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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第6章:富と欲望のミリオネック
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ドローン大作戦

前回のあらすじ

 外交官フォーカス(実は侯爵だった)との話し合いで、アマノテラスのダンジョンを攻略する事になったアイリは、すぐに攻略を開始する。

すると、まさか自分が攻略される側になるとは思ってもみなかったアマノテラスは、最後には放心状態でコアルームにて発見されるのであった。


「お姉様がダンジョン攻略に向かいましたので、わたくし達も敵地への侵入を開始しましょう」


 アイリ達が戻って来ると、アマノテラスのダンジョンを攻略する事に賛成してもらったと言って、即座にダンジョンへと向かった。

 それを見たアイカ達は、真犯人の邸から証拠を見つけ出すため行動を開始する。

 具体的にはアイカの操縦するドローンでガサ入れを行うつもりだ。


「開始するって言われても、私も侵入するって事? さすがにそれは……」


「そうだぜアイカ。いくらオイラでもレイネを守りながらの侵入なんてハードル高いぜ」


 だがドローンを知らない2人からは無謀だと言われるが、アイカは得意気にチッチッチッと指を振ると、ドローンの特殊迷彩(ステルス)を解除した。


「「ヒィィィ!」」


 突然目の前に現れたドローンに対し、レイネとトゥラビスが抱き合う形で仰天する。

レイネの反応は当然だとして、トゥラビスの場合は気配を感じさせなかったドローンそのものに驚愕したようだ。


「おやおや、驚かせるつもりは無かったのですがね。わたくしの秘密兵器というやつです」


 嘘である。

アイカは最初から驚かせる気満々で、わざとドローンを2人の目の前に待機させていたのだ。


「アイカさんは~、意地悪ですね~♪」


 そしてセレンはしっかりと意図を見抜いていたのだが、内心ではアホな事やってないでさっさとしろと思っている。




「――とまぁ、こんな感じですね」


 ドローンの説明を簡単に行うと、改めて作戦内容を伝える。

要はトゥラビスが盗んだ相手の家にドローンで潜入し、動かぬ証拠を掴むというものだ。


「よし分かった。横領してた奴は覚えてるから、そいつの家に案内するぜ」


 トゥラビスによる誘導を元に飛ばす事数分、ドローンは一軒の邸へとたどり着く。

だがその邸を見たレイネは、表情を曇らせ俯いてしまった。


「レイネさん、どうしたのです? どこか具合でも悪いのですか?」


「ううん……違うの。そうじゃない。この邸は私もよく知ってる人のだったから……。ねぇトゥラビス、本当にこの邸の住人で間違いないんだよね?」


 プルプルと震える両腕は、明らかに力が込もっていた。

その力は視線にも込められ、真剣な顔がトゥラビスへと向く。


「あ、ああ。間違いないよ。間違いなくここの住人、ザルカームって奴が横領をしてやがった真犯人さ」


「そう……」


 聞き終わると視線を外し再び俯く。

たどり着いた真実は同僚による裏切りであり、それはレイネの感情を真っ黒に染め上げるには充分であった。

今も尚どす黒いオーラが彼女を支配しようとする中、傍らに居たセレンが静かに立ち上がり、リュートを片手に唄い出す。


「思えば何が切っ掛けか、思い返せぬ(かす)んだ記憶。されど感じる手にした温もり、離れた父との絆の証し。それは夢か幻か、自身が描く幻想か。されど自身が感じれば、やがては(まこと)と気付くはず。決して消せぬは親子の絆、やはりそいつは幻か。答えは否否断じて否、細けぇ事はいいんだよ!」


「え~と……セレン?」


 突然の事に毒気を抜かれたレイネは、よく分からないままセレンを見上げる。


「悪しき感情が~、膨れ上がってましたよ~? 今はもう大丈夫ですが~、気を付けてくださいね~♪」


 セレンのやった事は、憎しみの感情を和らげ心を落ち着かせるようにして魔力を唄に乗せたのである。

その結果レイネを包み込んでいた黒いオーラは消え去り、いつも通りの状態に戻ったのだ。


「ありがとうセレン。この邸のザルカームって奴は、お父さんと親しい同僚だったの。それなのに横領してたのをお父さんに押し付けて、私まで奴隷に落とされたのよ。それを思い出したら殺したいくらい憎くなってきて……」


「成る程、そういう事でしたか。何れにしろナイスですよセレン」


「お役に立てて~、良かったです~♪」


 顔に似合わずガッツポーズをするセレンに、レイネとトゥラビスにも自然と笑みが溢れる。


「さぁ、落ち着いたところで潜入開始といきましょう」


 特殊迷彩(ステルス)発動中のため難なくドローンを潜入させる事に成功すると、証拠に成りそうな物を徹底的に探す……のだが、こればかりは中々上手くいかずに時間だけが過ぎていく。


「見当たりませんねぇ。こういう場合、裏帳簿が有ったりするのがテンプレなのですが……」


「テンプレってのがよく分かんないんだけど、帳簿なら商会に保管してあるんじゃないかな? あ、いやいや、裏帳簿なら有り得ないか。とはいえ、コイツの倉庫に有った金品は全部オイラが回収したし……」


「ちょっと待って下さい。トゥラビス、この邸に倉庫のようなものは有りませんでしたよ?」


「あ、ゴメンゴメン、そういや言って無かったっけ? 倉庫は道を挟んだ向かいの建物だよ」






 ゴツゴツゴツン!


「いっっっでぇぇぇ! それに何かすんげぇデジャヴを感じる!」


 理由は1週間ほど前にも同様の経験があったからである。


「何故それを先に言わないのですか、このアホダヌキ!」

「そうよそうよ、余計な時間が掛かちゃったじゃないの、このボロダヌキ!」

「チッ……」


「だからゴメンって! それにセレンに睨まれるのメッチャ恐いんだけど! 何か熟練の極みみたいな感じで!」






 ゴッツン!


「いっっっだぁぁぁ!」


「熟すという文字は嫌いです。以後使わないように」


「よく分かんないけど分かった……」


 セレンの熟練……訂正、セレンの凄みの有る睨み付けに怯んだまま、余計な事を言わないようにしようと心掛けるのであった。


 頭のタンコブを擦るトゥラビスを他所に捜索現場を倉庫へと移したドローンは、さっそく怪しい空間を発見する。


「どうしたんだ? オイラには空になった倉庫にしか見えないんだけど?」


「見た目だけではそのようにしか見えないでしょうね。ですがこのドローンには通用しません。この奥に謎の空間が存在しますので、何処かに隠し扉がある筈です」


 一見何もない壁に囲まれている倉庫の一室だが、その先にある別の部屋をドローンは探知したのだ。


「オイラも1度入ったけど、隠し扉には気付かなかったなぁ。そもそも本当に……あ、マズいぞ、誰か来たみたいだ!」


 ドローンの後ろで扉が開閉し、何者かがゆっくりと近付いてくる。


「そのようですね。しかしドローンを探知出来る存在は、勇者や魔王クラスしか居ませんので心配無用です」


 最悪入って来た者がその可能性もあったが、さすがにそれは杞憂に終わり、そのままドローンの脇を通り過ぎて行く。

そして何もない倉庫で何をするかと思えば、隅によって何やらブツブツと呟き出す男を見て、レイネは声を上げる。


「この人! ザルカーム本人よ!」


 自身を奴隷へと貶めた相手が、ドローンを通した目の前に現れたのだ。

その憎きザルカームが詠唱のような行動を終えると、正面の壁の一部が左側にスライドし始めたではないか。


「ふむ。どうやら音声入力による装置で管理してるのでしょうね。アーティファクトの1つでしょうか?」


 アイカの予想はズバリ正解で、何処かのダンジョンで発見された特定の音声に反応するという変わった魔道具であった。

 使い道の無さそうな物であったため、アーティファクトにしては安値で売られていたそれを

ザルカームが購入し、扉と連動させる事を思い付き隠し扉が出来上がったのだ。


 ザルカームに続き奥へと入ったドローンは、そこに大量の金品が山積みになってるのを捉え、さらにその下でゴソゴソと棚を漁ってるザルカームを見つけた。


「これってやっぱり……」

「横領した金品でしょうね。どうやらトゥラビスが盗んだのも、その一部に過ぎなかったという事なのでしょう」

「くそ、オイラとした事がまんまと誤魔化されたって訳か!」


「おや? 何か書類のような物を取り出しましたね? 音声を拾ってみましょう」


 それと同時に、ザルカームがほくそ笑みながら書類を眺め出した。


『うむ。帳簿は無事だし、戦利品も有る。今日もここは問題ないな。あの日盗まれたと知った時はヒヤヒヤしたが、さすがの怪盗アオダヌキとやらもこの隠し扉には気付かなかったようだ。目先の欲に囚われた哀れな怪盗よ。……いや、哀れなのはブリスペンの方か? まったく、正直者はバカをみる典型例だな、ハッハッハッハッ!』


「くっ……ザルカーム!」


 高笑いしながら倉庫を後にするザルカームを悔しそうに眺めていたレイネ。

力なく俯く彼女の手に別の手がそっと重ねられる感覚に顔を見上げれば、アイカが優しく微笑んでいた。


「……アイカ?」


「大丈夫です。証拠はここに有るのですから、後は天罰を下すだけです」


 更に別の手が添えられると、今度はセレンがニコリと微笑む。


「セレン……」


「そうですよ~、憎いアイツは~、フルボッコです~♪」


 最後にトゥラビスが皆の手を拾い上げると、力強く頷いた。


「何も問題ねぇぜ。だから安心しろって!」


「トゥラビス……」






 バチン!


「いっっってぇぇぇ!」


「何どさくさに紛れて手を握ってんのよこの変態!」


「なんで俺だけぇぇぇぇぇ!」


「うるさいトゥラビスは放って置くとして、どうやって露呈させてやりましょうか……ん? 外でザルカームと誰かが話してますね?」


「本当だ。恐らくザルカームと取引をしてるんでしょうね……って、この人は!」


 レイネがスクリーンに映る人物を指して、驚きの声を上げる。

そこに映ってた人物とは……


「「カルロス(さん)!!」」


 1週間前に集落で人狼の疑いを掛けられてた青年、カルロスであった。


「そういえばこのカルロス・ダッドという青年は、以前鑑定した時にダッド商会を立ち上げた実業家と出てきました」


「鑑定スキルってそんな詳しく出てくるんだっけ? ……まぁいいや。このままじゃカルロスも騙される可能性があるし、何とかしてやりたいよなぁ……」


「そうよね、ただでさえ友人を失って悲しんでる筈なのに……」


「フム……ムム?」


 何か良い方法がないかと考え込む2人とは別に、アイカの頭の中では急速に名案が練り上がっていく。


 ポク


 ポク


 ポク


 ポク


 ポク


 チーーーン!


「閃きました! これは最高傑作になりそうです!」


 急に鼻息を荒くしたアイカに、レイネとトゥラビスは互いに顔を向き合わせて首をかしげる。


「な、なぁ、アイカはどうしちまったんだ?」


「さぁ。私にも分かんないわ」


 理解してない2人……いや、セレンも含めて3人は完全に置いてきぼりにされたまま、アイカが落ち着くのを待つのであった。


「さぁ行きますよ、大ヒット間違いなしの感動スペクタクルの上映です!」


トゥラビス「ボロダヌキは止めてくれませんかね? 結構凹むんで……」

レイネ「意外とナイーブだったのね……」

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