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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第7章:過去に誘われしアイリ
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クリューゲルVSアンジェラ

前回のあらすじ

 クリューネがアイリの元へ戻ると、無念にもアイリはムーザに乗っ取られた後だった。

何とかアイリを取り戻す方法を模索するクリューネであったが、ムーザは大胆にもアイリの眷族2人を召喚し、クリューネと戦わせようと目論んだ。

「よもや神と一戦交える日がくるとはのぅ。世の中わからぬものじゃな……」


「まったくよね。あたしとしても、こんな形で戦う事になろうとは夢にも思わなかったわ」


 向き合うクリューネとアンジェラ。

そんな2人をモフモフは離れた位置から見守っており、その傍に居るアイリは時折チラリと視線を向けるだけで、鼻歌交じりにスマホを弄っている。


「分かってると思うけど、手抜きしちゃダメよ? 私のためにちゃ~んと全力で戦う事。それこそクソ女神に追いつめられて瀕死になったとしても死ぬまで戦ってちょうだい。いいわね?」


「分かっておる。(しゅ)には指一本触れさせんわぃ」


「フフフ、頼もしいわぁ。私は忙しいからあまり観戦出来ないけど頑張ってね~」


 非道な命令が下されるが、アンジェラは文句を言わずに戦う意気込みを見せた。

その様子に気を良くしたアイリは、スマホに視線を落としたまま手をヒラヒラと振る。


「こんな時だが妾は凄くワクワクしておる。人知を超えた神と戦える機会なんぞ、この先有るかどうかも分からんしの」


「断言するけど有り得ないわね。神が力を振るうのは、異世界からやって来た侵入者を追い払う時くらいだもの。まぁ例外として罪人(つみびと)を処理する事もあるけども」


 罪人……異世界より意図せず紛れ込んだ存在が悪人だった場合の呼び名だ。

以前は神の裁量で悪人と認定された場合、現地の者に認知される前にその場で処理されていたのだが、ミルドがアイリと初めて会った辺りから緩和され悪人と断定されるまで執行猶予が設けられた。

 元々アイリは悪に手を染めた存在ではなかったので、緩和措置とは無関係だったが。


 しかしアイリが乗っ取られた今、天界での判断でそれが覆る可能性が出てきた。


(アンジェラと戦うのは問題ない。歴史も大まかな流れは変わらないまま。だけど新たな懸念材料が出てきたわ)


 クリューネの頭の中で渦巻いてるのは、アイリが地球に対して侵略行為を行った場合だ。

既にイグリーシアの住人となったアイリが地球という異世界に渡った場合、悪人と断定されると文字通り()()しなければならなくなる。


 アンジェラに顔を向けたままアイリに視線だけを寄越すと、自分に危機が訪れてるとは夢にも思ってないであろう表情で、楽しそうにスマホを弄っていた。


(こっちの気も知らないで……)


 頭の中で愚痴を溢すクリューネだが、決して打つ手が無い訳ではない。

どうにかしてアイリを取り戻す作戦を密かに実行中であるため、それを成すには暫く時間を要するのだ。


「ほらほらぁ、早く戦ってちょうだい。戦わないんだったら処分しちゃうわよ?」


「分かっておるわ」


 急かされたアンジェラは決心したようで、人化を解いてバハムートへと姿を変える。


「この姿で暴れるのも久々じゃのぅ。最近だとダンジョン周辺の雑魚狩りしか楽しみがなかったし、此度は女神の胸を借りる思いで挑ませてもらおうぞ!」


 無理矢理戦わされてる……とは思えない生き生きとしたアンジェラが、クリューネにブレスを吐きかける。


「シールド!」


 しかしクリューネは冷静にシールドを展開し、ブレスを完全に防ぐ。


「むぅ、やるのぅ。妾のブレスを避けずに防ぐとは、さすがは神といったところか」


「そりゃ伊達に女神やってる訳じゃないしね。それくらい出来なきゃ神とは言えないわ」


 決してクリューネは強がってる訳ではない。

天界にいる神と下界にいる生命体では、文字通り天と地の差があると言えるのだ。

 その天に位置するクリューネもアンジェラへ対抗するかのように、女神から破壊竜へと姿を変えた。


「あんまり実力差があると萎えるだろうしね。このくらいならハンデにはちょうどいいわ」


「ほぅ……」


 ハンデという言葉が出た途端、アンジェラの目は細められ鋭さを増す。

神が相手とは言え、多少なりともプライドが傷付いたのかもしれない。


「そういえば神以外に見せるのは初めてね。この姿は女神となる前のあたし、破壊竜クリューゲルよ。さぁ存分にやりましょう!」


 アンジェラが紫ならばクリューゲルは黒。

二色の竜が同時に高く舞い上がり、空中で睨み合う。


「まさかブレスだけなんて言わないでしょ?」


「当然じゃ。手だろうが足だろうが頭だろうが出してみせよう!」


 先手に回ったのはアンジェラ。

並の相手なら一撃で潰してしまうほどのドラゴンクローを叩き込む。


「グッ……やるわね。だったらこっちも!」


 ガツンッ!


「グハッ! こ、これほどの衝撃、かつて味わった事は無いぞ……」


 並の武器では刃が通らない、硬い鱗が変型するくらいのドラゴンクローでの反撃。

だがこれで終わりではなかった。


「まだまだぁ!」


 ガスッガスッガスッガスッ!


 最初のドラゴンクローを皮切りに、拳の連打を浴びせる。

最後に怯んだアンジェラを抱え込むと、真っ暗闇にしか見えない地面へと叩きつけた。


「――グハァァァッ!」


 叩きつけられた衝撃で、軽く吐血するアンジェラ。

地面がどのような状態かは分からないが、巨体のアンジェラが3メートル程バウンドして静止するくらいの衝撃があった事は確かだ。


「このまま決める、カーズブラスターァァ!」


 物理防御の高いガーゴイルを軽く消し飛ばした黒塗りの光線がアンジェラへと迫る。

このまま直撃すればいかにアンジェラと言えど、無事ではすまない。


 ズッッッドォォォォォォン!


 地面を突く凄まじい音が、常闇のような空間に響き渡る。

それは上機嫌だったアイリが、顔をしかめて片手で耳を塞ぐくらいの爆音だ。

 その爆音を(とどろ)かせた地面にはアンジェラの姿は無く、よもや消し飛んでしまったのでは……とモフモフが不安に駆られる中、聞き慣れた声がクリューゲルの背後から聴こえてきた。


「――ったく、酷い目に合ったぞ……。クリューネよ、妾を殺す気か!」


「いや、全然?」


「全然な訳有るか! あれが直撃したら、さすがに妾とて危ういぞ!」


 まだまだ余裕が有りそうなアンジェラだが、彼女は明らかに怒っていた。

 不本意とはいえ戦いは戦い。

その久し振りに胸踊る対決を一方的に終わらそうとしたクリューゲルに腹が立ったようだ。


「もういいわい! そっちがその気なら妾とて容赦はせん!」


 背中を見せて余裕を表すクリューゲルに一気に距離を詰めると、至近距離からドラゴンクローを放つ。


「よっと!」


「チッ! ……だが!」


 しかし予め動きを読まれていたらしく身体を捻って回避されが、尚も小振りの攻撃で隙を作らずに連撃を行う。


「全然当たってないけど大丈夫なの?」


「ぬかせ!」


 更に連撃を続けるがいっこうに当たらないところを見たクリューゲルが、遂に反撃に移ろうとしたその時だ!


「! か、身体が重い!?」


 いつの間にか身体の動きが鈍くなってる事に気付いたのだ。


「フッ、今頃気付きおったか? お主は上手く避け続けてると錯覚しとったようだが、あれはわざと避けれるようにしておったのじゃ」


「……どういう事?」


「なぁに簡単な事じゃ。最初の一撃で仕込んでおいた毒が、徐々に効きはじめてるという事じゃな」


 アンジェラが放ったドラゴンクローには毒が仕込まれており、それを受けたクリューゲルは少しずつ動きを低下させていたのだが、アンジェラもそれに合わせて動いてたために気付くのが遅れてしまったのである。


「論より証拠、つまりこういう事じゃ!」


 ここからアンジェラの猛攻が始まる。


「そらそらそらそらぁ!」


 拳と蹴りと頭突きを交えたコンビネーションにより、光沢のある黒い肌が徐々に輝きを失い傷跡が増えていく。


 ガシッ!


「この距離なら逃れられまい! デットリーレーザーブレス!」


 ゼロ距離から放たれたブレスをモロに食らったクリューゲルは、数100メートル離れた位置まで飛ばされた後、地面へと落下していった。


「どうじゃ(しゅ)よ、妾の勇姿を見ていてくれたかのぅ?」


「凄い凄ぉ~い! やれば出来るじゃない! それでこそ私の眷族よ、見直したわアンジェラ!」


 振り向き様に力瘤を作って見せるアンジェラに、アイリは大袈裟な拍手を贈る。


「あ、でもまだ生きてるみたいよ、ホラ」


 アイリに言われてクリューゲルの落下地点を見ると、ムクリと起き上がったクリューゲルが黒いオーラを(まと)ってアンジェラへ向かって来てるところだった。


「あーもう油断したわ! 折角余裕を見せつけてやろうと思ったのに台無しじゃない!」


「んな!? ク、クリューネよ、そなた何故動けるのじゃ! もうかなり毒が回ってる筈じゃぞ!?」


「そんなものはとっくに()()したわ! ……ったく、もう少し早く気付けば無様な姿を晒さずにすんだのにぃ!」


 いつぞやと同じように空中で器用に地団駄を踏むクリューゲル。

彼女の固有スキル破壊(ブラスター)は、一部の例外を除き有りとあらゆるものを破壊する。

当然それには自身を(むしば)んだ毒も含まれるのである。


「成る程な。伊達に破壊竜と呼ばれてる訳ではなかったか」


「当然よ。これでもアンタと同じSSS(トリプル)ランクなんだし、あの程度で勝敗が決まるほど柔じゃないわよ。あ、ついでに言っとくけど、今のあたしはクリューゲルだからね?」


「おおぅそうだった、これはすまなんだ。……してクリューゲルよ、()()()()ではないかのぅ?」


 何故かニヤリと笑い意味深な発言をするアンジェラに、同じくニヤリと笑うクリューゲルも相槌をうつ。

そんな2人のやり取りに首を傾げるアイリであったが、直後アイリに悲劇が訪れる。


『今よモフモフ!』

『がってんでぃ!』


「ん? 何ががってん『バシッ』んな!?」


 特殊迷彩(ステルス)で忍び寄っていたモフモフにより、スマホを弾き飛ばされてしまったのだ。

一瞬呆気にとられたアイリだが、すぐにモフモフを睨み付け怒りを露にする。


「モフモフ、何のつもり!? こんな事をしてただで済むと思ってるの!?」


「見て分からねぇのか? テメェの命令にぁ従わねぇって事よ!」


「な……」


 まさかのモフモフの言葉に思わず言葉を失ってしまう。

するとそこへアンジェラも加わり、モフモフに加勢し出した。


「モフモフに同意じゃな。我等の(しゅ)は心優しき人間の少女じゃ。決して貴様のように非道な存在ではないわ」


「ぬぐぐぐ、アンジェラまで! いいわ。そこまで言うんなら決別の言葉をくれてやろうじゃない」


 反旗を翻した眷族に対し、狂気に顔を歪ませたアイリが最後の命令を下す。


「モフモフにアンジェラ、今までご苦労様だったわね。もう永遠にお別れよ……






 死ね!」






「「…………」」


 しかし2人は微動だにしない。

それどころか冷やかな視線をアイリに送っていた。


「な、何故命令に従わないの!?」


 ここへきて漸くアイリ――いや、ムーザは気付く。

自身の命令に2人が従ってないという事に。


「フッ、愚かじゃのう。お主の命令なんぞ最初から聞いてはおらぬわ」

「ヘッ、全くだぜ。俺達ぁ女神の願いで従ってたフリをしただけで、テメェの命令に従った訳じゃねぇ!」 


 実はアンジェラとモフモフが召喚された直後、クリューネは密かに2人に対して一方的に念話を送りつけていたのだ。

念話の内容はというと、アイリを取り戻せる魔法を詠唱するから、完了するまで時間稼ぎに付き合ってほしいというもの。

 つまりムーザは、最初に命令通りに動いたモフモフを見て、かんぜんに支配出来ると思い込んでしまったのである。


「そ、それじゃあ今までのは――」


「時間稼ぎよ。アンタを苦しめるためのね」


 満を持してクリューゲルが翼を広げる。

ターゲットは当然アイリだ。


「アイリを乗っ取った事を後悔しなさい、ディステニーブラスト!」


 クリューゲルの全身から放たれた黒光りしたオーラが、アイリを包み込んだ直後に弾け飛んだ。


クリューネ「ごめんごめん、手加減するの忘れてたわ」

アンジェラ「冗談抜きにヤバかったんじゃぞ!」

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