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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第7章:過去に誘われしアイリ
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ムーザの企み

前回のあらすじ

 夢の中だと思い込み全力でフォレストガーディアンをダイバー寸前に追い込んだアイリに対し、微妙に恐れるようになった勇者パーティは、ついに魔女ムーザと対峙した。

しかしいざ戦闘が行われると、本来の歴史とは違う動きを見せ始め、焦ったクリューネは全力でムーザを撃破するようアイリに告げた。

そして見事倒す事が出来たのも束の間。

老婆のムーザとは別の若々しい女性がムーザと名乗り現れたのである。


「大丈夫かグロウス!?」

「……大丈夫だ、まだいける!」


 アレクシスと共に魔女ムーザを見据え、飛来する氷の刃を全身に受けるグロウス。

 強靭な肉体を持つドワーフだからこそ出来る荒業で、普通の人間や獣人では持ちこたえる事は出来ない。

 彼は今、背後にいる仲間達へ魔法が届かないようにするため先頭に立っていた。


「頼むリーガ、早く魔女の本体を特定してくれ!」


 グロウスの後ろで盾を構えてるアレクシスは、後衛の3人に流れ弾が行かないようにする

役目を買って出ていた。

 その間に魔女ムーザの本体が何処に隠れているのかを、リーガが探がし出すのである。

 だがいまだ本体を特定する事が出来ておらず、パーティ全体に焦りが見え始めていた。


「何しとるんやリーガ、さっさと本丸を特定そんかい!」

「ダメ……。魔流痕(まりゅうこん)が多すぎて特定出来ない!」


 魔流痕……魔法やマジックアイテムを使用したりすると発生する痕跡の事で、これを辿る事により発生源を特定出来たりするのだが、ダンジョンだとトラップにも発生するため特定が困難な場合もある。

 そんな状況下でしびれを切らしたミリオネが急かす中、額から汗を滴らせたリーガが尚も魔力の痕跡を辿る。

その横に居るエレムは、不安そうな表情でグロウスにヒーリングを行っていた。


「フェッフェッフェッ! ほれどうした勇者よ、儂を討つんじゃなかったのかぇ? 」

「くっ……マズイ、このままでは……」


 苦渋に満ちた顔でアレクシスが睨み付ける。

今は防戦一方という状況に追い込まれており、そこから脱するには魔女の本体が何処に隠れてるのかを暴く必要がある。

 目の前の老婆がダミーだと分かったのは、エレムの放ったシャイニングレイが貫通しても血が一滴も流れなかったためだ。


「ええぃ、こうなったら自棄や! 適当に放ってやればその内命中するやろ!」


 窮地(きゅうち)を脱するため、ミリオネがでたらめに矢を放つ。

 本来なら意味を成さないところであったが、その内の1本が暖炉に向かって流れていくと、ムーザのダミーが慌ててそれに氷の刃をぶつけたのを見て、アレクシスは確信した。


「ミリオネ、暖炉だ! 暖炉をねらえ!」

「よっしゃ! 暖炉やな!」


 暖炉の炎に擬装したダンジョンコア目掛けて矢が放たれる。


「おのれぇ……そうはさせるかぁ!」


 だがムーザも黙って射抜かれるつもりはないらしく、迫る矢を(さえぎ)るべく行動を移す。

 勇者パーティへの攻撃を中断し、コアの前に石の壁を出現させたのだ。

結果敢えなく防がれる矢であったが、彼等の本命はそれではなかった。


「これで終わりだぁ!」

「何じゃと!?」


 ミリオネの矢が防がれるのを想定し、密かにアレクシスが動いてたのだ。

 そして今、石の壁を飛び越えたアレクシスの一撃がムーザ本体に斬り込む!


「デェェェッドエンド……スマァァァシュ!」


 勇者アレクシスの一撃が、暖炉の炎としてカモフラージュされていたダンジョンコアに炸裂した! ミシミシという音を立ててコアから徐々に光が漏れ出す。


「おぉぉぉ……覚えておれぇ! 儂ぁ不滅じゃ! いつか……いつかまた、地上に這い出てやるぞぉぉぉ……フギャァァァァァァ!」


 最後に捨て台詞を吐きながらムーザは消滅し魔女の邸も徐々に崩壊すると、元あった森が少しずつ姿を現す。

 これを見た勇者パーティは、魔女を討ち取ったという実感が徐々に沸き出し、互いに健闘を称えつつ帰路につくのであった。




 あ、あれ? 今の映像みたいなのはいったい……


「どう? ちゃんと見れた? あれが本来の歴史にあった流れよ」

「本来の――って!」


 それって私が居ない時の正しい歴史! やっぱり私抜きでも勝つ事は出来たのね。

 それを考えると、かなり歴史が変わっちゃったみたい。


「どうやらちゃんと見れたみたいで安心したわ。わざわざ用意した挙げ句、見えませんじゃ報われないものね」

「……それで、なんだってそんなものを見せたわけ? 今更どうしようもない事じゃない」

「フフフ。意外とドライなのねぇ、ここ数日一緒に過ごした仲間じゃない」


 テーブルに置かれたグラスにはいつの間にか飲み物が注がれてたらしく、それを手に取り口へと運ぶ。

 何か仕掛けてくるかと思ったけど、今のところその様子はない。


「カフェオレだけど、貴女も飲む?」

「結構よ。それより質問に答えて。何のために本来の歴史の流れを見せたの? それにアンタの目的は何?」


 コイツの目的がいまいちハッキリしない。

 そのせいでどう動いたらいいかも分からないし、クリューネも黙ったままだから暫く様子を(うかが)うしかないか。


「別に毒なんて入ってないのに……。まぁいいわ。あの映像を直接見せたのには特に理由はないの。ただ実際はこうだったのよ~って教えてあげたかっただけ。貴女が居てもちゃんと歴史通りになったから安心なさい」


 それなら良かった。

 クリューネが意味深な事を言ってたから気になったのよね。

 多分違った歴史にしてしまったら、何らかの罰則があるんだと思うわ。

 まぁ、それは置いといて、それなら本来とは違う戦闘の流れになったのは何故って事になる。

 クリューネの話だと、ミリオネの腕がギロチンで切られたのは本来の流れじゃないって言ってたし……。


「安心なさいって言う割には、ミリオネがギロチン食らったのは本来の歴史とは違うみたいなんだけど? 私がイレギュラーだったのは認めるけど、アレはおかしいんじゃない?」

「ああ、アレね。訪れた敵の平均レベルで対処するように設定してたのをすっかり忘れててね、本来よりもかなりのスピードで落下するようになってたみたい。ごめんなさいね」


 それって結局私のせいじゃないの……。

 あ、いやいや、寧ろコイツのせいよ。


「それでね、結果的に私は勇者パーティに敗北し、再び500年もの間力を蓄える必要に迫られたの。500年よ500年。折角貯めた魔力もパーになったし、年月も無駄になったしでもう散々よ……」


 話しながらグラスを持つ手に徐々に力が入ってるようで、ミシッミシッという外圧が加わる音が聴こえた始める。


「後少しだったのよ。地上に生存する生き物は全て我々にひれ伏し、我が国がこの世界を統一するのが目前まで迫ってた。なのに……なのになのに……なのになのになのになのになのになのになのになのにぃぃぃ! 忌々しい神共が我々の邪魔をするのよ! おかしいでしょ!? 神がそんなに偉いっていうの!? 我々が世界を統一すれば争いは無くなるんだし、良い事じゃないの! 私が来る前も天使族やら悪魔族やらが争ってたんだから、よっぽどマシよ! やはり世界は我々が管理すべきなのよ。従う者だけ生き延び、刃向かう者を皆殺しにすれば良いのよ、簡単でしょ? それを奴等は神の権限とやらで我々を駆逐し、更には私をこの地に封印したのよ。忌々しい……実に忌々しい!」


 パリンッ!


 とうとうグラスが割れてしまい、中に残ってたカフェオレが手にかかる。

 けれどコイツは一切気にせず、俯いてた顔を上げた。


「だからね……」


 ゾクッ!


 この女の視線が私に突き刺さる。それを感じ取り、数歩後退った。


「勇者にやられて長い眠りにつく寸前、私は最後の力を振り絞って500年後の未来を見たのよ。そこに希望がある事を信じてね」


 500年後の未来……。

つまり、私がイグリーシアに転移した時を見たって事?


「そして私は見つけた。再び世界を侵食するために返り咲く事が出来る可能性を! 可能性を持つ存在を! それが……」


 ムーザが立ち上がり、私に近付いてくる。

無意識に後退り窓際まで来たところで私に指をギュッと突き付け……




「アイリちゃん、()()なの」


 可能性? いったい何の事? だいたい私はこの世界とは無関係だった筈……。


「よく分からないって顔してるわね? 今はいいわ、いずれ分かる事だから。それよりもこうして直接出会った事だし、それを祝してアイリちゃんにプレゼントがあるの」

「プレゼント?」


 ムーザが何処からか取り出した物……それは私もよく知ってる物で、転生前から私の生活必需品でもある大事な物!


「スマホ!」

「そ、見覚えがあるでしょ? 何せ貴女があっちの世界(地球)で使ってた物なんだし」


 そのスマホを差し出してきたので遠慮なく受け取り、じっくりと確認する。

 確かに同じ型番で同じカラーのものよ。この時代に来てから見当たらなくなったと思ったら、コイツが持ってたのね。


「一応言っとくけど、今ここで私がスマホを渡したから、未来の貴女もスマホを持ってるのよ?」

「ア、アンタがくれたからなの!?」


 今までミルド様がくれた物なんだとばかり思ってた。

 けれどコイツの言ってることは多分本当の事だろうし、(しゃく)だけど受け取らないわけにはいかない。


「さて、プレゼントも受け取ってもらえたし、後は私のお願いを聞いてくれると嬉しいんだけどなぁ?」


 フン、恩に着せようったって、そうはいかないわよ。


「勝手に私の身体を乗っ取ろうとしたくせに、な~にがお願いよ。どうせアンタなんでしょ? ミリオネックで活動中に身体を乗っ取ろうとしたのは!」


 あの時頭に響いてた声と、今のムーザの声が同じだったのを思い出したのよ。

 何をするつもりだったのか知らないけど、私の身体を乗っ取って成り代わろうとした奴のお願いなんて聞きたくない。


「あらら、バレちゃった? でもどうせお願いしても聞いてくれなかっただろうし、別に構わないでしょ? 私には使命があるのよ。他の生命体を支配下に置いて、管理維持をしなければならないという大きな使命が。だからね……貴女の身体……ちょうだい?」


 コイツに私の身体をくれてやるほどお人好しじゃないわ。

 私に伸ばしてきた手を叩き落としてやろうとしたその時! 待ちわびた声が聴こえてきた。


「そういう事ね」

「クリューネ!」


 今まで喋らなかったクリューネが、声と共に私の傍に現れた。

 ただし薄く透けて見える精神体だけっていう状態で。


「黙っててごめんね。コイツの狙いを探るために敢えて何も言わなかったのよ。気付かれる可能性もあったから」


 そうだったんだ。私だけ取り残された訳じゃなさそうで安心したわ。


「チッ! 神が……やはり邪魔をするのね。だったら私にも考えがあるわ」


 両手を天に向けたムーザの身体から魔力が漏れ出たかと思うと、邸の天井と一緒に日の光を(さえぎ)ってた木々が吹き飛んで、西に傾きかけた太陽が露になった。


「侵略型アタッカー対プリムラ用ガーコイル、出撃準備!」


 更にムーザによって召喚されたガーコイルの大群が上空に密集し、再び日の光を遮って整列する。


「……何をするつもり?」

「フフフ、なぁにとっても簡単な事よ。貴女が邪魔だから、ちょっと相手をしててほしいの。あ、アイリちゃん、ちょっとDPを借りたけど別に構わないわよね? 勿論返すつもりもないけど」


 コイツ、他人のDPを勝手に!


「さぁ出撃開始よ!」


 右手をプリムラ帝国のある東側に向けて指をさすと、ムーザの意思を感じとったガーコイルが次々と飛び去って行く。


「コイツ、歴史に存在しない事を!」

「さぁどうする? このままだと歴史が変わっちゃうわよ?」


 挑発するかのように嫌らしい笑みを浮かべるムーザとは対称的に、クリューネは苦しそうな表情を隠せない。


「ど、どうするのクリューネ!? このままじゃ……」

「……大丈夫よ。まだ手は残されてるから」


 苦虫を噛み潰した顔だったクリューネが不適にニヤリと笑い、あたふたする私の肩にポンと手を置くとムーザに向き直った。


「女神のままだと手出しは出来ない。つまり今の私が可能なのは見守る事だけ。ムーザ、アンタこの事を知ってたわね?」

「当然よ。アイリちゃんに渡したスマホを通じて500年後の世界を覗く事が出来たんだもの、私の実力を持ってすれば天界を覗く事なんか造作もない事だわ」

「……でしょうね。でも500年前の今、あたしが()()()()()かまでは知らないでしょう?」


 ムーザに続いて今度はクリューネが両手を掲げて直視出来ない程の光を(まと)いだした。

 数秒後に光が消え去ると、上空に見たこともない黒々とした光沢のある巨大な竜が姿を現す……って、まさかこれって!


「クリューネなの!?」

「そうよ。言ってなかったけど、女神として迎え入れられる前はご覧の通り竜だったのよ。()()()()()()()なら手を出しても問題ないわ」


「お、おのれぇ、まさか女神じゃなくなるとは……」


 今度は一転、ムーザが苦しげな表情を見せ始める。


「これが本来の私の姿。その名も――」




「破壊竜クリューゲル!」


 翼を広げてクリューネ――いえ、クリューゲルが名乗りをあげた。


アイリ「いくら破壊竜だからって、私んとこのカラオケボックス壊す事ないでしょ」

クリューネ「だからそれについては悪かったってば!」

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