ダンジョンとの関係
前回のあらすじ
首都へと到着したアイリは、露店の誘惑に負けたアイカとアンジェラに溜め息をつきつつレイネの案内のもと、中心部でも良心的な宿に泊まる事とした。
そして恒例行事と言わんばかりに冒険者ギルドへと向かうのだが、予想外の者に絡まれたところを駆けつけたフォーカスによって事なきを得るのだった。
冒険者ギルドでの挨拶も程々に、詳しいやり取りは大使館に着いてから行う事にした。
丁度お昼時だし、昼食をとりながらね。
「先程は不快な思いをさせてしまい申し訳ない。此度の件は完全にこちらの落ち度だ」
「あ~いえいえ、顔を上げて下さい。フォーカスさんのせいじゃありませんよ。元々大声を出してしまったアンジェラのせいですので」
「そう言っていただけると助かる。何分あの冒険者ギルドは粗暴な冒険者を牽制するために国営化された組織なのでね、それを再び民営化に戻すのは躊躇われてるのだよ」
そうだったんだ。
つまり外からやって来た高ランクの冒険者でも、デカイ顔は出来ないようにしてたのね。
『まぁ良いではないか。妾のお陰で助長したギルマスを懲らしめる事が出来たのだからのぅ』
『それとこれとは別よ。もうアンジェラは冒険者ギルドで大声出すのは禁止だからね』
『むぅ……仕方ないのぅ』
まったく、それが無ければ予定通り大使館に来れたのに。
「そう言えばあの銀箔蝶の事なのだが、新種の噂が急速に広がってるようで、順調に効果が出始めてるよ」
「本当ですか!?」
「うむ。私も驚いてるのだが、やはり実際に捕まえた者がいるのが大きいのだろうな」
実はあの銀箔蝶、映像だけだと永遠に捕まえられないから実物も用意したのよね。
やり方はとっても簡単で、普通に野生の蝶々を捕まえてDPで変色させただけという殆ど詐欺に近い方法だけどね。
やり過ぎるとバレるから数頭しか用意してないけども。
そんな感じで、銀箔蝶の事は不利益には成らなかったという事で本題に入ろうと思う。
「ベタンゴートの件は伝わってますか?」
「ああ勿論。トウヤ辺境伯から報告をうけてるとも。勝手に民衆を抑圧してたのを解放してもらい感謝するよ。まったく、同じ侯爵として嘆かわしい……」
フォーカスさんって侯爵だったんだ! てっきり普通の官僚だと思ってたわ。
「え~と……侯爵様とお呼びした方がよかったですか?」
「なぁに、語呂も悪いし今まで通りで構わんとも。そもそもこの国は、商家として名を馳せた者が爵位を名乗る事を許されるという変わった制度を取り入れててね、国会で認められれば爵位を名乗る事が出来るのだよ」
王政じゃないから、話し合いで決めるって事なのね。
そうすると、ベタンゴートも1度は商家として成功したって事なんだ。
「そのベタンゴートを拘束する際に、アマノテラスというダンジョンマスターに襲撃されたという事も聞いてますか?」
「……それも聞いているよ。まったく、耳の痛い話だ。アマノテラスとは過去に街1つが無くなる程の大規模な戦闘を行ってる。その時は痛み分けで終わったが、被害状況を見れば向こうの勝ちに近いだろうな。それ以外にも散発的な戦闘も行われてるし、奴によって多くの命が失われたのは事実だ」
なんと、既に戦った事があるらしい。
「我が国としても討伐したいところだが、全面戦争ともなれば壊滅的被害は免れないと見ている。悔しいが深く干渉しないようにするしか現状では手がない……」
これは好都合ね。
要はアマノテラスを討伐するのは全然問題ないって事だから、逆に感謝されるくらいよ。
「フォーカスさん、その事なんですが、私がここに来た理由はアマノテラスを討伐してもいいか確認するためだったんです」
「何と! それは本当かね!?」
グイッと身体を乗り出してくるほどの凄い食い付き……。
テーブルが揺れて軽くスープが零れてちゃったし、一旦落ち着きましょうフォーカスさん、冷静に冷静に。
「おっとすまない。かつてない朗報だったものだから、つい興奮してしまった」
椅子に座り直すとハンカチで汗を拭いてるけど、それほどですか……。
「私としても命を狙ってきた以上このままにするつもりはないので、アマノテラスはキッチリと仕留めようと思います」
ガシッ!
「ありがとう! 本当に助かるよ! 奴が居るせいで、警備にあてる人員が過剰に消耗されているのだ。もし排除する事が出来れば手薄になってる国境に回せるだろう」
再び身を乗り出したフォーカスさんにガッチリと熱い握手をされてしまった。
「ではアマノテラスは攻略しても問題ないって事で。実はもう1つお願いがあるんです」
「ほほぅ、どのような事ですかな? 多少の荒事なら権力でもみ消しますぞ?」
それは最後の手段にしてください……。
「実は――」
お願いとは当然ブリスペンさんの件。
今も苛酷な強制労働を強いられてる筈だから、まずはそこから救出してレイネを安心させてあげたい。
大きな貸しを作る前提だから、前向きに協力してくれると思うんだけど……。
「う~~~ん、これは難しい案件ですな……。というのも既に裁判で決まった内容を覆すとなれば、並大抵の事では上手くいかんのですよ」
難しいか……。
ならせめてブリスペンさんの苛酷な環境から改善させてあげる事は……
「それも難しいですな。重罪人として確定した者に手心を加えては、他の罪人に示しがつかんのです」
これも無理か……。
他に出来る事は……
「が、1つだけ手が有りますぞ」
「ほ、本当ですか!?」
先程とうって変わって、今度は私が身を乗り出してしまった。
というか勿体つけてないで教えて下さい!
「真犯人を見つけ出して訴える事です。その際にブリスペンが無実であるという事も含めて真相を明らかに出来れば、先の裁判の結果を覆せるでしょう」
という事は、先に横領してた奴の証拠をつかんで裁判で認めさせる必要があるのね。
難しそうだけど、物的証拠を用意するのはトゥラビスにやってもらおう。
「それからもう1つ。アマノテラスを討伐した者の話であれば多くの者が耳を傾けるでしょうから、裁判で原告側として立てば被告人は最初から不利な状況下に置かれる事でしょう。さらに冤罪を被った娘が涙ながらに訴えれば、印象操作もバッチリですぞ」
よし、やる事は決まったわね。
レイネのためにもまずはアマノテラスを討伐して……いや、生け捕りにしてやろう。
街1つ焼いたって事は相当恨みも買ってるだろうし。
「色々とありがとう御座います。早速今から討伐に向かいたいと思いますので、アマノテラスのダンジョンに挑んでる冒険者に注意喚起をお願いします」
下手すると巻き込んじゃうからね。
「うむ、早速取り掛からせてもらうよ。こちらこそありがとう!」
最後に笑顔で握手してからレイネ達の待つ宿へと戻った。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
ミリオネックの首都ダラーにある冒険者ギルド。
ここのギルドマスターが更迭された事によりギルド内は祝賀ムードであったが、それを上回る大ニュースが飛び込んで来た。
「あのダンジョンを攻略するって本気かよ! ベテランの冒険者ですら簡単に命を落とすって有名だぞ!?」
「だが貼り出されてる告知を見る限りだと事実のようだぜ? 巻き込む可能性があるから注意されたしって事は、どこぞの勇者でもやって来たのか……」
「そうね。この貼り紙、侯爵の印が施されてるから国の官僚が正式に認めたって事よ」
実は今冒険者達の目の前にはデカデカと告知がされているのだが、内容は次の通りとなっている。
・アマノテラスのダンジョンに挑んでいる冒険者へ。
本日このダンジョンに対し大規模な攻略を行う事になったので、立ち入る際は巻き込まれないように注意されたし。
「なぁ姉ちゃん、いったい誰が攻略を行うのか知らないか?」
冒険者の1人が受付嬢に尋ねる。
しかし彼女としても貼り紙をするように命じられただけで、どこの誰が攻略するのかは全く知らされていなかったため、首を左右に振る以外は出来なかった。
「いずれにしろ、相当な手練れじゃないとあのダンジョンは攻略出来ねぇ。ダンジョンに大勢が潜ったっていう話は無いし、こりゃいよいよもって勇者の可能性が濃厚かもなぁ」
「ええ。もしかしたら本当に攻略してくれるかもしれないわ。そうなれば私の両親も……」
「ん? もしかして、あんたも街を焼かれた時に両親を亡くした口か?」
「……うん。あの出来事が冒険者になる切っ掛けになったのよ。……ってまさかあなたも?」
「ああそうだ。冒険者になった理由もあんたと同じさ。いつか攻略する事で仇をとってやりたいと思ってたんだが、あのダンジョンは危険過ぎて手出し出来なかった……」
「お前さん方もそうなのか」
話し込んでた男女が振り向くと、偶然会話を耳にした者達がそこに居た。
「ん? あんたは……」
「俺も似たようなもんだ。街と一緒に女房と息子を失った」
「儂もじゃ。産まれて間もない孫を抱けぬまま逝ってしまったよ……」
「ウチもそうや。旦那との最後の会話が今でも忘れられへん」
「俺も俺も!」
気付けば皆似たような境遇の者達がそこに集まってたようだ。
そんな彼等の願いはただ1つ。
「攻略……してくれるといいな……」
その言葉に全員が頷いた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「ああああああクソクソクソ!」
コアルームの壁をドンドンと叩いて悔しがっているのは、排他主義者のアマノテラス。
アイリの所在を突き止めてこれ幸いと眷族を差し向けたが、結果は惨敗。
眷族のフェザードラゴンは討ち死にし、2度と復活出来なくなってしまった。
「アイツを仕留めるチャンスだったのにぃぃぃぃぃがぁぁぁぁぁ!」
ガシャーーーン!
「ハァハァハァ……ぇえい!」
発狂してグラスを壁に叩きつけダンジョンコアを引っ掴むと、何やら操作し出す。
「折角ファウストのダンジョン通信で得たチャンスだったのに、あれから所在が掴めない。まだミリオネックの何処かにいるかもしれないっていうのに!」
眷族を撃破された後も執拗にアイリを狙っているのだが、有力な情報を得られず仕舞い。
そのためここ暫くコアルームで荒れていたのである。
「どこだ……どこだどこだ……どこに居るんだよぉぉぉぉぉ!」
発狂しつつも手を尽くして捜そうとするが、やはり見つける事は出来ない。
ビー、ビー、ビー、ビー
そこへ侵入者を知らせるアラートが鳴ったため、壁に出現させたスクリーンで入口を映すのだが……
「……誰もいない?」
入口付近に侵入者の姿は無く、アマノテラスは首を傾げる。
だがダンジョン機能に誤報は有り得ないので急いで表示範囲を広げるが、それを成す前に1階層のボスが撃破されたという告知が表示された。
「んな、バカな! 今までこんなに早く1階層を突破した奴はいない筈だぞ!? それなのに……ッ!」
しかし過去を遡れば、最速でコアルームにたどり着いた者が居る事を思い出し、背筋を凍らす。
「ままま、まさかアイツ、僕のダンジョンを攻略しに!?」
漸くアイリが攻略しに来た可能性にたどり着くと、ダンジョン全域をスクリーンに映し出した。
すると、眷族に先頭を任せて駆け抜けるアイリを発見する。
「居たぁぁぁ! 飛んで火に入る何とやらだ。今度こそ……今度こそブッ殺してやる!」
2階層のオークキングがアンジェラに燃やされるところを視界に収めつつも、進行ルート上にあらゆる罠を仕掛けていく。
「これでどうだ、来れるもんなら来てみろってんだ! あとは――」
アイリが自分のダンジョンに現れたのを好機とみると、すかさず眷族達に念話で命じる。
だがこの時、アイリを仕留める事に思考が集中してしまい、一度攻略されている事を完全に失念してしまっていた。
『ジャッカル、シーザー、背後から奴を襲え!』
『…………』
『どうした! さっさと命令通りに動け!』
『…………』
『おい! ふざけてる場合じゃないぞ! さっさと――』
その言葉が最後まで続く事は無く、代わりに感じ取ったのは眷族とのリンクの遮断。
つまり2体の眷族は既に倒されてしまったという事だ。
「う、嘘だろ? なぁおい! 嘘なんだろぉぉぉ!? ジャッカルは兎も角、Bランクのシーザーまで……フ……フハ……フハハハハハ!」
だが更にそれをも上回る事態が、ダンジョンコアにより伝えられる。
「マスター、最下層のボスが撃破されました」
その直後、アイリとアンジェラがコアルームにやって来るのだが、そこでは薄気味悪い笑い声を発し続けてるアマノテラスが仰向けに倒れてるのであった。
アイカ「~~~♪」
レイネ「面白そうね、それ」
アイカ「それはもう、どこにでも侵入し放題ですので」
レイネ「え"!?」




