そして夜が明けた
5月21日
アイリが自分のダンジョンに帰還するために使用したスキルの説明を追加しました。
ストーリーに変更は御座いません。
そして夜が明……ぶっちゃけ5日経った。
あれから本当に大変だった。
ロドリゲス、冒険者ギルドのギルマス、商業ギルドのサブギルマスとの三角関係が一夜にして街中を駆け巡った。
念のため言っとくけど、三角関係と言っても決して卑猥な内容じゃないからね?
まぁ一部の女性たちの間で盛り上がってたのは事実だけど。
この影響で、3日くらい冒険者ギルドと商業ギルドの機能が麻痺してしまったらしい。
さらにこの情報が外遊中のラドリゲス男爵にも伝わり、2日後にラムシートへ帰還したようだ。
噂ではロドリゲスは勘当されたらしいが、まだ噂の段階なので何とも言えない。
でも商人や冒険者の人たちからは、たくさんのお礼の言葉を頂いちゃいました。
その際に私の渾名が決められたんだけど……、
「あ、黒神のポニーテールだ!」
「ほんとだ!」
「俺たちのヒーローだぁ!」
「街のヒーロー、黒神のポニーテーーール!」
「可愛い!」
とまあこんな感じで、街中を歩いてると、黒神のポニーテールって呼ばれてたりする。
渾名の付け方がオヤジギャグっぽい気がするのは気のせいかしら……。
それから最後の人、もっと言って!
「お姉様と違い、わたくしの場合は、黒神の色違いと呼ばれてるのですが……」
それは仕方ないわ。
アイカはほとんど何もしてなかったし。
強いて言えば、最後の方にちょっとだけ冒険者ギルドに顔を出したくらいじゃない。
「それはお姉様がわたくしに対して宿屋で待機を命じたからですよね? それにわたくしがあそこで冒険者ギルドに行かなかったら、誰にも印象に残らなかったと思われます」
アイカは色違いと言われるのが余程嫌なのか、さっきからグチグチと言ってくる。
「いいじゃない、そのうち慣れるわよ」
「慣れたくありません!」
アイカに対しては、また私に黙ってお菓子を注文したので、その罰として暫くの間、黒神の色違いと呼ばれてもらおう。
あ、お菓子で思い出したけど、本体が無いのにどうやって召喚したんだろ?
「ねぇアイカ、お菓子のことで話が有るって言っときながら話せてなかったわね?」
「……それは何の話でしょう?」
「アイカがダンジョンコアかスマホ無しで召喚できた理由を知りたいんだけど?」
「…………えーと、お姉様。これは個人情報に関わるので、第三者に公開するわけに「私が第三者なわけないでしょ!」ひぃ~! お、お姉様どうかお慈悲を!」
「そういうことだったのね……」
アイカのやったことは単純だった。
私のスマホをこっそり複製してたらしく、それを使って召喚してたのよ。
まぁ作ってしまった物は仕方ない。
「今後は勝手に召喚するのは控えること。分かった?」
「はぁ、仕方ありませんね……」
何故か態度がデカイ気がするのは気のせいかしらね?
まぁいいや、それよりも今後のことよ。
「ここ数日で冒険者としてもEランクに昇格したけど、Dランクに昇格するには試験を受けなきゃならないのよねぇ……」
冒険者ギルドの受付嬢さんに……えーと、ナタリエさんに聞いたんだけど、試験に合格しないとDランクには昇格できないらしい。
試験は筆記と実技があり、試験は3日もかかるため、どうしようか悩んでいた。
ちなみにナタリエさんとは、初日にギルドに居た受付嬢さんのことよ。
「一度~、ダンジョンに~、戻られては~?」
「そうねぇ……」
セレンに言われて気付いたけど、もう10日もダンジョンから離れてるのよね。
そう思うと、モフモフたちがどうしてるか気になってきたわ。
と言ってもアイカなら把握できてるから問題無いはずだけど。
「あ! お姉様!」
「どうしたのアイカ?」
『ダンジョン通信を通して、お姉様にダンジョンバトルの申込みがきてます』
急に念話に切り替えたと思ったら……確かに街中で話せる内容じゃないわね。
『宿に戻って話しましょうか』
というわけで宿に戻ったので、さっそく詳細の確認に入る。
バトルの申込みがあったのは、10分前くらい。
申込んできたのは、マスターランクGのグーチェスというダンジョンマスターだって。
名前言われても誰よアンタ状態だけれども。
「ではダンジョンバトルについて、わたくしアイカから説明させていただきます」
「うん。お願いね、アイカ」
「ダンジョンバトルとは、ダンジョンを持つもの同士が行う闘いで、勝てば邪神様から御褒美が貰え、条件が達成してればランク昇格もあります。しかし、負けるとペナルティとして、DPの寄付や他のダンジョンでの奉仕活動、場合によってはランクの降格があります。それ以外にも、予め互いにDPを賭けたり、アイテムを賭けたりすることも可能です」
何故かサラッと邪神が出てきたんだけど気にしたら負けよね?
「ダンジョンバトルを行う本来の目的は、互いに切磋琢磨し、ダンジョンマスターとしてより強くなることにあります」
「強くなって何をするわけ?」
「そこまではわかりません。ですが、強くならないことにはダンジョンに侵入した冒険者や魔物、或いは国軍などの餌食となってしまいますので、経験を積んで強くならないといけません」
これはある程度予想してたけどね。
対話を求めるにしても、武力が無いと相手に舐められる。
脅威に感じない相手など気にする必要はないだろうし。
「バトルの方法も様々で、互いに相手のダンジョンに侵攻する攻略戦、先に目標物を奪取する若しくは破壊する戦略式、お互いの眷族で対決する試合形式、等々です。どのように対決するかは、お互いに話し合って決めます。折り合いがつかなければ、バトルを拒否することもできます」
うんうん、やっぱり強制的にバトルするのはダメよね。
それに自分に有利な内容でバトル申請してくる奴が多いだろうから、拒否できるなら安心だわ。
「バトルを申請できる相手ですが、自分のランクの上下1ランクまでです」
つまり、自分がBランクなら、AランクからCランクまでの相手なら申請可能ってことね。
そういえば私自身のランクがわからないけど、何ランクなのかな?
「お姉様のランクはGランクです。一度もバトルをしてないので、一番下のランクです」
あらら……。
まぁダンジョン開放してから何もしてないんだから当たり前ね。
「バトル中は地上との出入口を封鎖され、中に居た冒険者たちも強制的に外へ放り出されます」
放り出されるって……、なんかお宝を前にして、強制的に外へ放り出される冒険者を想像しちゃったじゃない。
「ですので、ダンジョンバトルの際は、本ダンジョンで行うか特設ダンジョンで行うかを選ぶことができます」
特設ダンジョン?
「特設ダンジョンとは、ダンジョンバトルを行う前に予め決められた額のDPを用いてダンジョンを作り上たものを言います」
つまり、本ダンジョンだと相手に事前対策が練られてる可能性があるから、特設ダンジョンの方が望ましいってことね。
「また、本ダンジョンでのバトルですと、DPは現在所持してるDPを使用して対決するので、バトル終了後はDPが枯渇してた……なんてこともありますので注意が必要です」
うーん、益々本ダンジョンを用いてのダンジョンバトルはやりたくないわねぇ。
「その代わり特設ダンジョンですと、バトルに使用するDPを貰えますので、どちらかというと特設ダンジョンを使用してのダンジョンバトルが望ましいです。勿論バトル終了後に余ったDPは返還しなければなりませんが」
うん、ここまで聞いてた限りだと、ダンジョンバトルの際は特設ダンジョンを使用する方がいいわね。
「説明は以上です。何かあれば、その都度説明致します」
「わかったわ。バトルの形式も決めないといけないし、ダンジョンに戻りましょう」
私は数日間お世話になった宿屋の女将さんと、冒険者ギルドの受付嬢たち、それにアルバムーン商会に挨拶し街を離れることにした。
宿を出る際に、宿屋の女将さんと娘さんにお礼を言われた。
何でも、ロドリゲスの件で私の名声が高まり、私が泊まってる宿屋として人気が出たのだとか。
初日からずっと同じ宿にしか泊まってないからね。
理由は他の宿に移る必要がなかったからなんだけども。
でも私が街から離れることを話しても、特に問題ないと言われた。
これからは、私が泊まっていた宿屋として人気を博していくとか……商魂逞しいです、はい。
冒険者ギルドの方でもお礼を言われた。
ロドリゲスの件は勿論だけど、意外な事実が発覚した。
なんとこの冒険者ギルド、実は国営なのだとか。
本来冒険者ギルドは、どの国にも加担せず中立を保った組織なのよ。
だけど数年前に、ロドリゲスと冒険者ギルド側が揉めて、元々あった冒険者ギルドが街から撤退したらしい。
でも今回の件で、再び本来の冒険者ギルドが街に戻る算段がついたため、元に戻るらしい。
なるほどね、どうりであのギルマスは典型的な中間管理職っぽいと思ってたのよね。
恐らく国の文官だった……ってとこね。
最後にアルバムーン商会だけど、残念ながらドルトンさんは忙しいらしく不在だった。
代わりにジェシカさんに挨拶してから街を出ることにしたわ。
こうして怒涛の数日間を過ごした街から少し離れた森の中に入り、周囲に誰も居ないのを確認し、私はダンジョンマスターの固有スキル、スキップダンジョンを発動させる。
このスキルは、ダンジョンマスターが自分のダンジョンに帰還するためのスキルなのよ。
これを使用して私たち4人は、私のダンジョンへ転移した。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「お帰りなさいッス姉貴!」
「お帰りである。主」
「お帰りやでーっ!」
まずダンジョンで出迎えたのは、クロとザードとホーク。
皆元気そうで何よりだわ。
「ただいまーっ! なんか10日ぶりくらいのはずなのに、数年間ぶりに戻った感じがするわぁ……」
眷族たちからの出迎えを受け、自分の居場所に帰ってきたんだという実感が湧いてくる。
「数年間とは大袈裟じゃの主よ」
「そうですね~、せめて~、数ヶ月ぶりくらい? でしょうか~♪」
何でもいいのよ。
気持ちが大事よ、気持ちが。
「そういえばモフモフとレイクは?」
「アニキならコアルームに居るッスよ。レイクはいつもの場所で寝てるんじゃないッスかね」
「レイクはいつも通りやな。モフモフは、ダンジョン通信からバトルの申請が届いてから、闘うのを心待ちにしてるんやろなぁ」
まぁ血の気が多そうだもんねモフモフ。
レイクは……うん、知ってた。
「アイカ姐さんもコアルームに直行したッスよ」
そういえばさっきからアイカが静かだなぁと思ってたら、既に居なかったようだ。
それじゃあモフモフも待ってることだろうし、コアルームに行きますか。
「姉御ーーーっ!! お待ちしてやしたぜ!」
「ただいまモフモフ」
コアルームで元気良く迎えてくれたモフモフだが、なんとなく殺気立ってるのがわかる。
「落ち着いてくださいモフモフ」
「でもアイカ姐、カチコミなんですぜ? これが落ち着いてられるってんですかい!? 売られたケンカは買わないわけにゃいけませんぜ!」
うん、間違いなくモフモフは戦闘狂ね。
なんか「戦が俺を呼んでいる!」とか言いそうだもんね。
「戦が俺を呼んでるぜぃ!」
……ほらね?
とは言え、一旦落ち着かせないとね。
「とりあえず落ち着いて、モフモフ。皆もいい? これからバトルの形式を相手と話し合うから、大人しく待っててちょうだい」
モフモフは微妙な顔をしてたけど、他は皆頷いてくれたわね。
じゃあさっそくダンジョン通信で相手を呼び出してみようかな。
アイリ
『今話しても大丈夫かしら?』
グーチェス
『ああいいとも。では一応名乗らせてもらおう。俺の名はグーチェス、チョワイツ王国内に存在するダンジョンマスターだ』
アイリ
『アイリよ。アレクシス王国に割と近い所でダンジョンマスターやってるわ』
グーチェス
『バトルの内容だが、互いにボスを決めて、そのボスをどちらが先に倒すかを競うのはどうだろう?』
アイリ
『いいわよ。ダンジョンは特設ダンジョンでいいわよね?』
グーチェス
『勿論だ。我々低ランクのダンジョンマスターだと、本ダンジョンでのバトルは危険だろう』
まぁそうよね。
やっぱり本ダンジョンでバトルをやりたがる人は少ないみたい。
アイリ
『じゃあ特設ダンジョンを明日中に仕上げて、明後日に対決ね。あ、そういえばDPは何ポイントくれるんだろ?』
グーチェス
『ランクGの場合は3000ポイントだな。だから今回は1階層のみの対決でいいか?』
階層を増やすと罠やモンスターを配置できなくなるから1階層が無難ね。
アイリ
『うん、1階層でいいわ。ところで、ダンジョンマスターが直接参加するのはダメなんだっけ?』
グーチェス
『ダンジョンマスターが直接参加するのは危険が伴うため禁止されてるな。階層は1階層、時間の方は明後日でいいぞ。他に確認事項はあるか?』
アイリ
『じゃあ最後に、今回のバトルには、特に何も賭けないってことでいいかしら?』
グーチェス
『俺たちの間では特に無しってことだな、それで構わない。じゃあ明後日の朝に会おう』
アイリ
『了解。じゃあ明後日ね』
さぁて、バトル内容も決まったし、明後日は初めてのダンジョンバトルね、腕が鳴るわぁ!
「見てください、先程また明後日ね♪ と言った後のウキウキしたお姉様を。まるでデートの約束をしたかのようです」
ん?
「ホンマやで。まるで明後日のデートコースをどこにしようか迷ってるみたいで、ごっつう楽しそうやなぁ」
ちょっとちょっと!
「なんじゃ、主は男をタブらかしておったのかや?」
コラコラコラーッ!
「アイリ様も~、男好きですか~?」
私のイメージが崩れるからやめなさい!
「ちょっとアンタら、茶化してんじゃないわよ! 今茶化した奴は晩御飯抜きだからね!」
「その通りです。恥を知りなさいホーク」
「へ?」
「うむ、ホークよ、女子の心を弄んではいかんぞ?」
「ホ?」
「ホークさんは~、ダメダメですね~♪」
「ファッ!?」
本当にもう、アンタらは……って、落ち着け私、冷静に冷静に。
全く、確かに初めてのバトルってことでウキウキしたのは事実だけど……。
それはともかく、
「明後日のバトル、こっちのボスはモフモフにお願いするわ」
「出番ですかい? 任せてくだせぇ!!」
明日の特設ダンジョンを構築するために、今日は早めに寝よう。
でも、その前に……。
「アイカ、ホーク、アンジェラ、セレン、茶化した罰として、明後日のバトル終了までスイーツは無しよ」
「「「「え!?」」」」
うんうん、鳩が豆鉄砲でぶち抜かれたようないい顔を見てスッキリした。
今日は良い夢見れそう♪
ホーク「ワイの扱いがおかしいやないか!」
アイカ「何を言ってるのです、キャラ的においしいポジションじゃないですか」
ホーク「せやろか?」




