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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第8章:残された者達の戦い
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教祖の思惑

前回のあらすじ

 デュークの救援依頼に応えるため、アイカ達はエルフの村を目指した。

村の近くにある結界を上手く潜ると、警戒中のエルフ達と遭遇。

そのまま村へと案内されたのだが、長老の家にてマインを含む次期長老候補達によって捕らわれ、グロスエレムに内通した疑いを掛けられて座敷牢へと入れられてしまったのであった。



 グロスエレム教国の首都カニエビに建てられているクリームコロッケ神殿。

外壁の表面をミスリルで加工し、その輝きでより一際の存在感をアピールしているこの神殿には、教祖であるメンヒルミュラーが贅沢な生活を送っていた。


「フムフム、此度も大変美味しゅう御座いましたわ。褒めて差し上げましょう」


「ははぁ! 大変有り難きお言葉! 」


 彼女がどの程度の贅沢を繰り返してるのかというと、グロスエレムのような内陸部にある国では入手が困難な魚介類をふんだんに使った料理を毎日3食必ず食している程だ。

 そのためもうすぐ三十路を迎えようとしてる彼女の肌は、コラーゲンたっぷりでツヤツヤである。


「お昼も期待しておりますわ」


「勿論で御座います!」


 沿岸部だとそれほど高くはないであろう魚介類を新鮮な内にグロスエレムに届けるだけで、本来の相場より5倍以上に膨れ上がってしまうのである。


「お分かりだとは思いますが、昨日と同じメニューを出すのは神がお許しになりませんわよ。心得てますわよね?」


「ももも、勿論で御座います!」


 そのため民の生活は常に首を締め付けられている状態であり、働けど働けど生活は楽にはならないのだ。


「では食後の運動を行うと致しましょう。()()()をここへ」


「ははぁ! 只今お持ちします!」


 勿論そうなると民の怒りは爆発しそうなものだが、上手くそれを回避する手段を、この国は身に付けていた。

 その手段とは、先程教祖が命じた()()()に繋がってくる。


「や、嫌です、止めて下さい!」

「うるさい! おとなしくしないか! ――ささ、メンヒルミュラー様、どうぞご堪能下さいませ!」


 連れて来られたのは、ウサミミを生やした兎獣人の少女。

その首には奴隷の首輪が掛けられており、既に拒否権は皆無な状態にあった。

そんな奴隷少女が連れて来られた理由とは、当然教祖の()()()()に他ならない。


「おやおや、随分と怯えてるじゃありませんか。仕方ありませんねぇ……、そこまで期待されては応えなくてはなりませんわ」


 言いつつ懐から取り出したのは、マジックウェポンであるソリッドウィップという対象を拘束し、ジワジワとHPを削りとる鞭だ。




 ビシッ!


「ヒギィィィ!」

「もっとです!」




 ビシッ! ビシッ!


「ヒギャァァァ! や、止めて……」

「ダメです。もっと強く気高く鳴くのです!」




 ビシッビシッビシッビシッ!


「ギェェェ……」

「おや? もう終わりですか……。仕方ありません、直ぐに次の物を用意しなさい」


「ははぁ!」


 HPを消耗し過ぎて気絶した少女をつまらなそうに見下ろすと、教祖は別の奴隷を用意するよう命じる。

 このように人間以外の奴隷を玩具のようにして扱うのを教祖自らが推奨しており、その行為が風習として庶民の間にも広まっていた。

 つまり、グロスエレム国内の至るところで同様の事が行われているのだ。


 そして今日、いつものように教祖が悪趣味な遊びを行っていると、アレクシス王国に潜入してた密偵により、気になる情報が飛び込んで来た。


「申し上げます。アレクシス王国に不審な動き有り。詳細を送るので至急確認されたし、との事です」


「不審な動き……まさかまた国境沿いに兵を集めたのではないでしょうね?」


 眉をひそめて報告書を手にした教祖は、1ヶ月ほど前に同国との国境沿いで小競り合いが発生した事が頭を過っていた。

 双方痛み分けに終わった小競り合いだが、教祖としては被害が出てる時点で面白くない事である。

 だが彼女の思惑は外れ、代わりに新たな懸念が芽生える事となった。


「最近になって魔女の森を開拓しようとしている……」


 報告によると、これまで敢えて触れようとしなかった魔女の森に着手したらしい。

近隣の街から兵が派遣され、更には冒険者を大量に使って道を切り開いてる様子だと。

 しかし、これには首を傾げざるをえない。

何故なら、魔女の森はアレクシス、ミリオネック、プラーガ、グロスエレムの4国が領有権を主張しており、これに手を出すと大変面倒な事態になるのが予想出来るからだ。


「けれど、それを承知の上で進軍させる理由――もしくは利益が有るとすれば……」


 ただの挑発だけで兵を動かすにしては、リスクが大きすぎる。

ならば何かしらのメリットが有ると考えるのが妥当だ。

しかもアレクシス王国だけではなく、ミリオネックまでもが同様に動こうとしてるらしいとあれば、魔女の森に()()()()()のは間違いないだろう。


 だが実際はアレクシス王国の国王ヨゼモナールがアイリのダンジョンと取引を行う政策をとっただけで、更にはミリオネックもそれに乗っかったに過ぎない。

 しかしそうとは知らない教祖は、遅れをとってなるものかと対抗する構えを見せる。


「今日の遊びは終わりにします。今から新しい玩具(おもちゃ)を探しに行くとしましょう」


 鞭を懐にしまうと、新たな奴隷を連れてきたばかりの側近に、大至急軍を動かすようにと命令を下す。

それを受けて側近は大急ぎで部屋を飛び出し、奴隷の猫獣人はホッと胸を撫で下ろした。


「すべてはエレム様の導きのままに」


 静かに腰を下ろすと、都合のよい空想上の神に対して祈りを捧げた。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 グロスエレムが兵を動かしてから2週間が過ぎ去った。

その日数は、アイカ達が捕らえられてから2日経った頃だ。

 エルフの村はいまだ襲撃されてはおらず、厳戒態勢をしいてる状態にあった。

そんな村の端に有る座敷牢では、アイカ達が(くつろ)いでいた……デュークも一緒に。


「本当にゴメンねアイカ。まさかこんな事になるなんて思わなくって……」


 同じ座敷牢の中にいるデュークが頭を下げる。

彼が捕まった理由は、アイカ達を招いたという予想通りのものだった。


「デュークは悪くありませんよ。気になさらないで下さい」


「でも……」


「アイカはんの言う通りでっせ。それに戦わずに終わるんなら楽っちゅうもんですわ!」


 尚も申し訳なさそうにしてるデュークをホークがフォローする。

いや……この男、恐らくは楽をしたいだけなのだろう。


「そうだぞボウズ、お前ぇさんは間違っちゃいねぇ、間違ってるのはアイツらの方さ」


 柄にもなくモフモフもフォローする。

だが今のモフモフは強面の角刈り男なので、当のデュークは顔を引きつらせてるが。


「ルーも問題ない。強いて言えばおやつタイムが無いのが残念」

「その通り。さぁアイカ、分かったらさっさと出す」

「イダダダダ! こら、止めなさい! 暴力を振るうなら召喚してあげませんよ!」


 そしてお菓子が出ない(それが普通)のに不満を持ったゴーレム姉妹が、アイカを締め上げてお菓子をねだっていた。


「何というか……アイカ達はいつもこんな感じなのか?」


「そうですね~、極自然に~、見かける光景です~♪」


「そ、そうか……」


 牢の外からナグムがやや呆れた顔をして眺めていた。

彼はアイカ達を拘束するのに反対したのだが、統率を乱したくないと考えた者達により疑惑を持たれたくなければ従うようにと強引に言いくるめられてしまった事に罪悪感を覚え、こうしてアイカ達を気にかけてたのだ。


「おーい、ナグム! 敵が結界を破って侵入したようだ、お前も迎撃に加わってくれ!」


「クッ、どうやらここも見つかってしまったようだ。――分かった、直ぐに向かう!」


 ナグムを呼びに来た若者を追うように、ナグムも駆け出していく。


「アイカ殿、いよいよ始まるようで御座るが、やはり彼等エルフのみで迎え撃つのは厳しいので御座ろうか?」


「ええ。どうやらグロスエレム側は獣人やエルフ等の奴隷を前線に配置してるようなので、彼等に攻撃を加えるのは躊躇(ためら)うでしょうね」


 現に幾つかのエルフの集落が無抵抗で落ちてるという話もあるので、その主な原因として攻撃出来なかったと考えられる。


「成る程。して勇者らしき存在はどうで御座るか?」


 ここ数日、密かにドローンを飛ばして様子を(うかが)ってたのだが、勇者と思われる者は確認出来ていない。

なのでアイカは、ザードの質問に対して静かに首を横に振った。


「ですがこのまま放置するのも良くありません。連中がどの程度の強さか知りませんが、ドローンの餌食にしてやりましょう」


 上空から偵察を行っていたドローンを降下させ、村に接近中の侵入者に対して攻撃を開始する。

当然特殊迷彩(ステルス)を発動させてるので、見つかる可能性は非常に低い。


「さて、わたくしのドローンにどこまで耐えられますかね」



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 まさかドローンという異世界の兵器(アイカが改良した結果、兵器へとランクアップしてしまった)が、しかも目に見えない状態で襲ってくるとは思いもしない侵入者達は、奴隷達を盾した状態でやってきた。


「さぁ行け奴隷共! エルフ共を残らず生け捕りにするのだ!」


 脂肪が乗ったデップリとした腹を前面に出した状態のハゲオヤジが、視界に捉えたエルフ達を見て涎を垂れ流している。

 この男が期待してるのは若々しい白い柔肌の女性エルフで、出来るだけ多くのエルフを生け捕りにする事で自身のダッチワイフを増やそうと目論んでいた。


 だがそんな彼のゲスな野望も、直後に打ち砕かれる事となる。


 スダダダダダダダダダダ!


「ぬぉっ! な、何事だ!?」


 突然聴いたことがない爆音が鳴り響いたと思ったら、兵達が血溜まりに沈んでいたのだ。


「ぐぁぁぁ! 背中がぁ、背中が何かにやられたぁぁぁ!」

「痛ぇぇぇよぉ、痛ぇよぉぉぉ!」

「何なんだよいったい、何処から襲ってきてるんだ!」


 当然兵達はパニックを起こし、反転して逃走を開始した。


「ええぃ落ち着けお前達! すぐに敵を見つけ出し、迎え撃つのだ!」


 多数の兵が逃げ惑う中、一部の兵は懸命に探したのだが当然襲撃を行ったドローンを見つける事叶わず、鉛弾を全身に埋め込んだ状態で土へと還った。

 気付けば自分一人しか残ってない事に気付いた指揮官は、腰を抜かして地面を這って逃げようとするが……


「ひ、ひぃぃぃぃぃ! お、俺は死にたくないぞ! まだまだ楽しむんだ、パラダイスはこれからなんだ、だから俺『ダダダダダダダダダダダダダ!』……ゴボ……」


 逃げ遅れた指揮官も血肉の塊となり、大地の新たな栄養と成り果てたのだった。




「い、いったい何が起こったんだ……」


 訳が分からないのはエルフ達も同様だった。

 迎え撃とうとした矢先に敵兵が血しぶきを上げて倒れ伏していくのだから、理解出来ないのも無理はない。

 結局最後まで立ってたのは自分達とグロスエレム側の奴隷達だけだという事が、事実として残されたのは確かだった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「なんや楽勝やないか! ドローンの精密射撃なら、奴隷を盾にしても無意味やったなぁ」

「おうよ、さすがはアイカの姐さんだぜ!」


「フフン、わたくしに掛かればこんなものですよ」


 両手叩いて称賛を送るホークとモフモフに気を良くしたアイカはアクロバット飛行を披露したのだが、残念ながら画面がグルグルと回るだけで理解してる者はいなかった。


「チッ、負けた……」

「イェーイ(棒)、ミリーの勝ち~」


 このゴーレム姉妹は決着がつく時間で賭けを行っていた。

どちらの指定した時間に近いかのニアピン勝負であったが、結果は妹分であるミリーが勝ったようだ。

 因みに賭けの対象は予想通りのお菓子である。


「まさかとは思うが、あの肥った男が勇者という可能性はないで御座るか?」


「ザード、あんな如何にも噛ませ犬的な男が勇者な訳はないでしょう」


 勿論あの指揮官は勇者ではない。

ただの穀潰し貴族が隊長という役職にすがってただけだ。


「やっぱりアイカは凄いや! 本当に一捻りだったね!」


「まぁわたくし……というか、ドローンが高性能なのが大ききのですがね」


 目を輝かせて見つめるデュークであった。

……が、その直後、アイカの顔から余裕の笑みが消え失せた。


 プツン!


「――え……い、いったい何が……」


 突如としてドローンの反応が消えてしまったのだ。


「アイカ殿、映像が途絶えたようで御座るが……」

「せやせや。アイカはん、どないしたんや?」


 ザードやホークが心配そうに見てくるが、アイカは顔を青くしたまま答える。


「ドローンが……あのドローンの反応がロストしました。何者かにやられたようです」


 眷族達は信じられないという顔を向けてきたが、アイカは決して冗談を言ってる訳ではない。


(マズイ……、もしかしたら本当に勇者が居るのかもしれません……)


 アイカの顔色が優れないまま、戦況は変化していくのであった。


 

アイカ「御飯は大盛りでお願いします」

マイン「ダ、ダメです!」

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