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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第7章:過去に誘われしアイリ
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ムーザの溢した涙の訳

前回のあらすじ

 ムーザに乗っ取られたアイリによりアンジェラと戦う事になったクリューネは、クリューゲルへと姿を変え応戦する事となった。

 だが実際にアンジェラは命令通りに動いてる訳ではなく、クリューネの一方通行な念話により時間稼ぎに協力してるだけで、当然アイリの「死ね」という命令も無視するのである。

 直後に詠唱が完了したクリューゲルによりディステニーブラストを受けるのであった。



「くぅ! ……あら? 痛みはない?」


 クリューゲルから放たれたディステニーブラストを受けたアイリであったが、物理的な痛みは全く感じない。


「フフフ、びっくりしたわぁ。何も異常は無いみたいだし、貴女のスキルは失敗したみたいよ?」


 肩を竦めて失笑するアイリを見て、クリューゲルは口の端を吊り上げる。


「フフン、それはどうかしらね」


「……何?」


「ディステニーブラストは物理ダメージを与えるスキルじゃないのよ。その代わり少々……いや、かな~りキツいバッドステータスをくれてやったわ」


「そんなでたら「でたらめじゃないわ。嘘だと思うなら自分のステータスを見てみる事ね」


 あまりにも自信満々なクリューゲルの発言に舌打ちしつつも、アイリはステータスを確認した。


名前:アイリ   レベル:148 

HP:2942   MP:3826

 力:1724   体力:2296

知力:4015   精神:3567

敏速:3320    運:ー50  

【ギフト】

【スキル】相互言語 剣Lv6 格闘Lv4

 【魔法】火魔法Lv5 水魔法Lv4 無魔法Lv3


 ステータスをオープンさせると、過去に飛ばされてから若干の成長がみられるアイリの驚異的な数値が出現する。


「別におかしなところは……あ!」


 そして気が付く。

運の数値がおかしな事になっているという事実を。


「これは……これはいったいどういう事? 運が物凄く悪くなってる!? しかもミルドの加護まで消えている……」


 アイリの顔から余裕が消え去り、クリューゲルを恨めしそうに睨み付ける。


「やっと気付いたみたいね、ディステニーブラストの本当の恐ろしさに。このスキルは対象の運命を狂わす恐るべきものなのよ」

 

「クッ……」


「命ある者は皆運がある。これが無ければ生きてく事は不可能。言うなればこれは()()よ。ま、詠唱が長いのが欠点だけどね」


 運がマイナスに振りきれてる今、アイリは何をやっても上手くいかないという超絶不運な状態にある。

 因みにミルドの加護が消えてる理由はスマホと同じで、過去に飛ばされた時点で消滅してしまった事にアイリは気付かなかっただけだ。

もう一つおまけで言うと、クリューネも気付いていない……。


「ミルドの加護は知らないけど、今の不運な状態じゃ何をやっても無駄よ。分かったら諦めてアイリを返しなさい」


「…………」


 ガックリと肩を落とし項垂れるアイリ……かと思えば突然肩を震わせ笑いだし……


 フフ


 フフフ


 フフフフフフ


 アーッハッハッハッハッ!


「な、何がおかしいのよ!」


「だって、だって、クックックックッ! 何を言い出すかと思えばさぁ。生きてく事は出来ない? 何をやっても無駄? バァァァッカじゃないのぉ!? アッハッハッハッハ!」


 理解出来ないクリューゲルを前に一頻り笑い声を放り出したアイリは、改めてクリューゲルに視線を合わせる。


「確かにこれじゃ生きてくのは難しいかもねぇ。けどさ、地球はここと違って魔物なんて居ないのよ? そんな場所なら運が無くたって平気に決まってるじゃない!」


 強気な発言の直後、アイリは両手で空間を抉じ開けクリューゲルに見せつける。


「ご覧なさい、イグリーシアよりも発展したこの様を! この世界を思うままにして過ごしてやるわ。優秀な眷族のお陰でDPは腐るほどあるし、私が直接手を下さなくても魔物達が手助けしてくれるのよ」


 空間の先には、晴天の青空のもとに見たこともない建造物が所狭しと建ち並んでいるというクリューゲルの知らない世界が広がっている。

 だがその場所こそがアイリが――いや、ムーザが統一しようと目論む世界であった。


「フフフ、残念だったわねぇ。既に地球とのリンクは出来上がってる以上、私はいつでも向こうに行ける。つまりクリューゲル、アンタの負けよ!」


 実はクリューゲルとアンジェラが戦ってる間、既に地球とのリンクは完了していたのだ。

 スマホを弄ってた理由は、地球の情報を出来るだけ多く集めようとしただけにすぎない。


 だがそんなアイリをクリューゲルは何も言わずに黙って見つめていた。


「……フン。最後くらい快く見送ってもらいたかったんだけどね? まぁいいわ。これで永久に、さ・よ・う・な・ら!」


 アイリが笑顔で手を振りつつ空間に入り込むと空間は消え去り、元の何も無い真っ暗な状態へと戻っていた。

 そこへ黙って見守っていたモフモフとアンジェラが駆け寄ってくる。

モフモフはいつもの狼に、アンジェラは人化した状態にと、それぞれいつものスタイルに戻したようだ。


「女神さんよぉ、本当に大丈夫なんだろうなぁ? これで失敗してたら羽の一つでも千切ってケジメつけてもらうぜぇ?」


「大丈夫よ。運が無くなった恐ろしさをアイツはまだ知らないみたいだからね。向こうでタップリと体験してくれると思うわ」


「だといいがのぅ。ま、上手くいく事を祈るしかないか……」


 不安でオロオロと周囲を回るモフモフと黙ってその場に胡座をかくアンジェラを両脇に、自信も女神に戻したクリューネは目を瞑る。


 すると数分後、空間が裂けたかと思うと、何故か泥塗れになったアイリがそこから這い出てきた。

 それを見たクリューネは、自身の作戦が上手くいった事を確信する。


「どうやら散々な目にあったみたいね。どう? まだ続ける?」


「…………」


 クリューネが顔を覗き込むが、今度はアイリが黙りの様子。

暫しの沈黙の後アイリが顔を上げると、先程までのニヒルな顔は鳴りを潜め、涙ぐんだ顔がそこにあった。


「なんて……」


「ん? 何?」






「なんて過酷な世界なのぉぉぉぉぉぉ!」


「「「!?」」」


 突然叫びだしたアイリに3人は驚いて仰け反ってしまった。

その後アイリは号泣しつつ、3人に対して散々愚痴を溢す。


「おかしいじゃない! こんなの有り得ないわ! アイツら人の面被った魔物よ!」


「「「アイツら?」」」


 アイリの身に――いや、ムーザがいったいどのような体験をしたのかというと、詳細は次のようになる。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 フフフ、ついにやったわ。

あのバカ女神をやり過ごして地球という世界に来る事が出来た。

 今この瞬間から私の悲願である世界統一へのヴィクトリーロードが始まるのよ!


「って、それはいいんだけど……」


 アイリちゃんの居た日本に来た筈なのに、全然見たこともない風景が広がってるのよねぇ。

 確かこの地形はサバンナと言われる場所だったと思うんだけど、日本にもこんな場所があったのねぇ。


 パオーーーン!


「ふむ、コレは象ね」


 日本では野性のゾウは居なかったと思うのだけど……ああ成る程、つまりここは動物園だったのね。

ゾウの隣にはキリンがいるし、たった今ライオンがシマウマを追いかけて横切ったし、片手に槍を持った半裸の人間が後ろに居るし……






「半裸の人間!?」


 気付けば半裸の人間共が私の背後に迫っていた。

というか、なんてハレンチな格好をした連中なのコイツらは! 色黒で変な髪飾りをしてるし、股間には竹竿みたいな物が刺さってるし、正直目にするのも嫌気が差すんだけど!


「生け贄!」


「「「生け贄!」」」


「ちょ、アンタら私を生け贄って!」


「儀式!」


「「「儀式!」」」


 まさか何らかの儀式の生け贄!? ヤバいと思った私はすぐに逃げ出そうとしたんだけど、足元がぬかるんでて……


「ヘッブゥ!」


 思いっきりコケてしまい、半裸の人間に追い付かれて取り囲まれてしまった。


「チッ、こうなったら強行手段よ! 全員(まと)めて……あら?」


 剣が無くなってる!? まさかどこかで落として……いや違う、確かアイテムボックスにしまってる筈よ。

と思って、アイテムボックスを漁ろうとしたら……


『ユーザーが違います。本人以外はアクセス出来ません』


 ハァア!? どういう事よ! 私をアイリだと認めないっていうの!?

アイテムボックスにこんな機能があるなんて聞いてないわよ!


 あーもぅ、半裸共は周りで変な躍りを披露してるし、スッゴい目障りよ!

こうなったらスマホで魔物を呼び出して……


『ローバッテリー。すぐに充電を行って下さい。プツン……』


 えぇえーっ!? なんでぇえーっ!?

今まで充電なんて減ってなかったじゃない!

ちょっといい加減にしてよ、こんな時に……


「ハァーーーア、ハァッ!」


「「「ハァッ!」」」


 な、何事!? いつの間にか木に火をつけてるし、私を焼き殺すつもり!?


「アイアーーーア!」


「「「ハッ!」」」


「チャッチャマンボ、チャチャマンボ!」


「「「ハッ!」」」


「チャッチャマンボ、チャチャマンボ!」


「「「ハッ!」」」


「パキン、パキン、パキパキパキーン!」


「「「パキン、パキン、パキパキパキーン!」」」


 ヤバイヤバイヤバイヤバイ! 何なのコイツら!? 理性的な人間が多いって書いてたのに全然違うじゃない! 


「こうなったら仕方ないわ。局地的大魔法でコイツらを……





 ハックシュン!」


 う"~なんだか寒気がする。

それに体も重いし、熱も出てきたっぽい。

これじゃとても詠唱なんて……


「ハギトーーーォリ!」


「「「チャレンジ!」」」


 こ、今度は何? 複数で私を押さえつけて……っ、コイツら私をひん剥くつもり!?


「ちょ、やめて! 嫁入り前の身体にベタベタ触らないで! って服を剥ぐなぁぁぁ!」


 もう嫌! こんな危険なところなんて、こっちから願い下げよ!!



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「あ~、予想以上に悲惨な事になったのね。敵とはいえ同情するわ」


「女神に同情されたくないわぁ!」


 アイリの肩にポンと手を置いて同情するクリューネ。

しかしアイリは――いやムーザは、手を払い除けて一頻り喚いた後、急に立ち上がると……


「もういい。500年だろうが1000年だろうが引き込もってやるわぁ!」


 アイリからスルスル抜け出し大胆な宣言をしたムーザは、何処かへと消え去ってしまった。


「やったわ! これでアイリも取り戻せたし、全て解決よ!」


 喜びのあまり翼を生やして飛び回るクリューネだが、アンジェラによる一言で水を差される事になる。


「クリューネよ。お主の掛けた()()とやらは、どうなったのじゃ?」






「あ……」


 ここで重大な事に気付く。

アイリを救うためとはいえ、アイリ自身に呪いを掛けた事には変わらないという事に。

 つまりこのまま放って置くと、今度はアイリ自身がムーザと同じ目に合うのだ。


「どどどどどうしよう! あたしったらトンでもない事を!」


 今度は別の理由で空中をグルグルと回り出すクリューネであったが、そこへ救いとなる言葉が投げ掛けられる。


「大丈夫よクリューネ」


「ア、アイリ!?」


 何だかよく分からない南アフリカの民族に捕まって生け贄にされる夢を見たんだけど、そもそも夢ってよく分からないものよね。

 まぁそれはいいか。


()()だったっけ? それが有ったから私は助けられたんだもの」


「でも……」


「大丈夫。今更文句つけたりしないから」


 今なら分かる。

この呪いのせいで地球では死んでしまったけど、これが無ければムーザに乗っ取られたままだったという事が。

 もう家族と会えないのは悲しいけど、こっちでは()()()()()が居るんだしね。


「その新しい家族とやらは妾やモフモフの事でよいのかの?」


「勿論よ。それにリヴァイやレイクやクロやギンやセレンやザードやホークやルーやミリーもみ~~~んな家族よ!」


「おおぅ、有り難ぇ! こらからも家族として支えていきますぜ!」


 アンジェラとモフモフが目を輝かせてる。

特にモフモフは尻尾ブンブン振ってるし。


「しかしのぉ、モフモフみたいな家族だと悪人面で印象が悪そうじゃがな」

「な!? そういうテメェこそ痴女みたいに色気を振り撒いてるじゃねぇか!」

「なんじゃと!? それは周りの連中がそういう目で見てくるのが悪いのじゃ! 妾のせいでは無いわ!」


「ちょっとちょっと、折角いい感じに収まりそうなのに、何喧嘩してんのよ……」


「破壊神は黙っとれ!」

「そうだぞ。テメェがカラオケボックスを破壊すっから、セレンが暴れて大変だったんだからな!」


「ちょ、その話を持ち出すのはズルいわよ!」


 何だか騒がしいわね……。

だから寂しくないと言えるんだけども。


 そうよ、私はもう寂しくはない。

私の傍に居るのは眷()ではなくて眷()だもの。

ついでに騒がしい隣人も居るしね。




「やぁ、アイリちゃん、また会ったね」


 あら、剣を握ってケモミミ生やした少年が後ろに……


「あ、この前のクソガキ!」


「いや、ちゃんと名乗ったでしょ……。それよりも今度は元の時代に戻ってくみたいだね」


「多分ね。でも過去の世界で受けた呪いが残ってるんだけど……」


 後はこの呪いさえ解ければ万事解決なんだけどねぇ……。


「ふむふむ。それなら大丈夫だと思うよ、試しにステータスを見てごらん」

 

名前:アイリ   レベル:148 

HP:2942   MP:3826

 力:1724   体力:2296

知力:4015   精神:3567

敏速:3320    運:50   

【ギフト】ミルドの加護

【スキル】相互言語 剣Lv6 格闘Lv4

 【魔法】火魔法Lv5 水魔法Lv4 無魔法Lv3


 言われて調べてビックリ。

いつの間にかミルドの加護が復活してた。


「多分ね、過去と完全に切り離されたからだと思うよ」


「そうなんだ。じゃあもうすぐ元の時代に戻れるのね」


「あ~、それはもうちょい先かな? 何となくだけど」


 うへぇ……、出来れば早く戻りたいのに。




「姉御、ソイツは何者でぇ?」


 どうやら喧嘩は終わったみたいね。


「まぁこの空間の知り合いみたいなものよ。戻るまでもう暫く時間が掛かるから、それまで仲良くしてあげてちょうだい」


「ほほぅ、ならば早速一戦交えてみるかの?」


 いや、出会ったばかりの獣人に対していきなりファイティングポーズをとるとか、それってどうなのよ……。


「お、いいねいいね、早速やってみよう!」


 何故かこのクソガキもノリノリで剣を握ってるし……。

面倒だから放置しとこう。


「あ、忘れるとこだったぜ。実は姉御が居ない間に地上じゃ大変な事になってるでさぁ!」


「大変な事?」


 モフモフが慌てる程の事が起こってるっていうの?

どうやら戻っても一波乱有りそうね……。 


ムーザ「フフフ、私はたたみ1畳の支配者」

アイリ「変わり過ぎでしょ……」

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