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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第8章:残された者達の戦い
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村の異変

前回のあらすじ

 アイカが気付かぬままアイリが姿を消したという知らせは、眷族達に衝撃をもたらす。

だが、アンジェラの探知波動にも掛からなかったアイリの居場所を告げたのは、意外にも女神であった。

盗み聞きをしてたディスパイルと共にアイリが無事戻ってくるという話を聞き終えると、女神が去った直後にエルフの少年デュークからの着信が入る。

話の中身はというと、幾つかの集落がグロスエレム教国がよって襲撃されてしまい、次期にデュークの居る村へと攻めてくるのを撃退してほしいというものであった。



「グロスエレムだと?」


 アイカとデュークのやり取りに反応したのは、意外にもディスパイルだった。

眉間にしわを寄せ、(あご)に手を添えると何やら考え込んでいる。


「――よう分からんがディスパイルは放っておくとして、どうするのじゃアイカ。まさか皆で行く訳にもいくまい?」


「分かってます。ダンジョンに残る者と、エルフを助ける者に分かれて行動しましょう」


 アイカの判断によりリヴァイはいつも通りアイリーンを任され、ギンとクロそれからレイクをダンジョンに残してエルフの村に出発した。

レイクが残ったのは移動すると目立ち過ぎるためなのだが。

 因みにディスパイルはというと、ブツブツと呟きながら帰って行ったが、事情がよく分からないので特に関知はしていない。


「もしダンジョンが襲撃されてもすぐに転移出来ますし、リヴァイが居れば大抵の侵入者はイチコロでしょう。ですので我々8人でグロスエレムの連中を叩きのめします」


「それは理解したで御座るが、この人数は(いささ)か過剰では御座らんか?」


「過剰なのは認めます。ですが現在かの連中がどの程度まで進軍してるのか不明だという事を頭に入れておいて下さい」


 過剰だとザードは言うが、実際襲撃側の情報が少なすぎるため、念を入れるのは間違いないではない。

 それにデュークは複数の村が襲撃されたと言っていた。

それぞれの村には戦闘が得意なエルフも居たらしいので、向こうはそれを上回る戦力を有してる事になる。


「話によると此度の襲撃、グロスエレム側には圧倒的強さを持つ者がいるらしいのです。もしかしたら……勇者かもしれません」


 勇者とは、武勇に優れた超人的な強さを誇る存在の事で、単独で戦況をひっくり返す事も多いという。

 もし遭遇した場合ホークやザード等のランクでは少々危ういという事になるので、仮に勇者が出てきた場合は、モフモフやアンジェラの出番となるだろう。


「む……どうやらこの先に結界があるようですね。これに触れると方向感覚を狂わされ、エルフの村にはたどり着けなくなります」


 アイカの目の前には周りの木々と同じ風景が広がっているが、結界自体は無色透明なため見分けがつかない。

以前来た時は偶然にも引っ掛からなかったのだが、今回は結界としての役目をキチンとはたしたようだ。


「では私が~、やってみますね~♪」


 セレンが一歩前に出て詠唱を開始する。


「我妨げるは聖地の護り、この場を晒して刮目せよ、オープンザドア~♪」


 そして何処かで聴いたような呼び名と共に結界に穴が空いたようで、目の前に存在する筈の結界が消え去った感じがした。


「今なら~、通れますよ~♪」


 セレンの魔法により全員が通過すると、背後には再び結界が出現した感覚が現れる。


「どうでもエエけど、その魔法っつうのはオープンザドア~♪って名前なん? なんつーか随分テキトーな名前に感じるんやが」


「アレンジです~♪」


 どうやらセレンなりにアレンジを加えてたらしい。


「魔法ってアレンジ加えて発動出来るんやったか?」


「出来るみたいですよ~? アイカさんは~、よく詠唱をアレンジしてますし~、正に乙女の~、隠し味ですね~♪」


「いやいや、隠し味で発動する魔法ってどんだけテキトーなん! もうそれ魔法ちゃうやろぉ! それに乙女ちゃ――アダッ!」


「静かにしろ、何かがこっちを見てやがる!」


 いきなり後頭部を叩かれ抗議しようとしたホークだったが、モフモフの真剣な表情に気を引き締め直し警戒を強めた。


「フム、確かに。かなり距離が有るが、樹の上に3人と茂みに2人、更に樹の陰にも2人が身を隠してるようじゃな」


 モフモフ同様アンジェラも感じとったが、魔物ではなく人形(ひとがた)の何からしい。


「敵でない事を祈りたいですね。エルフの村に近い事ですし。こちらから話し掛けてみましょう――そこに居るのは誰です!? そちらに7人居るのは把握しておりますよ!」


 アイカが大声で叫ぶと、最初に樹の陰に居た2人のエルフが姿を現し、他の5人もそれに続いた。

弓を構えてこちらを威嚇してる彼等は、以前村を訪れたアイカを覚えており……


「お前は……アイカではないか!? 後ろの者達は何者だ!」


 だが警戒心が強いため、アイカ以外を強く警戒してるのが伝わってくる。


「彼等はわたくしの仲間です、安心して下さい。デュークから話を聞きました。村が危険にさらされてるという内容でしたので、こうしてやってきたのです」


「デュークから……分かった。確認してくるから暫く待ってほしい!」


 彼等は互いに頷き合い、片方の青年が村の方へと駆けて行く。

それから暫くして戻ってくると、どうやらデューク本人に直接確認がとれたらしく、漸く他のエルフ達も弓を下ろした。


「疑ってすまなかった。既に事情は知ってると思うが、多くの同士が敵に捕らわれてしまったため以前よりも増して警戒を強めてるのだ」


「気にしてませんよ。警戒するのは当たり前ですからね」


「本当にすまない。そんなアイカに対して大変言い難い事なんだが……」


 青年が複雑そうな表情で言い(よど)む。

何か訳ありな感じがしたので村に向かいながら話を聞くと、他の集落から逃げてきたエルフ達は誰かが手引きを行ったのではと疑ってる者が多数おり、そこへアイカ達が訪れれば真っ先に疑惑の目を向けてくるだろうというもの。


「うーん、しかしわたくしとしてもデュークの頼みを引き受けた以上このまま帰る訳にはいきませんので、まずは村の人達の話を聞いてからですね。それから捕まってるエルフ達の救出に向かおうと思います」


「大変助かる。アイカならばグロスエレムの連中も一捻りだろう」


 青年に案内されるまま村に入ると、好意的な視線と冷ややかな視線とが入り雑じった状態でアイカ達に向いてるのが分かる。


「どうも歓迎されてる感じは無いで御座るな」


「仕方ないのかもしれません。長年平和だったところに外部の者がやって来て、殆どのエルフは連れ去られたという話でしたから」


 そんな視線を掻い潜り長老の家までやって来たのだが、やはりここでも二つの視線を受けるのであった。

そんな視線の中、奥から長老が姿を現す。


「アイカ殿! それからその仲間達も。我々の頼みを聞いて頂き感謝する」


「いえいえ、デュークには困った事があれば力になると言ってありましたので。それでさっそくです「ちょっと待ってくれ!」


 長老とアイカの会話を(さえぎ)ったのは一人の青年エルフ……に見える中年エルフだった。


「ソイツらは本当に信用出来るのか? 我らの結界が簡単に突破されたのは、何者かの手引きがあったと考えるのが普通ではないか? それにこのタイミングで現れたのは、この村を襲撃するためではないのか!?」


 彼の居た村もここと同じように結界を施してたのだが、侵入者達は難なく突破してきたというのだ。

 結界に自信を持っている彼等はからすれば自力で突破したとは考えにくく、内部からの手引きがあったのではと疑心暗鬼になる。

しかしそこへ外部の者が現れれば、当然矛先がそこへ向くというもの。


「そうよ! 結界が簡単に破られる筈ないもの、コイツらが加担したに違いないわ!」

「そうだそうだ! さっさと叩き出せ!」

「いや、寧ろここで始末した方が安全だ!」


「ちょい待ちぃや、随分と一方的やないか!」

「そうだな、俺達ぁ頼まれて来たってのになんだって疑われなきゃならねぇ!?」


 中年エルフと同じように考えてる者達もそれに続き、彼等に対してホークやモフモフが衝突するという一触即発な空気が室内に漂い始めるが……


「落ち着かんか! ウーハン、お主の言い分も分かるが、彼等は我らの願いを聞き入れてここまで来てくださったのじゃ」


「し、しかし……」


「ここが儂の村である以上儂が決める!」


 ウーハンと呼ばれた中年エルフ――最初に異議を唱えたエルフは、長老の決断により押し黙り、彼に続いたエルフ達も同様に俯く。

 これで漸く落ち着いた話が出来ると思ったが、そうはならなかった。


「そこまでです長老」


 新たに現れたのはマインを筆頭にした次期長老候補のエルフ達。

彼等の背後からも複数の武装したエルフが現れると、アイカ達を取り囲んだ。


「マイン殿、これはいったい……」


 マインはチラッとだけアイカに視線を向けると、すぐに長老へと戻した。


「長老。ただ今をもって、貴方には長老の座を退いてもらい、新たな長老を選出させていただきます」


「な、なんと!?」


 突然の事に驚く長老だが、アイカ達も他人事では済まなかった。

マインがアイカ達に向き直ると、衝撃的な発言が飛び出したのだ。


「アイカ殿とその仲間達。あなた達を拘束させていただきます」


「ど、どういう事です!?」


「今この村は割れています。貴女達を信用する者としない者とで。敵が迫ってる時にこのような事態は避けるべきと考えた我々は、意思を統一するため貴女達を一時的に拘束し、敵を迎え撃つ事にしました」


「そ、そんな……」


「ですがご安心下さい。敵を討ち、貴女方の疑いが晴れれば解放いたしますので」


 一方的に言い放つとマインは背中を向ける。

すると当然黙って捕まる事をよしとしない眷族が呼び止めようとするが……


「待ちやがれ! テメ「モフモフ!」


 暴れだそうとするモフモフをアイカで手で制した。

ここで暴れれば完全に敵対してしまうと思ったからの措置だ。

 やむなくモフモフは押し黙り、そのまま屋外へと連行されると、少し歩いたところに座敷牢らしきものが視界に映る。

その建物の前に見張りが待機してるところを見ると、実際に座敷牢なのだろう。


 一行が座敷牢の前までつれてこられるとマインが見張りに目配せを行い、アイカ達を中へと入れた。

 が、ここで思わぬ人物が止めに入った。


「マイン、何をしている!」


「……ナグムですか」


 止めに入った人物はナグム。

以前アイカが実力を示すのに1対1で闘った相手で、最初はアイカに対して警戒していたエルフだ。


「見ての通りです。奴等を手引きした可能性がある以上、自由の身にする訳にはいきません」


「バカな事を! アイカがそのような事をする訳がないだろう! もしアイカがその気であれば、とっくにこの村は制圧されている筈だ!」


 アイカとマインの間に割って入ったナグムであったが、議論の余地はないとばかりにナグムを押し退けると、アイカ達を牢の中へと押し込む。


「待って下さいマイン殿。貴女自身の考えを聞かせて下さい。貴女は私達を疑ってるのですか?」


「…………」


 だがアイカの質問には答えず、俯いたままの状態で立ち去って行く。

 だが振り返る際に一瞬だけ覗かせた素顔は、唇を噛み締めた悲痛な表情にも見えた。


アイカ「4食昼寝付きで宜しいでしょうか?」

マイン「いいえ、3食です」

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