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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第7章:過去に誘われしアイリ
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アイリVSムーザ②

前回のあらすじ

 ムーザが別の惑星からの侵略者だと知ったアイリであったが、やる事は変わらないとばかりにムーザを仕留めにかかる。

しかし、何度倒してもすぐに復活してくるムーザに疑問を感じつつも倒し続け、最後は血溜まりに沈むムーザをハッキリと確認出来た事でトドメを刺したと確信する。

が、やはりムーザは健在で、すぐに第2ラウンドが開始された。

 仕留めた筈のムーザが表の通りに姿を現し、ニヤニヤしながら私に視線を向けていた。


「さぁて……私が受けた痛みを貴女にも分けてあげなきゃ……ね!」


 地を蹴って迫るムーザに対抗し、私も応戦すべく切っ先を向けて突撃する。

けれど予想以上に向こうが速いらしく、僅か3歩進んで路地裏から出たところで側面に回り込まれた。


「横が隙だらけよ!」


「グフッ!?」


 ムーザの拳が深々と脇腹に食い込む。

その勢いに押されて身体をくの字に曲げてブッ飛ばされると、体勢を整える前にムーザが真上に現れ、追撃に出てきた。


「ダメね、全然遅いわ! フンッ!」


「ガハッ!」


 上から蹴落とされ交差点の中央に叩きつけられると、そこから怒涛の勢いで拳を連打してきた。


「ほらほらほらほら、反撃はまだなの? そんなんじゃ私を倒す事なんて不可能……よ!」


 ドスッ!


「ゴボッ!」


 思いっきり腹を殴り付けられ、胃の中身の一部がムーザの顔にかかる。

それを嫌そうな顔で拭い捨てると、お返しとばかりにペッと唾を吐きかけられた。


「……ったく汚いわねぇ。折角の魔女っぽい衣装が汚れちゃったじゃない!」


「ゲホッゲホッ! フン、アンタだって汚い唾を飛ばしてきたんだからおあいこよ。ペ!」


 口内に溜まった血と胃液をもう一度ムーザにお見舞いし、素早く距離をとった。

再び顔に付着したムーザの方は明らかに笑ってはおらず、激しい怒りが伝わってくる。


「……生意気ね。顔は止めておこうと思ったけど、気が変わったわ」


 顔にかけた唾が気に入らなかったらしく、さっきまでの遊んでる余裕が感じられなくなってきた。


「多少の傷痕は覚悟する事ね!」


 ガシッ!


「いっ! つつつ……」


 再度同じように接近してきたので剣をしまって両手でガードすると、ダメージはある程度は防げたけれど衝撃は凄まじい。

ムーザのステータスアップが効いてるのね!


「あら? ちゃんと反応出来るじゃない。でもそれだけじゃダメね。せめて……このくらいは耐えてもらわないと!」


 ダダダダダダダダっとマシンガンのように滅茶苦茶なスピードで殴り付けてくるのを、腕をクロスしてガードする。

魔女のくせに肉弾戦選ぶとか、やっぱりコイツ頭おかしいわ!


「防戦一方? もっと楽しませてよね」


 コイツ……調子に乗っ――


「イダッ!?」


 ガードしてたら左腕が折れた! もし利き腕の右もやられたらマズイわ! 早く何か手を打たないと……


「フフフ、ポーカーフェイスも苦手なのね。左腕を庇ったら骨折したのがバレるだけよ?」


「うっさい! アンタがやったくせに余計なお世話よクソババァ!」


「……まだ減らず口をたたく余裕があるのね。いい加減ムカついてくるわクソガキ!」


 バキッ!


「ガハッ!」


 顔面を殴られた勢いでビルの窓を突き破り、何処かのオフィスに放り込まれた。


「イタタ……。あのババァ、あえて顔を殴るなんて絶対許さないんだから! とはいえ……」


 何度倒しても復活してきちゃ切りがない。

何か方法を見つけないと……。

 上級ポーションをグイッと一気飲みしてオフィスから飛び出ると、ムーザがアクビをしながら待っていた。


「やっと戻ってきたのね。今ので多少は気が晴れたから、そっちから掛かってきていいわよ」


 まだまだ余裕があるっぽい。

だったら有り難く利用させてもらおうかしら。


「スプラッシュファイヤーボール!」


「またそれぇ? ちょっとつまんないけどいいわ。今度こそ私を倒してご覧なさい」


 ムーザに放った火の玉が着弾して視界を妨げる。

時間稼ぎのため今の内に出来るだけ遠くに逃げようと思い、すぐに移動を開始した。






 一方のムーザは、ファイヤーボールの他に追撃を見越して構えていたのだがそれが中々やってこないため、首を傾げつつ爆煙から出たところで軽く舌打ちする。


「チッ、逃げたか。まさか()()()()訳じゃないと思うけど、万が一って事もあるだろうし追いかけた方がよさそうね」


 アイリとは違い何やら懸念材料があるらしいムーザは、目を瞑って意識を集中させる。

そして目を開くのと同時に、ある方向に視線を向けた。


「成る程、こっちね」


 視線の先はアイリが逃走を図った方向と合致しており、ムーザは迷い無く追跡を開始した。


(既にかなり離れたところまで移動したのを考えると、どうやら全力で逃げる事にしたようね。これならとりあえずは安心してもいいかな?)


 飛ぶ事が出来ないアイリが徒歩で逃走したのに対し、ムーザは空に飛び上がり上空からの捜索に入った。

本来は飛ぶ事が出来ないムーザだが、仮想空間を構築する際に自分だけ飛べるように設定したのだ。

更にステータスまでも情報処理が可能な範囲で引き上げており、かなり有利な条件が整っている。

要するにチートというやつだ。


「あら、ヒートウォークライが切れちゃったわね。後で掛け直さないと」


 そしてこのヒートウォークライというのはオリジナルで作った魔法で、15分間のみステータスがアップするというものだが、それ以上継続させると情報処理に支障が出るための措置である。


「そろそろアイリちゃんが隠れてる場所にきた筈だけど……」


 アイリが潜んでる辺りの上空で停止すると、地上に着地し周囲を探るように意識を集中し出した。

遠目から建ち並ぶ倉庫を順番に調べ、何処に隠れてるのかを探る。

倉庫の先に見える港湾も隈無く探るが、アイリの存在は確認出来なかった。


(こっちには居ないか。となると……)


 背後に振り向き、やや離れた場所にある山が写り込む。

そこへ意識を集中させると……


「フフフ、見つけた」


 山中を移動してるアイリを発見し思わずほくそ笑むムーザは、獲物を見つけた猛獣の如く山を目指した。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 そんなムーザに追われる側となったアイリだが、単に逃げている訳ではない。

逃走しつつも空間の構造を確認してたのだ。

 だが確認してる途中でムーザが上空を飛んでるのを発見したため、急いで山中に隠れたのである。


「危ない危ない、もう少しで見つかるとこだったわ」


 ちょうど海の先を探ってたとこだったんだけど、タイミング的には際どかったわね。

短時間ではあるけれど、幾つか分かった事がある。

発見したものは以下の通りよ。


・沖には行けない

・海の底は破壊不可

・海と山の中には見た事ない生き物が居たけど、一定の動きを繰り返すだけの作り物だった


 まず見た事ない生き物というのは、イグリーシアかムーザの故郷の生物を元にして作ったってだけで大した意味はないと思われる。

 次に海の底なんだけど、仮想空間なので物理的に壊せないのは当たり前かもしれない。

 最後に沖に出る事が出来なかったという事なんだけど、仮想空間とはいえ無限に広がってる訳じゃないという事が判明したのよ。


 つまりこの空間には中心地があり、そこにここを管理維持してるものが存在するか、単純に出口が存在するかの何れかと考えられる。

 どっちにしろムーザが余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)なのは、ここに居たら私には100%勝ち目が無いって事なのよ。

 そして何度倒しても復活してくるムーザを倒すには、この空間毎破壊するしか無いんだわ。

だから今は少しでも――


「は~い残念。鬼ごっこは終わりよ」


 クッ、もう見つかったか……。


「私としてはもう少し鬼ごっこに付き合ってほしかったんだけどね。どうせ暇なんでしょ?」


「フフフ、時間は有限なのよ? くだらない事で浪費するのは良くないわ」


 くだらない事企んでるくせによく言うわ。

だけど時間を無駄に浪費しないってとこには賛成ね。

もう一度ムーザを消した後に全力で逃げる事にしよう。

ここにはちょうど燃やす物も有るし。


「食らえ! ファイヤーストーム!」


 ムーザを中心に周辺の雑木林にも引火し、忽ち周囲は火の海となった。


「あっつぅ! もう、アイスバリケード!」


 ん? バリアで防いだとはいえ、随分あっさり食らったらわね? コイツのスピードなら回避出来るんじゃ……あ、そうか! あのヒートウォークライって魔法の効果が切れたのね。

よく見たらムーザを包んでたオーラが消えてるし、間違いない。

だったら今がチャンスよ!


「ハァァァ! くたばれぇ!」


 アイテムボックスから使い捨ててもいい適当な剣を取り出し、ムーザの死角へと回り込む。

そしてアイスバリケードが切れる瞬間を見計らい、一気に脇腹を突く。


「ガフッ!? こ、このぉ……」


 そのまま地面に縫い付けて身動きが取れないようにする。

これで暫くは時間が稼げたわね。


「ま、まさかまた逃げる気?」


「ええ、そうよ。今のままじゃアンタを倒せないもの。だから色々と調べないといけないのよね」


 何となくだけど、ムーザの口元が舌打ちしたような動きを見せた。

やっぱり調べ回られると都合が悪いんだわ。


「じゃあ暫くはそのまま腕立てでもしててちょうだい」


 そう言い残し急いでその場を後にした私は、中心部を探るように移動を開始した。

南の方に有った海の端はだいたい覚えてるので、今は西に向かって移動中よ。


 無限じゃないとはいえそれなりの広さを懸念してたけど、西に続く山道を下ったところで見えない壁にぶつかり、そこが隅である事が判明。

最終目標である北東の中心部へと急いだ。

暫く走ってると徐々に都心に近付いてる事が分かり、背景が住宅地から高層ビルへと変化した。

最初にこの空間に降り立った場所に近いのかもしれない。


「さて、だいたいこの辺りが中心部のはずだけど……」


 辺りを見渡しても都心のゴミゴミとした風景が広がってるだけにしか見えなく、ダンジョンコアが有る訳でもない。


「ここに来れば何か有ると思ったのに、まさか私の推測は間違って「いえ、そんな事はないわ、実に惜しい発想よ」ムーザ!」


 チッ、もう追い付かれるとはね……。


「あら、そんな嫌そうな顔しなくていいじゃない。折角ヒントをあげたんだから、もっと喜んでほしいわね」


「誰が喜ぶって言うのよ。食らえ!」


 ムーザから距離を取りつつファイヤーストームを連発する。

けれど、ヒートウォークライを自身にかけて赤いオーラに包まれたムーザは、軽々と回避した。


「何ともやり方が雑ねぇ。こんなんじゃ私を燃やす事なんて出来ないわよ?」


「……でしょうね」


 そんな事は言われなくても分かってる。

問題は上手くムーザをやり過ごせるかよ!


「フレイムウォール!」


 ムーザが辺りの建物に引火した炎に若干気を取られてる間、炎の壁で周囲を覆ってその隙に全力で逃げる事を選択する。

けれどムーザは障害となる炎の壁を強引に突破して私に殴りかかってきた。


「甘いわよ」


 バキッ!


「ガァ!」


 後方に殴り飛ばされた私を追い越したムーザは、後ろに回って背中を蹴り上げ、上空へ舞い上がったところを地上へと叩き落とした。

地上のコンクリートに叩きつけられた後、二度三度バウンドして仰向けで倒れた。


「はい、お土産♪」


「カハッ!」


 トドメにさっきムーザに縫い付けた剣を腹部に突き刺され、今までにない激痛が走る。

 ダメ……手足が僅かにしか動かないし声も出す事が出来ない……。


「フフフ。残念だけど、ここでゲームオーバーみたいね?」


「…………」


「あら、その様子だと喋れないの? なんだかつまんないわね……。もう、しょうがないから特別にポーション使ってあげるわ」


 ムーザが喉にポーションを振り掛けたお陰で何とか喋れるようになった。


「ホラ、もう喋れるでしょ? 言い残す事が有るなら聞いてあげるわよ?」


 クッ、ここまでなの……。

せめてこの空間を維持してるものが分かれば何とかなるかもしれないのに。

こんな動けない私を動かない太陽が見下ろしてるとか皮肉よね……。






 太陽? そうよ太陽よ! アレがこの空間を維持してるに違いないわ! こうなりゃ最後の賭けよ!


「さ、最後のお願いを聞いてくれる?」


「あらあら、急に汐らしくなっちゃって。いいわよ。いってごらんなさい」


「――いし――むけ、――よ――せよ」


「ん? 何? よく聞き取れないんだけど?」


 そりゃそうよ、詠唱してるところをアンタに聴かれたくないんだから。

でもムーザが油断してくれたから上手く詠唱が完了したところで、僅かに動く右手を太陽に向けて……


「イグニスノヴァ!」


「な!?」


 一直線に太陽目掛けて大火力を放つ。

数秒後、太陽が砕けるような音が聴こえた後、私は意識を手放した。


ムーザ「お陰様でブクマが500を越えました。ありがとう御座います」

アイリ「何でアンタが言うの!?」

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