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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第7章:過去に誘われしアイリ
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女達の闘い

前回のあらすじ

 複雑な事情を抱える女神クリューネの心情を全く知らないまま、魔女を討伐しに向かう勇者パーティの元へ訪れたアイリ。

最初は同行を拒否されるが、ガーゴイル達を簡単に倒した事を認められ同行する事となった。


 アサシンスネークを蹴散らしてからも何度か戦闘が発生したんだけど、その度に私が倒し続けた。

それこそ遭遇した魔物の9割は片付けたんじゃないかと思うくらいに。

 その都度アレクシスは「素晴らしい!」を連呼するし、グロウスさんは仁王立ちでウンウンと頷くんだけど、他の3人は無言のまま。

文句の1つでも言いたいけど結果を出してる以上何も言えないって感じに、袖口を噛んで悔し涙を流してるわ。

 結局その日は会話が無いまま夜を迎える事となった。


「そろそろ日が落ちてきたな。今日はここらで野宿としよう」


 アレクシスの言葉で野宿の準備へと取り掛かる。

グロウスさんが草を刈り取り場所を確保し、アレクシスと2人でテントを張りだした。

その間に女性陣で晩御飯の用意をする事になったんだけど……




「わたくし料理は得意なので、是非ここはお任せ下さいませ」


 手にしたナイフをギラつかせて得意気にクルクルと回すエレムがちょっと怖いんですが。


 ヒュッ!


「あっぶな!」


 このキチガイエルフ、わざとこっちに飛ばしたわね!?


「あら、ごめんあそばせ。オホホホホホ」


 手伝おうと思ったけど止めた。

折角やってくれるんだからやってもらった方が楽よね、と思ってたら……




「ちょ~っと待ったーーーっ!」


 ミリオネさんが割り込んでいく。


「料理と言えばウチや。ミリオネさんの出番やでぇ! ホンマのサバイバル料理っちゅうもんを教えたるわ!」


 そうなると当然もう一人の賢者様、リーガも黙ってる筈はなく……


「料理の研究もしてた私なら何だって作れるわ。だから獣は犬耳畳んで引っ込んでなさい」

「犬耳ちゃうわ猫耳や! それに折り畳み式でもないで! そっちこそ垂れ乳背負って寝とれやボケ!」


 はい、見事に闘いが発生しました。

この先いったいどうなるのでしょう。

このままだとお腹が空きすぎて夜も眠れません。


「チッ! ムカつく獣ね……」

「そっちこそ、オカンよりムカつくわぁ……」


「言い争ってないで、さっさと始めますよ2人とも」

「「黙れまな板!」」

「あ!?」


 止めようとしたエレムは逆に挑発に乗ってしまう有り様。

結局2人の争いが3人の争いへとグレードアップしただけというね……。


「ふざけんなビッチ共! (まと)めて具材にして差し上げましょうか!?」

「止めぇや貧乳! ああもぅ、お前のせいやぞ露出狂! 責任とらんかい!」

「だ、誰が露出狂ですってぇ!? この低脳種族!」


 ダメだこりゃ……。

このままだといつまで経っても食事にありつけないという事態になりかねないので、仕方なく……本当に仕方なく仲裁しようと思う。


「何でしたら私が作りましょうか?」

「「「それだけは絶対に嫌!」」」


 わぉ、ハモってる。

しかも一斉にこっちに振り向いて、猛獣みたいに威嚇してくるし。


「おいクソガキ、アンタは戦闘で散々獲物を横取りしたやん。せやからここは絶対に譲らへんわ!」

「その通りよ。まともに料理出来る筈がないクソガキは黙って寝ててちょうだい。なんだったらご飯抜きで寝てくれてもいいわよ?」

「まったくですね。クソガキはお呼びじゃないんですよ? ガキはガキらしく絵でも書いて遊んでてください」


 ついにクソガキにランクダウンしたようです。

まさかクソガキって言う側から言われる側になっちゃうとはね。

心の中でとはいえ、あの空間で獣人をクソガキ呼ばわりしたのがこんなところで因果応報を発動しなくてもいいのよ? でもって私を黙らせると、再び言い争いが始まった。


「みんな、テントはもうすぐ出来上がるけど、調理の方を手伝おうか?」


 ここでアレクシスの登場。

やっぱり気配り出来るところはモテる要素の1つなのかもしれない。

 が、しかし……


「アレクシス、ここはわたくし達に任せて下さいませ」

「そうよ、お姉さんに任せなさい」

「ウチの料理期待しててや!」


 男を台所に立たせないと言わんばかりに、即席で作った切り株のキッチンから追い出してしまった。

 さて、どうしたものかと思案する事数分、我ながらとってもナイスなアイデアを思いついたので早速実行に移す。


「そこまで言うんでしたら、3人で勝負すればいいじゃないですか。早くしないと勇者も呆れて寝ちゃいますよ?」


「「「それは困る(ります)!」」」 


「ここはクソガキの言う通り、誰の料理がアレクシスに気に入っていただけるか勝負しようじゃありませんか」

「そうね。時間も勿体無いし、さっさと取り掛かりましょ」

「しゃあ! 負けへんでぇ!」


 よし、上手くいった。

私は巨木を横倒しにして作った長椅子で(くつろ)ぎつつ、観戦開始!


「実況は私アイリと……」

『女神クリューネでお送りするわ』


 秋を彩る紅葉の季節とは無関係な程に青々と繁った木々に囲まれたここ、魔女の森が今回の舞台と成ります。

さぁ間もなく開始の時刻。

各自で腕捲りをし、準備を整えたところで……


 パカンッ!(脳内の音)


「さぁ3者一斉にスタートを切りました。並走している3者は、(私から見て)手前から色白で小柄なちょっと名前が紛らわしいか、エルフのエレム。続いて賢者でありながら露出箇所が多いのが気になる、長身の魔族リーガ。最後に健康的に焼けた肌色でナイフを振り回すのは白猫獣人のミリオネだが、種族名と肌色がミスマッチなのは大丈夫か。各走者はそのまま第一コーナー(行程)に入ります」


『おおっと、ここで飛び出してきたのは魔族のリーガ。ウィンドカッターで食材をスパスパと切り刻む! これは速いわ! それに続くのは獣人のミリオネ。器用な手先を活かしてリズミカルにカッティングよ! 最後尾はエレム。1つ1つ丁寧に切ってはいるけど、少々時間が気になるところね』


「先頭を走るのは依然リーガ。ピンクのロングヘアーを(なび)かせて余裕の表情。2番手はミリオネ。リーガに遅れをとるまいと、尻尾にまで持たせたナイフを器用に振り回します。その2人にやや遅れをとったか、ショートカットのエメラルドグリーンヘアーが虚しく光るエレム。自慢のまな板は飾り……おっと(何処からかナイフが飛んできた)飾りだったのか。各走者は第二コーナー(行程)に突入です」


『さぁなんとなんと、ここへ来てミリオネとエレムが並んだぁ! ミリオネが食材を洗うのに手間取っているところを、クリーンウォーターで汚れを洗い流したエレムが猛追してくる。そして抜き去ったぁぁぁ! エレムが2番手に返り咲きよ! そのままリーガに追いつく勢いで尚も爆走してるわ。対するリーガは必死な水洗いを継続中よ』


「さぁここで順位を振り返ってみましょう。トップだったリーガはエレムに並ばれてしまい、この2人が現在並走中。淫乱ピンクではここが限……おっと(何処からかウィンドカッターが飛んできた)ここが限界か。それに並ぶエレムは序盤での遅れを挽回し大健闘。このまま首位奪取となるか。最後尾に転落したミリオネは悔しそうな表情を見せつつも、いまだ諦めてはいない様子。ここから巻き返しなるか。間もなく先頭の走者は第三コーナー(行程)に入ります」


『さぁ走者は肉と野草の焼き上げに入ったわよ。先頭のエレムが火打石で点火を試みてると、なんとなんと、賢者リーガが辺りを焼き尽くす勢いで火魔法による点火だぁ! 豪快に森に燃え移ってるけど大丈夫か!? さぁどう思います、ゲストのヘヴィボアさん!?』


「ギュォォォ……」


『火だるまになってまでありがとう御座います。また来世でお会いしましょう! そうこうしてると漸くエレムが点火に成功、ジリジリと炙っていくよ~。そして後ろから追いかけてるのは獣人ミリオネ。ゴリゴリと木を擦り合わせて点火を開始したぁ!』


「さて順位の方は、再びリーガがトップに躍り出た形での白熱した闘い。周囲で燃え盛る炎に後押しされるかのように、食材を黒焦げにして先頭を爆走中。これに続く2番手はエレム。焼き加減を確認しながらも丁寧に焼き上げてるが、表面だけしか焼けてないように感じるのは気のせいか。さぁ最後尾はミリオネ、肉汁が滴り落ちるのを涎を垂らして見てる姿は、実に汚ならしく頭が悪そうに……おっと(何故か爪が複数飛んできた)見えるが大丈夫なのか。先頭は間もなく最終コーナー(行程)へと向かいます」


『さぁ各自ラストスパートだ! 先頭を走るのはリーガだ。リーガ逃げる、リーガ逃げる、燃えかすを必死に串に刺す! けどそうはさせまいとエレムが追う。エレム追う、エレム追う、半生肉を串に刺す! その2者を追ってミリオネが迫る。ミリオネ迫る、ミリオネ迫る、食材を天に放り投げ、串を通す荒業だ! しかし依然としてトップはリーガのままだ。リーガ逃げる、リーガ逃げる、間もなくエレムが並ぼうとしている! だが最後尾のミリオネも諦めてはいない。ミリオネ追う、ミリオネ追う、先頭争いに加われるか!? さぁここでリーガとエレムがならんだ。互いに串を投げ合い妨害しつつも2者が並んだ。そこへミリオネも加わった! 3者並んだ、3者並んだ、ナイフや枝切れなどの様々な危険物が飛び交いつつも3者が並んだ! さぁ最初にアレクシスの元へ持っていくのは誰だぁぁぁ!?』






「ねぇアレクシス。出来合いの物(こんがり焼けたヘヴィボア)で作ったんだけど食べる?」


「お、ありがとう! 早速頂くよ!」


『外(外野)から一気にアイリが抜き去ったぁぁぁ! それでは結果を振り返ってみましょう。1着アイリ、2着以下は不明につきどうでもいいという結果になりました』


「グロウスさんもどうぞ」


「……うむ、ありがとう」


『勝利の女神(勿論あたしの事よ♪)が微笑んだのはアイリ! アイリが優勝というところで今回のレースは終了です。それでは皆様、もし次の機会があればお会いしましょう!』


 本当は高みの見物をするつもりだったんだけど、何となく邪魔したくなったから乱入してやったわ。

一応言っとくけど、何度もクソガキ呼ばわりされてムカついたから邪魔した訳じゃないんだからね?






 ごめん、嘘ついた。

めっちゃムカついてたんです、はい。


『どうでもいいけどあの3人、燃え尽きちゃったみたいよ?』


 あ、本当だ。

なんか膝抱えて小さくなってる。


『この3人がアレクシスと一緒に親玉を封印した事になってるから、ちゃんと励まして元に戻さないとダメよ? アイリのせいでこうなったんだし』


 ノリノリで実況してた人に言われたくないんですが……。


「ごちそうさん。僕とグロウスは食べ終わったけど、君達はまだだよね?」


「え? あぁ、そ、そうね。私はこの3人と話があるから、アレクシス達は先に寝てて。食べながら見張りもやっとくから」


「そうかい? でも先に寝てしまうの「いいからいいから、ここは私に任せといて」お、おいおい……」


 アレクシスを少々強引にテントへと押し込んで、いまだ燃えカスになったままの3人と向き合う形で座り込んだ。


 さて、どうにかして3人を立ち直らせないとね。


ミリオネ「ぶっちゃけアイリが一番性格悪いと思うんや」

リーガ&エレム「うんうん」

アイリ「なんでよ!」

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