 それを見て瞬時に状況を理解したアイカ達の行動は早かった。


「え? ぐはぁ!」

「な、何だ? グヘェ!」


 突然の事で理解が追い付いてないグロスエレム兵をねじ伏せ、素早く人質を解放した。


「あ、あなた達……」


「間に合って良かったです。一先ずここは引き受けますので、マイン殿は倒れてるエルフ達の手当てを」


「あ、ありがとう御座います!」


 窮地(きゅうち)に一生を得たマインは、一礼をするとすぐに治療に取り掛かった。

 その様子を見て安心したアイカは、モフモフとアンジェラに目で合図を送る。

すると2人はアビゲイルを拘束しようと動くのだが、ここで予想だにしない出来事が発生する。


「こ、これは!」


 突然2人の足元に魔方陣が出現し、何処かへと消えてしまったのだ。


「これは奇っ怪な……」

「な、何が起こったんや!?」


 眷族達も動揺するが、アイカには理解出来ていた。


(あの魔方陣は眷族召喚の際に出現するもの。つまりお姉様によって召喚されたという事に……)


 アイカの予想はほぼ的中していた。

ただし召喚したのは、ムーザに乗っ取られたアイリであったが。


『皆さん落ち着いて下さい。今のはお姉様が召喚の際に発動させる魔方陣です。なのでお姉様が必要と考えて2人を呼び寄せたのでしょう』


 透かさず念話による事情説明を行う事で、眷族達の動揺は収まりを見せる。

ただし、動揺が収まったのはアビゲイルも同じだった。


「ふぅ……ビックリしたなぁ。突然現れたと思ったらアクシデントかい? ヤレヤレ、まさかこんなダサい連中が相手だったとは……」


 呆気に取られていたアビゲイルが正気に戻ると、見下したようにバカにしてくる。

しかしモフモフが居ない今、簡単に挑発に乗るような眷族は居なかった。


「ダサくてすみませんね。そんなわたくしからの質問ですが、ドローンを破壊したのは貴方でしょうか?」


「いーや、破壊なんかしてないよ? ちゃんと大事に抱え上げてミュラーちゃんにプレゼントしたんだけど、残念ながらあの様じゃガラクタ扱いかもねぇ」


 全く残念そうにない表情で言い放つアビゲイルだが、聞いたアイカは少しだけ安心する。

理由はドローンが無事なら再起動させる事が可能かもしれないという単純なものであるが。


「ほほぅ、つまりドローンは壊さず回収したと……。いったいどのようにして捕獲したのか聞いても宜しいでしょうか?」


 その台詞を聴いた途端、待ってましたとアビゲイルは自慢気に語り出す。


「なぁーに、簡単な事さ。この世界に召喚された際にさ、神によってチートな能力を一つ貰ったんだけど、俺ちゃんがお願いしたのが【近代兵器無効】って奴なのさ」


「近代兵器無効……ですか?」


「そうそう、だから俺ちゃんに近付いたドローンは操作不能に陥ったって訳さ。決してお釈迦になった訳じゃないから安心していいよ」


「成る程……」


 それを聞いてニヤリと不適な笑みを見せたアイカ。

それは、ドローンがロストした原因を惜し気もなくペラペラと喋ってくれたアビゲイルに対しての精一杯のお礼でもある。


「そういう事でしたか。大いに安心させられましたよ――






 浴子滋(あびこしげる)さん」


「……何?」


 ここで初めて眉を潜めるアビゲイル。

ここからアイカによる一方的な攻撃が始まろうとしていた。


アイカ「補足しますが、エルフの結界が破られた理由は次回明らかになりますよ」

アビゲイル「そこは俺ちゃんが自力でーー」

アイカ「破った訳ではありません」

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