フォレストキーパー
前回のあらすじ
魔女の森晩御飯レースに敗れて落ち込む3人だったが、なんとか励ます事に成功した。
翌日森の奥へと進む最中に違和感を感じたアイリは、ここがダンジョンの中であると気付いたのであった。
「ここは既にダンジョンだったのよ……」
気付いた私はそう呟く。
ダンジョンは私にとって馴染み深いものだからこそ気付けたようなものね。
けれどそんな私に対し、アレクシスは即座に反論してくる。
「ダンジョンだって!? だ、だが僕らは普通に森を歩いてただけじゃないか? ダンジョンには入口がある筈だし、そんなところを潜り抜けた覚えは無いぞ!?」
「落ち着いてアレクシス。私だって驚いてるのよ」
「あ……す、すまない……」
アレクシスが落ち着いたのを見て、改めて周囲を見渡す。
やはり自分達の周囲だけは明るいけど、遠くは暗くて見通せない。
「せやけどアイリ、昨日食ったヘヴィボアは肉として残っとったやろ? あの時点じゃまだダンジョンには入ってへん言う事でええか?」
「それは間違いないわ。ダンジョンに入ってしまったのは今日の未明って事よ」
ダンジョンの魔物は仕留めると消えて無くなっちゃうのよ。
ダンジョン内だったらダンジョンに吸収されるけどね。
だからあのヘヴィボアは天然の魔物って事になるから、野宿をした時点ではダンジョンの外だったのよ。
偶然ダンジョンに入り込んだとかじゃない限りはだけど……。
「どうするの? 私達の目的は魔女の討伐であってダンジョンの攻略じゃないし、一度引き返す?」
「う~ん、そうだなぁ……。一度ダンジョンを出てみようか」
リーガの提案より一旦引き返す事に決めたアレクシスは、来た道を戻ろうと方向転換する。
私としても異論は無かったのでそれに従おうとしたら……
ギュゥゥゥゥゥゥン!
『フフフ、折角来たのに帰っちゃうの?』
締め付けるようなこの感じ! それにこの声は! 間違いない、ミリオネックで私を乗っ取ろうとした奴よ!
このダンジョンに居るんだわ。
「このまま進みましょうアレクシス」
「アイリ?」
「この先に居るみたいなのよ、例の魔女が」
森の奥に視線を送って呟く。
「わ、分かるのか!? だかどうして……」
「女の……勘よ!」
アレクシス達に多くは明かせないけど、目的の魔女が居る以上この先に誘導するのは間違ってはいない筈よ。
「なら進んでみましょうか。考えてみたらフィールド上にダンジョンがあるなんて不自然だし、それが魔女の森にあるんなら魔女と関係してると考えてよさそうだしね」
「リ、リーガ?」
私の真剣さが伝わったのか、リーガが賛成してくれた。
「アイリさんがそう仰るなら進んでいいと思います。神託でも「仲間を信じて進め」とありましたので、わたくしも賛成させていただきます」
「エレム」
その神託に私が絡んでるのかは不明だけど、エレムも賛成にまわる。
「なんやなんや、ほなウチも賛同せな空気読めへん奴やろが。ま、不満はあらへんけどな」
「ミリオネ!」
2人に続きミリオネも賛成してくれて、グロウスさんもコクコクと頷いた。
そこで改めてアレクシスに視線を送ると、苦笑いしながら再び先頭に戻る。
「ごめんねアレクシス。気を使わせちゃったみたいで」
「なぁに、気にしちゃいないよ。それに女の勘は当たる事が多いから注意しろと父上も仰られてたからね。今回はアイリにかけてみるよ」
嬉しいんだけど、アレクシスのお父さんは別の意味で言ったんじゃないかと思う……。
勿論感心は出来ない。
「気配や、敵のお出ましやで!」
魔物の気配を感じ取ったミリオネが叫ぶ。
それと連動するように、各自が武器を構えて臨戦態勢をとった。
「ウルフ系の魔物だ。死角から襲われないように注意しろ!」
アレクシスの掛け声に改めて気を引き締めると、向こうの出方を窺う。
同時に鑑定も済ませちゃおう。
名前:アシナ型ディフェンサー
職種:ダンジョンモンスター
ランク:??? 種族:狼
HP:400 MP:200
力:500 体力:400
知力:300 精神:300
敏速:200 運:25
【スキル】加速Lv3 毒牙
【魔法】風魔法Lv2
【ギフト】
数値そのものは脅威ではないけど、スキルと魔法は面倒な感じがする。
それにランクが不明ってどういう事?
「……くるぞ!」
グロウスさんが叫ぶのと同時にアシナ型とかいう狼が襲いかかってくる。
当然私は素早さを活かして殲滅にかかる事にした。
「「「グルゥゥゥ!」」」
私の方には3体同時に来たので一旦横にスライドし、縦に並んだところを1体2体と斬り捨てていく。
そして3体目に斬りかかろうとしたその時、死角から別の狼が現れたため咄嗟に上に跳んで回避すると、上空からアイシクルジャベリンで地上にいる狼2体を串刺しにした。
「今のは危なかったわ」
いつの間にか死角に回られてたのは多分スキルに有る加速ってやつね。
「キャッ!」
マズい! エレムが噛みつかれた!
「エレムから離れんかい! タァァ!」
「ギャィン!?」
ミリオネが透かさず蹴り飛ばしたから一応は大丈夫かな?
「くっ、数が多い。一旦退くぞ!」
森の奥から次々と現れる狼を前に一時的に撤退する事にしたんだけど、奴等はしつこく追い回してくるようで……
「追ってくるか……。こうなったら足止めするしかない。皆はそのまま行ってくれ!」
「そんなの無茶よアレク!」
「足止めしたら直ぐ行く! 急げぇぇ!」
リーガの制止を振り切って一人立ち止まるアレクシス。
見えるだけで30以上はいる狼に挑むのはいくら勇者でも無謀よ!
「私も足止『バチバチバチバチ』くっ!?」
私も振り向こうとしたら電流みたいのが! なんなのコレ!?
『振り向いちゃダメ! そのまま4人と一緒に離れて!』
クリューネ?
『今アレクシスを助けたら、成長しないまま親玉に挑む事になるわ。これはアレクシスのためでもあるのよ』
……分かった。
納得は出来ないけど歴史が変わってしまうのは避けないといけないなら……。
でも本当にそうする必要があるの?
『……天界に記述された書物が残ってるのよ。アシナ型ディフェンサーによって瀕死に追い込まれたアレクシスが覚醒する……ってね』
瀕死って! そんなのほっとけないじゃない! やっぱり私『それはダメ! それよりもエレムを見てあげて。あの子、毒牙にやられてるわよ?』
マズいじゃない! 早く回復させないと!
やっぱり納得は出来ないけど、今回はエレムを助ける意味もあってアレクシスを残す事にした。
「大丈夫エレム?」
アシナ型に噛まれたエレムの腕に解毒ポーションを振り掛けると、青白くなってた顔が徐々に血の気が戻って来た。
「ありがとう御座います、アイリさん。わたくしはもう大丈夫ですので、早くアレクシスのところへ戻りましょう!」
「うん!」
勇者パーティの意思なら歴史が変化する事が無いだろうと思って、急いで戻ろうとしたその時、再び嫌な音が聴こえた。
カチッ!
「す、すみません。わたくしったらまた」
またしてもエレムが何かを踏んだようで、吊り天井を警戒し直ぐにその場から離れた。
「なんや、何もないやん。脅かしよってからに……」
ミリオネはそう言うけど、あの音は何かが作動してるのは間違いない。
トラップじゃないなら魔物が放たれるパターン!?
ガサッ、ガサッ、ガサガサガサッ
思ってるそばから右側の木々が揺れ出す。
「……敵か」
グロウスさんがエレムの前に立ち、斧を握りしめた。
けれど、出てきたのは魔物ではなく……
ガサガサガサッ、ガササササササササ、
ズザァァァァァァァァァ!!
「な、水流!?」
やっぱりトラップだった!
「ヌォォォ!?」
「キャーーーッ!」
私とリーガとミリオネの3人は回避出来たけど、グロウスさんとエレムが流されてちゃった!
「エレムーーッ!」
「グロウスーーッ!」
2人が流された方を見てリーガとミリオネが叫ぶ。
けれど2人の声は返ってはこず、徐々に弱まっていく水流の音が虚しく響いていた。
まさかアレクシスに続いて、あの2人とまではぐれちゃうとは……。
『あの2人は大丈夫よ。それよりもアイリ、貴女自身が一番注意しなきゃダメよ』
私は充分気を付けてるわよ。
それよりも3人と合流しないと……。
『そうじゃないの。他の5人は今のところ放って置いても問題ないわ。万が一危なくなったら知らせるから。でもアイリの記述が無い以上、ここで貴女が死んでも歴史上は支障が出ないのよ。この意味は分かる?』
そりゃ分かってはいるつもりだけど……。
ならせめてどうしたらいいか教えてよ。
『あたしも許される範囲のギリギリでしか教えられないんだから無茶言わないで。でも強いて言えば、アイリ一人がはぐれる方が歴史に合わせ易いわ』
だったら最初から合流しない方がよかったじゃない……。
『もう手遅れよ。それにファルスの街でガーゴイルを蹴散らした時から勇者パーティとの接触は免れなかったのよ? あの時はアイリから勇者の元へ向かってったけど、そうしなかったとしても、ガーゴイルを倒した強者を探し出そうと勇者が動いたんだからね。それよりほら、残った2人が呼んでるわよ?』
え?
「「アイリ!」」
「ヒィッ!? ビックリしたぁ! いきなり叫ばないでよ……」
「何言ってるのよ、さっきから声掛けてたのに反応しなかったからじゃない」
「せやで。心此処に有らずな状態やったな。2人が心配なんはわかるんやけどな、今は一人になってるアレクシスと合流する方が先や」
アレクシスを優先するのね。
だったらここは……
「ごめん2人共。エレムとグロウスさんも心配だし、二手に分かれましょ。その方が人数的にもちょうどいいし」
その方が都合がいいとも言うけどね。
「分かったわ。エレムとグロウスはアイリに任せるから、アレクは私とミリオネで探しに行くわね」
「決まりやな。ほなアイリ、そっちは宜しく頼むで!」
アレクシスを残した森の奥に駆け出す2人を見届けると、私は流された2人を探しに動きだした。
『アイリ、何をするつもりなの?』
「勿論エレムとグロウスさんを助けるつもりよ。ただし、影ながらね。その方が都合がいいんでしょ?」
『そうね。その方が間違いが起こり難いし助かるわ』
ってな訳で、流された2人を追って茂みを掻き分けながらの捜索を開始した。
少し進むと崖にたどり着き、その崖の下を覗き込むと、目的の2人が目に止まる。
「居た!」
捜索開始から僅か10分で発見に至った。
けれど2人以外にも魔物が居るようで、崖の下でボスゴリラみたいなのと戦闘中みたいね。
崖の所々から出てる水流で出来た滝壺を跨いでの攻防を繰り広げてる。
「待ってて。直ぐに援護するから」
気付かれないように静かにゴリラの近くまで降りると、木陰から鑑定をかける。
名前:フォレストキーパー
職種:エリアボス
ランク:??? 種族:ゴリラ
HP:2152 MP:100
力:800 体力:800
知力:100 精神:300
敏速:300 運:25
【スキル】格闘Lv4 パワーブラスト
【魔法】
【ギフト】
脳筋ゴリラという言葉がピッタリだわ。
戦況はグロウスさんが押されてる……あ! ヤバッ!
「ウィンドスマッシュ!」
エレムに腕が直撃しそうだったから妨害したけど、気付いてないわよね?
『大丈夫よ。あっちは気にしてる余裕はないと思うわ』
なら良かった。
妨害した後、グロウスさんが駆け付けたから何とかなったわね。
でもエレムを守りながらだと思うように戦えないように見えるし、何とかしないと……って思ってたら、ま~たエレムが狙われてる!
「一思いに倒してしまいたいけど何とか我慢しよう、ファイヤーボール!」
ゴリラの真後ろから極小のファイヤーボールを尻に食い込ませてやった。
さて、この調子でボスゴリラをどんどん弱らせてやろう。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「フンゴォォォォォォ!」
大きく腕を振り上げたボスゴリラがグロウスに向かって振り下ろす。
ズズーーーン!
「……むぐぅ!」
「グロウス!」
「……心配ない、かすっただけだ」
自身の5倍はあると思われる腕から辛うじて逃れると、お返しとばかりにボスゴリラの腕を切りつける。
だが大したダメージは通っておらず、鬱陶しそうにグロウスを睨み付けた。
「…………」
対するグロウスも掛かってこいと言わんばかりに斧を軽く回転させる。
だがそんな様子をハラハラしながら見てるのがエレムであり、彼女は崖まで流されて落下した際に片足を折ってしまっていたのだ。
そんなエレムを守りながらも、グロウスは耐え忍んでいた。
「ごめんなさいグロウス。わたくしが杖を手離してしまったばかりに……」
そして今言った通り、落下時に杖を無くしてしまい、回復魔法をかける事すら出来ないでいた。
「何とか杖を探さなければ!」
痛む足を引きずって必死に探すが簡単には見つからない。
離れた場所ではグロウスが傷付きながらも善戦してはいるが、やはり相手が悪かった。
視界の隅に入ったエレムを獲物と判断したフォレストキーパーは、グロウスとの戦闘を中断しエレムの目の前に飛翔してくる。
ズーーーン!
「ヒィッ!」
エレム目掛けて振り上げられた腕だが、何故か腕を庇って痛がってる隙にグロウスが駆け付け、フォレストキーパーの注意を引き付けた。
「い、今の内に何とか……」
だがやはり戦況は好転しない。
フォレストキーパーの全身が輝きだしたかと思うと、両腕を地面に叩きつけたのだ。
これにより強烈な振動が2人を襲い、周囲の樹木の幾つかがエレムの行く手を遮るように倒木した。
「ウゴォォォォォ!」
「いかん!」
チャンスと見たフォレストキーパーがエレムに襲いかかろうとするが、グロウスが身を呈してそれを阻止。
だが長丁場により消耗したグロウスは、そのまま殴り飛ばされてしまった。
「がはぁっ!」
「グロウス!」
次の攻撃まで時間が無い。
「杖さえあれば……あ!」
と、ここでエレムは倒木の下に探し求めてた物を発見する。
「お、お願い、早く……
取れた!」
透かさずソレをフォレストキーパーに向けて詠唱を開始する。
「汝の光を我の手中へ、シャイニングボール!」
杖から放たれた光の玉は、何故か尻を両手で押さえてたフォレストキーパーの顔面へと命中し、視界を奪う事に成功した。
「今の内に!」
「ンゴォ、ンゴンゴ!」
でたらめに腕を振り回すゴリラを他所に自身の足を回復させると、立っているのがやっとの状態であったグロウスへと駆け寄り、素早く回復した。
「ようやく杖が見つかりました。今なら奴を倒せます!」
「……形勢逆転だな」
渋い声で肯定したグロウスが駆け出すのと同時に、エレムは再び詠唱を開始する。
「天より授かりしは我が天啓、受けよ、シャイニングボルトーーーッ!」
「ンンゴォォォォォォ!?」
複数の光の粒がフォレストキーパーに張り付き、一気に放電を開始。
身体中に電撃が走った結果、大口を開けてのたうちまわる羽目になり、そこへグロウスが勢いよく斧を投げつけた。
「トドメだ、ブレードトマホーーーク!」
放たれた斧は大口の中へと吸い込まれていき、脳天を突き破って崖の上にある巨木へと突き刺さった。
「ブンゴォォォ……」
ズズーーーン!
一方のフォレストキーパーはグロウスの技が決め手となり、倒れた後に消滅した。
「やりました! わたくし達の勝利です!」
「……うむ」
なんとかピンチから脱した2人は、明るい表情で崖の上へと登って行った。
エレム「最後にあった【崖の上へと登って】とは、どうやって登ればよいのでしょう?」
グロウス「…………」←必死に考えてる
作者「頑張ってよじ登れ」
アイリ「道くらい作ってあげなさいよ……」




