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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第7章:過去に誘われしアイリ
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閑話:500年前のガンツ師匠

 ファルスの街で工房を構えてるガンツの朝は早い。

何せ独り暮らしを送ってる彼は、炊事洗濯掃除をこなしながら鍛冶を行ってるのである。

この日も窓から差し込む朝日に照らされる形で起こされるのであった。


「んん~~っと……さぁて、今日も天気の良い朝がきたなぁっと」


 ベッドから起き上がると、窓を開けて朝日を拝んでから……






「こっちは西窓だったな……」


 ……コホン、ベッドから起き上がると、()()を開けて朝日を拝んでから活動するのが彼の日課になっていた。


「うん、いい朝日だ。だが雲がかかってるから60点ってところかな」


 いつの日からか今のように朝日を見ると、点数をつける癖が出来上がっていた。


「さ、朝飯朝飯っと!」


 朝日に満足したガンツは手早く着替えると台所へと移動、手際よく具材を調理していく。


「今日の野菜は70点~、昨日の野菜は60点~っと! 今日のお肉は50点~、昨日のお肉も50点~っと! あ! このジャガイモ芽が付いてるじゃないか、10点だな」


 朝日を採点したように、具材にも次々と点数をつけていく。

最初こそ朝日だけだったこの行動が、そのうちいろんなものにつけるようになり、気付いた時には家中で点数をつけられてないものは存在しない程に……






「そういえばこの食器には点数をつけてなかったな。夜にでも総括してつける事にしよう」 


 ……コホン、気付いた時には家中で点数をつけてないものは、()()()()存在しない程になっていた。


「さてさて、続いては掃除洗濯っと」


 朝食を済ませると、食器を洗い、服を洗い、家中の掃除に取りかかる。

が、ここで一つ注意しなければならない事があるのだが……というか先に謝っておく、大変申し訳ない。


「さてと出掛けるか」


 ……とまぁご覧のように、掃除洗濯は何故か点数をつけないのだ。

理由は恐らく……男故に乱雑な仕上がりに、あえて点数をつけずに現実から目を逸らしてるのだろう、いやそうに違いない!

 などと言ってる間にガンツは外へと飛び出し、道行く人達を採点し始めた。




「お、若い姉ちゃんが要るな、ちょいと採点してやろう」


 遠目で捉えたガンツの目に若い姉ちゃんが飛び込んでくる。

 その評価対象をこれでもかという程に見開かれた瞳で捉えるガンツはさりげなく近寄り、正面と後ろからの姿を確認し採点に移る。

 それに対し成す術も無く採点される、名も無き(←失礼)若い姉ちゃん。

今その全容が明らかになろうとしている!

さぁガンツ君、採点は?


名前:不明 

 顔:60点

全身:65点

 声:不明 

 服:40点

匂い:35点

正面:60点

後ろ:70点


 330÷6=55


「55点だな。やはり女性であるならば、体臭や服装には気を付けねばならないだろう」


 はい、ありがとう御座いました。

若い姉ちゃんは、まさか自分が採点されてるとは思いもせずに通り過ぎて行く。

いや、寧ろこの事実は知らない方が幸せだと思いたい。


「こりゃガンツ! あんたまた見知らぬ女性ば採点しよってからに!」


 ご近所の婆さんに怒られるガンツ。

彼の採点フェチは有名なので、何かを凝視していれば採点してるのだとバレてしまうのだ。


「なんだ、20点の婆さんじゃないか。僕は忙しいんだから邪魔しないでくれ」


 そしてこの20点という採点も、数年前から変わっていない。

名前は覚えてた筈なのだが、会う度に20点と言ってるうちにいつしか本名を忘れてしまい、今では申し訳ないと思いつつも20点と呼んでるのだった。


「誰が20点かぁこんのクソガキきゃ!」


「おお恐い恐い。退散退散っと!」


 箒を振り回して抗議する20て……失礼。

箒を振り回して抗議するご近所の婆さんを足早でやり過ごし、やって来たのは宿屋と併設されている酒場だ。

 ここに来た理由は勿論採点……ではなく、食前酒(←晩飯前)と称して酒を飲む……それだけである。


「よぅマスター、いつもの40点を頼む」

「あいよ……」


 ご近所の婆さんとは違い酒場のマスターはあまり気にしてないらしく、何の抗議もせずにガンツの舌馴染み(したなじみ)になった酒を出す。


「いい加減40点から上げてもらう訳にゃいかねぇのかい? 毎日飲んでるってこたぁ気に入ってるんだろ?」


「何言ってんだ、んなもん名前を覚えられねぇからずっとそう呼んでるだけだ。今更変えるなんざぁとんでもない! それにマスター、あんた自身は50点なんだから一応の面子は立ってるだろう?」


「そ、そうかい……」


 マスターの呆れかえった視線を受けても堂々と飲み続けるガンツは、ある意味英雄なのかもしれない。






 ごめん、言い過ぎた。

間違っても英雄な筈ねぇわ。


「あ、ガンツさん!」


 と、ここで我らがアイリが勇者パーティと一緒に下りてきた。

宿屋と酒場が繋がってるので、宿屋を利用してたアイリにバッタリと遭遇した形だ。


「なんや嬢ちゃんの知り合いか?」


「昨日ガーゴイルに襲われてたところを助けたのよ」


 と、ここでガンツの採点師(←そんな職業はない)としての血が騒ぎだし、会話中のアイリを含む勇者一行を採点しだした。

さぁガンツ君、採点は?


アレクシス:70点

  リーガ:80点

  エレム:55点

 ミリオネ:65点

 グロウス:50点

  アイリ:70点


「勇者アレクシス70点。さすがの安定感だ」


「は、はぁ……」


 アレクシスは訳も分からず適当に流す。


「賢者リーガ80点。素晴らしいプロポーションだ、正に芸術的だと言っていい」


「あ、そ、そうなの。ありがとう……」


 プロポーションを誉められたのは嬉しいリーガだが、見ず知らずの男に言われて少々複雑な様子。


「聖女エレム55点。これからに期待したい」


「そ、そうですか……」


 エレム自身がよく分かってなかったので、何も起こらなかった。


「狙撃手ミリオネ65点。その猫耳は一度触ってみたい」


「触ったら引っ掻くで?」


 ガンツが微妙なフェチに走ったため、ミリオネは爪を立てて威嚇する。


「戦士グロウス50点。同じドワーフだし、多少はね?」


「…………」


 エレム同様よく分かってなかったので、無言で流したようだ。


「謎の美少女アイリ70点。個人的にはもっと高得点をあげたいくらいだが、残念ながら未成年者はこれが限界だ」


「はいはい、何処のガンツさんも採点するのが好きなのね」


 とは言うものの、アイリがミリオネックで目撃したのは500年後のガンツなので、採点が好きなのは当然と言えば当然だ。


「でもそんなに高い点数ばかりだと、胡散臭く感じるし、有り難みが無いかなぁ……」


 そう言い残し、勇者パーティと共に去って行った。


「…………」


 この時、ガンツは大きな衝撃を受けていた。

先程アイリから言われた言葉が頭から離れないのだ。


「俺は……間違っていたのか?」


「ああ、少なくとも他人を勝手に採点するって行為は間違ってるだろうな」


 そんなマスターの言葉など右から左へ聞き流し、ガンツは新たな目標を立てた。


「よし、決めた! これからは平均点をうぅぅぅぅぅんと低くしよう!」


「そうかい……」


 マスターの諦めに近いため息を他所に、次の日から軒並み採点が低くなったのだという。

尚、この再評価による街全体への影響は無かったもよう。


クリューネ「という訳で、ガンツの点数が低い理由ね」

アイリ「私のせい!?」

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