ラフィーネとの接触
事の始まり
アマノテラスを討伐する事に成功したアイリは、ミリオネックの代表から破格の報酬を渡されホクホク顔でダンジョンへと帰還した。
しかし次の日の朝、中々起きてこないアイリを起こそうとしたアイカが見たものは……
「お姉様! お姉様は何処へ!?」
その日の朝、アイリのダンジョンは大混乱に陥った。
何故かというと、前日には確かに存在してた筈のアイリが忽然と姿を消してしまったのだ。
まず異変に気付いたアイカがリヴァイと共に眷族達を叩き起こすと、ダンジョン内を手分けして探し回った。
しかし……
「ダメだ、どの部屋にも居ねぇ!」
「談話室や倉庫にも居ないッスよ!」
「トイレと浴室にも居らへんで!」
モフモフが各眷族の部屋を確認して戻って来るのと同時に、クロが談話室と倉庫を、ホークがトイレと浴室を確認し終えてコアルームへと戻って来た。
だが案の定吉報は無く、狼狽えるアイカを更に加速させる結果となる。
『アンジェラじゃ。15階層から10階層まで調べたが居らぬようじゃぞ』
『こちらギン、9階層と8階層には居ないようです』
『セレンです~。7階層と~、6階層にも~、居りません~』
アンジェラ達3人からも念話で伝えられた内容は、やはりアイカの納得するものではなかった。
いや、そもそもダンジョンコアであるアイカが把握出来てない事が異常なのだ。
本来ならダンジョン内の何処に誰が居るのかを一番知り得るのはアイカに他ならない。
「おかしいです! わたくしが把握出来ないなんて、こんな事は前代未聞です!」
先程からコアルームで右往左往してるアイカだったが、何かを思い付きポンと手を叩いた。
「そ、そうだ! ダンジョンサポートセンターに問い合わせてみましょう!」
ダンジョンそのものに何か異常が発生してる可能性を疑い、すぐにサポートセンターにコールした。
だがその最中にも、次々と眷族達から念話が届く。
『こちらリヴァイ。間違いなく街には居りませんな』
『こちらザード。1階層と2階層を確認したが居ないようだ』
『こちらルー。4階層には居ない』
『こちらミリー。3階層にも居ない』
『レイクだどぉ。ダンジョンの周辺にも居なかったどぉ』
報告を受けたアイカは、やはりかという思いと同時に大きな溜め息をつくと、散らばってる眷族達に一度コアルームへ集まるように指示を出した。
「納得はいきませんが、やはりダンジョンには居ないという可能性が高いです。しかし……」
言い淀むアイカだが、眷族達にも言いたい事は理解出来た。
四六時中監視が出来るダンジョンから自ら出て行こうとすれば必ず気付くし、逆に外部から侵入された場合でも然りだ。
「せや! アレが有るやないか!」
「な、何ですかホーク、お姉様の居場所に何か心当たりがあるとでも?」
「心当たりも何も、こういう時こそアンジェラはんの探知波動の出番やろ?」
ホークが立ち上がってアンジェラを指す。
他の眷族達もそれがあったかとアンジェラの方に顔を向けた。
「ナイスですホーク! さぁアンジェラ、早くお姉様の居場所を!」
「わわわ分かったから揺らすでない」
一筋の希望が見えたという皆の思いを受け、早速探知波動を発動させるアンジェラであったが……
「そ、そんなバカな! 妾の探知波動に掛からないじゃと!?」
アンジェラ同様、他の面子もまさかという表情を見せる。
「ア、アンジェラ、こんな時に冗談を「冗談ではない、本当に掛からんのじゃ!」
アイカは一瞬悪い冗談かと思ったが、しかしながらアンジェラの顔は真剣そのものであり、やはり冗談ではないのだと理解した。
「おいアンジェラ、だとしたら姉御はいったい何処に居るってんでぃ!?」
「少なくとも今この世界には居ないという事じゃ。つまり異世界に行ったか、もしくは時空を超えたか……」
今この世界には居ないというアンジェラの見解。
この時点で、自分達の手には負えないのだという事実が頭を過り始めたその時!
「ほぅ……中々鋭いですね」
聞き覚えの無い声に、皆が一斉に声の方へと振り向く。
するとそこには羽衣を身に付けた一人の女性が、神々しい後光を放ちつつ宙に浮いてる状態で皆を見下ろしていた。
「そ、そんな! わたくしが侵入者を感知出来なかったなんて……」
「落ち着きなさい。侵入者という扱いには些か心外ではありますが……まぁよいでしょう。わたくしは女神ラフィーネ、以後見知りおいて下さい」
アイカの感知を掻い潜って現れたのは、驚いた事に女神であった。
「女神だと!? その女神さんが何しに来たってんでぇ?」
「左様です。今は貴女のお相手をしてる暇は御座いません!」
「これこれモフモフにリヴァイよ、少しは落ち着かんか」
気が立っていたモフモフとリヴァイは今にもラフィーネに食って掛かる勢いを見せたため、アンジェラによって宥められる。
「すまんのぅラフィーネとやら。なにぶん今は予想外の事態に見舞われてる最中でな、少々気が立っておる連中が多いのじゃよ。それよりもな……」
一度言葉を切ると、静かに立ち上がりラフィーネに顔を合わせる。
「先程の台詞はどのような意味か、聞いてもよいかの?」
「……ふむ、中々賢い眷族ですね。恐らくですが、貴女の考えてる通りの事を、わたくしが申し上げに来たのです」
先程の台詞とは、ラフィーネが発言した中々鋭いという部分。
つまり、アンジェラの異世界か時空を超えるという発想に対して、間違いってはいないという事だ。
「そりゃほんまでっか!? ほな早ぅ言いなはれや!」
「そうッスそうッス!」
「だからお前達は……すまんなラフィーネよ」
「……女神に対しての態度としてはやや問題ではありますが、まぁ事情が事情ですので今回は大目にみるとしましょう。それでアイリに関してなのですが……」
そしてラフィーネより伝えられた内容に眷族達は言葉を失ってしまう。
例え女神の言葉と言えど、いきなり時空を超えて過去に行きましたと言われ、ハイそうですかと簡単には納得出来ない。
出来ないが、とりあえずはアイリが無事らしいと聞いて、コアルームの空気が多少は和らぐのであった。
「そもそもお姉様との繋がりが感じられる以上、お姉様が生きていらっしゃる事は間違いないですからね」
「だな。姉御が無事ならとりあえずは安心だぜ!」
アイカとモフモフの言う通り、アイリとの繋がりを感じる以上間違いなく生きているという証拠なので、とりあえずは大丈夫だという雰囲気になってくる。
「アイリにとってはこの世界に来てから最大の試練が訪れていますが、彼女は間違いなく帰って来ます。これは既に決まっている出来事なので、揺らぐ事は御座いません」
「揺らぐことは無い……ねぇ……。そこまで言うんなら信用はするが、もし無事に帰って来なけりゃ、そん時は覚悟してもらうぜ?」
ラフィーネの言葉は信用したものの信頼はしてないモフモフは、ギラリと刃をチラつかせる。
「……ほぅ、神に仇なすというのですか?」
ラフィーネが目を細める。
自然と体感温度が下がり、凍り付くような威圧感が女神から放たれる……が、他の眷族もモフモフに続いた。
「当然ですな。我らが忠誠を誓うのはアイリ様。我らが主人に仇なすのであれば、例え神と言えど玉砕覚悟で挑むまで!」
「これはリヴァイに同意じゃな。妾達が逆立ちしても勝てぬであろう事は承知の上。だが全力で挑めば片腕くらいはもぎ取れようぞ」
ダンジョン最大戦力の二大巨頭である2人もモフモフと同じ思いだ。
その一つであるアンジェラの言う通り、神とその他では戦いにすらならないであろう。
それほどまでに力の差は大きいのだが、怪我を負わせる事くらいは出来るとアンジェラは見ていた。
そこでラフィーネは残る眷族をグルリと見渡すが、やはり皆の顔には覚悟が現れているのを知る。
「成る程。あなた達の覚悟は分かりました」
それを見たラフィーネは威圧を解き、その場の緊張感が和らぐ。
その際にヤレヤレと肩を竦めたのは、最初からそのような事態にはならないと分かっていたからに他ならないが。
「安心なさい。過去の出来事は既に把握しております。アイリが再び戻って来るまで時間を要しますが、彼女が無事に戻って来るまでは確定しているのです。万が一戻らなければ、その時はあなた達の自由になさい」
(万が一にもありませんが)
再度行われたラフィーネによる説明に徐々に納得し始めた眷族達は、もしも戻らなかったら好きにしろという言葉を受け、最終的には納得する事にした。
「そこで盗み聞きをしてる悪魔族もそれで宜しいですか?」
「「「え?」」」
女神の発言に、皆の視線がコアルームの扉に集まる。
その直後に扉がガバッと開き、外から一人の青年が倒れ込んできた。
「あなたは……ディスパイル?」
「「「ディスパイル(だと)!?」」」
何となく見覚えがあるなと思ったアイカが近付いてみると、青年の正体はディスパイルである事が判明した。
「イッテェ……。あ、あの……ラ、ラフィーネ様! その……アイリが無事に戻って来るのは間違いないんですよね? キチンと五体満足なんですよね? 俺の知らない間に卑猥な目にあったりしてませんよね?」
倒れた際にぶつけた額を擦りつつ眷族達を押し退けてラフィーネにすがり付いたディスパイルは、女神の下半身を揺すりながらの質問攻めを行う。
かなりグレーなその行為に若干の青筋を浮かべたラフィーネだが、情況を考慮し落ち着いてディスパイルを宥めた。
「先程も言いましたがアイリは無事です。帰還するのを安心してお待ちなさい」
女神としては卑猥な目という部分で某民族が頭を過ったが、敢えて触れない事にした。
「そそそ、そうですか! ありがとう御座います!」
ついさっきまで泣きそうだった表情は鳴りを潜め、スッキリとした良い笑顔が出来上がる。
「話は終わりです。では」
アイリの事を伝え終えたラフィーネは、エメラルドグリーンの髪をなびかせその場から消え去った。
「うんうん。アイリが無事なら問題ない。では失礼「お待ち下さい。他に用があったのではないですか?」
女神に続き自分も帰ろうとしたディスパイルをアイカが呼び止める。
だがディスパイルの用事とはアイカがサポートセンターに問い合わせた事に関して送り込まれた(自ら志願したとも言う)ためで、一応の解決を見せた今、彼の役目は終えたと言って良い。
「――という訳で、アイカの問い合わせにより俺が来たのさ。だから「ピリリリリ、ピリリリリ」ん? 俺のスマホ……じゃないな。アイカのじゃないか?」
「おっと失礼。わたくしのでした」
どうやら鳴ったのはアイカのスマホだったようで、通話をONにした。
「はい、アイカです」
『た、助けてアイカ! 村が大変なんだ!』
「その声はデュークですね? いったい何が起こったのです?」
通話の相手はエルフの少年デュークだった。
彼は以前、アイカが魔女の森南部で迷子になった際に知り合った少年で、魔物に狙われてたところをアイカに助けられた過去をもつ。
そのデュークが緊迫した様子でアイカに悲願してきた。
『連中が攻めてきたんだ! 既に南側にあった幾つかの村が攻め込まれて、沢山の村人が捕まってるんだ! もうすぐここも攻められるかもしれない。お願いアイカ! 僕らを助けて!』
「分かりました、すぐに向かいます。それで攻めてきてる連中とは、どのような奴等です?」
『奴等はグロスエレム教国の連中だよ、間違いない!』
(グロスエレムですか。このような非常時に厄介な事を……)
アイリの居ぬ間を縫うようにして動き出したグロスエレム。
はたして彼等の目的は……。
アイカ「デュークに関しては、27話と28話をご覧下さい。きっと思い出してくれる事でしょう」
デューク「忘れてる前提とは酷くない!?」




