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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第6章:富と欲望のミリオネック
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英雄の帰還と諸悪の断罪

前回のあらすじ

 トゥラビスとレイネを驚かすのも程々に、ザルカームの家にドローンを潜入させると、隠し扉の奥に横領した金品が山積みになってるのを発見し、さらに裏帳簿の在処までも突き止めた。

「くっそぉぉぉぉぉ! ええぃ離せ! 離せよちくしょうがぁぁぁぁぁ!」


 白いローブで統一されたミリオネックの官僚達が拘束した少年を抱えて大通りを練り歩き、護衛が周囲を固める。

整った並木道を進む彼等の後ろを、庶民や冒険者達が何事なのかと付いていった。

 いつの間にか大行列となったそれは、やがて首都の中心部へとたどり着くとその場で止まり、拘束された少年を十字架へと縛り付ける。


「離せって言ってんのが聴こえないのかボンクラ共がぁぁぁ! 僕はアマノテラスだぞ! その気になればこんな首都なんか跡形も無く消し飛ばしてやれるんだからなぁ! 分かったさっさと解放しやがれぇぇぇぇぇぇ!」


 尚も叫び続けるアマノテラスが(はりつけ)にせれた状態で、大広場のど真ん中に掲げられた。

そこへ集まった民達に、ミリオネックの現代表であるビアソン・ゴールドマンが両手を広げて宣言する。


「聴いて欲しい、多くの民よ! 今日という日は歴史的な1日となる!」


 そこまで言うと一旦言葉を切り、集まった民衆をぐるりと見渡す。

露店商を含む多くの地元の住人の他、更に観光客が加わった状態で広場を埋め尽くしていた。


「……覚えているか、5年前に起こったあの悲劇を! あの日多くの命が失われた! 何故彼等が犠牲になったのか! 何故彼等でなければならなかったのか! 残念ながら神は答えてはくれないだろう。だが! ……その悲劇はもう2度と起こる事はないと言えるだろう!」


 5年前に起こったアマノテラスとの戦闘により街1つが壊滅する悲劇に見舞われ、路頭に迷う者、冒険者に転身する者と多くの民の生活が一変したのだ。

 すると当然アマノテラスへの敵意が膨大なものとなり、討伐してやろうと多くの冒険者が挑んで行き、そして散っていった。


「2度と? って、まさかあの磔にされたガキは!」

「あれがアマノテラスなのか? でも今まで誰も攻略出来なかったダンジョンだろ?」

「そういや知り合いが冒険者ギルドの貼り紙で、アマノテラスのダンジョンを攻略するから巻き込まれないようにって注意喚起されてたって言ってたような……」

「それ本当!? って事は攻略に成功したって事よね!?」

「おいおいマジかよ、こりゃ本当に歴史的な1日だぜ!」


 民衆の憶測が確信へと変わり、騒ぎだそうとしたところを官僚達が宥め、再びビアソンに注目が集まる。


「既に多数の者が気付いたであろうが、ここに捕らえしは悲劇を起こした根元とも言えるダンジョンマスター、アマノテラスである!」


 代表者の口から正式に発表されると、広場のあちこちから「やっぱりそうか」「あんなガキにおれの親父が!」等の声が上がり、再度民衆を落ち着かせた。


「今日この場で根元を断つ事で、犠牲者達に安らぎを与えたい。……さぁ、恨みのある者達は前へ。かの者に各々の怒りをぶつけよ!」


 言い終わった瞬間、石を手にした民衆がアマノテラスへと投げ付ける。


「コイツゥ! お前のせいで……お前のせいで、母ちゃんがぁ!」

「なんで俺の妹が犠牲にならなきゃならなかったんだこの野郎!」

「あたしのパートナーを返して! 今すぐ返して!」

「死ね死ね死ねぇ! 地獄で親父に詫びやがれぇ!」


「クソッ、止めガフッ! や、止めろぉぉぉ! ギェッ! グァッ! ちょ、止めグフッ!」


 全身のあらゆるところに石を投げ付けられ、アマノテラスは次第に威勢を失っていき、民衆が一通り投げ終わった時には、既にぐったりとしていた。


「さぁいよいよ別れの時だ。己の愚行を悔いながら逝くがよい!」


 ビアソンが合図すると、樽を持って待機していた護衛がそれをアマノテラス目掛けてぶっかける。

その直後、別の護衛が手にした松明が、アマノテラスを炎を包み込でいった。

断末魔とも言える悲鳴が聴こえたが、民衆の怒号のような雄叫びの前にその声は掻き消され、十字架の炎は、泣く者、喜ぶ者、様々な民衆を照らしつつ天へと昇っていった。




 その様子を広場の陰から見ていたアイリ達は、目立たないようにそっと離れていく。


「良かったのか? アイリ殿。貴殿が民衆の前に出れば英雄と崇められる事間違いなしだと思うのだが?」


 時折後ろを振り返りながら尋ねるフォーカスに、アイリは一瞬目を瞑って首を振る。


「ううん、いいんです。あのダンジョンを攻略したのは個人的な理由ですし」

(この国の人達は喜んでるけど、それは結果論だしね)


「そうかね? まぁ裁判で名乗る際に此度の事を付け加えれば、大多数が貴殿の話を聞き入れる事だろう。ところで今日の予定だが……」


 傍らを歩く秘書(護衛を兼ねている)にスケジュールの確認をさせると、ニヤリとした不適な笑みをアイリに見せる。

それを見たアイリは軽く後退り、アンジェラは(クエスチョン)マークを頭に浮かべた。


「これから冒険者ギルドで、難攻不落のダンジョン攻略祝賀会を開催するのだが、勿論アイリ殿も参加していただけるという事でよろしいかな?」


「う……え~とですね……」

(どうしよう……すっごく断り難い雰囲気なんだけど……)


 大勢の人の輪に放り込まれるのが嫌なアイリがどうしようかと戸惑っていると、フォーカスが自信満々に追い打ちをかけた。


「因みにだが、冒険者ギルドにてかのダンジョンを攻略する依頼が出されてるのだが、当然この依頼達成の報酬を受け取ってもらわんといかんし、何より国からも報奨金が出るのでそれも手にしてもらわんと困る。もう既に準備も出来てる頃だろうし、料理も冷める前に堪能してもらいたいのだ」


「なんと! それはいかん。アイリよ、料理を冷ますのはもっての他じゃ。すぐに向かうできじゃぞ!」


「あ、ちょ、ちょっとぉ!」


 追い打ちに引っ掛かったアンジェラに手を引かれて、沈み陰る夕日に照らされながら並木道を走って行く。

その様子を苦笑いで眺めていたフォーカスと秘書も、その後を追って行くのであった。


 その日の晩は、いたるところで飲めや歌えやの賑わいとなり、冒険者ギルドに強制連行されたアイリもその中心人物という事で、頭から果実酒をぶっかけられたり胴上げされたりともみくちゃにされた。

そのどさくさに紛れて尻を触った男には、キッチリと股間に蹴りを入れてるのは流石であったが。


 しかしアイリが大変だったのは、それらが終わり宿に帰ってからだった。


「何故わたくしを呼んでくれなかったのですか! 鬼! 悪魔! 食いしん坊!」

「仕方ないでしょ忘れてたんだから! だいたい食いしん坊はアイカの方じゃないの!」

「そんな事を言って、散々豪華な料理を堪能した挙げ句にベロンベロンに酔って帰って来るなんて!」

「強引に飲まされたのよ! それに上級ポーションと融合させたウ〇ンを飲んだら一発で治ったわよ!」

「うら若き乙女がウ〇コを口にするなんて、恥を知ってください!」

「ウン〇じゃないわ!!」


 料理にありつけなかったアイカは沸騰湯沸し器の如く怒り出し、それに真っ向から反論するアイリと取っ組み合いの喧嘩を始めてしまったのだ。


「なぁレイネ、この喧嘩いつ終わるんだ?」


「私が知る訳ないでしょ。それより計画実行は明日の朝からなんだから、早く寝ましょう」


 アイカの立案した計画でザルカームを追い込む算段がついたため、アイリ主導の元に実行に移される事になったのだ。


「まったく……仕方のない2人だのぅ。ファァ……そろそろ妾も寝るとするか」


「では~、子守唄を~、唄いますね~♪」


 他4人がさっさと寝る中、加護により子守唄が効かないアイリと寝る必要のないアイカによる取っ組み合いは、隣室の客による壁ドンが行われるまで続いたのである。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 喧嘩が痛み分けに終わった次の日。

私はレイネとトゥラビスを伴いダッド商会へと赴いた。

立ち上げて間もないといった感じの小綺麗だけど手狭なエントランスから受付へと向かい、カルロスさんに取り次いでもらう。


「お待たせしました。本日はどのようなご用件でし……え!?」


 訪れた客をもてなそうと思ったであろうカルロスさんは私達を見て驚いている。

そりゃそうよね、自分の商会の話は一言もしてないのに訪ねて来てるんだもの。


「お久し振りです……と言うには日数が浅いですけど、こんにちはカルロスさん」

「「こんにちは(ッス)」」


「あ、ああ、アイリさん! それにレイネさんとブルースさん……だったかな? ようこそ俺の商会へ!」


 固まってたカルロスさんは理解が追いつくと、すぐに笑顔になり奥へと案内してくれた。




「それでどういった用件かな? まさか君達が取引をしに来た訳じゃないよね?」


 さすがに商人なだけあって鋭いわね。

でもちょっと安心した。

取引じゃないなら帰ってくれって言われたら従うしかないし。


「実はお願いがありまして……」


 私とレイネが中心となり、これまでの経緯を説明した。

すると、ザルカームという人物像に疑わしき点があったのか、ウンウンと頷きながら「そういう事か……」とボソり呟いた。


「教えてくれてありがとう。そちらの事情も分かったし、是非協力させてくれ」


「あ、ありがとう御座います!」


 カルロスさんが協力してくれる事になって本当に良かった。

レイネなんかはカルロスさんの手を取ってはしゃいじゃってるし。

それを羨ましそうな顔で見てるトゥラビスは、一緒にはしゃぎたいんだろうか?


「早速だけど、今からザルカームのところに向かうから、一緒に付いてきてくれるかい?」


 と、言われたけれど、レイネを連れてくのは面倒な事になりそうだし、私だけがダッド商会の従業員に扮して付いていく事になった。






「やぁいらっしゃいカルロスさん! 昨日の今日で用意されるとは何とも仕事がお早い。将来は侯爵ですかな?」


「まさか。男爵がいいところですよ」


 ザルカームに持ち上げられても浮かれずに対応するところは、やっぱり商人って感じね。

 余談だけど、この国は侯爵が最高の爵位で公爵は存在しないらしい。

日本にある「末は博士か大臣か」という言葉も、この国では「末は勇者か侯爵か」という言葉に置き換わってたのよ。

 ……だからどうしたって言われても困るけどね。


「ささ、向かいの倉庫へどうぞ!」


 用意した手押し車にザルカームの注文した薬草を積んで、倉庫へと入って行く。

因みに薬草はDP(ダンジョンポイント)で召喚したものよ。


「こちらに置いていただけますかな?」


「分かりました」


 ザルカームに指定された場所は、都合良く隠し扉がある一室だった。

もし違う場所を指定されたら、その扉を固定化させる魔法でも掛けようと思ってたけども、手間が省けて助かったわ。

 ――ってな訳で……


『アイカ、今よ!』


『了解です』


 ズズズズズ……


 アイカに念話で呼び掛けると、予めザルカームの音声を録音していたドローンにより、隠し扉がスライドしていく。


「んなぁぁぁ!?」


 開かない筈の扉が開いた事によりザルカームは飛び上がるように驚き、その場で尻餅をついてしまった。


「おや? そこに見えるのは……ああ!」


 さてさて、私はわざとらしく開いた向こう側を覗き、更にわざとらしく口に手を当てて指をさす。


「ザルカームさん、これはいったい……」


「待てぇ、それに触るなぁぁぁ! フゴッ!」


 パニックを起こしたザルカームがカルロスさんを押し退けて、裏帳簿のある棚を漁ろうとした私に掴みかかろうとしたので、足を引っ掛けて転倒させる。

その隙に裏帳簿を取り出してカルロスさんに見せてみると……


「これだけだと分からないけど、偽装された帳簿が商会の方に有ると思うんだ。それと照らし会わせればハッキリすると思うよ」


 成る程ね。

そっちはトゥラビス達に任せよう。


「くそぅ貴様ら、こんな事をして只で済むと思うなよ! これは不法侵入だぞ!?」


 顔を真っ赤にて抗議されたところでコイツのやった事が消える訳じゃないし、当然証拠も消せやしない。


「法を犯してる奴に言われたくないわよ。あんたはこれから被告人になるんだから、精々弁明する練習でもしとく事ね」


「ぐぬぬぬぬ……」


 それから間もなくして、トゥラビスとレイネがアンバー商会(ザルカームが所属してる商会)の幹部と衛兵を引き連れて現れたため、その場で引き渡した。


アイカ「こうなったら自棄食いです!」

アイリ「それは普段からよね?」

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