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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第7章:過去に誘われしアイリ
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プリムラ帝国

全階のあらすじ

 気付くと真っ暗な暗闇に包まれたような場所に居たアイリは、謎の声が聴こえる方向へと向かうと、獣人の少年が一心不乱に剣を振ってるのを発見する。

少年に場所の説明を求めるが、彼もあまり詳しくは知っておらず、分かった事は過去か未来に飛ばされるという事だった。

そこで暇潰しに少年と剣術対決を行ってると、どうやらタイムリミットが迫ってきたらしく、部分的に身体が消えていくと最後には完全に消滅するのであった。


「どこなのよここ……」


 あの空間から消えたと思ったら、今度は見知らぬ草原に立っていた。

あのクソガキの言う事が正しいならここは過去の世界って事になるんだけど……。


「とりあえず、村とか街があれば……あ!」


 まずは情報収集という事で辺りを見渡すと、遠くに街らしきものが見えるからそこへ向う事にしよう。


 大分街が近付いてきたのでどうやってコンタクトをとろうかと悩んでると、どうやらそれどころじゃないらしく、魔物が街を襲撃してる真っ最中だった。


「は、早く逃げろーーっ!」

「ダメだ、とても逃げ切れない!」

「ゆ、勇者様はまだ来ないのか!?」

「もうお仕舞いだぁぁぁ!」


 翼を持った亜人みたいなのが、逃げ惑う人々に襲いかかってる! 当然見過ごす事は出来ないので、すぐに掃討に取りかかった。


「私が相手よ!」


 低空飛行で街の人達を追って来た魔物を、すれ違い様に次々と斬り捨てていく。


「「「ギェェェェェ!」」」


 少し硬い感じがしたけれど、大して強くはないらしい。

未知の敵だったからちょっと危険かと思ったけど、これなら私でも対処出来るわ。



「ギェ、ギェ、ギェ!」


 む? 新手のようね。

倒すのは変わらないけど、ちょっと鑑定してみよう。


名前:ガーゴイル 種族:羽翼ガーディアン

ランク:B~C  職種:召喚モンスター 

HP:750  MP:200      

 力:500  体力:1200     

知力:400  精神:300      

敏速:300   運:25       

【スキル】硬質化 浮遊

【魔法】


 こうして見ると、物理特化タイプの魔物だという事が分かる。

召喚モンスターというのが気になるところだけど、魔法が使えない相手なら特に注意すべき点は無いわ。


『だけど油断しちゃダメよ? ここでの死は未来のアイリも亡き者となってしまうからね』


 勿論油断はしないわよ。

こんな見知らぬところで死ぬつもりはない!


「ハァァァ!」


 自分に言い聞かせるように剣を振り下ろし、ガーゴイルを一刀両断にする。


「ギェェェェェ!」


 よし、後残りは……


「「「ギェギェーー!」」」


 浮遊してた残りのガーゴイルが地上に降りてきたかと思うと、何やら白く光りだした。

そして鈍い動きでノッシノッシとこちらに近付いてくるところを見ると、これが硬質化というやつなんだと思う。


「ハァァァ!」


 ギィン!


 ちょ、コイツ、メッチャクチャ硬い!

まさか剣が弾かれるとは思わなかった。


『ソイツは物理特化だから魔法に弱い筈よ。一気に焼き払っちゃって!』


「うん、分かった! ……トロくさい自分を恨みなさい、ファイヤーストーム!」


「「「ギェェェェェ……」」」


 切っ先から放たれた火柱がガーゴイルを火だるまにし、羽付きのでっかい石炭が出来上がった。


 地上が片付いたところで空を見上げると、遠くにも5体同じ奴が見えたので、フレイムキャノンで撃ち落とした。


 よし、片付いたわね。

他にガーゴイルは居ないみたいだし、一応討伐完了かな?


『うん、お疲れ様』


「はい、ありがとう()()()()()。何故声だけなのか知らないけど、いつから居たの?」


『あらら、バレちゃった? といっても来たのはついさっきだけどね』


 そりゃ聞き覚えのあるうるさい声って言ったらクリューネしかいないわ。


『今うるさい声って思わなかった?』


「全然?」


 ヤバいヤバい。

神様って考えてる事分かっちゃうんだった。

でも完全にはバレなかったわね?


『あれぇ? おっかし~なぁ……。やっぱり精神体だけじゃ完璧に読むのは無理か……』


 精神体? それってどういう……


『アイリ、街の人達が来たから念話は一旦終了するわね』


 そうだった。

今現在見知らぬ街の中に居るんだったわ。

本当はクリューネに聞こうと思ったけど、街の人に聞いてみよう。


「おーい! お嬢さん無事かね!?」


 前掛けをした小肥りのドワーフを先頭に、数人の街の人がこちらに駆け寄って来た。


「私は大丈夫ですよ、この通り」


 軽く剣舞を披露して五体満足なのを証明した。


「それなら良かった! 魔物の襲撃から救ってくれた英雄に怪我があったら大変だ」


 英雄……良い響きよね。

ミリオネックでもそうだったけど、持ち上げられると高揚してくるのは避けられない。

あの時も胴上げされたり、ビールかけみたいなのされたり、尻触られたり……嫌な事思い出しちゃったじゃない……。

って、今は情報収集を優先しなきゃね。


「ところで1つ聞きたいんですけど、この街は何という街なんですか? 旅の途中なもので、この辺りの地理には明るくないんです」


「そうなのかい? ここはプリムラ帝国の帝都から西にあるファルスという街だよ」


 プリムラ帝国にファルス……、全然聴いたこと無いわね。


「さっきの魔物は何処から現れたんです?」


「あれはここから更に西にある魔女の森からやって来るんだ。魔女の森に封印されている凶悪な魔女が召喚してるって噂だよ……」


 魔女の森、魔女の森、……あれ? 魔女の森って()()魔女の森の事!?


「ねぇおじさん、魔女の森って世界各地に複数あったりする?」


「おじ……僕はこう見えても23なんだが……」


 しまった! 老けて見える青年ドワーフだった。




 ……ちょび髭で髪が薄いし、どう見てもおじさんにしか見えないんだけどドワーフだから? 一応誤魔化しとこう。


「え~と、すみません。ちょっと渋い青年に見えたもので」


「いやぁダンディでイケてる青年だなんて照れるなぁ! 思いきって30点あげよう、ハッハッハッ!」


 30点って……それを貰ってどうしろと言うですかね……。

ついでにダンディでイケてるとも言ってませんが。


「それで魔女の森が複数あるのかって話だが、僕らが知る限りじゃ魔女の森は1つしかないなぁ」


 という事は、私の知ってる魔女の森の可能性が高い。

だとすると、ここは本来プラーガ帝国の領地の筈なんだけどプリムラ帝国になっている。

うん、もう少し情報収集が必要ね。


「もう1つ聞き「勇者様だ、勇者様がお越しになられたぞーーーっ!」


 私の声を遮って、遠くから街の人が叫んだ。

聞き間違いじゃなければ勇者が来たって言ってたわね。


「どうやらアレクシス様の一行が来たようだ。良かったら、お嬢さんもお目通りしていただいたらどうだろう? 勇者様は魔女を討伐するための強者を集めてるって話だよ」




 ピキーーーン!


 脳裏に響くこの感じ……どうやら魔女討伐に同行した方が良いみたい。

何となくだけど、私の中の何かが魔女討伐というキーワードに引っ掛かったようで、そうしなきゃならないらしい。

何故かと言われれば何となくとしか言えないけれど。


「ありがとう。同行を許可されるか分かんないですけど、話すだけ話してみますね」


「うんうん、それがいい。お嬢さんのような強者なら魔女だってイチコロだろう。あ、そうそう、もし武器や防具が必要になったらいつでも僕の工房へ来てくれ。並んでる品はどれも50点以上の一級品だよ! 僕の名前はガンツ。店の名前もガンツ工房だ、忘れんでくれよな!」


 ガンツ……いや、まさかね? ガンツ師匠はミリオネックに居た筈だし。

兎も角、アレクシスという勇者に会うためガンツさん他数名の住民に見送られる形で、街の中央広場へと向かった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 アイリが広場へ足を運ぼうとしてる頃、現地では魔物の襲撃から救った勇者が、民衆に感謝されつつも被害状況を(まと)めていた。


「怪我人は居るものの建物の崩壊は無く被害は微弱か。間に合ってよかったな」


 兵士や住民からの聞き取りを行っていたアレクシスは人命が失われなかった事に安堵する。

だが散開してる仲間からの報告を聞き終えるまでは安心出来ない……そう思い、待つ事数分。

次々と散らばっていた仲間達が集まって来た。


「アレク、東側の3体は片付いたわよ。怪我人が少々いるけど、死者は0ね」


 そう報告を上げるのは勇者パーティの一員である大賢者、リーガという魔族の女性だ。


「ありがとう、リーガ。やっぱり頼れるお姉さんだな」


「フフ、ありがと。アレクさえ良ければお姉さんから一歩前進してもいいんだけどなぁ」


 収穫の時季よと言わんばかりに胸を寄せてアピールするリーガは、アレクシスとは幼馴染みであり、幼少の頃に将来を誓い合った仲である。


「ちょ、リーガ。今はそんな時じゃ……」


 そんなリーガに言い寄られて、視線は胸元に集中しつつもアタフタするアレクシスであったが、別の仲間が戻って来た事で終わりを迎えた。


「リーガさん、前々から思ってましたが少々ふしだらではなくて?」


 リーガに怪訝な視線を向けつつ現れたのは、聖女として勇者パーティに加わっているエルフのエレムであった。

リーガ同様、彼女もアレクシスの幼馴染みで、将来を誓い合ってたりする。


「ふしだらだなんて、これはスキンシップよスキンシップ。仲間なんだから絆を深めるのは当然でしょう?」


 そう言いつつ胸をアレクシスに当てて明らかに挑発するリーガを見て眉を吊り上げると、被害報告を行いつつも強引に2人を引き剥がしにかかった。


「南の方にいた、うぐぐぐ……2体は倒しましたわ。うににににに……死者は0。むぐぐぐ……家屋の崩壊もありません。ぐぐぐ……って、いい加減になさいませリーガさん!」


「い・や・よ。アレクシスだって嫌がってないでしょ? そんなに淋しいならエレムもやってみたら?」


「え!? そ、そんなわたくしが……」


 自身がリーガと同じようにするところを想像して頬を真っ赤に染める彼女であったが、次の一言がエレムの怒りを爆発させた。






「自慢のまな板で」


 ピシッ!


 何かに亀裂が入る音がした。

まるで何かの封印が解けて、恐ろしいものが復活しそうな雰囲気が彼等を……


「だ・れ・が、貧相で貧乳でツルペタなまな板ですってぇえええ!? もう許しません!」


「いや、そこまでは言ってな……痛い痛い! ちょっと痛いってば!」

「イタタタ! お、落ち着くんだエレム!」


「シネシネシネ! 無駄乳! 脂の塊!」


 エレムの逆鱗に触れてしまい、手にしたメイスでボッコボコに殴り始めた。

……アレクシスもろとも。


「お~盛り上がっとるやん! このミリオネ抜きで、な~に楽しそうな事しとるん?」


 エレムに続いて現れたのは、狙撃の腕前はピカ一である白猫獣人のミリオネだ。

彼女もアレクシスの年下の幼馴染みであり、当然将来を誓い合っていた。


「楽しんでなんかいないわ! 早くエレムを止めて!」


「しゃーないなぁ……ほれエレム、あんま暴れると聖女の資格を失うで?」


「ハッ! わ、わたくしとした事が」


 聖女の資格を失うというフレーズが効いたようで、無事我を取り戻したようだ。

そんなエレムから肩を竦めつつ視線をアレクシスへと向けたミリオネは、改めて被害報告を行った。


「北に飛んでた1体はキッチリと撃ち落としたで。1体だけってのも有ってか被害は0やったな」


「う~~~ん。そうなのか……」


 魔物は倒したのに浮かない顔をするアレクシスに、3人は互いに顔を向き合わせて首を傾げた。


「なぁアレク、魔物はもう居らんのやろ? 何か問題でも有るんか?」


「それなんだが、アレを見てくれ」


 アレクシスが指したところには、黒焦げになったガーゴイルが5体転がっていた。


「す、凄いやんアレクシス! 自分1人でやったんか!?」

「さっすがダーリン! ご褒美あげちゃう!」

「ちょ、離れなさいリーガ!」


 口々に褒め称える彼女たちであったが、アレクシスは静かに首を左右に振る。


「違うんだ。僕が来たときには既にあの有り様だったんだ……」


「「「え!?」」」


「だから君達の誰かが倒したんじゃないかって思ってたんだけど、それもどうやら違うみたいだし、いったい誰が倒したのか……」


 アレクシスが浮かない理由が分かり、3人の顔付きも真剣になった。


「……戻ったぞ」


 と、そこへ勇者パーティ最後の1人であるドワーフの戦士グロウスが戻って来た。

唯一アレクシスとは幼馴染みでも何でもない男である。


「グロウス、西の方はどうだった?」


「……俺が着いた時には既に終わっていた。斬り裂かれた4体に、黒焦げになったのが3体の計7体が遠くに転がっていたぞ」


 それを聴いたアレクシス達は、益々顔を険しくしていく。

並の冒険者では歯が立たないガーゴイルを簡単に倒した存在がこの街に居る……そう思うととても楽観視は出来ない。


「念のため聞くが、そこの5体を倒したのはグロウスじゃないよな?」


 予想はしていたが、案の定グロウスは黙ったまま首を左右に振った。

そこでアレクシス達は、倒した人物を見つけるべく聴き込みを行おうとするのだが、一人の女の子が手を振って駆け寄ってくるのを視界に捉えた。


「すみませ~ん。勇者パーティが来てるって聞いたんですけど、皆さんがそうですか?」


 これがアイリと勇者パーティとの出会いとなったのである。


ガンツ「発育がいまいちかなぁ15点」

アイリ「どこを見て言った!?」

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