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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第1章:外の世界
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平民達の逆襲

「やぁいらっしゃい! よく来てくださいました!」


 満面の笑顔で迎えてくれたドルトンさんだが、気のせいか前よりゲッソリしてるようにみえた。

何かあったのかな……って、多分ジェシカさんの事よね。

 その肝心のジェシカさんは、ドルトンさんよりも母親の方を優先して再会を果たしに行ってしまったのよ。

 うん、ドルトンさんドンマイ。


「忙しいところをすみません。ドルトンさんに是非見てほしい物があるんです。でもその前に……」


「???」


 多分もうすぐドルトンさんの方に来ると思うのよね。

 っと思ってたら、ドタドタと走ってくる足音が迫ってきた。


 ガチャッ!


「お父さん!」


「え? ま、まさかジェシカなのか!?」


「そうだよ! アイリさんがロドリゲスの邸から助け出してくれたの!」


 うんうん、感動の再会ってやつね。

でも1つだけ残念なのは、母親の方が先だったという点ね。


「アイリさん、ありがとう! 本当にありがとう!」


「いえ、助けることができたのは偶然ですから。それよりも、コレを見てほしいんです」


 3枚の契約書をドルトンさんの前に差し出す。

それを受け取り読み始めると、最初は笑顔だったドルトンさんの表情が徐々に変化してきた。

顔をしかめ、唇を噛み締め、最後には手が震え出した。


「……アイリさん。この契約書をいったいどこで?」


 辛うじて怒りを抑えてる様に見えたのは間違いない。

恐らく相当えげつない方法で契約してる内容なんでしょうね。


「ロドリゲスの私室に隠してありました。ほかに個人の契約書が8枚と、冒険者ギルドのギルマスとの契約書が1枚有ります」


「……なるほど。実はですね、この2枚の契約書は、商業ギルドのサブギルドマスターとの契約書になってるのですが、簡単に説明すると我々商人に対する無茶な取引を黙認するという内容になってるのです」


 え? それってロドリゲスのやりたい放題になるってことじゃ……。


「その通りです。私は先日アイリさんに助けられましたが、あれは急な仕入れが必要になったため、急遽(きゅうきょ)(おこな)ったのです。ですが結果的に間に合わず、ジェシカが連れていかれましたが」


 そうだったのね。

経費削減で経験の浅い冒険者を護衛に選んだ訳じゃなかったのね……って言ったらカインさんたちに失礼よね。

 カインさん、ガルベスさん、メージェさん、ごめんなさい。

心の中でお詫び申し上げます。


「本来ならキチンと商隊を組んでいく必要がありましたが、それも叶わず……といった感じです。ですが、それこそがロドリゲスの狙いだったようです!」


 最初から上手く行かないように手を打ってたってことね。

ロドリゲスのカス野郎にはキツーイOSHIOKIが必要だわ。

 元々報復する予定だったし、ドルトンさんを始めとする罠に掛かった人たちの分も上乗せしてやましょう。


 あれ? そういえば最後に残った1枚は何なの?


「これは冒険者パーティ、ワンカップの誓いという連中の契約書ですな」


 ああ、アイツらの……。

ならその1枚はどうでもいいわね。


「アイリさん、今から被害者を集めて商業ギルドに行きたいと思います。こちらの契約書はお預かりしても?」


「いいですよ。私が持ってても意味は無いので、ドルトンさんの方で役立ててください」


「ありがとうございます! すぐに他の商人たちにも知らせなくては!」


 こっちは上手くいったわね。

ロドリゲスとハゲマス(ギルドマスター)の身柄は押さえてるから、ビル達と合流して邸から脱出させよう。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 アルバムーン商会から再びロドリゲスの邸へと舞い戻ったアイリは、ロドリゲスの寝室でビルたちと合流した。


「こっちは大丈夫だったみたいね」


「ああ、しかし妙だな。部屋の外は慌ただしい感じがしたが、この部屋には誰も来なかったぜ」


 ロドリゲスが冒険者ギルドで拘束されてるって知られてると思うから、寝室には誰も来なかったようね。


「もうすぐロドリゲスを追い詰めることができそうなの。そのために商人たちが動き出したから、私達もここを脱出するわよ」


 おそらくロドリゲスの私兵の何割かは冒険者ギルドに向かったと思うから、今なら手薄のはずよ。


「私が先頭で進むから、ビルとプリムさんは後ろをお願いね」


「分かった!」

「任せて!」


 私兵が減ってるとはいえ、まだかなりの数が残ってるみたい。

私たちが出口に向かってると、邸内を警備してる私兵たちに見つかってしまった。


「おい、そこの集団止まれ! お前たちは何者だ! どこから入り込んだのだ!?」


「入り込んだんじゃなくて連れ込まれたのよ。その辺を間違っちゃダメよ」


「ふざけたことを……おい、取り押さえるぞ!」


 いや、本当のことなんですが……。

 説得は無駄そうなので、そのまま逃げることにする。


「えーい、大人しくしろ!」


「そう言われて大人しくする人がいると思う?」


「いないよなぁ……ってふざけよって!」


 アンタも乗ってたじゃないの……。

 って言ってる場合じゃないわね!


「よっ、とぉ!」


「グオッ!」「グガァ!」「ギャッ!」


 迫ってきた3人の脛を強打してやった。

これで暫くは立ち上がれないと思うわ。


「よし、今のうちよ!」


 その後も何度か発見されたけど、全員同じように脛を打ってやった。

やはり弁慶の泣き所は効果抜群らしい。

それに重そうな甲冑をガチャガチャやってるから動きも遅いしね。


「それにしてもアイリさんは強すぎないか? 若者の俺が言うのもなんだが、その若さでそれだけの強さを持つ人は見たことがないぞ?」


 まぁビルの疑問ももっともなんだけど、死にたくないという思いで必死だったからねぇ。


「まぁ私も苦労したのよ……」


 ふとダンジョンでレベリングしてた時のことを思い出す。

アンジェラたちとミルドの加護の相乗効果で凄まじいほどのステータスアップを遂げたのよね。

 でも最初は大変だったのよ、何せろくに剣を握ったことがない状態からスタートしたわけだし、手に馴染んでる物なんてスマホくらいしか無かったもんで。


「ダンジョンマスターって皆これほどの強さを持ってるのかしら?」


 それは無いと思う。

私はあくまでも例外よ。

 もしプリムさんの言った通りにダンジョンマスターが軒並み私と同等の強さを持ってたら、ほとんどの国がダンジョンマスターの制圧下に置かれてると思うわ。


「だからダンジョンマスターでも私並に強い人は少ないと思う」


「そっか。まぁ、そうよね」 


 そんな緊張感の無い会話を続けてると、出口に差し掛かる。


「お、おい、お前たち止まグホォ!」


 ごめんね、止まってたら邸内にいた私兵たちに追い付かれちゃうから。

 ちょっと強引だけど、門番の顔面を殴っちゃった。

その門番が地面で悶絶してるうちに、私たちは外へと脱出することに成功した。


 でももう1人の門番が直立不動で何もしてこなかったのは何故かしらね?

 ……ま、いいか。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 時は少し遡り、アイリがジェシカと共にアルバムーン商会に向かおうとしてた時、冒険者ギルドでは、ロドリゲスとギルマスのバルクレオが面会を行っていた。


「……それで、あの冒険者はいかがなされたので?」


「あのアイリとかいう小娘なら、捕らえて地下牢に入れてあるぞ。罪状は不敬罪でよかろう」


「左様でございますか」


 貴族相手に無礼をはたらく平民は居るが、そんなにホイホイと不敬罪にされては、民衆が怯えてしまう。

ギルマスとしては苦言を(てい)したいところだが、口には出さずに話を続ける。


「それで、あの小娘の仲間たちに伝えようと思ってな。どう責任を取るつもりか……とな」


「それを伝えるためだけに、ロドリゲス様が直々に動かれたので?」


「その方が事の重大さが理解できる……というものだろう?」


 ロドリゲスとしては、目的のためなら手段を選ばないつもりだ。

そしてその目的とは、ズバリ言えばアンジェラたちである。

 特にアンジェラは、街中や冒険者ギルドで見かけた者は思わず二度見してしまう美しさで、ここ2日間は評判になってるのだが、当の本人は全くの無関心である。

 それと同じように、アイリやアイカ、セレンといった仲間たちも噂の的なのだが、こちらもこちらで我関せずといった感じである。


「しかし本当にあの小娘は強いのか? 正直な話、全く手強さを感じなかったのだが」


「私も直接見たわけではないのですが、腕だけなら高ランク冒険者に匹敵すると思われます」


「そうか。頭の方も良ければ、専属護衛か私兵にしてもよかったのだがな」


 本来なら私兵として召し抱えるなど高待遇なのだが、この男に関しては悪評が蔓延してるので、喜ぶ者は少ない。

 まさに知らぬは本人ばかりなり……である。


「まぁいい。それより、今後の「っと待って……さい!」……ん?」


「何か外が騒がしいようだが?」


「そのようですな。私が確認してきましょう。……まったく、いったい何が……ぬぉ!? ブフォ!」


 丁度バルクレオが扉を開けようとしたタイミングで、向こう側から扉を引かれたので、そのまま前に倒れ込んで床に顔面を直撃させた。


「ギルドマスターとロドリゲスは……おや? ギルマスが()らぬではないか」

「アンジェラさん、足下に誰か居ます」

「あら~? このような所で~、お休みになられては~、風邪を引きますよ~?」


 原因を作った本人たちがまったく気付いてないのを見て、ロドリゲスと私兵たちの中に笑いが込み上げてくるのを、何とか押し留めていた。


「……ぬぐぐ、ええぃ、何なのだお前たちは!」


 痛みを堪えて立ち上がりつつギルマスが問いただす。


「誰でもよかろう? それよりも、お主とロドリゲスに大事な話がある」


「……ん? 私のことを知ってるようだが……お前は何者なのだ?」


 ロドリゲスにもギルマスと同じ質問をされたので、一応名乗っておこうかのぅ。


「アイリのパーティメンバーと言えばわかるかの?」


 アイリの名が出た瞬間、ロドリゲスの視線が鋭くなったが、それは一瞬だった。

それよりも今はアンジェラをマジマジと見ている。


「ほう。お前がアンジェラという者だな?」


「よく知っておるのぅ。あのチンピラ共から聞いたのかや?」


 恐らく間違いないだろうがな。


「……あれでもDランクの冒険者たちなのだがな。まさか小娘1人に伸されるとは思わなかった。だが必要なのは武力だけに有らず……」


 しかし、アンジェラの質問には答えず、そのまま過去を振り返るように語りだした。

元々ロドリゲスは他人より優れていると思い込んでおり、何故お前は俺よりも劣っているのかということを言いたがる癖がある。

 私兵たちの顔も、「また始まったよ」と言いたげだ。


「ふぁぁぁ……まだ終わらないのでしょうか? 少々眠いです……」


 アイカもこれには耐えきれず、思わずアクビをしてしまう。

 それを見てセレンが「子守唄をうたいましょうか~?」などと言い出す始末。

 おまけにアンジェラまでも、時間を稼げるならこのままでもいいか……という結論に達し、結局ロドリゲスが満足するまで話を聞き続けるハメになり、ギルマスのバルクレオは1人頭を抱えたのだった。


 ちなみにだが、セレンの子守唄は妾が阻止したぞ。

全員が眠ってしまう可能性があったのでな。


「……ということだ。君たちが大人しく言うことを聞けば、アイリの身の安全は保証しよう」


「……えーと、もう喋ってもいいですか? アイリお姉様なら既にあなたのお屋敷から帰還してますよ?」






「……ふざけたことを。どうやって牢から脱け出すと言うのだ?」


 これは私兵たちも同様のことを思っており、自力で脱出するなど有り得ないと考えた。

 地下牢は特殊な結界を張っており、魔法は発動しないようになっている。

なのでロドリゲスの反応は決して間違いではないのである。


 尚、アイリの場合はミルドの加護により結界は無力化されていたので、無事に魔法が発動した模様。


「どうやってかは、本人に聞かないとわかりませんが、少なくともアイリお姉様がここに向かってるので、抜け出したのは間違いないでしょう」


「さっきからいい加減なことばかり抜かしよって! 貴様も不敬罪にするぞ!?」

「それはできないわね」


 ロドリゲスが声を張り上げた直後、扉が開き、外からアイリとその他大勢の商人たちが中へ入ってきた。


「お姉様!」


「お待たせみんな。上手く話がついたわ!」


 ロドリゲスは入ってきた先頭の人を見て驚いた。

まさか本当にアイリ本人が来るとは思ってなかったのだ。


「き、き、貴様! どうやって脱け出したのだ!?」


「そんなことはどうでもいいわ! これを見なさい。この紙が何か、アンタにはわかるわよね?」


「な!? 何故お前が!」


 そんなことはあり得ない……と、ロドリゲスは思っただろうが、もう遅い。

 不正を行ってた契約書はアイリを通し、ドルトンから商業ギルドのギルドマスターに渡っていたのだ。

 そして契約書のサインを見て、サブギルドマスターのサインがしてあるのを確認、その場で問い詰められ不正を認めたのだった。


「よくも私の娘を罠に掛けてくれたな!? 我々はラムシートのために尽くしているのに、お前という奴は!」


 ドルトンの娘もロドリゲスの罠に掛かっていたため、ドルトンの怒りが再燃した。

ドルトンが声を上げたのを皮切りに、次々と他の商人たちも叫び出す。


「僕の妻を汚しやがって!」

「俺の娘もだ! よくも嫁入り前の娘を!」

「私の夫に何をしたの!?」


 一応補足すると、叫び出した商人たちの妻や娘はアイリによって連れ戻されたので無事に再会を果たした後だ。


 そのまま商人たちに詰め寄られ、壁際まで追い詰められるロドリゲス。しかし、彼の私兵たちは動かなかった。


「お、おおおお前たち! 何をしている! は、早く助けろ!」


「……それはできません」


 私兵の1人が拒否した。

いや、1人だけじゃない。

全員がただ成り行きを見守ってるだけだ。


「き、貴様らーっ! 雇い主の私を裏切るのか!?」


「我々はラドリゲス様に忠誠を誓っていますが、アナタには誓っておりません」


 前々から黒い噂が絶えなかったロドリゲスに、到頭私兵たちは愛想をつかし突き放してしまった。


「お、おのれーーーっ!!」


「それからもう1枚有るんだけどね、契約書。何だと思う? バルクレオさん?」


 突然呼ばれてビクッ!とするギルマス。

ロドリゲスはもう開き直ったようで、だからどうしたとでも言いたげである。


「まっ、待ってくれ! 私は強制されただけで、私の意思でやったのではない!」


 あら? あっさり認めちゃった。

こういう時って、もっと、こう……悪あがきするもんじゃない?

まぁ手間が省けて助かるけども。


「き、貴様までも裏切るのかーーっ!?」


「う、うるさい! 私だってやりたくなかったのだ!」


 ガチャッ!

 っと、そこへ扉が開き、新たに冒険者たちが入ってきた。


「おい、俺のミリィが借金を抱えたのは罠だったってのは本当か!?」

「私たちのベッキーも騙されたって聞いたわ!」

「ぼ、僕の天使ちゃんが捕らわれたと聞いたんだな!」


 むむ、どうやらロドリゲスとギルマスで言い合い始めたところに、今度は冒険者たちが詰め寄ったようじゃが、どうやら(しゅ)が解放した女性の中には冒険者も居たようだの。

 っというか最後の奴は……いや、何も言うまい……。


 まさに今、部屋の中は混沌としていた。

ロドリゲスとギルマスに詰め寄る商人と冒険者たち、さらに我関せずの私兵たちと私たち。

これは暫く収拾がつきそうにない。


 結局、この騒ぎは商業ギルドのギルマスと、冒険者ギルドのサブギルドマスターが来て、この場を収めた。

 騒ぎは日を(また)いで続き、事情説明で私たちまで身動きが取れなくなったため、宿に戻った時には朝日が昇り始めていた。

 まさか初めての徹夜をこんな形で経験することになろうとは……。


 徹夜明け

 朝日拝んで

 アクビ顔


 アイリ、心の俳句。



アイリ「ZZZ……」

アイカ「よし、召喚するなら今の内です!」

アンジェラ「妾はどうなっても知らぬぞ……」

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