裁判の行方
前回のあらすじ
ザルカームの裁判が行われる数日前、ダンジョンにいるダミアンから首都にいる師匠と兄弟子達を見返したいという話を聞かされたアイリは、ダミアン(ザードも)を連れて師匠の居る工房を訪ねた。
すると流れで兄弟子のゴンザレスと勝負する事になるが見事勝利して、無事ガンツ師匠に認めてもらうのであった。
首都ダラーから西にある鉱山では、鉱夫刑に処された犯罪者を労働力として使い、様々な鉱石を採掘している。
ここでは1日決まった労働時間を与え、食事と睡眠は必要最低限に抑えられていた。
2週間近く前にここに送られたブリスペンも例外ではなく、この日も朝早くから採掘現場に駆り出されようとしたところを看守の1人に呼び止められる。
それから馬車に乗せられ、理由も分からぬまま揺らされてると首都へと到着。
気付けば裁判所の一室で待機させられていた。
「わ、私はいったいどうなるので?」
怯えながら尋ねてくるブリスペンに警備員が言ったのは、これから裁判のやり直しが行われるという事であった。
まさか! とは思ったが、やり直す事が出来るのならば、今度は無罪を主張したいと心に決めて裁判が始まるのを待つ。
……筈であったが、
バタン!
勢い良く開かれた扉からは思いがけない人物が飛び込んで来て、そのままブリスペンに抱きついた。
「お父さーーーん!」
「レ、レイネ!?」
「お父さん! 良かった……無事で良かった……うぅ、うぅ……」
胸に顔を埋めてわんわんと泣き出してしまったレイネの頭を、優しく撫でてやる。
その際にチラリと警備員を見たが、特に止めようとする様子は無く、逆に微笑ましい笑顔で父娘を見ていた。
「よしよし。心配をかけてすまなかったなレイネ。お前は元気だったか? ザルカームとは上手くやっているか?」
「うっく……ち、違うのよお父さん。うっく……ザルカームは、ザルカームの奴は……」
よく分からないレイネの反応に困惑するが、そこへ別の人物が入室してくる。
「初めまして、ブリスペンさん。今現在レイネを保護してるアイリと言います」
「レイネを?」
「はい。まずはこれまで起こった事を詳しく説明しますね」
警備員に目配せをして下がらせてから、改めて説明する。
「なんという事だ……、私は兎も角、レイネを奴隷商に売り渡すとは!」
黙って聞いていたブリスペンさんは、自身の事よりもレイネを奴隷に貶めたザルカームが許せないという心境だった。
過酷な労働を強いられてた筈なのに、それでも尚レイネの事が気掛かりだったのね。
「勿論だとも。早くに妻を亡くした私にとっては、レイネは目に入れても痛くない程に大事な一人娘だ。それを……ザルカームに委ねてしまった自分が許せない!」
ドン!
思わずテーブルを叩いてしまう程ザルカームにたいする怒りが増してるのが分かる。
うん、分かるんだけど、そのテーブルは裁判所の備品だから壊さないでね?
あ、そうだ! このタイミングで呼ぶのもあれだけど、アイツを呼んどかないと……
一度部屋から出ると外で待機してたトゥラビスを招き入れ、ブリスペンさんと対面させる。
目的は勿論……
「すいません! オイラのせいなんだ! オイラがザルカームから盗んだ横領金をブリスペンさんに分けてあげようと思ってやったんだ。でもまさか、こんな事になるなんて思ってもみなくて……本当にごめんなさい!」
「そうか、君が……」
思ってたほど怒ってないっぽい? 床が抜けそうなくらい頭を擦り付けて土下座するトゥラビスに、顔を上げてくれって言ってるし。
「盗んだ事は感心しないが、私を気にかけてくれた事には感謝するよ。それに強制労働を強いられたとはいえ、この通り五体満足だからね。それよりも私としては、レイネを守ってくれた貴女に礼を言いたい、本当にありがとう!」
「あ……ええまぁ、成り行きで助けただけですし……」
やっぱり面と向かって言われると照れくさいわね。
今までも何度か言われてるけど、こればっかりは慣れないかも。
「ところで裁判をやり直すと聞いたんだが、このままだと再び有罪になってしまう事もあるんじゃないかな?」
そういえばブリスペンさんは何も知らされてない筈よね。
そもそも私達がこうして面会出来るのも本来なら有り得ない事だし。
「それなんですけれど、裁判自体は形式上必要な措置ってだけで、ブリスペンさんは無罪が確定してるんです」
「ええ!? そ、そうなのかい?」
まぁそういう反応になるわよね普通。
本来なら判決が下るまで分からないんだし。
「お父さん、アイリが言ってる事は本当よ。裁判は行われるけど、それはその他大勢に知らせるのが目的だから」
「そ、そうなのか……。しかしアイリさん。普通じゃこんな事は有り得ない。貴女はいったい何者なんだ?」
ニッシッシ♪ そういう質問を待ってたのよね。
何を隠そうこの私は、今じゃミリオネックの英雄扱いだもんね。
目立ちすぎるのは考えものかもしれないけど、ちょっとくらいならいいわよね? って事で改めて……
ギィィ
「失礼。そろそろ裁判が行われますので、付いてきて下さい」
言おうとしたところで警備員が呼びに来てしまった。
仕方ないので、続きは法廷で。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「――で、ありまして、被告人ザルカームは被害者と同じ鉱夫刑に処するべきです!」
いよいよ始まった裁判だけど、まずは原告側のアンバー商会というザルカームが所属してた商会から。
その商会の代表者がザルカームを睨みながらの今の発言よ。
これに対し、被告人側は……
「意義あり!」
「意義を認めます。弁護人は発言を」
「犯人は既に確定した筈であり、これは明らかな冤罪です! 被告人の倉庫で見つかったという内容ですが、発見当時は被告人以外の2人がその場に居合わせており、彼等が被告人を罠に掛けようとした可能性を考慮すべきです!」
ザルカームの弁護人も頑張るわね。
でも残念ながらザルカームに勝ち目は無いのよ。
何故なら……
「この内容に対し、原告側は発言を」
「ではその場に居合わせたという2人の内の1人に証言していただきます」
アンバー商会の代表者が私に合図してきたので、証言台まで移動する。
「では証人は発言を」
さぁて、裁判官の許可も出た事だし、自己紹介といくわよ。
「はい。私はアイリという冒険者なのですが、皆様はご存知でしょうか?」
突然の私の質問に傍聴席はざわつき出す。
そこで裁判官のお馴染みの台詞「静粛に」で静けさを取り戻した。
「意義あり! 今の質問に裁判との関連性はみられま「裁判官、この質問は国を大きく揺らす事になりますので、是非最後まで見届けて下さい」
弁護人の発言を遮ってやった。
ここで邪魔されると面倒だし。
「弁護人の意義を却下します。証人、続けて下さい」
よし、黙って頷いて続きを話しましょ。
「知らない人が多いようなので、改めて名乗らせていただきます。先週アマノテラスのダンジョンを攻略した冒険者パーティ【イチゴ大福】のリーダー、ア・イ・リと申します」
言い終わった瞬間、裁判所が絶叫……というか歓声に包まれた。
「そ、そうだ、思い出した! 冒険者ギルドの祝賀パーティーに居た女の子だ!」
「本当かよ!? あの子がそうなのか!」
「凄い凄い! 本物よ!」
「最高や! 救世主や!」
一通り騒がれて落ち着いたところで続きといきましょ。
「現場に居合わせたのは私ですので、ザルカームが横領してたのは間違い有りません」
「そりゃ間違いないな」
「なんたって英雄だもんなぁ」
「あんな可愛い子が嘘をつく訳ないわ」
「アイリたんペロペロ」
英雄ってだけで凄い効果ね。
というかこれでいいんだろうか?
「静粛に! というかアイリちゃんみたいな美少女が嘘をつく筈ありま~~~てん。原告側と弁護人は意義がありますか?」
「「意義なし! アイリちゃんラブ!」」
ちょ、あんたらまでどうしちゃったの!?
これも英雄効果なんだろうか?
「バ、バカな……こんなバカな事が認められるか! 何なんだこの裁判は! こんなのは馬鹿げている!」
おかしい……私にはザルカームがまともに見える……。
「何を言ってるかなチミは。彼女は英雄。美少女は正義。つまりアイリちゃんは正しい! これ以上の正論は必要かな? かな?」
とりあえず裁判官がぶっ壊れたようなので、後でフォーカスさんに報告しとこう。
「まったくですなぁ。美少女=正義は基礎知識ですからな。うちの商会のイメージキャラになってほしいくらいですよ!」
アンバー商会の代表者も色々とおかしい。
「分かります分かります。僕の弟が彼女の尻を触ったようなのですが、まるで天国に昇るようだったとか!」
私の尻を触ったのはあんたの弟か弁護人! 今すぐソイツを連れて来なさい!
「判決を言い渡す。ザルカームを無期懲役の鉱夫刑に処する! ……で、いいよねアイリちゃん?」
って訳で凄く疲れたけど、ザルカームに天罰を下す事が出来て良かったわ。
ってかこっち見んな裁判官!
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
裁判終了後、ブリスペンさんは再びアンバー商会へと戻る事が出来た。
「じゃあ行って来るよレイネ」
「オイラも行って来るぜ」
「行ってらっしゃい。気を付けてね2人共」
何故トゥラビスもレイネに見送られてるのかと言うと、今回の出来事で自己満足のコソ泥から足を洗ったみたい。
それでブリスペンさん一家と一緒に働く事にしたんだとか。
足を洗うのは良いとして、何で商人として働く事にしたのか。
これは後で知った事だけど、どうやらレイネの事が好きみたいなのよね。
そんな事は全く気付かなかった私にアイカが言った言葉は「お姉様が鈍感だと、色々な男の人達が可哀想でなりません」だった。
イラッときたので、食べかけのホールケーキを没収してやったわ、ザマーミロ!
「で、お姉様はいつお休みになるので?」
「さすがにもう寝るわよ。アイカこそ、いつまでもドローンであそんでるんじゃないわよ」
「分かってますよ。次はニンテ〇ドースイッチで遊ぶ事にしましたので」
うん、いつも通り全然理解してなくて安心したわ。
「ではお休みなさい、お姉様」
「はいはい、お休みアイカ
フフフ……」
第6章 END
アイリ「という事で、第6章終了です」
アイカ「登場人物の紹介を挟んで次章に移行しますが、なんと次の章は、お姉様に最大のピンチが訪れる章となっております。ぶっちゃけ山場ですね」
アイリ「凄く不安になってきた……」
アイカ「という訳で次章もお楽しみに」




