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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第6章:富と欲望のミリオネック
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ダミアンの師匠

 捕らえたアマノテラスが広場で断罪されてるのを確認したアイリは、冒険者ギルドでの祝賀パーティーに参加(アンジェラが強引に連れて来た)する事になり、飲んで食べてと堪能した。

それを帰宅後に知ったアイカは怒り、取っ組み合いの喧嘩が行われたのである。

「アイリしゃん、お願いします。あちしをダラーに連れてってほしいでし!」


「ダラーに?」


 ザルカームの裁判を5日後に控えた朝。

何の予定も無いのでミリオネックの首都を観光しようとしてたところ、アイカ――この場合は本体であるダンジョンコアからね――からの念話でダミアンが首都であるダラーに行きたいと話してる事が分かった。

 観光を中断してダンジョンに戻ると既にダミアンが待機しており、本人からも熱望してる事が伝わってくる。


「ダラーに行きたいのは分かったけど、理由を聞かせてもらってもいい?」


「はいでし!」


 見た目は小柄な少女にしか見えないダミアンだけど、知っての通り彼女はドワーフ。

とあるパーティで乱雑な扱いを受けてるのを見て、助け出した事が切っ掛けで私の街アイリーンに住む事になったんだけど、鉱山エリアを探索してる内にある事を思い出したそうなのよ。


「師匠や先輩達を見返してやりたいでし」


 鍛冶職人として師匠に認められないままダラーを飛び出した彼女は、冒険者として各地を転々としてたところをペガサスの連中――アレクシス王国のラムシートで遭遇した冒険者パーティの事――に勧誘されたって訳。

 なので、1度ダラーに戻って一人前の鍛冶職人として認めてもらおうと考えてるらしい。


「事情は分かったけど、簡単に認められるもの……じゃないわよね? 自信はあるの?」


「勿論でし! エマルガ達の装備品も幾つか作ったら好評でしたし、今なら認められそうな気がするでし」


 私としては止める理由は無いからダラーに連れてくくらいなら問題はない。

ないけどあるとすれば、ダミアンが認められなくて自信喪失したりしないかって事かな。

だけど個人の問題には深く首を突っ込む訳にはいかないから、本人の要望を尊重してダラーに連れてく事にした。






 ダラーの西部にある鉱山の麓にドワーフの工房があると聞いて、ダミアンとザードを伴ってやって来た。

 ザードを連れてきた――というか付いてきた理由は、単純に鍛冶に興味があったから。

武器が出来上がるところを間近で見てみたいらしいんだけど、そもそも見学の許可が下りるかは不明よね。

なのでもし許可が下りなかったら素直に諦めてもらおう。


「さぁ、お二人とも中に入るでし」


 学校の体育館程の多きな工房に入ると、50人近くのドワーフ達が中央に集まって何かやっている様子だった。

というか広すぎないここ?


「首都にあるからだと思うでし。ここには100人以上のドワーフが所属してるんで、このくらいの規模でないと狭すぎるでし。中には家庭を持った者が一家住み込みで働いてる者も居たりするでしよ」


 ……そんなに居るんだ。

しかも家族ぐるみでとはね。


「丁度今、兄弟子の作った武器を師匠が品定めしてるところみたいでし」


 視線を工房の中央へと向けると、一際鋭い目をしたドワーフが1本のロングソードをありとあらゆる角度から、じっくりとなめ回すように見ていた。


「どうです師匠? このゴンザレスの最高傑作でさぁ!」


 ゴンザレスというドワーフが鼻息を荒くして師匠の評価を待ってるみたい。


「うむ……





 18点だ」


「「「「「オオォ!!」」」」」


 え? 今18点って言ったわよね? とてつもなく低い数値だと思うんだけど、なんで歓声が上がってるの!?


「あ、あ、ありがとう御座います! ガンツ師匠!」


「うむ。これからも一層励むようにな」


「はいぃぃぃ!」


 ゴンザレスさんは感極まって涙を流して喜んでるし、ガンツって師匠は誉めてるしで、正直訳が分からない……。

 それに他のドワーフ達も……


「18点が飛び出るたぁ久々だな!」

「まったくだ。ゴンザレスの奴羨ましいぜ」

「俺ってまだ5点の壁を越えられないんだよなぁ……」

「心配すんな。俺なんかいまだ0.9以下だしな……」


 中には1点未満の弟子も居るようで……。


「ねぇダミアン。今の18点って高い方なの?」


「決まってるでし。18点は高得点でし」


「20点満点でって事?」


「何言ってるんでしか、そんなの100点満点中に決まってるじゃないでしか」


「そ、そうなんだ……」


 もしかしたらドワーフの見方を変えないといけないのかもしれない。

兎に角私には理解出来ない世界がそこにはあるっぽいです……はい。


「ん? お前さんらは……」


 あ、ガンツさんがこっちに気付いたらしい。


「お久し振りでし、師匠」


「ダミアン、戻ってきたのか……」


 ガンツさんの前で頭を下げるダミアンと、それに優しい眼差しを送るガンツさんという構図の出来上がりです。

わたしとザードは早くも蚊帳の外って感じ。


「また修行を積みに来たのか?」


「いえ、そうじゃないでし。今日は師匠に認めてもらうために来たでし」


「………………」


 けれどダミアンの発言に他の弟子達が噛み付いてきた。


「まてダミアン。てめぇは途中で投げ出したじゃねぇか。それを今更戻ってきて認めてもらいたいたぁふざけてるだろうが!」

「その通りだ。今更のこのこと戻って来やがって」

「例え師匠が認めても、俺達ぁ認めねぇぞ!」


「静かにしろい!」


 口々に文句が飛び出る弟子達が、ガンツさんの一喝で沈黙する。


「……ダミアンよ、自信があるって事でいいんだな?」


「勿論でし。あちしはここを離れて色々と学ぶ事が出来たでし。今なら私の……いえ、使()()()()の納得がいく武器が作れるでし!」


 そのまま暫しダミアンの顔をじっと見ていガンツさんだったが、漸く顔を上げた。


「お前の気持ちは分かった。ならば俺からの最終試練を与える!」


 何をするのかと眺めてたら、1度奥に引っ込んだガンツさんが何かを手にして戻ってきた。


「こいつで武器を作ってみろ。種類は何でもいい」


 ガンツさんが持ってきた物体が不明なので、透かさず鑑定をかけてみる。


名前:純鉄鉱石(じゅんてっこうせき)

補足:炭素保有量が少ない鉄を製鉄出来る鉄鉱石で、採掘量は非常に少ない。鉱山の中でも地表に近い場所では採掘されないため、入手するにはより奥深くへ潜る必要がある。武器が良質に成るかどうかは技術者の腕次第。


 はい、鑑定してもよく分かりませんでした。

辛うじて分かるのは、それなりに貴重な素材であるって事くらいね。


「分かりました。すぐに取りかか「ちょっと待ったぁ!」


 作業に入ろうとしたダミアンを止めたのは、兄弟子の1人であるゴンザレスさんだった。


「師匠、俺にもやらせてくれ! こんな貴重な素材を使えるんなら何だって作れるぜ!」


「……いいだろう。ならばダミアンにゴンザレス、お前達2人で勝負するがよい。もしもダミアンが勝てば、一人前と認めよう」


「分かったでし!」


「――ただし!」


 何だろう、何か嫌な予感が……


「ゴンザレスが勝った場合は、ダミアン、お前は破門だ。……よいな?」


 チャンスは1度っ切り。

つまり失敗したら2度目はない。


「勿論でし!」


 でもダミアンは自信たっぷりに了承した。


「おいダミアン正気か? 俺はたった今18点という高得点を叩き出したんだ。それを上回る事が出来るってのか?」


「……やってやるでし!」


「ふん、そうかい。俺は手を抜くつもりはねぇからな、負けても後悔すんなよ?」


 そう言い残し、ゴンザレスさんは奥へと引っ込んでいった。

それに続くかのように、ダミアンも工房の奥へと入って行く。


「放置したままですまんなお客人。儂はこの工房を任されているガンツという者だ。見たところダミアンの冒険者仲間……といったところかな?」


 若干異なるけど、一応ダミアンも冒険者パーティイチゴ大福のメンバーだから、間違ってはいないのでそのまま頷く。


「私達と行動を共にしてる仲間です」


「やはりそうか。ここを出ていく時は半分自棄になっとったが、今のヤツは何かを決意した顔をしとる」


 ここを飛び出した当時のダミアンは知らないけど、今は良い顔になってるらしい。


「……分かるんですか?」


「うむ。ここを発つ前も筋だけは良かったのだが、心を込めるという事がどうも苦手であったようでな、残念ながら一人前と認める事は出来なかったのだ。そもそも武器や防具といったものは……」


 大変良い話なんだけど、内容はカットしとくわね。

何せ聞いてるだけで夜になっちゃったんで。

話の最中にも、アレは10点だとかそれは1点以下だとか言い出す場面もあったけど、正直なところ点数が低すぎてどう反応すればいいのか分かりません。

だって「この国なら10点つけてもいい」って言われても、どう反応すれば……。

 それにしてもザードは静かだなぁと思ってたら、いつの間にか他の弟子達に交ざって対決中の2人を見てた。

出来ればガンツさんの相手をしてほしかったんだけど。

というか、これって今日中に決着はつかないのでは……




 はい、そんな訳で見事に日を跨いで次の日になったわ。

勿論私は帰ったわよ? ガンツさんには泊まってけと言われたけど、ウンチクを寝る間際まで聴かされるのは遠慮したいし。

ザードは残って一晩中見てたみたいだけども。


「来たか、アイリ殿。既に2人共作業を終えておるから後は採点だけだ」


 そんな訳で、さっそく皆を集めてそれぞれ出来上がった武器の採点を行う。

まずはゴンザレスさんの方から。


 ゴクッ


 誰かが喉をならす音が聴こえた。

し~んと静まり返ってるから余計目立ってしまった感じだ。


「うむ。この槍からは相手を貫こうとする意思が伝わってくる。仕上げも良いし申し分ない出来だ」


 お? かなり良さげな評価みたいね。

 ではガンツ師匠、得点は?


「19点だ」


「「「「「オオオオォォ!」」」」」


 1点とはいえ、昨日の18点よりも上回った事には変わりねいわね。

弟子達も驚いてるみたい。


「さて、次はダミアンの武器か……」


「宜しくお願いするでし」


 対象を槍から剣に持ちかえて再び品定めに集中する。

その最中に、何度か目を見開いたように見えたのは気のせいじゃないと思う。

 ではガンツ師匠、得点は?


「……ダミアンよ」


「は、はいでし!」


「大した成長ぶりだ。今この剣には昔のお主に無かったものが宿っておる。斬る、突く、払う、あらゆる動作であってもその質は失われる事はない点はエクセレント。見る者の気を引く輝きは素晴らしくワンダフォー。この芸術性はおいそれと真似出来るものではない。まさに力の限りゴーゴゴーだ」


「はい!」


 ……では改めてガンツ師匠、得点は?


「25点だ」


「「「「「「スッゲーーーッ!!」」」」」」


 はいはい、凄い凄い。

相変わらず基準が分からないわね。


「過去最高の20点を越えたぞ!」


 え!? ……いやいや、一々驚いてたら切りがないわ。


「良く頑張ったな、ダミアン。もう儂が教える事は何もない。後は自分の思うままにやってみるがよい」


「師匠ーーーっ!」


 ガンツ師匠とダミアンが抱き合ってる感動的な場面の筈なんだけど、やっぱり点数が低すぎて感動に欠ける……。


「うんうん、師弟愛とはいつ見ても美しいもので御座るな!」


 ザード、あんたの手にしてるそのハンカチは何処から出したのよ……。


「してダミアンよ、これからどうするかは決めておるのか?」


「はいでし! アイリしゃんの街で鍛冶職人になるでし! ダンジョンの中に凄い街があるでし!」


 あ! 気付いた時には遅かった。

成り行きとはいえ、ダンジョンマスターだって事をバラされちゃうとは……。

 こうなったら仕方ない。

不信感を与える訳にはいかないし、事情を説明しよう。


「それは凄いな。ダンジョンの中に街があるとは聴いた事もないぞ。だが未知の領域に挑むのもまた善しだ。やれるところまでやってみるがよい」


「はい、頑張るでし」


 特に問題視される事もなく意外にもすんなりと理解してもらえたので、安心してダンジョンに転移しようとしたその時、


「ま、待ってくれ、俺も連れてってほしい!」

「俺もだ!」

「俺も俺も!」


 なんとゴンザレスさんを含む数名の弟子がダンジョン行きを希望してきた。


「出来れば一風変わった環境で生活してみたいと思ってたんだ。頼む!」


 ダンジョン行きを希望するドワーフ達がいきなり土下座し出した。


「ちょ、ちょっと、土下座までしなくていいですから! ガンツさん?」


「すまんな。コヤツらは儂に似て頑固者でな、一度決めたら頑として揺らがんのだ。アイリ殿さえ良ければ連れてってやってくれぬか?」


 私としては住人も増えて嬉しいから構わないんだけど……いや、そもそも本人達が納得してるんだからこれでいいのよね?


「分かりました。希望する方は一緒に行きましょう」


「「「オオォ!」」」


 という訳で、アイリーンにドワーフを連れてきましたっと。


アイカ「お姉様、連れてきたドワーフ達ですが、さっそくモルドフさんの酒場で飲み比べを始めてますが……」

アイリ「アイツら!」

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