血塗られた人狼村④
前回のあらすじ
ブルースが怪しいと思ったアイリはブルースを鑑定する事にした。
するとブルースの正体は怪盗アオダヌキだと判明。
だが同時にレイネの父親であるブリスペンを追い込んだ(結果的に)張本人である事も分かったため、ブリスペンを助け出す事に協力させる事になった。
怪盗アオダヌキと名乗ってるトゥラビスと一時的に協力する事になった。
コイツをアレクシス王国に引き渡すかどうかは、猶予を与えて判断する事にしようと思う。
「そういえばさ、アイリ達は人狼を避けて移動してたって言ったよね? 何でこの村に来たんだ?」
「何でって言われても、立て札の矢印が示してたのがこの集落だったのよ。別に人狼に会いに来た訳じゃないわ」
今にして思えば、あの立て札の矢印は間違ってたとしか思えないわね。
「ふ~ん……あ、もしかして!」
トゥラビスが何かを思い出したらしい。
「俺、スッ転んだ時に立て札を倒しちゃったんだよね。そん時に矢印が逆向いたのかも!」
そういえば、立て札の辺りが窪んでるのをレイネが気付いたんだった。
そっか、あれはこのバカがこけた時に出来たんだ。
そこで私とレイネは顔を見合わせて頷き合うと……
ゴツゴツン!
「いっっっでぇぇぇっ!」
「アンタのせいで私達が巻き込まれたんじゃないの!」
「そうよそうよ! いい加減にしなさいよこのドアホ!」
っとにもう、コイツには暫くの間タダ働きをさせないと割に合わない気がするわ。
っというかレイネ、叩きすぎ叩きすぎ……。
「コイツを叩いても人狼が消える訳じゃないんだから落ち着いて……」
『そうですね。このトゥラビスという男は少々調教する必要が有りそうです』
『やっぱりアイカもそう思う?』
『はい。獣人ですので身体能力は優れてますから、1度キャメル様と話して見ては如何でしょう? 上手くいけば司法取引も可能ではないかと思います』
成る程、司法取引ねぇ。
『って、アイカ!?』
『気付くのが遅いですよ、お姉様』
久し振りに聴いたアイカの声が脳内に響く。
これだけで凄く安心出来るわ!
『でもどうやって念話を? 人狼の捕獲霧ってスキルは囲った相手のスキルと魔法を使用出来なくする筈よ?』
『フフン、このドローンにそのようなチャチなものは通用しません。普通に霧を突き破って来ました。ただ直接の念話だとやはり遮断されてしまいますので、ドローンを介してでしか行えませんが』
もうドローンとは言えない何かに成りつつあるわよね……。
『ドローンなら鑑定出来るって事?』
『はい、鑑定も出来ますし魔法も使いたい放題です』
じゃあサクッと鑑定しちゃおう。
レイネの護衛はトゥラビスに任せて、特殊迷彩を使用中のドローンと共に酒場に降りて来た。
鑑定する相手は、村長、マスター、ガスリー、カシアンさん、デネッシィさんよ。
この5人は私の放った殺気に反応を示したからね――ガスリーは直接ぶつけたから反応するのは当たり前だけども。
『ではいきます。――村長人狼、マスター人間、ガスリー人狼、カシアン人狼、デネッシイ人間。以上になります。念のため他の者達も鑑定してみますね』
村長とガスリーとカシアンの3人か。
ついでに言うと、マスターは元冒険者で、デネッシイさんは現役の狩人だった。
『鑑定終わりました。カルロス人間、デイビス人間、ドールス人間、ラロッカ人間、シンシア人間、クイナ魔族、という事で人狼は先程の3体のみです。ただ少々問題の有る人間が居りまして……』
問題の有る人間?
『ドールスという老人なのですが、ラロッカの夫を殺した殺人犯ですね』
はい? どういう事? なんで殺人犯と老夫婦に成ってる訳?
と思ったけど、理由は単純だった。
20年くらい前に資産目的でドールスさんを殺害した偽ドールスは、妻のラロッカさんに薬漬けによる洗脳を行った。
そのせいで脳に障害を持ってしまったという事らしい。
つまり偽ドールスは20年近くも夫を演じてるのね。
まさに狂人だわ。
ついでにデイビスという青年についてだけど、どうやらシンシアさんをめぐってシルベスタさんと衝突してたみたいね。
それでシルベスタさんが死んだからほくそ笑んでたのよ。
まぁ犯罪じゃないし、こっちは放っておこう。
『人狼は判明しましたが、これからどうなさるつもりですか?』
『勿論討伐するわ』
もう面倒だから堂々と正面から纏めて倒しちゃおう。
因みに部屋に戻ると、トゥラビスがまるでレイネの従者のように肩を揉んでいた。
ブリスペンさんを助けるまではレイネに尽くすそうよ。
すっかり関係が固定されつつあるけど、うん……まぁギスギスするよりはマシよね。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
やがてその日も夜が訪れ、夜食を済ませた各々が寝床に入る時間帯となる中、村長の家では人間ならざる者達が密会を行っていた。
「間違いなく全員眠ってるんだな?」
村長を偽ってた人狼が窓の外へと視線を送り確認をとる。
それを受け、残りの2体は黙って頷いた。
「じゃあ今夜は俺の番だな。待てと言われても待たねぇぜ?」
自分の番だと主張したのはガスリーという冒険者を名乗ってた人狼だ。
彼等のスキルである捕獲霧、は1日に1人しか他者を食らう事が出来なくなるというデメリットが有り、今回はガスリーの番になるらしい。
「構わないよ。と言うより、何の相談もなく初日に食い散らかしたリーダーが悪いのさ」
「言うな。既に過ぎし事よ」
カシアンを名乗ってた人狼は、リーダー――村長を名乗ってた人狼――の顔を覗き込みならが了承するが、リーダーはプイっと顔を背ける。
実を言うと、リーダーの人狼が沸き起こる本能を抑えきれずシルベスタという青年を食らってしまったのだが、当然他の人狼とは何の相談もせずの独断のため、知ったカシアンは激怒して次の日勝手にルインを襲ったのだ。
つまりガスリーは他2体に出し抜かれた形となったのである。
「そんでよ、今回の餌は誰にするのがいい?」
餌――つまり襲う相手の事なのだが、ガスリーは誰を襲うべきかを他2体に相談する。
そこへ僅かな沈黙を破ったリーダーが口を開いた。
「疑いを持たせるため、カルロスは襲うな。それ以外なら誰でも良さそうだが、デイビスでよかろう」
「デイビス? いくらなんでも露骨過ぎるよ。それならシンシアの方がいいんじゃない? マスターに疑いが向くように仕向けるのも面白いと思うよ」
「成る程な。デイビスかシンシアか……」
ガスリーの問いに返ってきたのは、カルロスと親しいデイビスか酒場の給士であるシンシアという意見だ。
だがガスリーとしては別のターゲットを内心考えており、その名を口に出した。
「俺としてはレイネって小娘が旨そうでたまんねぇんだがな。お前らはどう思うよ?」
「レイネ……いや待て、それはマズイ!」
リーダーが慌てて反対する様を見て、ガスリーとカシアンは顔を見合わせる。
「レイネの連れのアイリという小娘だ。アレは相当な強者の気配がするぞ!」
妙に警戒するリーダーを他2体はそんな事かと肩を竦める。
「おいリーダー、何怖じ気付いてんだ? 確かに昼間の殺気にゃ驚いたけどよ、あんなものは偶然だろ?」
「ガスリーに賛成だね。たまにはそういう事も有るってもんさ」
「バカ者! お前達には分からんのか! アレは只の小娘ではない。下手をすると我々の想像を上回る何かであるぞ!」
無警戒な2体を戒めようとするが、それが返って仇となり、ガスリーとカシアンの中に対抗心のようなものがメラメラと沸いてきた。
「へっ、そこまで言うならターゲットはアイリって小娘にしようじゃねぇか! 強いってんなら寝ながらでも反撃出来んだろ?」
「お、いいねいいね、どうもリーダーは慎重過ぎるところが有るからね。その強者に見える小娘に絶望を与えてやんなよ!」
「ぬぅぅ、若気の至りか……仕方あるまい。そこまで言うのならやってみるがいい」
2体の闘争本能を刺激してしまったリーダーは、致し方なしという具合に成り行きを見守る事にした。
「決まりだな。なら今からちょっくら「その必要はないわ」
ガスリーに被せた声が、3体の人狼達を硬直させる。
皆が寝静まった頃合いを見た筈なのに誰が?
……そう思い声のした方を一斉に振り向くと、そこにはたった今ターゲットに決まった人物が、得物を手に構えていた。
「バ、バカな! 何故ここに居るんだ!?」
最初に声を上げたのはガスリー。
今から会いにいこうと相手がやって来るとは夢にも思わなかっただろう。
「何故って……アンタらが来るみたいだったから、こっちから来てあげたんじゃない」
嘘である。
ターゲットが誰であろうと、動き出す前に阻止するつもりでいた。
そのために態々睡魔を無効化する魔法を掛けてるのだが、この魔法は睡魔を感じなくするだけなので、多用は体に良くなかったりする。
「貴様、やはり只者ではないな。いったい何者だ?」
慎重なリーダーはアイリから距離をとりつつ反応を窺う。
いざとなれば、残りの2体を見捨てて逃げるつもりだ。
「冥土の土産に教えてあげる。私はダンジョンマスターアイリ。アンタらの捕獲霧は私には効かないわよ?」
(正確にはドローンには……だけどね)
「フッ、アンタが本当にダンジョンマスターならとんだ間抜けね。普通のダンマスは前線に出て来ないものよ? こうなるからね!」
カシアンの爪がアイリを引き裂こうと迫るが、それは叶わず空を切った。
アイリは余裕を持って後ろに下がっただけなのだが、人狼達には残像のように見えた事だろう。
「コ、コイツ、本当に只者じゃない!?」
本気の一撃を回避されたカシアンは、漸く目の前の相手が尋常成らざる相手だと気付く。
「遅いわよ。そんなんで私を獲物に定めるとはとんだお笑い草ね!」
今度はアイリが反撃に出る。
振るわれる剣と爪がぶつかりカシアンを後ろに大きく弾き飛ばした。
だがガスリーも黙ってはおらず、飛ばされたカシアンと入れ替わるように躍り出る。
「クソゥ、調子に乗るなよ!」
ガチン! ガチガチン! ガチン!
時折フェイクを交えながらの爪がアイリを襲うが、それらを全て防ぎ切っても余裕は崩れない。
「ほらほら、アンタのターゲットなんでしょ? そんなんじゃいつまで経っても餌にはありつけないわね」
「クソクソクソクソッ! こんな筈じゃ、こんな筈じゃあぁぁぁ!」
「チッ、小娘がぁぁぁ!」
がむしゃらに爪を振るうガスリーに加勢する形でカシアンも背後から襲い掛かるが、状況は一向に変わらない。
「さてと、寝る前の運動も出来た事だし、そろそろ終わりにしよっと!」
タイミングを見計らって身体を横にずらすと、ガスリーの爪がカシアンの首を抉り、カシアンの爪はガスリーの心臓を突いた。
「グゲェェェ……」
「ギャァァァァァァ!!」
こうしてアイリによって弄ばれた2体は、同士打ちにより呆気ない最後を迎えたのだった。
(クソッ! 何なのだ。何者なのだ奴は!)
早々と家屋から抜け出したリーダーは捕獲霧を解除すると、一目散に集落から離れて行く。
予想外の強者の前になす術もなく背を向ける。
屈辱的だが今は生き延びる方が先だった。
ある程度走ったところで集落の方へと向き直り、追って来ないか確認する。
予想に反してアイリからの追撃が無いのが分かると、一旦は腰を落ち着け今後を思考する。
(今回は失敗したが、何れ仲間を募り新天地を目指すとしよう)
そう心に決め再び走り出そうとしたその時!
ズダダダダダダダダダダダダダダッ!!
「グォ……何……が……」
突然何も無いところから銃撃を受け、満身創痍な状態へと追い込まれる。
『お姉様からの伝言です。残念、逃げ切れてないわよ♪ だそうです』
リーダーが薄れ行く意識の中で聴いた、最後の言葉であった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「ここはもう廃村だな……」
そう呟くマスターに、傍らでシンシアが残念そうな顔を向ける。
「そうじゃのう。肝心の村長が居らぬのならば、仕方あるまいて」
「……遅かれ早かれこうなっただろうさ」
占い師のクイナと狩人のデネッシィも、マスターの言葉に同意した。
今朝になって村長と冒険者2人が人狼だったと知る事になり、村の存続は不可能な常態に陥ったのだ。
「ねぇ父さん、カルロス達はどこ行ったの?」
「ああ、ここに居ても気が滅入るからと言ってな、ラロッカさんを連れて首都に帰って行ったよ。何だかんだとあの坊主もラロッカさんには世話になったからな」
カルロスとデイビスの両名は、ラロッカを介護する形で隣街へと出立した。
そこで護衛を雇って首都へと向かう事にしたらしい。
その際にデイビスは名残惜しそうであったが。
「でもドールスさんはどうするの? 一緒に首都に行くんじゃないの?」
「それなんだが……」
今朝になって集落の中央でドールスが遺体となって発見されたのだが、人狼に食われた訳でもなく、死因が不明であった。
だが数日前から支離滅裂な発言が目立ってたため、何らかの病気に掛かってたのだろうと結論付けられた。
「それで父さん、私達はどうするの?」
「ああ、実はアイリちゃんから街に来ないかと誘われてね、そこに行ってみようと思うんだよ」
「え? アイリちゃんの街!?」
驚くシンシアだが、クイナとデネッシイも同様の誘いを受けており、残った皆で街に住んでみようと思ったのである。
「皆さんお待たせ。準備出来たから今から転移するわよ」
「あ、アイリちゃん! い、今転移って言わなかった?」
「言ったわよ? 危険過ぎて転移じゃないと行けない場所だからね。それじゃ手を繋いで」
「き、危険過ぎてって! ちょっと待っ……」
この後、転移先で彼等を待ち受けてたものは、想像を遥かに上回る街だと知る事になる。
Qアイカ「銃弾は(冥土の)土産にはいりますか?」
Aリーダー「入りませんでした」




